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9カ国の一時的・部分的障害プログラム 「他国から学ぶ」最終報告書

第5章 ドイツにおける一時的障害給付における新しい焦点

ソフィ・ミトラ、リチャード・ハウザー、ハルトムート・ヘインズ

大部分の先進工業国と違って、最近のドイツでは障害手当プログラムに費やされる金額のGDPに占める割合でも、また、その手当受給者数でも増加はみられない。ドイツの障害プログラムに費やされる費用のGDPに占める割合は1990年代は安定しており(OECD(2003))、手当受給率もここ20年間ゆっくり上昇してきた。それでもなお、ドイツの障害者制度に、問題がないわけではない。ドイツにおける労働制限のある男性の雇用率は、主に1980年代後期に低下した(Burkhauser & Schroder,2004)。人口の高齢化と早期引退プログラムに強く依存しているということの組合せのために、ドイツの年金制度を維持することが脅かされている。2001年、ドイツの政策決定者は、いくつかの早期引退制度をなくし障害年金制度に移行することによって、国の社会的なセーフティーネットのありかたに関する改革を始めた。現在、障害年金は永続性を基盤とするのではなくむしろ一時的なものとみなされることが多い。また、それにより部分的年金から全額年金に移行するケースは以前より少なくなってきている。

この章は、ドイツの障害者制度の中で、一時的プログラムと部分的プログラムに特に焦点を当てる。最初にドイツの障害手当制度を概観する。そのあと公的な障害年金プログラムの全額給付と部分的給付とその最近の変化を詳細にチェックする。

ドイツの障害給付制度の概要

ドイツは、総合的であるが非常に細分化された社会的保護の制度を持つ。これは、社会立法におけるパイオニア国としてのドイツの歴史と、いろいろなプログラム運営における運営者重視の考え方が影響している。いわゆる社会的リスクのある人々に適用される手当や援助の責任を一手に引き受ける唯一の基金というようなものはない。

その代わりに、利用可能なさまざまな種類の支援が、地域、国、連邦のレベルの別々の多くの基金や機関とつながっている。障害のある人に提供される援助の種類は、障害原因、労働市場における立場によって異なる。雇用されているかどうか、もしそうならば何時間働いているか、いろいろな社会保険制度のどれに加入しているかどうかなど、いくつかの要因によって、利用できる援助の種類が決まる。

図1は、ドイツの障害者のための社会的保護制度へのいくつかの導入経路を示している。社会的援助プログラムから始めると、ドイツの社会扶助(Sozialhilfe)には2つのものがある。それは、生活費援助(Hilfe zum Lebensunterhalt)と特別環境援助(Hilfe in besonderen Lebenslagen)である。障害者の場合、現金手当と現物給付が行われる。

社会扶助は、世帯収入と資産について厳しく資力審査される。所得が十分に高いばあい、受給者の子供(年齢制限はない)と両親は社会的な援助の費用を返す義務がある。ドイツの合法的な居住者すべては、これらの手当を受ける資格がある。社会扶助は、ドイツの全ての州で、連邦法によって定められたレベルで等しく運営されるが、地方税収入によりまかなわれている。その給付は免税になっている。資力審査のある新しい基本収入プログラム(Bedarfsorientierte Grundsicherung)が2003年に導入され、社会扶助と同じ額の現金手当が障害のある人と年金受給者に給付されたが、受給者の両親や子供はその費用を弁済する義務はなくなった。この新しいプログラムは、働けなかったために法定年金保険の保険料をこれまで支払ったことがないため障害年金を要求することができなかった人にとって特に重要である。このプログラムもまた主として税収でまかなわれ、主として連邦予算と地方自治体予算にもとづく。手当は、免税である。

図1:ドイツにおける障害のある人のための現金および現物での給付の流れ
図1 流れ図

図1(続き):ドイツにおける障害のある人のための現金および現物での給付の流れ
図1(続き) 流れ図

もし、障害が戦争や、兵役、または犯罪によるものならば退役軍人局(Versorgungsamt)により、税収でまかなわれる年金が支払われる。この機関は、この種の障害のある人に、他のプログラムを補うための現物給付も行っている。というのは、他のプログラムの現金給付は、最低生活水準を保証するというにはあまりに低いためである。

ドイツの障害給付制度への2本の導入路は、特に労働市場に結びついている。まず、障害が労働事故か職業病に起因するならば、法定労働災害保険でカバーされる。また、慢性疾患に起因するときは、法定健康保険(Medizinischer Dienst der Krankenversicherung, MDK)が、リハビリテーション給付を受けることができるどうか、あるいは年金保険のリハビリテーションに適しているかどうかを査定する。社会的保護は、労働事故や職業病から生じた障害の場合に最も強力である。法定労働災害保険(Gesetzliche Unfallversicherung)がこれらのケースを担当している。社会保障制度のこの部門への保険料はすべて雇用者によって支払われる(注19)。傷病を受けた者は、傷病の程度によって医療、リハビリテーション、労務災害年金を受ける資格がある。この年金は、それまでの所得で決まり、法定年金保険の障害年金より優遇されている。たとえ負傷者が常勤で働き続けたとしても、全額が給付される。これは、補償とみなされているからである。労働災害保険が支払われるときは、法定年金保険の障害年金はもらえない。世帯収入が最低生活レベルより上にある場合は、年金は部分的に課税される。慢性疾患または個人的な生活場面による事故で生じた障害の場合には、5年以上法定年金保険に強制的保険料を払った者は、障害年金を請求することができる。この年金額は、それまでの所得(平均の所得と比較する)と、60歳までの雇用期間に関する国の基準により決定される。もし、労働能力が残っていれば、部分的年金が与えられる。世帯収入が税法の定める最低生活費より高ければ、この年金の一部に課税される。4人家族の場合、この最低生活費は、およそ年額25,000EURである(注20)。

もしリハビリテーション給付を受ける資格があれば、医学的あるいは職業の、もしくは両方とものリハビリテーションサービスを受けられる(注21)。被雇用者の医学的リハビリテーションは、法定年金保険によって最高3週間提供されるが、必要に応じて、延長することができる。たとえば、医学的リハビリテーションには、次のものが含まれる。診察、投薬、処置、理学療法、治療体操、心理療法、補助具と作業療法などである。法定年金保険は、自ら運営するクリニックや民間のクリニックの入院患者に医学的リハビリテーション行うことができる。しかし、最近、注目されているのは外来患者にリハビリテーションを提供することである(Social Code, Book IX, Germany 2003)。リハビリテーション施策は法定年金保険に基づいて行われる。しかし、1974年法(Rehabilitationsangleichungsgesetz)が成立し、職業施策を社会法(Sozialgesetzbuch)に統合することが最近行われたにもかかわらず他の制度との調整の問題が残っている(注22)。リハビリテーション施策には、以前の所得の代わりとしての現金手当、医療的処置と理学訓練、仕事に関する再訓練から成っている。

MDKは、最初に適当なリハビリテーションがおこなえないかを評価する。その場合には、法定年金保険の就労不能年金を申請するよう求められる。身体的または精神的能力低下のために、定常的な所得を得られない(すなわち、日に3時間未満しか労働することができない)労働者は、全額障害年金を受ける資格がある。同じような訓練と経験をもつ他の労働者と比較し、障害のため稼得能力が1日につき3時間から6時間低下している労働者は部分的障害年金を受ける資格がある。

法定年金保険は、また、その人の障害年金に対する適格性を査定する前にリハビリテーションの可能性をチェックする点に留意する必要がある。被保険者の能力がリハビリテーションによって向上することができなければ、リハビリテーションの申請は遡及して年金申請とみなされる。この理由は、両方の制度(法定健康保険と法定年金保険)が基本的に異なる評価をおこなっているということである。法定年金保険が一般的な労働市場で生計を立てるための労働能力の有無を査定する一方で、法定健康保険はその人が最後に従事していた仕事に関する労働能力に特に着目して評価する。

医学リハビリテーションに続き職業のリハビリテーションを行う場合、あるいは、申請時点で法定年金保険に対して少なくとも15年間保険料を支払っていれば、職業リハビリテーションは法定年金保険の管理下で提供される。それ以外のケースはすべて法定健康保険基金による連邦雇用サービス(Bundesagentur fuer Arbeit)に送られ、その責任となる。2001年以後は、法定年金保険がより多くのケースの職業のリハビリテーションに対して責任を持つようになったので、連邦雇用サービスに職業サービスを使いたいという要望はなくなった。法定年金保険においては、どんなサービス・プロバイダでも使うことができる。

能力の低下により、失業が6ヵ月以上続いており、自分の能力に合う仕事についても、週に15時間以上働くことができない人は、連邦雇用サービスの薦めるリハビリテーション(図1では示されていない)を活用することができる。ある人がリハビリテーションをすることで労働市場に再統合されるかどうかは、医学的な情報や他の情報に基づいて、管理査定官が決定する。職業リハビリテーション給付は、最高2年間続き、初期のトレーニングや再訓練、あるいは他の援助(例えば、学習補助器具、作業服と働くための装備、家庭内の援助のための費用)のための現金手当を含む。労働所得が減少したときは、現金手当が支払われる。これらの支払いは、子供がある人の場合、総所得の60%、子供のいない人の場合は54%である。(Viebrok,2003)。

リハビリテーションは、障害が労働能力におよぼす衝撃を減らしたり、労働者の労働力からの早すぎる撤退を防いだり、職業生活に再統合するなどの助けになる。MDKと法定年金保険(Sozialmedizinischer Dienst)の医療は、職場適応訓練やリハビリテーションによってこれまでの仕事(または同じ仕事場の仕事)にとどまることができるかどうか、あるいは、適切なリハビリテーションを受けた上で新しい仕事をするのが適当かどうかを調査する。「年金の前にリハビリテーション」の原則(ドイツには長い歴史がある)は、主にこのようなやり方で実践される。

ドイツは「年金の前にリハビリテーション」の原則でよく知られているが、いくつかの調査で、この原則は必ずしも厳密に実行されていないことが示されている点に注意することが大切である。Sims(1999)がまとめているように、「多くの人が、リハビリテーションのかなり前に、またはその代わりに年金を受けている」。この問題の主な原因は「競合する諸機関に権威が分散しているため」にサービスが利用しにくい点にあるようである。

2、3年間前から、ドイツは、社会的保護制度全般の改革、特に障害年金制度の改革に着手した。大部分の早期引退プログラムは廃止され、失業給付は減額された。今は、障害年金プログラムに対する圧力を強めている(OECD,2003)。加えて、2001年に、一時的な役割を基本とした就労不能年金が義務付けられた。自分がこれまで従事してきた仕事に戻るという復職先決定プロセスは、働ける時間数によって部分的給付か全額給付かに明確に区別される新しいテストに置き換えられた。最後に、連邦雇用サービスが独占していた状況は1998年に廃止された、そして、障害のある人のための新しい機会均等法が、2002年に可決された。この章の残りの部分では、ドイツの疾病手当、法定年金保険が取り扱う障害年金制度の部分的給付と全額給付、そして、このプログラムの最近の変化に絞って記述する。

疾病手当

最初に、一時的な疾病という社会的な危険に対する保護について概観する。法定健康保険(Gesetzliche Krankenversicherung)は、ドイツの人口のおよそ90パーセントの医療費をカバーしている。この大部分は雇用主と被保険者の代表によって管理されるおよそ300の基金から成り、法律によって厳密に規定されている。公務員(決められた月額収入(2003年で西ドイツでは3825ユーロ)より収入が少ない)を除いて、全ての被用者に加入が義務づけられている。所得のない家族構成員は無料でカバーされる。強制保険料は、賃金総額のおよそ14パーセントである。そして、その半分は被用者によって払われ、もう半分は雇用主によって払われる。失業者の場合は、法定失業保険(Bundesagentur fuer Arbeit)から法定健康保険の保険料が払われる。社会扶助の受給者は、連邦法のもとで社会扶助(Sozialhilfe)を管轄する地方自治体によってカバーされる。自営業者のほとんどは民間の健康保険を利用している。これらの結果、医療費がカバーされないのはドイツに住んでいる人口のおよそ0.2%のみである。

疾病のために労働できない被用者は、雇用主から賃金を6週間もらい続ける資格がある。そしてその後、法定健康保険による疾病給付が最高78週間続く。短期的疾病給付には、一定期間仕事についていなければならないという条件はない。一定期間働けないということは、医師によって証明されなければならない。医師は、ある人が仕事を遂行できないことを雇用主に証明するが、雇用主に病気や障害の種類知らせる必要はない。賃金の支払いが終わったあと、税引き前所得の70%を短期的疾病給付として支払われるが、それは、税引き後の所得の90%以上にはならない。給付は、免税である。

短期的疾病手当は、最高78週続く。病気が長期間続いたときには、より厳密にチェックされる。法定健康保険の査定者は、健康診断を受ける必要があるケースを選ぶ。選ばれたケースのリストについて、独立機関である法定健康保険医療サービス部(MDK)のメンバーと協議する。両者が合意すれば、対象者は、健康診断によばれ、リハビリテーションの可能性がチェックされる。MDKにより労働不能が長期間または永続すると予測された場合は、審査官は、法定年金保険のリハビリテーション、または一時的あるいは永続的な障害年金を申請するよう要請する。

法定年金保険の障害年金(全額給付と部分的給付)

ドイツは、全額年金と部分的年金の二重の障害年金制度を持つ。もし被保険者が病気または障害のために、一般的な労働市場において、1日に3時間以上6時間以下しか働けない状態が永続する場合、労働能力が部分的に減少したとみなされる。被保険者が病気または障害のために、一般的な労働市場の下で、1日に3時間未満しか働けない場合、労働能力が完全に失ったものとみなされる。

実際には、これまで障害年金は永続的であった。評価の結果、年金保険の医療サービスが、ある人は一時的な年金(例えば2年)の受給期間が終わった後に再び働くことができると予想した場合は、一時的年金とされた。2001年以後は、初めての障害年金の認定では、通常、一時的年金でなければならない。部分的年金も全額年金も初めは3年間に限定される、しかし、今後状態の変化が期待できない人については、期間の制限は適用されない。それに加えて、受給者が障害年金を申請した2年以内に60歳に達した場合は、永続的な年金が与えられる。

[受給資格と認定]

申請者が法定健康保険の医療サービス(MSK)によって職業を維持できないと査定され、さらにこの状況がリハビリテーションによって改善されなければ、そのケースは法定年金保険に移される。就労不能年金に適格であるためには、直近5年間の3年間以上保険料を納付しており、最低5年間は保険に加入している必要がある。

障害年金を申請する場合、被保険者は、申請用紙と医学的記録を法定年金保険に提出する(注23)。申請用紙では、これまでの労働と労働環境についてと病気や障害についての詳細が尋ねられる。運営査定官が、認定のために情報が十分かどうかを決める。十分でないときは、申請者のかかりつけ医に追加の医学的情報が求められる。追加の医学的情報が認定のためにまだ不十分である場合は、運営査定官は法定年金保険の医療サービスを利用して、申請者の診察が必要かどうかを決める。診察が行われる場合には、影響を受けた部分だけではなく、身体全体が調べられ、申請者の能力全体を査定する。全身をカバーするシステマチックなリストにより構成された特殊な査定書式により、専門医が、視覚や聴覚検査等の他のテストの結果もふくめて書式をうめる。重複障害の場合には、専門医は他の医学専門家と協力する。申請者が評価のために短期間入院するケースもある。いずれにせよ、就労不能年金受給の決定をするのは専門医でなく運営査定官である点に留意する必要がある。専門医は、医学的なフィードバックと証拠を提供するだけである。

障害の状態についての一般的な医学的リストは、ドイツの認定プロセスの中にはない。特に、プロセスは「3時間から6時間」労働できる能力のカテゴリーと「毎日6時間」労働できる能力のカテゴリーを区別しない。認定は常に社会医学の経験のある医師によって個人毎の個別の評価により行われる。しかし、いくつかの病気については、ドイツ年金保険基金連盟(Verband Deutscher entenversicherungstraeger)から出版されている年金保険のための医学検査に関する本の中にヒントや推薦事項が書かれている。認定は、部分的年金を除き、医学的要因だけに基づいて行われる。部分的年金の場合は、労働市場に関する情報も使われる(すなわち労働市場でのパートタイムの仕事を得られるかどうかについての情報)。パートタイムの仕事が得られるかどうかを考慮に入れる、いわゆる「具体的見地」(konkrete Betrachtungsweise)は、徐々に廃止される。医学の要因だけに基づく、いわゆる「抽象的見地」(abstrakte Betrachtungsweise)が、決定的にものになるであろう。

[給付]

全額障害年金の額は、原則として、2つの要素に依存する。一つ目は、被保険者が法定年金保険に保険料を支払った総年数である。60歳に達していなければ、実際の年齢と60歳との差の年数が総年数に加算される。二つ目は障害が起こる前の「所得得点」(Entgeltpunkte)の合計である。所得得点は、あるの人の1年分の実際の税引前所得額を、全ての被保険者のその年の平均所得によって、割り算することによって計算される。これは、ある年の平均所得をかせぐ人の所得点は1であることを意味する。所得得点の合計に年数を掛けたものがいわゆる個人的要素である。この要素に一般的要素(aktueller Rentenwert)が掛け算される。それが年金の一般額になる。2003年の一般額は、西ドイツで1月あたり26.13ユーロであった。東ドイツでは、一般額はさらに12%低い。一般要素は、名目上賃金の総額の伸びに連動しており減少することもある。ただし、ここで述べたことは、実際はもっと複雑な年金の計算式を単純化したものであることをご理解いただきたい。部分的年金は、全額年金の半分の額になる。

2002年12月31日現在、全額障害年金の平均月額は、女性が653ユーロ、男性は836ユーロであった。部分的年金の平均月額は、それぞれ428ユーロと616ユーロであった。これらの額は、年金受給者が払った保険料と、年金受給者のために法定年金保険が法定健康保険へ支払った保険金が組み合わされたものある。1993年の全額年金受給者の平均代替率は、ドイツでは46%であった。米国の30%と比較してほしい。(Aarts,Burkhauser & De Jong,1998)。それより最近の数字は、発表されていない。

「職業復帰]

全額障害年金あるいは部分的障害年金のどちらかを受けている人も、働くことが許される。年金が減額されない補助的所得の上限は、全額障害年金受給者の場合340ユーロである。全額障害年金受給者は、1年に2ヵ月間はこの制限を越えて補助所得を得ることができる。BoeltzigとClasen(2002)が説明しているように、これ以上の所得(例えば疾病手当、失業手当その他なども含む)があれば、その額に応じて一部のみ支払われることもある(たとえば、1/2、1/4、3/4)。部分的障害年金は、半額の年金として支払われることもある。以下の数字は、2003年現在の、西ドイツの場合である。以前の所得が低い障害年金受給者の追加所得の限度はおよそ、3/4年金では611.44ユーロ、1/2年金では811.34ユーロ、1/4年金では1,011.23ユーロである。年金受給者の以前の所得が平均レベルまたはそれ以上であった場合、これらの限度はより高くなる。部分的障害年金の制限は、811ユーロである。この額は、より高い所得の人の全額障害年金が半分になる額でもある。所得が上限を越えた場合、年金が打ち切られることもある。

職業復帰はドイツの制度の大きな特徴であり、年金を支払う前の最初の手段としてのリハビリテーションに投資するいろいろな社会的保護制度で支えられている。以前に述べたように、法定健康保険は、リハビリテーションが役にたたないと決定すれば、年金申請が指導され、そのケースは法定年金保険に移行する。後者は、申請者にリハビリテーション・テストを受けさせることによって申請をチェックすることから始める。法定健康保険は、最後の仕事に関する労働能力における障害を査定する一方で、法定年金保険は一般的な労働市場で生計を立てるための労働能力における障害を査定する。

障害者がこれまでの雇用主のもとに戻るという可能性がないならば、これらの制度によるリハビリテーション介入は再訓練と新しい雇用の機会の確保に集中して行われる。仕事に就く(戻る)ために、いろいろな支援サービスや職業復帰のための助成金を利用ができる。法定年金保険がある人にリハビリテーションが適当と決定すれば、移行手当が支払われる。この手当を受けている間も、事故に対して支払われる他の手当や年金を受けることができる。

全額障害年金あるいは部分的障害年金の受給者は、職業リハビリテーション訓練を受けるときは、連邦雇用サービス(FES)に失業者として登録する。リハビリテーションは、法定年金保険給付を補助するものである。1つの制度のみがその責任を負うこととされており、受給者はどの制度にでも申請すればその申請は最終的な責任をもつ制度に行き着くように転送されることが保証されている。

ドイツで特に関心が持たれているのは部分的障害年金プログラムと労働市場との関係である。1976年から2001年まで、給付から1年たっても失業状態にある部分的障害年金受給者は、全額障害年金を得られた。部分的障害年金受給者は、別の認定プロセスをへることなく自動的に全額給付障害年金プログラムへ移行した。つまり、部分的年金プログラムは、受給者が1年間労働市場でパートタイムの仕事を見つける彼らの能力があるかをテストするための一時的なプログラムとして機能した。このような流れから、部分的障害年金受給者は、復職したいと思うような気持ちになることはほとんどなかった。それに加えて、2001年までは、部分的障害年金受給者にとって適切な仕事とは何かということについて独特な規則があった。つまり、熟練労働者は、少なくとも半熟練を要するような仕事以外は拒否することができ、半熟練労働者は、賃金ややりがいの少ない熟練をまったく必要としないような仕事を拒否することができたのである。軟調な労働市場とあいまって、これらの規則のために、部分的障害年金受給者の割合は、1970年の30%から1990年代初期には5%まで減少した(Bound & Burkhauser,1999)。2002年に、ドイツで法定年金保険の障害年金受給者は180万人であった。そのうち6.4%のみが部分的給付を受給していた。ここ30年にわたって、ドイツの部分的年金プログラムは、障害のある人がパートタイムで労働市場で働き続けることを維持することに成功してこなかったことは明白である。この結果は、軟調な労働市場、適切な仕事とは何かということに関する制限的な規則、そして、プログラムの構築方法によって説明できるかもしれない。全額障害年金と部分的障害年金を統合し、前者から後者への継ぎ目のない移行を提供するプログラムは、明らかに、部分的年金受給者が職業復帰したくなるようなインセンティヴをあまり与えることができなかった。このような状況の下で1976年から2001年まで、ほとんどの部分的障害年金受給者は、全額障害年金受給者になり、彼らの部分的稼得能力を決して使わなかった。

2001年に、部分的年金プログラムを労働市場と相互作用させるという根本的な変更があった。1960年12月以降生まれた人は、技術レベルに関係なく、どのような仕事でも、部分的障害年金受給者に適しているとみなされる。まだそのすべてが議会によって可決されているわけではないが、新しい改革法(Hartz-Gesetze)が連邦雇用サービス(Bundesagentur fur Arbeit)を強化して、長期の失業者のためのモニター制度を導入することになっている。このことが部分的障害年金受給者にパートタイムの仕事を提供することに寄与するかどうかはまだわからない。

加えて、BoeltzigとClasen(2002)で説明したように、現在、部分的障害年金から全額障害年金への移行が可能なのは、パートタイムの職業の入手可能性が限られているとき、または「パートタイムの労働市場が閉じられている」時だけであり、その状況は連邦政府によって公式に決定される。1年間パートタイムの仕事を提供されることができないならばそれ以降、部分的障害年金から全額障害年金への移行が起こる。

部分的プログラムの中の、適切な仕事に関する制限規定を一部取除くことによって、効率が上がるかもしれないが、一方で将来にわたって成功するためには、ドイツでのパートタイムの労働市場が改善される必要がある。労働市場が軟調なままである限り、パートタイム雇用の機会が減る、あるいは全然なくなれば法定年金保険が全額障害年金を与え続けるという事実のために、パートタイムの雇用見通しがよくならないならば、部分的障害年金受給者がパートタイムの仕事を見つけることを期待できないということは、ドイツの政府も明確に認識している。

2001年に部分的障害年金と全額障害年金に関してもう1つの根本的変更がなされ、障害年金が一時的に支給されることが多くなった。現在では、障害年金受給者は、受給資格期間が終了するまでに職業復帰しようとするインセンティヴをもつようになったことは明白である。しかし一時的年金は2回延長することができ、9年後には永続的障害年金または老齢年金に(年金を受ける資格のある年齢に達したならば)変更されなければならない。この改革の影響を評価するには早すぎる。一時的給付を基本として給付を受けている障害年金受給者の最初のグループは、現在、第一回目の受給資格期間の3年が終わりつつあるところである。永続的な障害年金と一時的な障害年金を提供することにより、障害年金受給者の職業復帰の改善が期待されている。しかしこの改革の成功は、部分的プログラムと同じように、ドイツの労働市場の将来の強さに大いに依存している。

参考文献

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Prinz, C. (Ed.). (2003). European disability pension policies: 11 country trends 1970-2002. Ashgate.


(注19)

(注20) 2004年6月30日現在0.821ユーロ(Euros)、=1米ドル(USD)。

(注21) ドイツのリハビリテーション手当について詳しくはDean(1990)を参照のこと。

(注22) リハビリテーションの方策は、以下の機関によって実行される:法定健康保険、連邦労働党事務所(今:Bundesagentur fuer Arbeit)、法定労務災害保険(Alterssicherung fuer Landwirte)、法定年金保険(Gesetzliche Rentenversicherung)、農民法定年金保険(Alterssicherung fuer Landwirte)、退役軍人局(Kriegsopferversorgung und Kriegsopferfuersorge)、社会援助(Sozialhilfe)、公的な青少年援助(oeffentliche Jugendhilfe)。

(注23) 申し込みから支給にいたるプロセスはBoeltzigとClasen(2002)に詳述されている。