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9カ国の一時的・部分的障害プログラム 「他国から学ぶ」最終報告書

第11章 スウェーデンの公的障害給付

スコット・チメンデラ、ハイニ・メラー

スウェーデンの障害者に対する公的資金提供システムは複雑で、永続的給付や一時的給付もあるし、部分的給付もある。スウェーデンは、全体として福祉国家の伝統が強く、機能障害により働くことができない人々のための大きなセーフティーネットが構築されている。スウェーデンの制度は、現在、大きな改革の只中にある。

スウェーデンの障害者制度には、資力審査にもとづく長期的プログラムと保険による長期的プログラムの両方がある。これらのプログラムは、障害のために働けない人々のための部分的給付を提供している。加えて、スウェーデンの制度には、労働者が利用できる短期の疾病給付がある。スウェーデンの制度の1つのユニークな特徴は、30歳以上と30歳未満で取り扱いが異なるということである。これは、最近の制度改革によるものである。若者の受給者は、3年以内に限定される一時的な活動補償プログラムの対象である。障害のある高齢者は、障害のある間、疾病補償を受ける。

福祉国家スウェーデン

政府

スウェーデン王国は、首都をストックホルムにおく立憲君主国家である。1973年以後、王国の中心は、カール・グスタフ16世と彼の娘で法定相続人であるビクトリア王女である。1810年以降、下院(Bernadotte)がスウェーデンにおける名義上の権力を持っている。君主の義務は形式的で、議会を開会すること、政府の変化を監督すること、全ての軍隊の最高の指揮官であること、外国からの客を迎えることに限られている。

スウェーデン国会(Riksdag)は一院制で、349議席ある。比例代表制で議員は4年ごとに一般投票で選ばれる。首相は、スウェーデン国会の議員によって選ばれ、内閣のメンバーを指名する。現在、社会民主党(Social Democrats)は、スウェーデン国会の議席の39.8%を確保しており、他に6つ政党がある。現在の首相はゴラン・ペルソン(社会民主党)である。彼は、2002年9月に131票を獲得して選ばれた。

スウェーデンの国家の司法システムには、2つの部門がある。1つは、市民問題と犯罪問題を取り扱っている。もう一つは、行政の問題を取り扱っている。障害認定の不服申し立てはこれに含まれる。一般法廷には、76の地方裁判所、6つの高等裁判所と最高裁判所(Hogsta Domstolen)がある。最高裁判所は、スウェーデンの頂点にある裁判所で、16人以上の裁判官がおり、彼らは首相によって指名される。その判決は、スウェーデン国会によっても覆すことはできない。

スウェーデンは、国連と欧州連合のメンバーである。2003年に、スウェーデンの有権者は、正規通貨をユーロとすることを拒絶した。スウェーデンは、他の先進西欧諸国と同等の経済発展と医療ケアシステムおよび生活水準を維持している。

連邦主義

スウェーデンの地方政府は、大きく21の郡に分かれている。各郡に、行政機関があり、知事がいる。知事は、中央政府により指名され、地方における国の代理をつとめている。一方で、中央政府から独立している部分もある。彼らは地方選挙で選ばれるのではなく、最終的には中央政府に対して責任をもっている。21の郡では、郡議会を選ぶ。それは、コミューン(kommuns)と呼ばれており、郡が管轄する制度を管理する責任をもっている。

郡は、スウェーデンの公的医療制度を運営・管理する責任があり、すべての公立病院を運営している。それに加えて、郡は、農業、商業および輸送産業を支援する制度も管理している。

スウェーデンには、289の市があり、それぞれが首長を選ぶ。これらの市は、中央政府や郡から独立しており、主にスウェーデンの公的教育制度に責任をもっている。それに加えて、市は、子供と高齢者のケア、基本的な社会サービスと福祉給付の給付、住宅、緊急サービス、文化と産業の支援について責任をもっている。

スウェーデンの社会保険

スウェーデンの障害者制度を管理する第一の責任は、地方社会保険事務所が負っている。政策的な指示は、国の社会保険局(National Social Insurance Board)が行う。

国の社会保険局は、社会保健省(Ministry of Health and Social Affairs)に属しており、スウェーデンのすべての社会保険プログラムを監督する責任を負っている。それに加えて、社会保険局は、社会保険プログラムに関する全てのデータと統計を保存することと、これらの制度の評価を支援する責任がある。

各郡に、全ての制度の日常的な管理と運営に責任をもつ社会保険事務所と社会保険委員会がある。これらの地方社会保険事務所長は、中央政府によって選ばれる。しかし、その事務所は、中央からは独立性を保っている。ただし、事務所の費用や給付は中央政府の資金によっている。各地方社会保険委員会は、選挙により選ばれたメンバーから成り立っている。地方社会保険事務所の多くは、さらに郡内の地域事務所を管理する。

スウェーデン福祉国家

スウェーデンは、大きな進歩的福祉国家であり、市民と居住者にさまざまな給付を提供している。これらの福祉制度には、この章で述べる障害プログラムと医療プログラム以外にも、包括的医療、育児給付、失業給付、退職給付などが含まれる。

医療

スウェーデンの全ての居住者は、家庭医と公立病院による医療処置に関する補助をうけられる。20歳未満の人々に対する医療は、完全に無料である。郡が、医療補助を管理しており、各郡が、外来医療に対する自己負担額を独自に設定する。これらの額は、プライマリーケアサービスに対しては、100から150スウェーデンクローネ(SEK(注31))の範囲に設定されており、専門的サービスは、180から300SEKの範囲となっている。スウェーデンでは、郡により運営される病院を含むすべての公立病院と地域の先進大病院では、入院については一日あたり80SEKの負担がある。作業療法士、在宅ケア看護婦等のその他の医療専門家によるサービスは、1訪問につき、50から100SEKで、これも郡により決められる。患者の過大な自己負担を防止するために、12ヵ月間の医療費は、900SEKが上限となっている。患者が900SEKを支払ったとすれば、初診の日から12ヵ月間は、医療費が無料になる。

処方薬は、900箇所の薬局で販売される。これらの薬局はすべて全国スウェーデン薬局協会(National Corporation of Swedixh Pharmacies)が運営している。この組織は、スウェーデンで薬を販売する独占的な権利を持つ公的な団体である。これらの薬局が、全ての処方薬を患者と病院に販売する。国の医薬品生産局(Pharmaceutical Products Board)と医療用具機関(Medical Products Agency)は、一般に使用する全ての薬を承認するとともに、製造業者と価格交渉をする。

薬剤助成金は、郡により給付される。ほとんどの場合、患者は、12ヵ月間に最高900SEKまでは、全ての薬を小売価格で自ら購入する。この額に達したときは、患者は、12ヵ月間に1,800SEKを払うまでは、助成金を支給される。この額に達したときは、それ以上に薬が必要なときは、無料で患者に提供される。

19歳以下の全ての児童の歯科治療は無料である。大人は、社会保障制度による助成を受けられるものの歯科治療に対しては治療費を支払わなければならない。歯科医は、郡のクリニックで働くこともできるし個人で開業することもできる。その場合は、料金は自由に設定できる。患者は、2年間固定価格で基本サービスを受ける合意に署名することもできる。65歳以上の人々の全損的な歯科治療の費用を援助する特別なプログラムもある。

児童ケア

スウェーデンの全ての家族は、学齢および学齢未満の児童のための助成金を受けられる。児童ケアは、市当局の管轄で、個人の家庭や余暇センターでサービスが提供される。地方政府は、児童ケアに関する料金やどの程度助成するかを自由に設定することができる。市当局は、児童ケアについての国の上限を守るように求められており、それをすれば、それにより失う経費に対して中央政府からお金を得られる。無料の公教育に加えて、スウェーデンの全ての児童は、4、5歳時に就学前教育を無料で受けることができる。

失業給付

スウェーデンの失業にかかわる制度は、多くは任意の制度になっている。被用者は、国家労働市場局(National Labour Market Board)が管理する民間の失業基金に加入し会費を支払うという選択ができる。これらの基金の多くは労働組合によって運営されている。労働組合員は彼らの住む地域の基金に加わることを求められる。現在、スウェーデンの労働者の90%が会費を支払っており、失業基金の会員となっている。

基金に属している人々が仕事を失った時は、以前の収入に基づく最高額の給付を受給できる。失業の最初の100日間は、730SEKであり、次の200日間は最高680SEKまで受給できる。300日を過ぎると、給付は打ち切られる。そのため、その時点で失業している人は、延長を申し込まなければならない。

任意の失業プログラムに加入しないことを選択した人は、失業期間中、一日最高320SEKが支払われる公的なプログラムによりカバーされる。政府は、民間基金と公的基金の両制度に資金を提供しているが、民間基金の場合は、会費収入が追加される。

退職年金

1999年に国の年金制度の重要な変革があった。その結果、今日では、スウェーデン人は、すべて65歳の定年になれば年金を保証される。被用者は、国の年金制度に保険料を払い、所得にもとづく年金を受ける資格がある。軍役期間や自宅で子供を世話していた期間は、この年金の加入期間に繰り入れられる。

職歴をもたない人や収入が低いために所得にもとづく年金の受給資格がない人は、最低生活を保証するための公的年金が受けられる。

全ての労働者は、公的年金を補うために、民間の貯蓄基金に会費を支払うことが求められる。また、スウェーデンの従来の定年は65歳であるが、61歳から退職を選択することができる。

スウェーデンの障害者制度

資力審査に基づくプログラム

[所得に基づく活動補償]

スウェーデンの障害者所得保障制度の給付の一つに、所得にもとづく活動補償給付(Income Related Activity Compensation)がある。この制度の給付を受ける資格を得るためには、申請者は19歳から29歳でなければならず、所得基準に合致してなければならない。所得基準は、「価格基準額(price base amount)」を含む複雑な計算式に基づいている。価格基準額は、1962年国民保険法の規定に基づきスウェーデン政府によって額が決められる。この額は、所得に基づく多くの社会プログラムの基礎となる基準として用いられる。各年の価格基準額は、毎年1月1日に決められる。2004年度の価格基準額は、39,300SEKであり、2003年の38,600SEK(注32)から増額された。この所得にもとづく活動補償を受ける資格を決定するためには、その人の過去8年間における所得の高いほうから3年間の平均所得か、過去3年間のうち所得の高いほうから2年間の平均がとられる。この平均所得額は、現在の価格基準額の7.5倍を上回ることはできない。2004年のこの所得上限額は、294,750SEKと決められている。

申請者は、所得に基づく活動補償プログラムの資格を得るためには、なんらかの障害があることを示さなければならない。このプロセスの最初のステップとして、公式の申請書を作成し、申請者が選択する医師から障害の認定報告を受けなければならない。給付を与えるべきかどうかの決定は、地区社会保険事務所からの推薦を経て、地区社会保険委員会によって最終的に行われる(注33)。

所得に基づく活動補償給付の申請をチェックするために、社会保険事務所と社会保険委員会は、その人が働けないという客観的医学的根拠を明らかにすることが法律により求められている。ただし、例外的なケースの場合のみ、教育的要因や地理的要因を考慮することができる。対象者は、労働により生計を立てられないか、労働能力が少なくとも25%以上減少していることが認められなければならない。社会保険事務所は、「保険医」チームの助けを借りる。保険医は、医学記録をチェックし、相談にのるが、自らは、受給資格の有無についての決定はしない。社会保険事務所は、申請手続きを進めるために申請者に更に医学検査を求めることもできる。

社会保険委員会の決定に不満があれば、申請者は郡の行政裁判所(County Administrative Court)に訴えることができる。この最初の訴えは、決定が行われてから2ヵ月以内に行わなければならない。もし、決定が明らかに誤りであったと思われたとき、社会保険事務所は、直ちに給付を行うことができる。郡の行政裁判所の決定に対する訴えは、4つの地方行政裁判所一つで取り上げられる。最高行政裁判所(Supreme Administrative Court)は、国の最も高級な行政裁判所で、これらの地方裁判所の決定に対する訴えを取り上げる。

所得に基づく活動補償プログラムの給付額は、以前の所得と社会保険委員会により判定された職業的な機能障害の大きさより決定される。もし、ある人が完全に能力を損失しており、労働できないと判定されれば、その人は、申請において用いられた以前の平均所得の64%(最高額)に相当する額が支給される。障害の程度によっては、完全補償額の75%、50%、25%に相当する補償を受けることができる。

例えば、所得の高い順に3年間の平均値が235,800SEKであった28歳の人で、50%の障害があると決定された場合、年間の補償額は次の式になる。

[235,800(64%)]×50%=75,456SEK

この額に加えて、その人は、通常の仕事の半分に相当する時間働くことができる。完全障害と決定された人でも、ボランティアや政治活動をすることはできるか。また、通常の労働時間の1/8に相当する時間を超えなければ仕事をすることができる。

所得に基づく活動補償プログラムは、19歳から29歳に限定されており、一時的なプログラムとして作られている。給付を受けられる期間は、最長3年である。

[所得に基づく疾病補償(Income Related Sickness Compensation)]

所得に基づく疾病補償プログラムは、30歳以上64歳以下人々が利用できる。このプログラムは、資力審査があり、所得に基づく活動補償プログラムに非常によく似ている。最大所得レベルは、価格基準額を含む公式に基づいている。このプログラムの所得認定は、一定の期間における最も所得が高い3年間の平均に基づいている。この期間は、申請者の年齢により次のように決められている。

表:申請者の年齢

申請者の年齢 期間
30-46 8年
47-49 7年
50-52 6年
53-64 5年

このように、51才の申請者は、過去6年間で所得の多い順に3年間の収入を用いてこのプログラムにおける受給資格を決定する。所得に基づく活動補償と同様、最大平均所得は、価格基準額の7.5倍または294,750SEKまで認められる。所得に基づく疾病補償の申請方法は、所得に基づく活動補償と同様である。申請者が、医師の証明を添えて社会保険事務所へ申請することからはじまる。この申請書類は、地方社会保険事務所でチェックされ、必要な場合は、地方保険医師により地方社会保険委員会に対する推薦が行われる。この委員会は、最終的な決定をすることもできるし、追加の医学的検査を求めることもできる。地方社会保険委員会の決定に対して上訴することができる。最初は郡行政裁判所(County AdministrativeCourt)、そのあと、地方行政裁判所(Regional Administrative Court)、最終的には、最高行政裁判所(Supreme Administrative Court)である。

地方社会保険委員会は、申請者の労働不能を考慮した労働能力に基づき補償額を決定する。給付は、決定過程に使われた平均の所得の64%が全額給付となり、その100%、75%、50%または25%とされる。全額給付を受給できる人でも、地域サービス、政治活動、奉仕活動をすることはできるし、通常の労働時間の1/8に相当する仕事をすることはできる。

保険プログラム

[保証付き活動補償(Guaranteed activity compensation)]

所得に基づく活動補償プログラムと同じように、保証付き活動補償プログラムは、19歳から29歳までの人々のみを対象にしたプログラムである。このプログラムには、資力審査はない。しかし、受給資格を得るには、申請の前にある程度の期間、社会保険プログラムに加入していなければならない。

また、保証つき活動補償を受給するためには、申請前、少なくとも3年間はスウェーデンに住んでいなければならない。保証付き活動保障に関しては、移民の場合、一定の状況下においては、以前住んでいた国での居住期間をスウェーデンの居住期間に組み入れることができる。

保証付き活動補償プログラムを申請する方法は、資力審査のあるプログラムと似ている。申込者は、資格のある家庭医の証明書を提出し、地方社会保険事務所と地方社会保険委員会によって評価される。それが最終決定となる。委員会は保険医に意見を聞くこともできる。また、委員会は追加の医学検査を要求することができる。委員会の決定に対する不服申し立ては、郡行政裁判所(County Administrative Court)に行う。その後、地区行政裁判所 (Regional Administrative Court)に訴え、最終的には、最高行政際裁判所(Supreme Administrative Court)に訴えることができる。

給付の最高額は、以下の表のように申請者の年齢に基づく。

申請者の年齢 補償額 2004年の額
19-20 基準額の2.10倍 82,530SEK
21-22 基準額の2.15倍 84,495SEK
23-24 基準額の2.20倍 86,460SEK
25-26 基準額の2.25倍 88,425SEK
27-28 基準額の2.30倍 90,390SEK
29-30 基準額の2.35倍 92,355SEK

給付は、能力損失の程度に基づき、全額、75%、50%または25%が給付される。受給者は、能力損失がないとされた程度まで働くことができる。たとえば、75%の給付を受給している人は、25%に相当する時間数まで働くことができ、全額給付を受けている人は、ボランティアに類する仕事か、通常の労働時間の1/8程度に相当する仕事まで行うことができる。

保証つき活動補償プログラムは、一時的なプログラムで、給付は3年に限られている。3年が終わると、給付の再申請をすることができる。

もし、18歳を越えていて障害のためにまだ小中学校や高校に在学している場合は、保証つき活動補償プログラムの対象である。

[保証つき疾病補償]

保証つき疾病補償プログラムは、25%以上の能力低下のあるスウェーデン居住者を対象としている。このプログラムには、資力審査がない。しかし、一定の保険要件と居住要件を満たさなければならない。保証つき疾病補償プログラムは、30才を超え65才未満の人々を対象としている。65才になると定年による制度を受ける資格が得られる。

全額補償給付を受ける資格を得るためには、スウェーデンに居住したことを基本にした一定の保険要件を満たさなければならない。もし、18才前に障害になれば、自動的に資格が得られる。それ以外の人々には、申請前にスウェーデンに住んでいた年数と65歳までの残存期間に基づき被保険者期間全体を計算する一定の公式が用いられる。たとえば、35才で、直近の5年間をスウェーデンに住んでいた人は、この制度の下では、合計35年の保険期間があることになる。申請以前5年間、申請後定年まで30年であるからである。保証つき疾病補償プログラムの下で、全額給付を受けるためには、合計40年の保険加入期間がなければならない。保険加入期間が40年未満の人々は、40年未満1年につき1/40が全額給付額から減らされる。全額給付は、価格基準額の2.40倍である。2004年の全額給付は94,320SEKである。同様に、補償額は、能力損失の程度に基づき、社会保険委員会により審査される。

表:申請者の被保険者期間

申請者の被保険者期間 合計能力損失 計算式 2004年の補償額
40 75% 39,300(75%) 29,475SEK
30 100% (30/40)×39,300 29,475SEK
30 75% (30/40)×[39,300(75%)] 22,106.25SEK

他のプログラムと同じように、部分的給付を受けている人は、能力低下の程度まで働くことができる。完全に無能力と判断されれば、政治的活動とボランティア活動をすることができる。また、通常の労働時間の1/8に相当するまで働くことができる。

保証つき疾病補償プログラムの申請は、他のプログラムと同じである。申請者は、かかりつけ医から証明をもらい、それを地方社会保険委員会に提示する。

同委員会は、社会保険事務所の推薦があれば、その申請に正式の結論を下す。その場合、保険医に相談することもある。同委員会は、申請者に更に医学検査を求めることができる。申請者は、社会保険委員会の決定に不服がある場合は、郡行政裁判所、地区行政裁判所、最高行政裁判所に提訴することができる。

表1:保証つき活動保障・疾病補償と所得に基づく活動保障・疾病補償のデータ(2002)

給付受給対象者(登録者、被保険者、16-64歳) 5,637,551
本年の障害年金受給者数 63,738
全額年金受給者数 43,021
部分年金受給者数 20,717
  1/4年金受給者数 4,728
  1/2年金受給者数 14,189
  3/4年金受給者数 1,800
障害給付受給者合計 488,552
全額障害給付受給者数 371,536
部分障害給付受給者数 117,016
  1/4給付受給者数 22,083
  1/2給付受給者数 82,850
  2/3給付受給者数 980
  3/4給付受給者数 11,103
2002年に給付受給終了者数 36,882
  退職給付に移行した受給者数 28,954
  死亡者数 5,019
  その他の理由で受給を終了した者の数 2,503

併給の調整

所得に基づく活動補償給付と保証つき活動補償給付の両方を受給することができる。また、所得に基づく疾病補償給付と保証つき疾病補償給付の両方を受給することもできる。そのような場合、保証つき補償給付の額が所得に基づく補償給付よりも多い場合は、所得に基づく補償給付の額まで保険補償給付が、減額される。もし、所得に基づく給付が、保証つき給付より多いときは、所得に基づく給付のみが給付される。

スウェーデンの疾病補償

スウェーデンの疾病補償プログラムは、一時的な病気のために働くことができない人々に短期の給付を給付するようになっている。このプログラムは、雇用主が提供する給付と公的補償を組み合わせたもので、疾病給付法(Sick Pay Act)によって1991年に確立された。

もし、ある人が病気のために働くことができない場合は、一定の補償を受ける資格がある。もし、ある人が、病気以前に14日以上働いていれば、雇い主は1日の待機期間の後、その後21日間疾病給付を支払う責任がある。この疾病給付は、それまでの給料の77.6%とされており、価格基礎額の7.5倍を上限とするとされている。自営業者の場合や14日以上働いていない人の場合は、政府から同額の給付が支払われる。

もし、ある人が22日たっても職場復帰することができないときは、雇用主は疾病給付の支払いを停止する。そして、その人は、公的給付プログラムに移行する。このプログラムでは、病気の人のそれまでの給料の77.6%が支払われる。しかし、部分的に職業復帰できる人は、75%、50%または25%の部分的な給付を受けることができる。この公的疾病補償プログラムは、スウェーデンの社会保障制度により運用される。

疾病給付プログラムは、一時的なものとして作成されている。しかし、受給期間に関して公式の制限は設けられていない。給付後1年たつと、地方社会保険事務所は、通常、ケースをチェックし、そのケースが適切な障害補償プログラムに移行するよう勧告する。しかし、現在のデータでは、典型的な疾病給付受給者は、500日以上給付を受けている。

地方社会保険事務所は、疾病プログラムの受給資格を認定する。雇用主による給付を21日間受けた後、公的な給付の最初の7日間は、まったく働くことができないか部分的にしか働けないことを申し出るだけでよい。7日たつと、医師の診断書を提示しなければならない。そして、そのケースは地区社会保険事務所で検討され最終的な決定がなされる。申請者がこの決定に不服があれば、再考を求めることができ、そのあと訴えることができる。この決定は、最初は、郡行政裁判所、それから上告行政裁判所、そして、最終的に最高行政裁判所に訴えることができる。

表2:疾病給付に関するデータ(2002年)

給付受給資格者数 (16-64歳の登録された被保険者数) 5,637,551
本年開始した給付受給者数 756,000
本年中の給付受給者数 892,680
給付受給平均日数 538.2
障害補償プログラムに移行した受給者数 54,025

リハビリテーションと復職への努力

活動補償給付と疾病補償給付を受けている人々は、復職への努力を最小限しかしない。全ての復職活動は、雇用事務所によって管理されている。同事務所は社会保険事務所と協力して努力する。しかし、雇用事務所は、一般的な方針として、労働能力が1/2未満の人々に対する雇用サービスを否定しているため、その結果、活動疾病補償給付受給者の多くは排除されている。

しかし、疾病補償プログラムにおいて75%の障害補償給付を受けている人を復職させる特別なプログラムがある。このプログラムでは、受給者は、給付が決まったとき、地方社会保険事務所に対し、雇用事務所にそのことを知らせるように求めることができ、また、パートタイムの仕事を求めることができる。雇用事務所は、6ヵ月以内にこの要請に応じることを要求される。そして、もし、パートタイムの仕事が受け入れられた時は、社会保険事務所は一定期間の給料の一部を支払う。

また、活動補償を受ける人々のための特別活動プログラムもある。このプログラムでは、身体または精神的能力を向上させるために社会保険事務所が決定する特定の活動に参加する機会が設けられる。社会保険事務所は、これらの活動に参加する際のすべての経費を負担する。

疾病給付を受給する人々に対するリハビリテーションと復職サービスに関する第一の責任は、雇用主にある。社会保障法の規定においては、職業リハビリテーションのあらゆる可能性を明確にするするために、雇用主は、4週間にわたり職を離れていたすべての被用者をチェックしなければならない。このチェックは4週間以内に終了せねばならず、それは、社会保険事務所に送ることになっている。

このレポートと7つのステップモデルに基づいて、社会保険事務所は、この疾病給付受給者のための職業リハビリテーションサービス計画が作成される。リハビリテーション、再訓練、職業斡旋のうちどのコースが適切であるかを決定する基準に従ってこれらの受給者はチェックされる。各々のステップはチェックされ、受給者がそのステップを完了することができなければ、次のステップがチェックされる。もし、受給者がステップ7までいき、永続的な能力不全とみなされたときは、その受給者は、永続的障害者プログラムや一時的障害者プログラムの一つに移行する。このステップを、以下に概説する。

  1. 受給者は、以前の仕事をできますか?
  2. 受給者は、職業リハビリテーションの後、以前の仕事ができますか?
  3. 受給者は、同じ雇用者のもとで別の仕事ができますか?
  4. 受給者は、職業リハビリテーションの後、同じ雇用者のもとで別の仕事ができますか?
  5. 受給者は、別の仕事ができますか?
  6. 受給者は、職業リハビリテーションの後、別の仕事ができますか?
  7. 受給者の職業能力は、永久に低下していますか?

受給者が職業リハビリテーションプログラムに参加すれば、疾病給付は延長され、さらに、以前の収入の80パーセントという特別リハビリテーション給付が受けられる。加えて、職業リハビリテーションプログラムに関連するあらゆる費用(図書などの必要なもの)とリハビリテーションプログラムにかかる交通費は、社会保険事務所が負担する。

また、受給者は、以前の仕事に戻るために必要な補助機器と施設改善のために費用を最高 50,000SEKまで受けることができる。この給付に関する決定は、疾病給付からの脱却を目的 として、社会保険事務所により行われる。

障害のある人のための他の公的支援

世界における先進的かつ典型的な福祉国家のひとつとしてのスウェーデンは、上で言及した補償プログラムに加えて、広範囲にわたるサービスと支援を障害のある人に対して提供している。これらのサービスは、市町村、郡および中央政府によって提供されている。

市町村による支援

  • 公共輸送サービス(タクシー料金や自動車改造を含む)
  • 在宅サービス
  • 日常活動調整
  • 公共サービスに対する支援と便宜
  • パーソナルアシスタンス

郡による支援

  • 住宅支援
  • 福祉用具・機器
  • 通訳サービス
  • カウンセリングサービス

中央政府による支援

  • 特に障害のある人のための新しい総合アパートの建設
  • 職場適応のための雇用主に対する補助金
  • 障害のある労働者の給料の一部を負担するための雇用者に対する補助金
  • 保護雇用
  • 精神障害者のためのデイセンター
  • パーソナルアシスタンスを必要としたり、自らの障害のために費用がかかる19歳以上の人々に対する障害者給付
  • 日常活動を行うためのパーソナルアシスタントを必要とする人々のための援助給付
  • 特別に改装した自己所有の自動車を必要とする人のための自動車給付
  • 労災給付
  • 住宅給付
  • 職業リハビリテーション・サービス
  • 年金受給者のための住宅補助は、活動補償給付または疾病補償給付を受給している人も利用可能である。
  • 歯科治療
  • 薬剤費用管理プログラム

障害者制度改革

スウェーデンの障害補償制度は、2002年に大改革が行われ、現在の4つの補償制度が創設された。この改革は、戦後ほぼ50年にわたって実現されてきた完全雇用が不可能になった1991年に始まった。経済危機のために政府は、いろいろな福祉サービスの思い切った削減を余儀なくされ、これらのプログラムの改革が求められるようになった。改革の目標は、欧州連合の創設と、共産主義とソビエト連邦の没落という変化を目前にして、福祉制度の長期点安定を確保することであった。

改革の第1ラウンドは、1999年にはじまり、そのときスウェーデンの公的年金制度が変わった。新しい年金制度では、被用者に保険料を求め、生涯収入に基づく給付を支払われる。加えて、スウェーデン軍の兵役期間と、育児期間は最終的な退職年金に加算される。また、新しい年金制度では、労働者に個人預金口座を義務付けることと、定年を61歳から65歳まで柔軟にすることが含まれている。スウェーデン国内の全ての人は、67才まで働く法的権利をもっている。

年金改革の動きは、2002年の保証つき疾病プログラムと活動補償プログラムと、所得に基づく疾病プログラムと活動補償プログラムの創設まで続いており、これらのプログラムは、現在、障害のため働くことができない全てのスウェーデン成人を対象とするようになっている。2002年以前は、1年以上続くと思われる一時的な障害がある人々は、一時的障害年金の給付を受け取っていた。永久に働くことができないと判断された人々は、永続障害年金の下で給付が支給された。

以前のシステムから新しい補償制度への移行は、おおむね問題はなく、補償額はほとんど変化しなかった。加えて、2003年1月1日以前に給付を受けている人々は、再申請を要求されず、自動的に適切な新しい制度に移行した。発生した唯一の問題は、さまざまな制度にさまざまな形で加入している人々には増税となり、移行後一部の加入者がお金を失う原因となったことである。この税制の影響は、現在、議会によって調査中である。


(注31) 2004年6月30日現在、7.525スウェーデンクローナ(SEK)=1米国ドル(USD)。

(注32) スウェーデンの基本通貨はSEK(スウェーデンクローネ)である。スウェーデンは、2003年に全国的な国民投票でユーロを拒絶した。

(注33) これらの事務所についての議論は、この章の後のほうで十分に行われる。