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9カ国の一時的・部分的障害プログラム 「他国から学ぶ」最終報告書

第10章 南アフリカ共和国

スコット・シメンドラ、レスリー・シュオーツ

南アフリカはこの研究の国家の中では、ユニークな国家である。共和制国家であり、多数決原理、普通選挙、公的生活の全ての領域における人権と平等の保証などが実現しているが、それは1996年以降のことにすぎない。1996年の南アフリカ憲法は、1993年に作られた暫定憲法が置き換えられたものである。1993年は、南アフリカ連合政府のアパルトヘイト政策が、何年もの内乱と国際的経済制裁の後に撤廃された年である。当時、南アフリカは非常に若い国家であり、はじめて、人種や生まれに関わりなく全ての市民に広範な社会サービスを提供しなければならなくなった。

政府

南アフリカ共和国は、アフリカの南端に位置する人口4200万人を上回る国であり、共和制政府をもつ。南アフリカは1996年に定められた憲法によって治められている。この憲法は、1993年の暫定憲法に取って代わったものである。1993年以前は、南アフリカ連合は、1983年にできた三院政の憲法により治められていた。1993年まで、南アフリカは人種差別と隔離の伝統に基づくアパルトヘイト制度により治められていた。小数の支配層によって、大部分のアフリカ人はわずかな権利しか与えられず、国の領域から強制的に追いやられ、選挙をすることや自分たちの政府をもつことができなかった。

南アフリカの執行権は元首と政府の代表の両方を兼ねる大統領に与えられている。大統領は全国議会によって5年ごとに選出される。現在の大統領ターボ・ムベキは、1999年にネルソン・マンデラから代わる際に賛成多数で選出された南アフリカ共和国の2番目の大統領である。ムベキはアフリカ民族会議とインカタ自由党政党により作られた与党連合の議長をしている。大統領は全ての閣僚を選ぶ。

二院制の立法部門は全国議会と地方議会で構成されている。全国議会は比例代表制によって選出された400人のメンバーから成る。地方議会には、それぞれの9つの州から10人ずつ選ばれた、90人のメンバーがいる。そのメンバーは、それぞれの地方の議会によって選出される。全ての議員の任期は5年間である。アフリカ民族会議は国民議会の議席の66.4%と地方議会の議席の67.8%を占めている。

南アフリカの司法制度は、ローマンダッチ法とイギリスのコモンローの組み合わせを基本としており、4つのレベルの国の法廷を持っている。

南アフリカの地方自治体は9つの州からなっており、それぞれそれ立法府を置いている。州は多くの地方政策に関して専属管轄権を持っている。また、各州には、州議会によって選出される首相によって率いられる執行委員会がある。

州の下には、規模と責任の大きさにより3つのタイプの自治体がある。首都の自治体は最も大きく6つある。少し小さい地方自治体は231、最も小さい地区の自治体が41ある。

福祉

南アフリカには、大きな福祉国家も、特に発展した福祉国家もない。南アフリカには、国の保健制度もないが、薬価に関する幾つかの規則は持っている。また、南アフリカは以下の一般的な福祉給付を提供している。

  • 老齢交付金
    65歳以上の男性と60歳以上の女性のための資力審査付き交付金
  • 退役軍人交付金
    第一次世界大戦、第二次世界大戦、朝鮮戦争、アングロ・ボーア戦争、1906年のズールー暴動に服役していた65歳以上の男性のための資力審査付き交付金
  • 里子交付金里親のための資力審査付き交付金
  • 児童支援交付金
    9歳未満の子供の両親のための資力審査付き交付金
  • 貧困のための生活保護
    障害のために6カ月未満働くことができない者、永続的な交付金を待っている者、または最近家族が亡くなったことや天災のために影響を受けた者に対する、資力審査つきの交付金と交通費扶助。

HIVとエイズ

南アフリカは、他の先進国よりもHIVウイルスとエイズの広がりの影響を大きく受けた。成人人口の20%以上がHIVウイルスに感染しているか、またはエイズに苦しんでいると推計されており、500万人がHIVかエイズに感染していると言われている。2001年には、南アフリカで約36万人がエイズで死亡した。この数は、世界一である。毎日、南アフリカのおよそ1,600人がHIVウイルスに感染している。

子供はこの流行病に特に大きな影響を受けた。エイズにより、南アフリカには、現在42万人以上の孤児がいる。来年までには、エイズによって母親を失くした南アフリカの子供は100万人を超えると見積もられている。

HIVとエイズは、南アフリカの政府と社会サービスシステムに影響し続けるだろう。働くことのできないエイズ患者が永続的な障害交付金の件数を増加させるだろう。そして、エイズの治療薬とケアに対する要望は、公的医療の優先的課題となるだろう。南アフリカが、市民社会と万人の自由を目指したはじめての10年間を終えるに当たり、社会福祉制度はこの流行病によって引き起こされた難局に直面しなければならないだろう。

南アフリカの公的な障害

[永続的な障害交付金]

南アフリカにおける基本的な長期障害に対する所得制度は、永続的障害交付金である。この永続的プログラムは、1992年の社会扶助法の条文によって確立し、仕事による自活する手段をもたない障害のある人々を補助するために主に計画された。このプログラムには、資力審査があり、退職年金制度に移行するまで継続することを意図している。このプログラムは、国の税金により資金が供給され、社会開発局(社会開発省の下の国の官庁)によって管理される。2003年に、永続的障害交付金を受け取っている人は88万8982人であった。

永続的障害交付金の受給資格を得るためには、申請者は、社会保険法の定める障害の定義を満たさなければならない。この法律は障害者を次のように定義する。「規定の年齢に達しており、身体的または精神的障害により、あらゆるサービスを利用しても、生計を立てるのに必要な手段としての雇用や職業を得ることが不適当である」。

永続的プログラムの受給資格を得るために、申請者は、6つの評価基準を満たさなければならず、さらに、不適格となる7つのカテゴリーの一つに該当してもいけない。

具体的には、申請者の要件は次のとおりである。

  1. 南アフリカの国民である
  2. 南アフリカの居住者である
  3. 18歳以上である
  4. 障害のために働くことができない
  5. 政府のそのほかの交付金を受けていない
  6. 障害を示す有効な医学レポートがある

社会開発省によって雇われた医師または評価委員会が、申請者の医学的レポートを提供する。このレポートは3カ月間のみ有効である。レポートを準備する医師または委員会は、申請者を調べ、障害状態にあるかどうか、その状態が永続的か一時的であるかを決定する。さらに、医師は、その状態がリハビリテーションによって改善されうるかを評価する。また、医師や評価委員会は、レポートを作成を補うために、申請者に対して追加の医学的記録を要求できる。

この医学的記録は、社会開発省の下にある、国の政府機関である社会開発局に転送される。社会開発局は、申請者に関する決定をするためにこの医学的記録を使用する。

6つの一定の資格を満たすことに加えて、永続的障害交付金の申請者は、不適格となる7つのカテゴリーの1つにでも該当してはいけない。それらは以下の通りである。

  1. 精神病院に入院している。
  2. 医療を受けることを拒否した。
  3. 申請に際して誤った情報や紛らわしい情報を提供している。
  4. 国の施設で生活している。
  5. 薬物依存のために治療を受けている。
  6. 獄中にいる。
  7. 治療センターによるケアを受けている。

社会開発局の決定は、すべての書類が送られてきてから2日間以上かかってはならない。永続的障害交付金プログラムには正式な上告手続きはない。上告は、公式には、地域で選出された官僚である首長により取扱われる。社会開発局は、自身に対して行われた上告について、首長から話を聞く。多くの場合、社会開発局に対する訴訟は、個人的な訴訟として南アフリカの法廷制度に持ち込まれる。

永続的障害交付金プログラムは、資力審査があり、申請者が受給資格を得るためには、資産が一定額以下でなければならない。資力審査は、全額交付金に対して行われ、現在、1カ月あたりの700ZAR(注30)に設定されている。全額交付金の額は、生活費とインフレーションを考慮して毎年調整される。独身者の最大許容資産は次のように計算される。

700ZAR×12×30=252,000ZAR

このように、独身者の場合25万2000ZARを超える資産を持つことができない。資産審査は申請者の主な住居の価値を含んでいない。既婚者にとって、資産調査は、同様に次のように計算される。

700ZAR×12×60=504,000ZAR

独身の申請者と同様に、既婚の申請者の主な住居の価値は、この最大資産には計算されない。申請者は、財産目録などの資産の証明と、結婚の証明、失業の証明を提出しなければならない。永続的障害交付プログラムにおける受給者は毎月700ZARの交付金を受ける。このプログラムには、部分的給付はなく、被扶養者給付もない。

申請者は、死亡するまで永続的障害交付金を受け続けるか、国の施設に入所が認められるか、退職制度へ移行することが認められるか、再び働き始めるかの道がある。それぞれの人の家計の状況と仕事の状態は、5年毎に社会開発局によって見直されることになっている。しかしながら、これについては、政府の財源の不足のために行われないことが多い。

一時的障害交付金

一時的障害交付金は社会開発局によって管理されており、永続的なプログラムとおなじように公的資金によって運営されている。一時的プログラムは、障害のために6カ月以上1年以下働くことができない人のためだけに用意されている。2003年に、一時的障害交付金を受け取っている人は36万8179人であった。

このプログラムの受給資格は、永続的プログラムのものと同様である。申請者は6つの資格要件を満たさなければならないし、7つの不適格要件のいずれにも該当してはならない。申請者は、社会開発局に報告する目的のために、社会開発省によって雇われた医師や委員会によって調査を受ける。

永続的プログラムと同じように一時的プログラムにも資力審査がある。独身の申請者は、主な住居を除いて、25万2000ZAR以上の資産を持つことができない。また、既婚の申請者は、主な住居を除き、50万4000ZARに資産が制限される。

一時的障害交付金プログラムの受給者は毎月700ZARの給付を受ける。この給付は、死亡したとき、職業復帰したとき、または、南アフリカ社会開発省が設定した障害期間が終了したとき給付が停止される。永続的なプログラムと同様に、一時的プログラムには、部分的給付も被扶養者のための給付もない。

一時的プログラムのための申請手続きは、永続的プログラムと同じであり、同じ証拠書類を必要とする。社会開発局の方針として、すべての書類を受け取ってから最終決定までの期間は、2日を越えてはいけない。一時的プログラムに対する正式な上告制度はない。社会開発局は、いくつかの訴えを取り扱うが、それ以外は、地方の理事会のメンバーが訴えを聞く。多くのケースは南アフリカの裁判制度により決着される。

[リハビリテーションと職業復帰への努力]

一時的交付金と永続的障害交付金に関連した正式のリハビリテーションプログラムも職業復帰プログラムもない。もし、雇用されている間に障害を受けたり働けなくなった場合は、その人が仕事に戻るために必要なサービスを雇用主が提供することを期待されている。多くの雇用主にとって、ベテランの被用者を失いたくないため、職場に戻すことは、金銭的な動機となる。しかし、一方で他の雇用主は、職業復帰させるためのサービスを提供することは、金銭的な負担であると考え、それらを提供しない。障害者が、容易に取替え可能な未熟な労働者であるときは、特にそうである。

障害のある人に対する他の公的支援

障害のある人々に対する第一の公的支援は、個人的支援や個人的ケアを必要とする人々のための交付金である。これらの人々は、これらのサービスに支払うために1カ月あたり150ZARの交付金が与えられる。この交付金は、障害交付金の1つを受給しており、個人的ケアか個人的支援を必要としている人が利用できる。

また、障害のある18歳未満の児童がいる家族のために、被扶養者ケア交付金(Care Dependency Grant)と呼ばれる公的支援がある。被扶養者ケア交付金は、障害のために個人的支援か個人的ケアを必要としている18才未満の児童を持つすべての親と里親が利用できる。このプログラムは資力審査があり、両親は1年あたり4万8000ZAR以上の所得があってはいけない。ただし、里親には資力審査はない。治療センターや精神病院に入院している児童の両親には、受給資格はない。また、社会福祉局からすでに児童支援交付金を受けている両親にも資格がない。被扶養者ケア交付金プログラムは、社会福祉局によって運営され、一時的交付金や永続的障害交付金と同様の申請、査定、決定手続きになっている。


(注30) 2004年6月30日現在、6.228 South African Rand(ZAR) = 1 United States Dollar(USD)。