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9カ国の一時的・部分的障害プログラム 「他国から学ぶ」最終報告書

第9章 ノルウェーの一時的・部分的障害年金プログラム

デイビッド・ディーン、トーン・メルク

ノルウェーの主要な障害年金プログラムは、国民保険法第12章の下、国民保険制度により運営されている。この法律は1936年にはじめて施行され、1966年の大改正により、障害年金がこの法に組み込まれた。1997年と2001年にも改正が行われ、この国民保険制度の給付は、公共部門の被用者をカバーしている他の2つの大きな障害年金制度と統合された。それは、1)ノルウェー公共サービス年金制度(国家公務員)と2)KLP保険(地方公務員)である。それに加え、船員、漁民、林業労働者のための特別な制度がある。

ノルウェーの社会保険制度は、雇用主と被用者に課される賃金税から資金を供給されており、足りない部分は政府が一般歳入から資金を提供している。雇用主の保険料は、給料支払簿の14%に決められている。労働者の保険料は、所得の7.8%(年齢16歳以下または70歳以上は所得の3%に減額される)である。自営業の個人のための税率は、所得の10.7%で、基礎額の12倍(2003年は6,339ドル)を上限とする。被用者あるいは自営業者からの保険料は、年金所得に基づいて計算される。この年金所得というのは、年の所得のうち22,200NOK(ノルウェークローネ≒2,475ドル)を上回る部分(疾病給付、出産給付、失業給付を含む総賃金)をさす。しかし、保険料は年間の所得のうち22,200NOKを超過した部分の25%を上回らない。保険料の上限はない。これらの保険料は一緒にされて、老齢、障害、疾病、出産、労災、失業などのプログラムのネットワークに資金を提供する。(Gruber & Wise,2002)

障害給付に関する国民保険プログラムは、社会省内にある国民保険局(NIA)によって管理される。郡と市町村に国の国民保険事務所がある。NIAは、国民保険制度の大部分の給付を管理しており、それには老齢年金、障害給付、疾病給付、医学リハビリテーション給付と健康保険などが含まれる。国民保険制度における職業リハビリテーション給付と失業給付は、労働省の労働局によって管理されている。

障害年金は、老齢年金のためにつくられたガイドラインによって計算される。それは基礎額と、補助年金または特別補助金、あるいは、その両方を加えたものから成る。補助年金は、17歳以降に積み上げられた勤労所得と年金得点に基づいて計算される。年金の所得比例部分は、基礎額以上を稼いでいる、1897年以降に生まれた全ての被用者あるいは自営業者をカバーする。

基礎額と特別補助金により最小限の年金が構成される。それは居住期間に基づいて計算され、それまでの勤労所得とは独立している。それに加えて、18歳未満の扶養されている子供、あるいは扶養されている配偶者のための収入調査に基づく補助金がある。この基礎額(毎年5月1日議会により増される)は、物価と賃金のインフレーションの組合せによりスライドされる。

2003年5月1日現在の基礎額は6,339ドル(56,861NOK)であった。完全な年金資格のある個人に提供される年金の最低額(すなわち基礎額と特別補助金)は11,367ドル(101,964NOK)であった。独身の年金受給者に対する年金の最高額は(基礎額と補助年金の最高額から成る)、年額24,975ドル(224,028NOK)である。子供ひとりあたりの満額の補助金は、基礎額の40%、または年額2,535ドル(22,740NOK)である。配偶者/同居者/パートナーのための満額の補助金は、基礎額の50%または年額3,169ドル(28,428NOK)である。

16歳から66歳の人は、障害年金の受給資格がある。NIAは1967年に発足し、それ以来、障害年金受給者数は、1967年の98,645人から2000年の終わりの279,573人(183%の増加)へと2倍以上に増えた。18歳から66歳の人口の約9.9%(女性の11.5%、男性の8.3%)が現在障害年金を受けている(Dahl & Hansen,2003)。

2002年には合計で39,516人が障害年金プログラムに申請をした。そのおよそ3分の2の人は(26,798人または67.8%)障害給付を与えられ、さらにその3分の2(17,973人または67.1%)が全額障害給付であった。また、同じ期間に19,945人が障害年金を打ち切られた。これらのうちの14,653人は老齢年金プログラムへの移行であり、3,778人は死亡のためであった。障害年金プログラムに関するこれらの出入りを合わせると、2002年の終わりに支払いを受けている人の数は292,224人であった。この合計の約5分の4は(231,179人または79.1%)全額障害年金給付を受けていた。

ノルウェーの障害年金の受給資格は、16歳から66歳までで、障害が発生する前の3年間保険に加入していることである。難民、26才前に障害を受けた若者、16歳以後5年未満しか保険に加入していない人には例外が認められる。全額給付の最低額は、基礎額(5,726ドル)と完全障害者と認定された人への特別補助金を足した額の100%である。これは、40年の居住期間があれば、資格が得られる。この居住期間には、67歳までの将来の年数も含められる。所得に基づく補助年金の場合、必要条件は、将来の年金得点を含め、基礎額以上の所得が3年以上あることである。さらに、16歳から66歳までの人は、障害年金の受給資格を得るためには、稼得能力が永続的に50%以上損失していなければならない(すなわち、部分的年金を得るためには少なくとも50%の障害でなければならない)。自宅で働いている人(すなわち主婦)もまた、家事労働能力の損失を補償するという意味から障害年金の受給資格がある。

障害年金は死ぬまで給付される。そのため個人の労働能力の大きな変化がなければ、通常再検査は行われない。通常、障害年金は、老齢年金の受給開始年齢(67歳)まで与えられる。一般的には、ノルウェーに居住する者は全員、制度の対象である。さらに、たとえ居住者でなくとも、ノルウェーで働いている被用者も対象になる。言い換えると、市民権は、求められてもいないし条件にもなっていない。しかし、障害になるまでの3年の保険加入という資格要件は、ノルウェーと他の国の間の社会保障に関する協定によってくつがえされるかもしれない。同じ心配は、海外での支払いに関する規則にもあてはまる。ちなみに、ノルウェーはUSAと相互協定を結んでいる。

期限付き障害給付

最近の法律の改正で、国民保険法第12章は、また、新しい期限付き障害給付を義務化し、2004年の初めに施行された。従来の障害年金の受給資格基準と、第12章のもとでの新しい期限付き障害給付の受給資格基準は同じである。現在、両方の給付とも永続する障害が必要条件となっていることから、申請者はどちらとも特定しないまま申請する。障害給付のタイプを最終的に決定するのは国民保険事務所である。将来労働能力が向上する可能性が少しでもあれば、期限付き障害給付が与えられる。もしそうでなければ、障害年金が与えられる。

この新しい給付は、1年から4年まで与えられ、リハビリテーション給付に類似したやり方で毎日の現金給付額が計算される(下節参照)。支払われる給付額は障害が起こる前の勤労所得の3分の2である。この期間は、障害が起こる前の年に得られた所得か、最後の3年間の所得の平均のどちらか大きいほうから成る。2004年の最少限の給付の年額は、基礎額×1.8、つまり11,433ドル(102,550NOK)に決まった。最大の給付年額はその人の所得の3分の2の率で計算され、基礎額×6、2004年の場合は25,103ドル(225,170NOK)を最大限度とする。18歳以下の子供のための補助は、毎年492ドル(4,420NOK)である。この補助は資力審査がない。

障害年金または期限付き障害給付のための資格認定プロセス

障害状態の評価は、申請者のかかりつけ医による診断書に基づいて行われる。この診断書の提出は義務であり、そこには、どのような職業訓練を受けたかなどの申し立てなどの情報も含まれる。一定のケースでは、専門家による証明書が求められる。医学的に疑問な点があれば、社会保障申請官は、国民保険に雇用されている医師にアドバイスを求めることができる。通常これらの医師は、評価を出すときに請求者には会わない。

以前の申請手続きでは、請求者は初めに地域社会保障事務所へ行った。それから申請は地区社会保障事務所に送られ、そこで、大部分のケースが決定された。不服申し立ては、すべて、地域保険事務所からはじまり、最後は国民保険制度法廷に送られる。この法廷は、社会保障法とそのプログラムの全てに関しての正式に結論を出す独立した機関である。

2004年1月1日に始まった新しい制度の下では、期限付き障害給付についての決定は地域社会保障事務所のレベルに分権化された。しかし、申請者が住んでいる市の地域社会保障事務所が郡事務所から認可されていない場合、決定は認可された別の地域社会保障事務所によってなされる。以前と同じく、障害年金/期限付き障害給付の請求は、申請者が住んでいる市の地域社会保障事務所に行われる。現在、申請時には、障害年金か期限付き障害給付かに対する申請かは特定されておらず、国民保険制度事務所がそれを決定する。しかし、認可された地域事務所は、期限付き障害給付の決定をすることができ、障害年金を拒否することもできる。このように、障害年金を与えることを除いて、全ての決定は、地域社会保障事務所レベルでなされることになっている。地区社会保険事務所は疾病とリハビリテーションの給付も決定する。それは通常、障害年金/障害給付の請求の前に与えられる。請求から障害年金の最終的な決定までの時間の長さは普通8ヵ月以内で、延長されても1年が上限である。

職業能力を査定するとき、保険事務所は請求者が遂行できると認められた全ての仕事を考慮に入れることになっている。すなわち、受給資格の基準は、(年齢、学歴、労働経験をもとに)その人にふさわしい仕事を遂行することができるかどうかという限定的な定義ではなく、「なんらかの仕事」をすることができる能力があるかどうかに基づいている。機能低下に関するテストは、地域の公的医療担当者や技術的援助センターのスタッフによって行われる。障害年金または障害給付が与えられる前に、職業リハビリテーションが試みられなければならない。

過去には、この「なんらかの仕事」が、厳格に定義されなかった。年齢の高い申請者、地元との関係の深い人、地域の労働市場の状態の悪化による構造的な失業状態の人は、障害年金を受けやすかった(Dahl & Hansen,2003)。

部分的障害給付

ノルウェーの社会保険制度には、部分的障害年金もある。その年金は、稼得能力の損失に比例して減額される。最少額の障害年金は、その人が受給できる老齢給付の50%である。障害年金や期限付き障害給付の受給資格はどちらも少なくとも50%の障害(すなわち50パーセントの永続する疾病に起因する永続する障害による稼得能力の損失)を必要とする。障害年金も期限付き障害給付も50から100%までの範囲で5パーセントきざみで支払われる。被用者と自営業者が対象である。主婦または主夫は、障害年金の資格を得るために、家庭内の労働をする能力を評価されたり、潜在的な所得者としての能力を測定されるかもしれない。部分的障害年金が与えられたとしても、働いたり、他の給付(失業、病気、リハビリテーション)を受けるという組み合わせも可能である。

上で記したように、2002年の終わりに障害年金受給者のおよそ5分の1は部分的な給付を受けていた。これら部分的障害年金を受け取っている61,045人のうち、約30%が70%-99%の障害年金を受け取り、69%は50%-69%の障害年金を受け取り、1%は15%-49%の障害年金を受け取っている。最後に示した率は、労働災害による人や、下記のように2004年の末まで続く実験的なプログラムの対象となった人に対するものである。新しい障害給付の流れにおいては、部分的障害年金の給付が増えている。実際、2002年には全ての新しい年金支払いの約3分の1は部分的障害年金の支払いであった。これらの年金の支払いの0.6%だけが、職業上の怪我による30%から49%の部分的障害評価によるものであった。新しい部分的年金の支払いの約80%は、50%から69%の間の障害評価によるものであった。残り20%は、70%-99%の評価によるものであった。

所得と部分的障害年金給付あるいは全体的な障害年金給付の受領の関係

ノルウェーの社会保険制度には、障害年金/障害給付を与えられた後に、障害年金受給者が職業に就くことを奨励するいくつかの誘導策がある。

  • 年金受給後1年たてば、受給者は障害程度にかかわりなく一定の限度の範囲内で労働市場における所得を増やすことができる。完全障害年金(すなわち100%)を受けている人は、一年に基礎額(すなわち6,339ドル)まで稼ぐことができる。それ以上については障害程度が再評価される。
  • 部分的年金給付の場合、前提とされた稼得能力が所得に加えられる。2003年以降に障害年金または障害給付が与えられた場合、障害給付と勤労所得の合計は障害を受けた前の所得を上回ることができない。
  • 年金/給付が20%まで減額されるレベルまで、労働による所得を増すことができる。
  • 全ての障害年金受給者は、年金資格を失うことなく、最高3年間、働いたり、有給の職業訓練プログラムを受けることができる。このような場合、障害年金給付は、その人の収入と相殺される。
  • 年金給付がゼロにまで年金受給者が勤労所得を増やすことができ、再請求しないでも元の金に戻れる3年間の権利凍結期間がある。これらの誘導策に加えて、ノルウェーの政策担当者は、労働への復帰を促進するための革新的な2つの実験的なプログラムを実施し、現在も実施されている。
  • 1つのプログラムは、労働からの所得を増やそうとする障害年金受給者のために、障害程度に関して有利な判断ができる規則を作成するものである。実験は2001年9月から2004年の末まで続く。
  • もう一つのプログラムは、6つの郡(19の中の)を巻き込んで、新しい期限付き障害給付を実施するものである。この実験では、30%または40%の(標準の50%の障害ではなく)低い障害評価の人に対しても給付が行われる。この3年の誘導策は、2004年1月から2006年6月の終わりまで実施される。

疾病保険

疾病給付は通常まだ雇用されている間に始まる。医療も、この期間に、国民健康保険プログラムによって提供される。ノルウェーの公的な疾病給付は気前がよい。病気/怪我をしたその日から最高52週間、それまでの所得の100%が支払われる。それより期間が伸びた場合、その後は医学・職業のリハビリテーション給付、または、障害年金プログラムによってカバーされる(詳細は、下記参照)。全額給付を受けている人のための最大所得は、基礎額の6倍である(6x$5,726=$34,356、2002年)。しかし、国家公務員と市町村の地方公務員、および大会社の被用者の多くは、賃金と規定の疾病給付の差額を雇用主が埋め合わせるという協定を結んでいる。これは、病気が長引いた場合は、高い賃金の労働者でも、完全な給料を受けとれることが保証されているということである。自営業者は、およそ14日の待機期間の後、査定された所得の65%を受給する。最大給付額は、おなじ程度である。全額給付の20%を最小限のレベルとして支払われる部分的な疾病給付もある。

所得が基礎額(すなわち2003年、6,339ドル)の50%を上回る被用者や自営業者を最低14日間カバーしているプログラムがある。プログラムは、次の組合せにより資金供給される。すなわち1)老齢年金、遺族年金、障害給付、疾病給付のための包括的な労働者保険料、2)給料の14.1%にあたる雇用主保険料、そして、3)不足を埋め合わせる政府の一般歳入である。それに加えて、病気または負傷の発生前の労働者の所得にかかわりなく、雇用主は最初の16日間分の現金疾病給付の全費用を負担しなければならない。16日を上回る欠勤に対する支払いは、国民保険制度局(NIA)によって返還される。さらに、慢性疾患をもつ人と病気休暇を頻繁に繰り返す人のために通常雇用主が支払う疾病給付は、最初の16日を含むすべての疾病期間について、NIAがそれを支払う。

3日までの短期の病気は年に4回まで自己報告で認められる。3日を超える欠勤は、医師による証明が必要である。医師の見解はNIAに対する勧告とみなされ、NIAは疾病給付の受給資格を正式に決定をする。病気休暇がはじまって12週間続くと、NIAは受給資格継続を審査しなければならない。また、給付を与えるための医師の決定を審査することもある。さらに、12週間過ぎると、病気休暇を延長するためには、NIAはその人のリハビリテーション計画を詳しく作成しなければならない(Dahl & Hansen,2003,p.285)。

2003年のノルウェーの労働力人口は、239万人であった。この年、全体で675,651人に対する現金による疾病給付が提供された。2003年末の時点で136,044人、すなわち労働力の5.7%に給付が行われていた。この年には、576,726件の疾病保険が終了しており、これらの人のうちのおよそ500,000人は労働に復帰し、31,279件は医学的に改善が見られたケースであった。永続的な障害年金プログラムに移行されたケースは8,608件であった。

費用の増加に対する懸念と疾病給付の有効利用のために、過去10年間にコスト抑制方策が実施されてきた。改革の1つは疾病給付の基準を医学的な要因だけに制限するものであった。もう一つは、仕事場の調整、労働作業の変更、職業リハビリテーションなどの早期介入による職業復帰の試みを義務付けるというものである。NIAも、疾病給付の受給期間を減らして、元の雇用主による雇用を継続する実験的試みを行った。このベルゲン実験の概要は、Bratbergら(2002)により示されている。

1990年代の初め、ノルウェーでは、8週以上続く病気のおよそ45パーセントと、新規障害年金受給者の3分の1以上が、筋骨格系の痛みが原因であった。ベルゲン実験では、筋骨格系の痛みのために病気休暇を取った労働者は、理学療法を受けたが、そのほかに、認識を高めることによって健康問題に関する知識と病気に対処する能力と動機づけを高めるための治療を受けた。

参加者は、ベルゲンまたは5つの周囲の市に住んでいるおよそ285,000人の中から募集した。1993年11月から1995年3月への登録期間中に、基準に該当する人々は、地域の社会保険事務所からの手紙によって実験への参加をすすめられた。治療を受けると申し出た労働者は治療に携わっていない理学療法士によって最初に検査された。この検査は、機能に関する標準化されたテストと医学的/心理学的なアンケートのセットで構成されている。その後、参加者はランダムに処置グループと統制グループに割りふられた。処置グループに割りふられた人は週5日、毎日6時間のセッションで4週続くリハビリテーションを受けた。それに加えて、参加者は処置を受けたあと、3、6、10ヵ月後に、個別のアドバイスを受けた。統制グループの参加者は、彼らのかかりつけの医師によって普通の治療を受けた。12ヵ月後、処置グループと統制グループは、再検査を受けた。

職業リハビリテーションと医学リハビリテーション

ノルウェーの障害がある人々のためリハビリテーション施策は、複雑なサービス提供と、一時的な障害給付の役割を果たしている現金給付システムから成っている。国民保険制度における一般的な規則は、12ヵ月以上病気休暇をとっている場合に、医学・職業リハビリテーション給付、または障害年金を申請できるということである。職業リハビリテーション給付は、疾病給付を得る資格はないが、1年間失業している人にも与えられるが、この場合、障害給付の申請前に、医学・職業リハビリテーションに関して全ての可能性を試したことを文書で証明しなければならない。一定の人(例えば、終末期の病気の人、あるいは、重度の機能障害のある人)は、リハビリテーションプロセスを免除され、直接障害年金へ移る。

医学的・職業リハビリテーションに対する現金給付は、国民保険法のいろいろな条文で認められている。それらは、18歳から67歳までの資格のある人に対して提供されるいろいろな所得維持現金給付である。これらの給付の目的は、職業上の可能性を改善するために、積極的にとりくんでいる人の所得を維持することである。受給資格基準は、障害年金と同一である。すなわち、病気、怪我、または、(先天的な)欠陥のために少なくとも50パーセント労働能力が減少していなければならない。医学リハビリテーション給付または職業リハビリテーション給付のどちらかを受給できる資格は、継続的な医学的症状が医師によって証明されていなければならない。健康上の問題が一定期間以上続いている場合は、障害年金を申請できる。

職業リハビリテーション現金給付は、職業リハビリテーション訓練を受けている被保険者に与えられる。また、リハビリテーション訓練が始まる前と医学的リハビリテーションが提供された後の期間にも与えられる。医学リハビリテーション現金給付または職業リハビリテーション現金給付の額は、期限付き障害給付のそれと一致しており、最高額と最低額が決められている。以前の勤労所得のおよそ3分の2が提供される。給付の最少額は、年間、基礎額の1.8倍すなわち11,484ドルである。最高額は、以前の所得の3分の2で、年額で、基礎額×6倍すなわち25,215ドルを上限とする。疾病給付の支払い期間が終わった後も治療が続いており、労働能力が20%以上減少している場合は、部分的なリハビリテーション給付が与えられる。これらの現金給付は、一般に、連続52週間のみ与えられる。

国民社会保険制度が1966年に導入された時から、職業リハビリテーション関連部門は急速に成長した。1993年に実施された、ノルウェーの職業リハビリテーションプログラムに関する研究によれば、トレーニングに毎日参加する人は合計で35,000人であった(Aakvik et al. ,2002)。この登録者数は、労働力のおよそ1.5%に達し、ノルウェーのGDPの0.64%が、毎年これらのプログラムのために使われる。ノルウェーでの伝統的なやり方では、疾病給付と障害年金給付の間にVR施策を導入することになっていた。1994年の、国民保険法の改正により、雇用サービス局にVR訓練施策に対する全体的な責任が与えられた。そして、医学のリハビリテーション(以前は制限がなかった)の制限時間は、1年になった。

現在の傾向は、ますます早期介入(例えば、病気休暇の間に職業リハビリテーションを目指す訓練をするなど)を重視しつつある。2002年終わりで、52,778人、すなわち労働力の2.2%が、実際にリハビリテーション給付を受けていた。この年に、約44,275人が、リハビリテーション給付の名簿から外れたが、そのおよそ4分の1は、永続的な障害給付に移り、別の20%は、労働力として再統合された。そして、57%は、老齢年金への移行または死亡に分類される。

国民保険制度により、被保険者期間におけるリハビリテーションに関連する費用をカバーする別のプログラムも提供されている。職業サービス局(労働省の下に位置する)がこのVR(職業リハビリテーション)支援プログラムを管理しており、誰に対してリハビリテーション費用の支援をするかを決定する。職業リハビリテーション支援とVR現金給付を同時に受給することもできる。しかし、後者の受給資格基準はより厳しい。職業リハビリテーション支援プログラムの下で、16歳から67歳の受給資格のある人は、VRトレーニングの費用を返還される。職業訓練や職業教育を受けている人には交通費や引越し代も含めて支援される。

医師は、請求者が医学的状態にあり、この状態が労働能力の永続的な低下につながっていることを証明しなければならない。しかし、職業リハビリテーションが考慮される前に他の給付(例えば疾病給付または医学的リハビリテーション給付)が支払われていることが多いので、ほとんどの場合すでに国民保険事務所に病歴の記録がある。このつながりがあるため、地域の国民保険事務所が職業サービス局に請求者を紹介する。そこでは、申請者の職業能力と労働市場における見通しを査定する。申請者がこれまでの職業に戻ることができるか、新しい仕事を捜すことができるかどうかに関係なく、VR給付受給決定はなされなければならない。この時点で有給の仕事に戻る人もいるし、障害年金を求める人もいる。障害年金も認められず、自分の仕事も得られない人については通常地元の雇用事務所に紹介され、何らかの職業訓練に参加することになる。

Aakvik ほか(2002)は、女性の職業復帰に及ぼすVR訓練制度の効果を評価した。そのような訓練の典型的な期間は、およそ6ヵ月であると報告された。プログラム参加者の就職率は非参加者より4.6%高いことがわかった。申請者の観察可能な特徴を制御すると、平均の処置効果が4.1%に落ちた。また、申込者の観察できない特徴を制御すると、平均の処置効果は-1.4%、処置内容に対する処置効果は-11%に落ちる。また、トレーニングの効果には相当な個人差があることもわかった。

参考文献

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