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9カ国の一時的・部分的障害プログラム 「他国から学ぶ」最終報告書

第6章 イギリスにおける障害給付制度の最近の改革

ソフィ・ミトラ、アン・コードン、パトリシア・ソーントン

イギリスの障害給付制度は、他の先進国の障害制度を悩ましてきたのと同じような問題をたくさん抱えている。つまり、障害給付受給者の数が多くなってきて財政の上の重荷になってきているということである。1990年代に、イギリスでの障害給付受給額は54%増加した。また、GDPに占める障害給付支出額の割合は1990年の0.88%から1999年の1.27%まで増加した(OECD,2003)。しかし、このことは、政策が1990年代初期から変化しなかったことを意味するわけではない。イギリスでは近年かなりの改革がなされてきている。そのため、イギリスはこの方面の研究では他の国に卓越している。これらの改革としては、障害者が働いて賃金を得られるようにする努力や、職業復帰サービス、個別のニーズ、個人のニーズに新しく焦点を当てることなどが行われている(注24)。改革は、障害給付を新たに受給する人を減らし、障害給付受給者が働こうとするのを邪魔するものを取り除くように計画されていた。イギリスには雇用主が資金を提供する一時的障害プログラムとして、法定疾病給付がある。また、アメリカ合衆国のように、永続的に全額を給付する公的障害給付プログラムがある。

この章は、次のように構成される。最初にイギリスの障害給付システム全体を概観する。次に雇用主が資金を供給する一時的障害プログラムを取り上げる。それからイギリスの障害システムのうちの2つのプログラムを検証する。それは、就労不能給付と、労働税控除である。

障害システムの概要

イギリスの障害システムは障害のある人に対してさまざまなプログラムを提供する。それらのプログラムはさまざまなニーズと状況に見合ったものになっている。表1に一時的障害給付の主な種類を提す。

表1:イギリスの障害システム概要

給付 拠出制 資力調査 課税
法定疾病給付 いいえ いいえ はい
就労不能給付(IB) はい いいえ はい
所得補助 いいえ はい いいえ
所得に基づく求職者給付 いいえ はい はい
住宅給付 いいえ はい はい
障害者生活給付 いいえ いいえ いいえ
労災 いいえ いいえ いいえ
労働税控除(障害給付) いいえ はい いいえ

注:1.IBのための評価には、資力審査はない。しかし、ほかに所得の出所があれば減額される。 2.低額就労不能給付は無税である。

法定疾病給付プログラムは、雇用主が資金を提供し管理するプログラムであって、「働くことができない」被用者に最高28週間現金を支払うプログラムである。このプログラム定めている法令では、被用者はなんらかの疾患、または身体または精神障害のため、働けない状態でなければならないと規定されている。働けない状態で7日間が経過すると、雇用主は医師からの診断書の提出を求める。

イギリス政府の障害制度には、障害のある人のためのさまざまな給付がある。拠出制の所得代替給付の主なものは、就労不能給付である。その給付を受けるための条件として、給付の対象が、仕事を捜すことを要求できないくらい身体活動や精神活動の遂行能力が低下している人とされている。法定疾病給付の28週が過ぎれば、就労不能給付を請求することができる。これに加えて、無拠出制で資力審査がある障害関連の所得代替給付はいくつかあり、所得が低い場合に活用することができる。所得補助(Income Support)は、主な社会扶助給付で、常勤労働(週16時間以上)に従事している人は、利用できない。それに加えて、所得に基づく求職者給付(income-based jobseeker's allowance)は、失業した人や仕事を捜しているために週に16時間未満しか労働していない人が利用できる。賃貸料を払っている低所得者は住宅給付(Housing benefit)を利用できる。これらの資力審査つきの給付では、受給資格があるかどうかは、個人給付と保険料を基礎にした制度に基づき計算され申請者個人毎に違う。この制度には、障害があることに付随する特別割り増しがあり、その額は、障害の程度によって異なる。

イギリスには、障害のある人が特別な費用を負担するのを助けるように設計された給付もある。この特別コスト給付(Extra cost benefits)は、無拠出制で資力審査のないもので、勤労所得のある人もない人も両方とも利用できる。受給資格は、かなりの部分自己評価に依存しており、移動ニーズと介護ニーズよって異なる。受給者は、自身のニーズと優先順位に従って給付を自由に使ってもよい。主な特別コスト給付は、障害者生活給付(Disability Living Allowance:DLA)である。これは、重度障害のために、介護ニーズまたは移動支援ニーズがある人に支払われる。DLAには、その前身の制度を反映した2つの給付がある。それはケア給付(care compornent)と移動給付(mobility compornent)である。それぞれ、障害の程度よって毎週異なる額が支給される。イギリスには、無拠出制の労働災害給付システムもある。それは仕事中の事故や仕事に起因する病気の結果障害をおった人に払われる。およそ280,000人のみが、この給付を受けている。払われる額は、査定された障害程度割合(パーセンテージ)に依存し、仕事に復帰したかどうかによっては影響をうけない(Pilling,2002)。

最後に、イギリスには急速に広がりつつある税控除(tax credit)システムがある。それは低所得層と中間所得層に属する納税者と非納税者が利用できる。ここで重要なのは、この税控除は、低賃金労働者の所得に上乗せするように設計されている点である。受給資格は、家族状況と所得に基づいており、障害給付と重度障害給付がある。全体的にイギリスの障害給付制度と税控除制度は複雑である、そして、障害のある人はその個人状況および家庭状況、障害程度、労働能力、所得レベルに応じて、これらの制度のさまざまな部分を利用できる。

利用できるプログラムの種類は、障害システムの最近の改革の一部として強化された。それには新しい給付と税控除制度の設立が含まれていた。1999年に政府は、「働ける人には仕事を、働くことができない人には保障を」という原理によって導かれた「労働福祉(welfare to work)」という理念のもとで障害給付制度を改革するという提案をした(DSS,1998)。それに加えて、最近の改革の一部として、新しい焦点が職業リハビリテーションと個人サービス(personalized Service)に置かれた。伝統的に、職業リハビリテーションはイギリスの障害システムにおいては周辺的な役割しか演じてこなかった。2000年に、いくつかの組織が、障害のある人に対して職業斡旋サービスを提供する契約を政府と結んだ。職業斡旋事業者(公的の組織、民間の組織、あるいはボランティアセクターの組織がおこなっている)は、職業斡旋サービスを提供し、雇用率を改善しようとしている。同じ年に、効率とサービスを改善するために、手当給付機関と雇用サービス機関が、労働年金局(Department of Work and Pension:DWP)の一部として、新しく、ジョブセンタープラス(Jobcentre Plus)としてひとつに合併された。

法定疾病給付

イギリスで「一時的障害給付」の役割を果たしているプログラムに法定疾病給付(SSP)がある。それは雇用主に障害プログラムの費用の一部を移す目的で政府が努力した結果の一部として、1983には雇用主が全額負担する8週間の法定疾病給付が創設された。この期間は、1995年以後は28週間になった。被用者でない人はこの給付を利用できない。被用者のカテゴリーには、失業者、自営業者、16歳未満または65以上が含まれる。すでに28週分のSSPの給付を受けた人やSSP期間の終わりの8週間に再び病気になった人は利用できない。また、週給の平均が最少所得制限(現在週77ポンド(注25))未満の場合も利用できない。一部の人々は雇用主からの疾病給付を含む雇用契約をしている。しかし、SSPは法的な最低限であるので、雇用主はそれより少なく支払うことは許されない。2003年4月6日から2004年4月5日までのSSPの給付額は定額制で、週64.35英ポンドであった(Inland Revenue,2004)。SSPは雇用主により管理され、雇用主により支払われる。仕事ができない状態が4日以上続けば、SSPが支払われる。病気になって最初の7日間は、仕事ができないことを自分で証明すれば認められる。7日以後は、雇用主は通常一般開業医または開業医(例えば整骨療法医)からの医学的な証明を求める。その人が労働できるかどうか決めるのは雇用主次第である。受給資格や支払いについて被用者と雇用主の間に意見の相違がある場合は、労働者が国税局に決定を求める。国税局は、国税局の嘱託医に診察してもらうように労働者に求めることがある。国税局の委員会が、SSPの受給資格についての疑義に対する対応を決定する。実務上、そのような決定は、国税局の委員会の任をうけた責任ある専門官により法律的に行われる。

状態がよくなった人は28週以内またはそれ以後に同じ仕事に戻るかもしれない。そのときは、雇用主はそれ以後SSPの支払いを停止する。最長のSSPを受けたあとでもまだ働けない人は、続けて就労不能給付または所得補助あるいはその両方の受給資格に適合するもしれない。

SSPを受けている間の労働所得の制限はない。ある仕事はできないが、他の作業を含む別の仕事でなら働けるということがありうる。一部の雇用主は、自身の職業健康計画の範囲内で復職サービスを始めていたが、政府は、最近までSSP受給者のための職業復帰サービスを提供してこなかった。障害と疾病の初期の段階で、職業復帰のための個別のサービスを提供する努力の一部として、労働年金局と保健局は、6つの地域で試験的な就労継続(Job Retention)とリハビリテーションパイロット(Rehabilitation Pilots)を運営し始めた。パイロットは、就労不能給付を申請する前のSSP受給者を対象とする。毎週3,000人が28週を過ぎてSSPから就労不能給付に移ったという事実に触発されたためである(Zeitzer,2002)。病気のため仕事を離れて6週間から6ヵ月たった被用者と自営業者は、パイロットへの参加を申請することができる。適格性を審査するスクリーニングテストを通過すると、健康介入、職場介入、複合介入、統制群に無作為に振り分けされる。サービスは、外部の組織によって提供される。この実験の結果は、まだ入手できない。このプログラムの効果を検討するのはまだ早いが、それが職業復帰プログラムへの早い介入という他の国々の志向と一致している点に注意することは重要である。英国政府は、障害の最も早い段階での(すなわち障害が始まって6ヵ月以内、まだ人が雇用されている間に)、健康と職業復帰への介入をデザインした。このように雇用主によって資金が供給されている一時的なプログラムを、公的な職業復帰プログラムを開始させるためのプラットホームとして使い始めている。

就労不能給付

28週間のSSPが終わっても職場にもどれない被用者やSSPを受ける資格がない人は、就労不能給付(IB)を申し込むことができる。

[障害認定]

IBの受給資格は、能力不全に関する検査により決定する。2つの検査がある。まず、労働不能の最初の28週における自分自身の職業に対する検査がある。自分自身の職業に対する検査は、働けなくなる前に行っていた仕事をすることが障害により妨げられるかどうかにより決定される。28週を過ぎると、個別能力評価(PCA)を受けなければならない。それはIBへの受給資格を決定するために使われる医学的検査である。PCAは、2000年に「all work test」にかわったものである。PCAテストは、その人の状態が日常的な労働に関連する活動能力にどの程度影響を及ぼしているかを測定するために、通常の仕事を遂行する能力を検査する。PCA決定プロセスは、図1で示される。決定プロセスの最初の段階は、請求者がPCAプロセスを免除されているかどうかを確定することである。これは、請求者が免除カテゴリーに当てはまるのではないかということを示す何らかの証拠がある場合であり、約3分の1のケースについてあてはまる。多くのケースでは、決定に際し、認定医からこの問題についての医学的アドバイスが求められる。認定医は、証明医(通常、請求者のかかりつけの一般開業医)から事実に関する情報を得る。非常に重度の医学的問題を持つ人たちは、PCAプロセスを経ることなくIBが与えられる。一定のケースの場合、ジョブセンター・プラスのスタッフがこのプロセスから請求者を免除する決定を行うことができる。例えば、末期症状の人、高額障害者生活手当を受給している人、重度の状態(例えば回肢麻痺、痴呆、盲目)にある人たちなどが含まれる。他のケースでも、例えば精神障害、進行性の循環器・呼吸器系の機能不全、重度の麻痺などの場合には、認定医からのアドバイスによって請求者をPCAプロセスから免除するという決定がなされることもある。

図1:就労不能手当認定過程
図1 流れ図
出典:Sainsburyほか(2001)

免除されなかった申請者のためのPCA検査は点数制になっている。請求者は、PCAにおいて定義されている労働に関連した活動の範囲において、彼らの状態についての詳細なアンケートに答えるよう求められる。PCA検査は、歩く、曲げる、跪くというような身体機能、聞く、話す、見る、などの感覚機能、そして、精神的機能をカバーしている。これらの機能は、表2のリストに示す。これらの各々の機能について、申請者は、ランクを付けられた一連の記述の中から自分の機能の制限の程度に最も合致するものを選ぶよう求められる。DWPの代理として、医療サービス(Medical Services)の認定医は、健康状態によりこれらの活動の遂行能力がどの程度損傷されているかを査定するために、各記述にあたえられた点数を計算する。給付受給のためには、身体活動のリストでは15点、精神活動のリストでは10点、両方のリストのスコアを合計する場合は15点以上を必要とする。その後、認定医は、給付決定者にアドバイスする。個々の活動を遂行する能力がひどく損傷されている場合(例えば、止まることなく50メートル以上歩くことができない、本のページをめくることができない、など)は、PCA受給条件を満たす。また、小さな機能制限がいくつかの領域において横断的に存在する場合、PCAを満たすことがある。PCA検査は、本質において医学的である。それは医学的要素だけを考慮し、年齢、経験、技術のような職業的要素は考慮しない。また、PCAは、働くことができる人と、働くことができない人を区別する検査ではないということに注意することが重要である。むしろ、給付を行っても仕事を探すことが期待できない人(IBにとどまっているが本当はPCA受給要件を満たしている人たち)と、職業復帰を試みたり、あるいは求職者給付を請求したりして、仕事をみつけることが期待できる人との間に線を引こうとするものなのである。

[給付]

IBには3種類の給付額(表3)がある。それは給付期間により依存する。ただし、末期患者は、すぐに高額のIB給付(すなわち1年ではなく、28週の後にIBの受給資格を得たとき長期IB給付に依存する)を受けることができる。2002年から2003年には、150万人の人々が給付を受けた。また、IBに対する支出は、68億ポンドと見積もられた。1995年から1996年は、76億ポンドであった。

表2:イギリスのPCAテスト

身体および感覚機能の分野 精神機能の分野
平坦な地面を歩く
階段の上り下り
ひじなしの椅子に体をまっすぐにして座る
立つ
椅子から起き上がる
手を伸ばす
話す
聞く
自制
視覚
意識
曲げたりひざまずいたりする
手先の器用さ
持ち上げたり運んだりする
作業の完了
日常生活
プレッシャーに耐える
他の人とのかかわり

表3:就労不能給付額(英ポンド、一週間あたり、2004年1月)

  老齢年金受給資格年齢未満の請求者 老齢年金受給資格以上の請求者
長期IB    
標準 72.15 n/a
扶養者のための増額:    
成人の扶養者 43.15  
子供の扶養者:    
最年長の子供 9.55  
その他の子供 11.35  
短期IB(高率)    
標準 64.35 72.15
扶養者のための増額:    
成人の扶養者 33.65 41.50
子供の扶養者:    
最年長の子供 9.55 9.55
その他の子供 11.35 11.35
短期 IB(低率)    
標準 54.40 69.20
扶養者のための増額:    
成人の扶養者 33.65 41.50
子供の扶養者:    
最年長の子供 n/a 9.55
その他の子供 n/a 11.35

[職業復帰]

歴史的に、イギリスの所得代替給付制度は、有給の労働の見込みがある人とそうでない人を明確に分けてきた。障害のある人は、このアプローチによって大きな影響を受けるグループの1つであった。人間は、健康で働ける人、仕事を捜している人、あるいは有給の労働が困難な病気や障害のある人、のいずれかに属するものとされてきた。家族の主な稼ぎ手が男性であったとき、また、男性の労働の多くが肉体労働と長時間労働であった時代の給付制度の中でそのような区別が生まれた。「働いていながら給付を請求していること」が見つかれば厳しく処罰され、伝統的にその区別は厳重に管理されてきた。しかし1990年代までに障害と職業の持つ意味が全く変わった。現在の政府の重要な政策目的のうちの1つは、有給の仕事をしたい人すべてがそれ実現するのを手助けすることである。そして、現在では、就労不能給付を請求している人々や、仕事をやめて就労不能給付にたよらざるを得なくなる危機に瀕しているような人もこれに含まれるようになった。しかし、給付と所得の間の歴史的構造的関係により、多くの障壁や意欲喪失がもたらされた。政府や政府機関は、これらの障壁の一部を取り除き、新しいインセンティヴを導入するために共に働いてきた。そして、そのことが人々の態度や行動に影響を与え、就労不能給付から有給の仕事に至る道をスムーズしてくれるだろうと期待されている。以下、最近の職業復帰に関する優先的取り組みのいくつかを検討する。就労規則は、より意欲を出させることに寄与するように作られているのと、同時に、IBから労働に移行することを今は考えていないIB受給者の利益を保護するように作られている。これらの受給者のうちには、重い病気や機能障害がある人々もいるからである。これらの就労を許可する規則の一部は、最近の改革の一部として、労働意欲を増やすように変更された。職業復帰に先立ち医師の許可を得ることは、現在もはや必要ではない。いくつかの許可される就労の規則がある。まず、第一に、ボランティア活動は職業リハビリテーションのひとつの形であって、有給労働に結びつくかもしれないという認識のもと、今はボランティア活動量に対する制限がない。そして、以下にあるような許可される就労(すべてのケースをDWPに通知する必要がある)は、行っても良い。

  • 医学的監督下で治療プログラムの一部として、入院中、あるいは外来患者として通院している病院でなされる労働。所得は、週につき67.50ポンド(最低賃金で16時間労働をしたのと同じ額)を上回ってはならない。これは、IB受給資格に影響を及ぼさない。あるいは、
  • 所得が、週につき20ポンドを上回らない労働。これは許可された労働上限と呼ばれており、期間は限定されない。この所得はIB受給資格に影響を及ぼさない。実際上は、DWPによる試算では、最低賃金で働くとすると週に5時間以内の労働になる。あるいは、
  • 所得が週につき67.5英ポンドを上回らない「支援付き労働」。この場合、期間の制限はない。これは、許可された支援付き労働と呼ばれており、所得はIB受給資格に影響を及ぼさない。支援付き労働とは、公的機関、地方自治体、あるいはボランティア組織に雇用されて障害のある人々のために仕事を見つける仕事をしている人の監督のもとに行われる仕事を意味する。これには、保護工上内での労働、地方自治体のソーシャル・サービスからの援助を受けいれる労働、一般雇用における支援付き労働が含まれる。支援は定期的に実施されていなければならない。あるいは、
  • 労働が週あたり平均16時間未満で、所得が週67.50英ポンドを上回らない限りにおける、最高26週間の労働。これは許可された労働上限と呼ばれている、所得はIB受給資格に影響を及ぼさない。このような拡張により常勤の有給労働能力が向上するという証拠があれば、さらに26週間延長される。実際、DWPは、働いてみたいと思っている障害のある人々を援助する政府プログラムのいろいろなサービスで働いている専門のアドバイザーからそのような証拠が出てくるのを期待している。

許可される就労の規則に加えて、就労不能給付受給者の職業復帰を助長するために、就労に焦点を絞った面接とサービス・プログラムについても進行中のパイロット事業の一部として改革がすすんでいる。進行中の就労不能給付パイロット事業は、就労不能給付を新しく請求しようとする人に対し月1回のペースで連続6回、就労に焦点をあてた個人アドバイザーとの面接に出席することを義務づけている。これらのパイロット事業を通じて、「障害者のためのニューディール」(New Deal for Disabled People:NDDP)への照会が増えると思われる。NDDPの個人アドバイザー・サービスは、2001年9月から12の地域で案内された。「就労斡旋サービス」と名称が変更され全国的に広がったが、パイロット事業の位置づけはかわっていない。NDDPは、就労不能給付の受給者が労働に戻るのを助けることに寄与するまさに初めてのサービスである。これは、労働年金局のひとつのセクションであるジョブセンタープラス(Jobcentre Plus)との契約のもとで、ボランティア組織、民間組織、公的組織が提供する任意のプログラムである。

最後に、週16時間以上働きIB受給者から抜けた人たちの職業復帰の努力に対するその後の支援は、労働税控除プログラムを通して、間接的に行われる。この税控除プログラムに関しては、以下で詳細に述べる。

[労働税控除]

障害のある人のための税控除プログラムは「障害者のための税控除」(Disabled Person's Tax Credit:DPTC)プログラムにより、1999年に始められた。それは障害者就労給付(Disability Working Allowance:DWA)に替わるものであった。DWAの給付は、障害のある労働者の低所得を「底上げする」効果をもっていた。DPTCはDWAを基に作られた。DWCは社会保障局によって管理されていたが、税控除は国税局によって管理され、雇用主の支払う賃金を通して支払われた。それに加えて、DPTCの非課税所得はより高く設定されていたし、非課税所得を超えた所得に対する税率も低く設定されていた。これによって、給付制度により返却される追加の勤労所得が減った。障害のある人のためのこの最初の税控除は長くは続かず、統合された新しい税控除制度「労働税控除」(Working Tax Credit:WTC)に2003年4月に包含された。WTCは、低所得労働者に支払われる。それは、被用者と自営業者の両方をカバーしており、障害のある人(障害コンポーネント)も含まれる。また、課税機関(国税局)によって管理されている。WTCは低賃金の労働者に払われるが、個人の状況による。配偶者が常勤の有給労働者であり、世帯収入が十分に低く、現在イギリスでの通常居住者であり、出入国管理規定に抵触しなければ受給資格がある。それに加えて、実際に16時間以上働いているか、7日以内に始まる予定の労働の斡旋を受けていなければならない。

受給額は家族状況と他の所得に依存する、しかし、貯蓄や資産などについての制限はない。WTCの構造と適格性の基準は複雑である。下記にWTCの障害コンポーネントに関する適格性基準について集中的に記述する。週に16時間以上働いていて、仕事を得る上で不利になるような障害のある人が、一定の給付を受けているか受けていたことがあれば、WTCの障害コンポーネントのための資格がある。一定の給付としては、DLA(あるいは、介助者手当、継続介助者手当付きの労働災害給付、継続的移動介助者給付つき戦争障害者年金を受けているか就労不能給付制度の下で車を給付されていることなど)が含まれる。一定の給付の他のものには以下のようなものが含まれる。すなわち、就労不能給付、重度障害給付、所得に基づく失業給付の中の障害特別給付つきの所得補助、地方税給付、住宅給付などである。税控除の簡略申請ができる給付としては、法定疾病給付、短期の低額就労不能給付と所得補助がある。資力審査はない。

申請は所定の申請用紙を使う。その用紙の中で、申請者は、仕事を得る上で不利になるような身体的・精神的障害があることを明らかにする必要がある(一定の状態を記載した表を参照するように案内される)。申請書は税控除中央事務所に郵送される。最初の決定は、国税局の公務員によって行われる。申請書に矛盾した記述がない限り、申請者の自己申告が認められる。最初は、12ヵ月の裁定が行われる。繰り返し申請するためには、「障害テスト」に合格しなければならない。最初の請求前6ヶ月以内の重度障害給付(SDA)の受領書があればこのテストに合格する。また、高額か中間の額のDLA介助給付の受領書、高額の移動給付の受領書でも合格する。これらの給付を受けていない人は、21の「一定の条件」のうちひとつを満たさなければならない。この一定の条件には、身体的・精神的・社会的な機能の制限、病状や苦痛のために一日8時間または週5日働くことができないなどが含まれている(Pilling,2003)。その後、税控除事務所は、その人のこれらの状態が少なくとも6ヵ月の間、あるいは一生継続することを確認するために、その人のかかりつけ医に手紙を書く。

受給額は家族状況と他の所得に依存する、しかし、貯蓄または資産の限度はない。裁定額のレベルは、1税年度中のすべて受給資格を基礎にしているので、申請が1年のうちいつなされたか、その年の間に状況が変わったかどうかによって計算の方法が違う。計算の最初のステップは、請求のための算定期間の決定である。第2のステップは、8つの「要素」のうちで請求者が利用できるWTCの最高額を計算することである。

年額

基本的要素 1,525 英ポンド
ひとり親要素 1,500 英ポンド
配偶者要素 1,500 英ポンド
30時間労働要素 620 英ポンド
障害要素 2,040 英ポンド
重度障害要素 865 英ポンド
年齢50歳以上要素 労働時間数により2つのレートがある
育児の要素 最大で適格な費用の70%のまで

計算の第3のステップは、請求者(と配偶者)の「算定収入」を決定することである。これには、雇用、自営、年金、投資、社会保障給付(その中でも、DLA、IS、所得ベースのJSA、HBと短期の定額IBは無視される)などからの実際の収入が含まれる。第4のステップは、計算された所得と「閾値」を比較することである。2003/2004用の閾値は5,060英ポンドであった。計算における最終的なステップは、最終調整をすることである。それは、次のようになる。

  • 実際の所得が閾値より小されば、受給資格の額はステップ2で計算された最大額である。
  • 実質所得が閾値より大きければ、最大の受給資格の額(ステップ2)より過剰な分の37%を減らす。最大の税額控除のいろいろな要素を調整する順番を定めた規則に基づく。

2003年4月に導入されたばかりなので、WTCはまだ評価されていない。以前の障害者税控除(DPTC)は、評価されたことがある(Atkinson,Meager, & Dewson,2003 and Corden & Sainsbury 2003)。DPTC受給者の代表的なサンプルに基づいて、アトキンソン、ミーガー、デューソン(2003)は、19%の受給者が働くかどうかを決める決定的な要因はDPTCであったと主張していることを発見した。この傾向は、女性、老人、自営業者に共通しており、とくにひとり親においてより顕著に見られた。自己報告に基づけば、DPTC受給者の大多数が資力審査のある給付をうけたことがあり、そのうちの19%は、障害特別給付つきの所得補助を受けたことがあった。しかし、DPTC受給者の17%は、以前2年間は就労不能給付受給者であった。そして、それは就労不能給付受給者が受給者でなくなり労働に戻るのを助けるうえでこのプログラムが重要な役割を演じていることを示している。低賃金でパートタイムまたは常勤労働をしている障害のある人が、障害給付つきWTCのような税控除プログラムの目標となる。部分的な永続する障害(パートタイムでなら働くことが可能)のある人もいるし、障害があっても常勤で働く能力はあるが賃金は低いという人たちもいることがわかる。後者のグループは、障害者として申請すれば高額の給付を受けることができるので、労働に戻りそうにないかもしれない。しかし、そのようなプログラムは、いくつかの利点を持つ。それは、働く気持ちを鼓舞する資力審査制度を提供する。それは、勤労所得を補てんすることによって、拠出制の障害給付プログラムや資力審査つきの障害給付プログラムへの移行を防止するかもしれない。加えて、最近の就労不能給付や所得補助の受給資格は、障害給付つきWTCの資格認定資格ともなっているので、このプログラムも就労不能給付と所得補助受給者の労働への復帰努力を助長し、これらのプログラムからの脱出を進めることを意図している。もちろん、そのような障害給付つき所得税控除をアメリカ合衆国で導入する際には、メディケイドプログラムの適格性の必要条件である世帯収入との相互作用を考慮に入れる必要があるだろう。同時に、WTCにはいくつかの不利な点があることに注意することは重要である。そのうちの1つは、低い受給額しか期待できないことである。また、税控除を申請しなければならない、そして、制度と利用の準備として受領書を必要とする。歴史的に、税控除に先行する資力審査つきの給付の受給が重大な問題であった。そして、これらの問題はこれからも残ることが予想されている。それに加えて、国税局による年度末の調整により生じる技術的な「払いすぎ」のために、税額控除の受給資格の計算はエラー率が高い。ホワイトフォード、メンデルソン、ミラー(2003)は、イギリスの税控除とオーストラリアとカナダの類似した制度を比較し、所得と環境の変化を取り扱う英国の制度は管理上の負担が大きく透明性が低いと結論した。

結論

1990年代はじめ、イギリスの障害給付制度は、現在の米国のシステムのそれと、それほど異らなかった。主に永続的全額障害保障プログラムと資力審査つきプログラムから成り立っていた。最近の10年間に、英国政府は公的支出と給付受給者数の増大という共通する障害問題に対する多角的アプローチを強化することによって、多様性と柔軟性のある制度にしてきた。障害給付つきの労働税控除は、低賃金で働いている障害のあるパートタイマー労働者が労働力としてとどまるのを奨励する。それは部分的に働く能力を持っている人に給付を提供するので、部分的障害給付プログラムに類似したものとみなすことができる。障害のある人の労働力参加に関するイギリスの障害給付つきの労働税控除の長期的な影響はまだ評価されていない。労働年金局は、受障後6ヵ月以内の短期の障害給付受給者に、労働へ復帰するサービスを提供する方式をテストしている。それは、就労不能給付を申請する前に行われる早期介入の形式である。

参考文献

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(注24) イギリスではアカデミックで政治的な談話の中では‘disabled people’という言い方が好まれていると理解している。しかし、我々はこのレポートのほかの部分、およびアメリカ合衆国で一般に使われる言語と一致している‘persons with disabilities’という言い方を用いることにする。

(注25) 2004年6月30日現在1米ドル=0.552英ポンドである。