音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

9カ国の一時的・部分的障害プログラム 「他国から学ぶ」最終報告書

第4章 オーストラリアの障害手当システム

アラン・クレイトン、トッド・ハニカット

オーストラリアは、社会保険ではなく社会扶助または福祉モデルにプログラムの基礎を置く国の社会保障制度を持つ少数の国のうちの1つである(注13)。障害に関連したものも含め、主な支援制度はすべて、一般的な歳入を通して資金を供給され、所得と資産調査に基づいている。資力審査にもとづくこの方式は1901年の老齢年金から始まった。そして、1908年には弱者への援助が始まった(Jones,1996)。オーストラリアの所得支援制度は、最も必要としている人に資金が行くように所得と資産についての調査があり、自分自身を支えることができない人のためのセーフティーネットになるように設計されている。社会保障制度の設計についての最近の評価(国際労働機関のミニマムスタンダードをベンチマークとして用いている)では(注14)、オーストラリアの社会保障制度全体はその障害給付プログラムとともに最も高い評価を得ている(Dixon,1999;Dixon & Hyde,2000)。

オーストラリアでは、ここ数年にわたって重要な変化が起こっている。すなわち、州と連邦政府が二重に政策を行うことによる資源の無駄遣いを減らすために、それぞれの役割を明らかにした障害政策を行おうとしている(Hancock,2001;McIntosh & Phillips,2002)。連邦政府は、所得支援と雇用関連サービスにのみ責任をもち、一方で、州と自治区は、労働災害と自動車事故、サポート・サービス提供、コミュニティ・アクセスと住宅について責任を持つ。効率を改善する動きの中で、いろいろな政府機関とプログラムの管理責任は、センターリンク(Centrelink)という機関に統合された。一時的および永続的障害プログラムは、失業施策や他の年金とともに、どちらもセンターリンクの傘下に入る。1991年に始まった障害改革パッケージに加えその他の改良を続けることで、政府は障害のある人の雇用を促進するための戦略を発展させてきた(McIntosh & Phillips,2002)。この戦略には、特に障害のある人のためのリハビリテーション専門家の養成、雇用主のインセンティブの向上、雇用サービスのための資金の増額が含まれている。最終的に、オーストラリアが、1992年に老齢給付において義務化された民間保険プログラムを実施したことは、財政負担におけるオーストラリア独特の福祉モデルが変化したことを示している。障害保険は被用者年金制度の一部であるが、障害のある人のための手当の中では重要な役割を果たしてこなかった。

障害支援年金

家庭・地域サービス局(DFCS)は障害のある人に対する支援に加えて、社会保障、住宅および家族問題を監督している。2003年のDFCSの予算は600億豪ドルで、連邦予算のおよそ3分の1、オーストラリアの国内総生産の8%であった(DFCS,2003)(注15)。DFCSによって提供される障害支援年金(DSP)は、重度の永続する障害のある人のために所得保障給付を行う。2003年6月には、69億豪ドル、すなわちDFCSの予算の12%のコストで、673,334人がDSPを受けた(DFCS,2003)。DSP支給の平均の継続期間は、7.3年である。1997年に、DFCSはセンターリンク(政府機関)との下請け契約によりその障害プログラムを管理することになった。センターリンクを活用するために、老齢年金、疾病給付、職業リハビリテーション、雇用プログラム等さまざまな政府の給付やプログラムの一括窓口が設けられた。

[給付]

障害支援年金の手当は年金共通の給付額に連動している。この共通の給付額は、全ての年金(例えば老齢年金)の手当額を決定する。21歳以上の独身の人の年金の2004年5月現在の最高額は、2週間ごとに464.20豪ドルであり、配偶者のいる年金受給者は、2週ごとに387.60豪ドルであった。(21歳未満の場合、受給額は、年齢と生活自立度によって変化する。)これらの年金は、所得と資産に依存しており、消費者物価指数または国の男性全体の週の所得平均のどちらか大きいほうにもとづき年に2回(3月と9月)決められる。

プログラムの利用資格を査定するために行われる所得と資産の調査は、その規則、包含者、除外者などにおいて複雑なシステムに発達した(Daniels,2004;Jones,1996)。例えば、盲人は、所得と資産の調査を免除されているが、21歳未満の人は21歳以上の人々とは異なるテストを受ける。受給者に対して資力審査を適用する際には、所得と資産の両方が計算されるが、実際適用される時は、支払額が低い方か、支払わなくてすむものが選ばれる。すべての受給者の6人に1人(16%)は、これらの資力審査のために、給付額が減らされた(DFCS,2003)。以下に実際のプロセスを単純に記述する。

所得テストには、3段階の処理がある。最初に、個人の年間所得が査定される。その所得には、勤労所得、投資、賃貸所得などによる所得の合計が査定される。二番目に、「非対象一般所得上限」が、計算される。これはその人の手当のレベルに影響を及ぼさない範囲の所得額である。この額は、既婚かどうかと子供の数に依存する。給付額と同じく、この制限は、毎年見直される。第3の段階は、2つの数字の関係を調べる。受給者の所得が「非対象一般所得上限」より少ない場合、その人は最も高い年金額をもらう資格がある。この制限より収入が多い場合、独身者は、制限を超えた所得1豪ドルにつき0.40豪ドル、配偶者がいる場合は0.2豪ドルの割合で減額される。以下の表は、個人が受けることができる最大の現金給付、DSP額に影響をおよぼさないための勤労所得の最大限度額、および、障害手当が完全に減額される最小所得額を示す。

表1:受給者のタイプ別による2週間ごとのDSPの額と所得限度(豪ドル)

受給者 最大の現金支給額 勤労所得の最大限度 勤労所得の最小限度
独身、子供なし 464.2 120 1295
独身、子供あり  464.2 144.6 1319.6
パートナーあり、子供なし 378 212 2164.5

注:2004年3月20日現在の額。夫婦の勤労所得は、合算された所得を表す。(センターリンク(2004))

資産テストは、おおむね所得テストとおなじように計算される。資産テストは受給者の主な住居を除外するが、それ以外は広範囲にわたる資産を含む。例えば、不動産、銀行預金、投資、保険証書、家族への貸付金、乗物、ボート、個人の持ち物とコレクションの価値などである。全ての資産の価値は「資産価値上限」と比較される。この上限は、手当額が減らされない範囲の資産の総額の最大額である。非対象一般所得上限と同様に、毎年みなおされる。しかし、これは、家賃補助を受けているかどうかにもかかわる。表2は、個人と夫婦がDSPを受けられる最大の資産額を示す。資産額は、夫婦のほうが独身の受給者より高く、また、家屋を所有しない人の方が家屋所有者より高く設定されている。保有資産が資産価値上限より少なければ、受給者は最大の年金総額を得る資格がある。保有資産が多ければ、2週間毎の手当額が、上限を越えた資産1,000豪ドルにつき3豪ドル分減らされる。

表2:受給者のタイプ別によるDSPのための資産の限度(豪ドル)

  最小資産 最大資産
住宅所有者
独身 149,500 306,250
パートナーあり 212,500 473,000
住宅非所有者
独身 257,500 414,250
パートナーあり 320,500 581,000

2004年3月20日現在の率(センターリンク、2004)

オーストラリアは、他のいくつかの給付と支援を障害のある人に対して提供している。これには、DSP受給者で限度額を超える家賃を払っている人のための家賃補助、交通費を補助するための移動手当、薬の処方費用を補助するため医薬品手当、電話サービス手当、遠隔地手当などがある。DSP受給者は、医薬品、補聴器、実用品などを手に入れるときの費用を割り引いてくれる年金受給者割引カードを受け取る。障害のある人の付き添いをする人は、さらに支援策(介護手当や介護金)を利用できる。

[資格]

DSPの受給資格を得るためには、申請者の年齢、居住地、障害、雇用状況が基準に合致していなければならない。申請者の年齢は、16歳から老齢年金受給年齢(60歳から65歳まで、男女によって違う)まででなければならない。また最小の居住基準を満たさなければならない。申請者がDSPの障害要件を満たすかどうかについては、2つの明らかな基準がある。第一は、生涯盲人であるという診断がある人は、DSP受給者の他の要件(例えば職業要件など)を免除される。第二の基準は、身体的、心理的および精神的な障害によって重大な機能不全がある場合である。そのような障害は、永続するものでなければならない。すなわち「十分な診断と治療をうけ、安定(合理的治療をしたとしても、あるいはしていなくても、2年以内に重要な機能の改善が見られそうにない)」状態にあることである(DFCS,2004)。

「永続」の定義は3つの要素を持つ。まず医師が障害の状態を診断しなければならない(注16)。第2に障害について「十分な治療をうけて」いなければならない。この必要条件は、過去、現在、未来の治療に関する医学レポートや他の情報を吟味し、また、適切な医療がすべて行われて来たかどうかをチェックすることによって評価される。もしそうでなければ、または、将来治療が予定されているならば、障害状態は一時的、あるいはまだ治療が完全になされていないとみなされる。いずれの場合も、その人はDSPの資格を得られない。第3の要素である、障害が「安定している」というのは、医学的にみて最も快復したかどうかについての評価が含まれる。あるいは、もし、機能が今後2年以内によくなることが期待されないならば、それもこの要件に合致する。

障害状態は、障害表(表3に脊髄機能障害と精神障害の場合を例として紹介している。)によって評価される。この表は、労働能力について身体機能を評価するもので、最高値は40点から50点となっており、手当を受ける資格を得るのには20点必要である。部分的障害プログラムでなくとも、DSPは、「完全な」障害の認定(すなわち最大の障害得点)を必要としない。しかし、表3で分かるように、20点というスコアは、適切な雇用のレベルを維持することが非常に困難であることを示す。1つの身体組織や器官に複数の医学的状況が影響を及ぼしているような場合は、その身体組織や構造における複合的な機能障害を反映する1つの得点が割り当てられる。複数の身体組織が一つあるいは複数の障害状況によって影響を受ける場合、関連するすべてのリストから障害程度を割り当てることができる。全体の障害程度は申請者の障害の全体的なレベルを反映する。

表3:脊髄機能障害と精神障害の障害基準表

状態
障害度 脊椎の機能:頚椎 脊椎の機能:胸椎、腰椎、仙椎 精神障害
正常、あるいは正常に近い動き 正常、あるいは正常に近い動き 主観的な悩みを引き起こす傾向がある、穏やかではあるが規則的な徴候。たいていの場合はこの悩みから彼ら自身の気を散らすことができる。日常的な状況での機能に対する最小の干渉。徴候の悪化は時折仕事を休むことを引き起こすかもしれない。(例えば以前に楽しんでいた活動に対する関心が若干失われるかもしれない。家族、同僚または友人と時折の摩擦があるかもしれない)かかりつけの医者による治療や支援が必要になるかもしれない。
正常範囲の動きの4分の1を失っている 正常範囲の動きの4分の1を失っている N/A
10 正常範囲の動きの2分の1を失っていて、頻繁なまたは継続的な首の痛みがある、あるいは正常範囲の動きの4分の3を失っていて、頻繁ではない首の痛みがある 正常範囲の動きの4分の1を失っていて、多くの活動に伴って、30分くらい立っている時、60分くらい坐っているときや運転している時に背中あるいは周辺部の痛みがある。
あるいは、正常範囲の動きの2分の1を失っている
中程度で規則的な徴候。機能一般にいくらか困難が見られる。(例えば社会的な接触が目立って縮小する。あるいは仕事場や人間関係でいくらかの支障が出始める)精神医学的な処置を受け、そのことが状態を安定させているかもしれない。労働能力あるいは仕事に行くことに対して少し影響が出ている。しかしフルタイムの労働を妨げるほどではない。(例えば短い期間労働を休む)
20 正常範囲の動きの4分の3を失っていて継続的な首の痛みがある。 正常範囲の動きの2分の1を失っていて、ほとんどすべての活動に伴って、15分くらい立っている時、30分くらい座ったり運転する時、背中あるいは周辺部に痛みがある。
あるいは正常範囲の動きの4分の3を失っている
重大な徴候または機能の障害を伴う精神病の病気または不調(例えば頻繁な自殺願望、脅迫観念的な儀式、頻繁なひどい心配発作、重大な反社会的な態度、継続的な症状から精神病の病気と診断された場合など)で精神科医の治療を必要とする。仕事や人間関係に重大な支障があり、仕事に行ったり、仕事をしたりする能力の深刻な障害が見られる。
30 ほとんどすべての動きを失っている、あるいは機能する位置での完全な硬直. N/A 仕事、人間関係、判断、思考、気分などのいくつかの分野で大きな障害を伴う深刻な精神医学的な病気(例えば、意気消沈した人が友人を避けるとか、家族を無視するとか、家事をすることができないなど)あるいは現実認識やコミュニケーションにおいていくらかの障害がある。(例えば、話しが時々はっきりしなかったり、非論理的だったり、場違いだったりする。)
40 望ましくない位置での硬直、あるいは関節が不安定である 望ましくない位置での硬直、あるいは関節が不安定である 重大な慢性の精神医学的な病気でほとんどすべての分野で機能の不能の結果に終わる。あるいは行動が妄想または幻覚によって影響を受ける。あるいはコミュニケーション(例えば時々筋が通っていなかったり、受け答えが遅い)または判断に重大な障害がある(例えば大概不適当な行動をする)
普通この表を使って評価される状態 筋肉や骨あるいは整形外科的な様々な原因による首および背中の下のほうの痛み 筋肉や骨あるいは整形外科的な様々な原因による首および背中の下のほうの痛み 慢性の鬱病/心配不調、統合失調症、二極の感情の不調、摂食障害、身体表現性障害、外傷性ストレス症候群(PTSD)、病的な人格異常。主に行動の問題に現れている注意力欠陥活動過多不調(ADD/ADHD)。
脳の負傷/前頭葉症候群に関連する問題行動

出典:オーストラリア社会保障法令1991、第6章に表5、第7章に表6
(http://www.facs.gov.au/ssleg/ssact/chapter6.htm;http://www.facs.gov.au/ssleg/ssact/chapter7.htm).

雇用は、適格性査定の最終的な基準である。働けない状態が持続的に続いているか、保護雇用に相当する活動に参加していなければならない。労働能力の障害は、個人がまったく働くことができないことを意味するわけではない。医学的状態のために週30時間以上働くことができなければ、週に30時間までは働いてもDSPの受給資格を失わない。しかし、適当な職業訓練や教育によって2年以内に労働できる可能性がある場合、DSPを拒絶されることがある(注17)。最後に、連邦政府は障害のある人のための保護雇用(賃金支援制度)を提供しており一定額の賃金を払う。このプログラムに参加する人は、労働要件を免除される。DSPを受給しながら労働からいくらかの所得を得ている人の割合は、過去の10年にわたって上昇してきた。1994年にはDSP受給者のおよそ6パーセントが労働からいくらかの所得を得ていた。このパーセンテージは2000年に8.4パーセント、2001年には9.1パーセント、2002年には9.7パーセントまで上昇したが、2003年には9.4パーセントに落ちた。これらの人々の2003年の所得は、週100豪ドル未満の人が一番多かった(53パーセント)が、およそ5分の1(21パーセント)の人が週300豪ドルを超えていた。

[請求、認定、訴えと再評価]

正式な請求を行う前に、「申請の意思」を申し出ることができる。この意思表示により、請求が受け入れられば手当を受けられる申請中の期間となる。しかし正式な申請が14日以内になされなければ、その利点は消失する。正式な請求には、以下の文書を添付しなければならない。つまり、本人確認の証明、年齢の証明、所得と資産情報、居住の証明、かかりつけ医からの医学的レポートである。医師の報告は、その正確性に関して疑いがない限り、申請処理において必要な唯一の医学的証拠である。レポートは、診断に関する情報を含むことになっている。それは、臨床の特徴と現在の徴候、初診日、過去、現在、将来の治療、身体機能、状態が一時的のものかどうかに関する評価、予後評価である。

センターリンクは、センターリンク障害顧客サービス担当者による認定の後、申請結果を申請者に知らせる(注18)。決定に異議があるときは(あるいは彼らがDSP受給者ならば、資格に関して決定に不満な場合は)センターリンクの審査担当者による非公式の審査に始まり、連邦法廷への上訴(ただし、以前の決定において生じた法律上の問題に関してのみ)まで続く5つの審理ステップに進むことができる。

一般にDSP受給者は、5年に一度見直される。重度障害の場合、この見直しは免除される。これに該当するのは、末期の病気、重度および退行性の医学的状態、あるいは、援助つき生活施設に収容されている受給者などである。援助プログラムの効果があると認められた場合や医学的な状態が改善されると期待できる人は2年ごとに見直しが行われることもある。また、受給者が1週につき30時間以上働くことができる場合、支援リハビリテーション計画を終了した場合(一般には2年後に)、週に250豪ドル以上をかせぎ始めた場合、12ヵ月以上オーストラリアを離れる場合、年金への移行を検討している場合などは、一定期間毎以外の見直しも行われる。

[再統合]

DSP受給者は、センターリンク障害担当官によるサービスを受けることができる。障害担当官は、障害のある人に支持と援助を提供するための技術的・職業的訓練を受けている。彼らの役割は、カウンセリング、職業支援、職業紹介所へ照会、適切な職業リハビリテーションサービスを提供することなどである。障害担当官は、必要度を明確にするために職業評価を行い、ジョブネットワーク(Job Network)や障害者雇用サービス(DES)へ照会する。ジョブネットワークは、主にもともと普通の就職ができる人に雇用サービスを行う契約をしている全国的なネットワーク組織である。DESは、一般雇用、支援付き雇用、職業リハビリテーションサービスを提供する。後者は政府が設立した職業リハビリテーションプログラムである「CRSオーストラリア」を通して提供される。これらのサービスには、トレーニング、職業継続、求職と疾病管理が含まれる。DSP受給者の雇用を進めるための雇用主向けのプログラムには、仕事場の改修のための資金提供と見習い賃金援助プログラムなどがある。

一時的障害給付

オーストラリアには2種類の違ったタイプの一時的障害プログラムがある。最初のプログラムである病気休暇は、連邦、州、および産業それぞれの規則によって管理される統一的ではないプログラムである。雇用主は、1年未満の雇用期間の常勤労働者に対して、最低でも6週間に1日分の病気手当を支払わなくてはならない。また、その後は1年につき8日の病気手当を支払わなくてはならない。パートタイムの被用者は常勤労働者とおなじ比率に基づきそれを受ける資格がある。季節労働者は一般に除外される。病気休暇に関連する問題はこの章では言及しない。

一時的障害給付の第2のタイプには、それぞれ異なる人たちをターゲットとする3つの異なるプログラムが含まれる。これらの短期の障害プログラムは、家庭地域サービス局の監督のもと、センターリンクによって運営されている。

  • 疾病手当(SA)は、一時的障害給付の主要なものである。SAは、一時的に労働や勉強ができなくなり、かつ十分なレベルの所得のない人々に対する所得支援を行う。その2002年-2003年の予算は、8,550万豪ドルであり、2003年6月現在で8,927人が受給している(DFCS,2003)。
  • 若者手当(YA)は、16歳から20歳の学生と、21歳から24歳までの全日制の学生のための所得支援プログラムである。受給資格に該当する若者が有給の雇用を探したりその準備したりする間や、あるいは、勉強している間、適切な支持を受けることを目的としている。これらの活動には、雇用を促進するための教育、訓練、その他の活動が含まれる。YAは、病気や怪我のために一時的に労働にできない、あるいは、長期の障害給付プログラムである障害支持年金(DSP)を申請し決定を待っている青少年も利用できる。
  • 新出発手当(NSA)は、DSP申請者に短期の支払いを行う失業給付である。DSPが認められるまでのこのNSAの支払いは「暫定NSA」と呼ばれる。障害や雇用の基準に合わないために申請が拒否された場合、NSAは継続するが、求職のための活動テスト(下記に記述した)を満足させなければならない。もし、その状態が一時的なものであったり、週に8時間以上働くことができないということでDSPの申請が拒否された場合、「就労不能NSA」を得ることができる。

[手当]

SAおよびNSAの給付最高額は、子供のいない独身の人の場合、2週につき385豪ドルであり、子供のいる独身の人の場合は2週につき416.40豪ドル、60歳以上の人の場合は422.20豪ドルである。また、配偶者のいる人は347.30豪ドルである。全ての一時的給付は、資力審査が行われ、所得と資産制限に基づいて調節される。受給者は2週につき62豪ドル以下の収入であれば給付が減らされることはない。62豪ドルから142豪ドルの間の所得の場合、稼いだ額の1豪ドルにつき0.50豪ドルが給付から差し引かれる、そして、142豪ドル以上の所得の場合、稼いだ額の1豪ドルにつき0.70豪ドルが差し引かれる。

子供のない独身の受給者では、勤労所得が634.86豪ドル以下であれば部分的給付が払われる(表4を参照)。資産は上のDSPの項で記述されたのと同様に評価される。

表4:受給者のタイプ別による2週間ごとのSAおよびNSAの額と収入の上限(豪ドル)

受給者 最大の現金支給額 勤労所得の最大限度 勤労所得の最小限度
独身、子供なし 389.00 62.00 640.86
独身、子供あり 421.00 62.00 686.29
独身、60歳以上 426.80 62.00 682.10
パートナーあり 351.10 62.00 586.43

注:2004年3月20日現在の額。(センターリンク,2004)結婚している個人の勤労所得は、合算された所得を表す。

YAの現金給付の最高額は、年齢、配偶者の有無、扶養児童の有無によって異なる。自宅で暮らしている人の場合は、その人自身の所得と資産テストに加えて、親の所得と資産テストも行われる。SA、YA、NSAによる現金給付には、流動資産にもとづく待機期間がある。流動資産は、申請者が最後に働いた日から28日間に使える資金とされている。給付の待機期間は、資産の額によって1週間から13週間になる。

一時的障害給付受給者が活用できるその他の手当は、永続的な障害手当受給者と同じである。すなわち、家賃援助、医薬品手当、遠隔地手当、移動手当と年金受給者カードである。

[資格]

SA受給の資格を得るためにはいくつかの条件に合致していなければならない。まず年齢が21歳から老齢年金受給年齢までの間になければならない。第2に、医学的理由で、一時的に労働や勉強ができない状態にあること。すなわち、週8時間以上労働できない、あるいは、能力不全になる前にやっていた教育課程を続けることができないという状態である。2年以内に労働や勉強に戻る可能性があれば、状態は一時的であるとみなされる。もし状態が一時的でないならば、請求者は長期の手当(DSP)を申し込まなければならない。第3に、一時的な能力不全状態が終わったときに戻れる仕事を持っていなければならない。期限つき雇用契約に基づいて働いている人たちのように、この条件に合わない人は、NSAに移行する。最後に、SAを請求するには、オーストラリアの居住者(市民であるか、永続的あるいは特別なカテゴリーのビザを持っていることを意味すること)でなければならず、請求する時点でオーストラリアにいなければならない。

NSAは失業給付なので、受給資格はわずかに異なる。すなわち、1)失業している、2)年齢が21歳から老齢年金受給年齢の間にある、3)労働または勉強の能力に大きな影響を及ぼす医学的状態に陥っている、4)障害が発生した時点でオーストラリアの居住者であり、それまで10年以上正規の資格でオーストラリアに居住していた、またはオーストラリアの居住者の被扶養児童としてオーストラリアの居住者になった、5)DSPを請求している、という条件がある。DSP請求が拒否された場合はNSA(就労不能状態による)を得ることができ、また、NSA給付を得るために通常必要としている活動テストは変更される。通常、活動テストは、請求者と連邦政府の両方が相互に義務を負っている。金銭的あるいはその他の援助を受けるのと引き換えに、請求者は、積極的に仕事を探し、訓練に参加することに同意し、適当な仕事であればなんでも引き受け、収入を政府に報告することが義務である。一時的能力不全の人の活動条件は、13週または病気の継続期間のどちらか短い方の期間免除される。総合的な医学の評価を指示されたり期間の延長が認めらたりするのは障害の状態に依存する。

若者手当は、オーストラリアの居住者であることに加えて、失業している若者の場合は16歳から21歳まで、全日制の学生の場合は25歳まででなければならない。NSAと同様に、労働または学校活動に関する活動テストが求められるが、短期疾病やDSPを請求している人の場合は免除される。

[請求、決定、訴えと再評価]

申請者はDSPと同じ方法で、NSA、SA、YAの請求をする。請求の意思は、電話、インターネット、または自分でセンターリンク顧客サービスセンターに行くことによって申し込むことができる。その申し込みは14日間有効なので、その間に正式の請求と必要書類を提出する。一般に1週間の待機期間がある。しかし、請求者が、職業リハビリテーションプログラムを受けているとか、厳しい経済的困難にあるとか、最後の社会保障給付を受けてから13週以内であるなどの場合、この必要条件が免除されることもある。

疾病手当の場合は、障害手当請求は、決まった書式に基づいて書かれていなければならない。請求者本人が用紙に記入することができない場合は、信頼できる人が代理で書いても良い。申請者は、本人確認、年齢証明、所得と資産の証明、居住証明など、DSPの項で詳述したすべてのものを提出しなければならない。それに加えて、かかりつけの医者からの医学的レポートが必要である。このレポートには申請者は現在働くことができないという診断と、どのくらいの期間働くことができないかという予測を含んでいなければならない。提出された医学的レポートによって手当の認定ができない場合、申請者はセンターリンクによって指名された医学的評価サービス・プロバイダに照会される。申請者が障害決定を知り結果に満足しない場合、上述したDSP上訴プロセスとよく似た一連のステップにのっとって決定を訴えることができる。

SA受給者は、最低でも12週、40週、92週、120週で見直しを受け、それ以降は16週ごとに見直しを受ける。この見直しは、郵送によってなされ、受給者がまだ働けないかどうか決定するために病状と病気の経過についての医師の報告が含まれる。郵送による見直しでは、用紙が受給者に送られ、21日以内に返送しなければならない。

用紙にすべて記入することができない場合は、28日間給付停止になり、それを超えると給付が終了される。手当が終了になった場合、手当を復活するためにはもう一度請求することができる。

郵送による定期的な見直しに加えてSA受給者は別の2つの種類の見直しを受ける。訪問見直しは、24週、64週、78週に行われ、受給者の状態の変化と職業復帰の時期を評価し文書に記録するため、家庭訪問がされる。リハビリテーションを行っている場合は、リハビリテーション・ケースの見直しが行われる。

SA手当は次のような場合に終了する。すなわち、受給者が週に8時間以上働くことができるくらいにまで医学的改善がみられた場合、手当給付最長期間が終了したとき、資力審査に影響を及ぼすほどの所得や資産の変化があった場合、受給者が手当の条件に合わなくなった場合である。どの時点においてでも、SA受給者が2年間以上職業復帰できないであろう考えられた場合は、永続的な障害年金(DSP)を考慮することになるだろう。同様に、受給者が失業した場合(すなわち、戻る仕事がない)、SA受給者はNSAへ転向する。2000年のSAの平均受給期間は34.2週で、中間値は17.8週であった。2000年6月30日現在、SA受給者の80%は受給1年以下の人たちであった。1年から2年までは14%、2年から3年は4%、そして、3年以上は3%である。

YAとNSA受給者については、郵送により10週ごとに変化を評価し、活動/就労不能条件を満たしているかを確かめられる。そして、16週目か40週目にセンターリンクの職員が、労働能力を判定し、職業の可能性を調査するために受給者に会いプロファイリング評価がおこなわれる。次のような場合、手当は終わる。すなわちプログラムの条件に合わなくなったとき、受給者がプログラムの条件に従わなかったとき、仕事が得られた時、あるいは、YA受給者が21歳(被用者の場合)または25歳(学生の場合)、になった、とき。

[再統合]

一時的障害手当の受給者は、永続的障害手当受給者と同じ再統合サービスを利用できる。センターリンクの障害担当官(一般的なガイダンスと支援を行うことができる)による評価の後、ジョブネットワーク、障害者雇用サービス、または職業リハビリテーションを通した支援を受けることができる。ジョブネットワークは、求職者が仕事を見つけることを援助するために連邦政府によって契約された全国的ネットワーク組織である。ジョブネットワークは誰にでも利用できるが、DESは特に障害のある人を援助するようになっている。

DESは、3種類の一般的なサービスを提供する。すなわち、一般雇用、保護雇用と職業リハビリテーションである。一般雇用では、訓練、求職支援と職業継続支援を受けることができる。支援付き雇用では、従業員が主に障害のある人から構成されているビジネス・サービスを利用することができる。オーストラリアでの職業リハビリテーションは移行段階にある。現在、公的なプログラムはCRSオーストラリアによって運営されているが、民間企業などによる運営が期待されている。障害のある人のためのその他の再統合プロジェクトには、職場の改築のための費用を雇用主に返還するものや、見習い制度のための賃金援助プログラムなどがある。

参考文献

Centrelink. (2004). Individuals index. Retrieved May 19, 2004, from http://www.centrelink.gov.au/internet/internet.nsf/individuals/index.htm.

Daniels, D. (2004). Social security payments for the aged, people with disabilities and careers 1909 to 2003 (Parliament of Australia Online publication). Retrieved May 24, 2004, from http://www.aph.gov.au/library/pubs/online/Aged.htm#invalidpension.

Department of Family and Community Services. (2003). Annual Report 2002-2003. Retrieved May 19, 2004, from http://www.facs.gov.au/annreport_2002-03/index.htm.

Department of Family and Community Services. (2004). Guide to social security law. Retrieved December 13, 2004, from http://www.facs.gov.au/guide/ssguide/362100.htm.

Dixon, J. (1999). Social security in global perspective. Westport, CT: Praeger.

Dixon, J., & Hyde, M. (2000). A global perspective on social security programmes for disabled people. Disability and Society, 15, 709-730.

Hancock, L. (2001). Australian intergovernmental relations and disability policy. In D. Cameron & F. Valentine(Eds.), Disability and federalism: Comparing different approaches to full participation. Montreal: McGill-Queen's University Press.

Jones, M. (1996). The Australian welfare state: Evaluating social policy. St. Leonards, AU: Allen & Unwin.

McIntosh, G., & Phillips, J. (2002). Disability support and services in Australia(Parliament of Australia E-brief). Retrieved April 19, 2004, from www.aph.gov.au/library/intguide/sp/disability.htm.

Voirin, M. (2000). An ambitious venture: Commentary on. "A global ranking of national social security systems". International Social Security Review, 53, 131-134.


(注13) 障害手当のための社会的な援助プログラムを持つ他の国は、クック諸島、デンマーク、ナウル、ニュージーランドと南アフリカである(Dixon & Hyde,2000)。

(注14) この方法論は、Voirin(2000)によって即座に批判された。

(注15) 2004年6月30日現在151.438(豪ドル)=1米ドル(USD)。

(注16) この規則の例外は、知的障害のある人である。適当な書類の裏づけがあれば医学評価の代用にすることができる。

(注17) 適当な職業訓練を受ければ働くことができる可能性のある人は、訓練受講期間中、疾病手当の形で一時的な障害給付を受ける資格を得られる。

(注18) 処理にかかる平均期間についての情報はない。