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9カ国の一時的・部分的障害プログラム 「他国から学ぶ」最終報告書

第12章 アメリカ合衆国における公的障害給付

スコット・スズィメンデラ

アメリカでは、公共政策の権限を個々の州が持つという長い伝統があるため、障害者政策を構成する公的な制度は複合的なネットワークとなっている。歴史家のエドワード・バーコウィッツがみたように、「アメリカに障害者政策といったものは存在しない。統一性のない一連の政策があるだけで、それらはもっぱら別々の集団を対象とした方針から打ち出されており、相反する目的を達成しようとしている(Berkowitz、1987)。」アメリカの障害者には、一定の給付が保証されているわけではなく、自分の身体的・経済的状況にもとづき、連邦レベルあるいは州レベルでどのような種類の給付が受けられるのかを探しもとめなければならない。

この章は、主として連邦政府の機関によって運営されている国単位の障害者支援プログラムに焦点を当てる。州による制度についても、一時的障害保険や労働者保障などが持つ重要な役割については述べるが、概して50州それぞれが自由な決定ができるというアメリカの州の政策決定の性質を考えると、この章で個々の州の政策についての分析を行うことは不可能である。

SSDIとSSIの概要

アメリカで最大の障害者支援プログラムは、社会保障障害保険(Social Security Disability Insurance、以下SSDI)プログラムと補足的保障所得(Supplemental Security Income、以下SSI)プログラムである。それぞれのプログラムは、それぞれ、社会保障庁(Social Security Administration:SSA)により資金提供され運営されており、社会保障庁の長官は上院の了承により大統領が任命する。社会保障庁長官の任期は6年間と定まっており、そのことにより政治介入や4年ごとの総選挙の影響を受ける恐れを回避している。SSDIは保険プログラムであり、受給のためには職歴がなければならないが、一方SSIは資力審査のあるプログラムで、収入と財産が基準額を下回らなければ受給できない。

[障害程度調査]

SSDIとSSIの受給資格認定には、同じ障害程度基本調査を用いている。どちらのプログラムでも、部分的給付や短期的給付は行われていない。受給者はアメリカ国内のいかなる職に就くことも不可能であることが求められ、なおかつ障害が1年以上持続することが必要である。SSDIとSSIの障害認定は、連邦政府の方針に従って州レベルで決定される。障害程度調査は、申請者が住む州の障害認定局(Disability Determination Service、以下DDS)によって実施される。DDSはSSAからの資金によって運営される州組織であり、SSAによって定められた政策に基づいて決定を下すことを課されている。障害認定が州によってかなりばらつきがあることは事実であるが、連邦政府の直属ではない独立した州の機関によってではあるにしても本来は国内で統一的な認定がなされるべきものである。

SSIあるいはSSDIの申請は、まず、申請者が社会保障庁

年齢 受給可能最低単位数
18-24 それ以前の3年間に6単位
24-31 年齢から21を引いた数を2倍(例、27歳の場合12単位が必要)
31-42 過去10年間に20単位
44 22単位が必要で、そのうち20単位は過去10年間に取得していることが必要
46 24単位が必要で、そのうち20単位は過去10年間に取得していることが必要
48 26単位が必要で、そのうち20単位は過去10年間に取得していることが必要
50 28単位が必要で、そのうち20単位は過去10年間に取得していることが必要
52 30単位が必要で、そのうち20単位は過去10年間に取得していることが必要
54 32単位が必要で、そのうち20単位は過去10年間に取得していることが必要
56 34単位が必要で、そのうち20単位は過去10年間に取得していることが必要
58 36単位が必要で、そのうち20単位は過去10年間に取得していることが必要
60 38単位が必要で、そのうち20単位は過去10年間に取得していることが必要
62歳以上 40単位が必要で、そのうち20単位は過去10年間に取得していることが必要

の出張所に電話あるいはインターネットで受給申請を行い、次に州のDDSの職員が5段階の障害程度調査を実施する。手続きの最初の段階は、就労調査であり、申請者の現在の雇用状況が決定される。SSIあるいはSSDIを受給するためには、申請者の現在の就労所得が、実質的な所得を得られる活動(Substantial Gainful Activity、以下SGA)のレベルである月810ドル以下、盲人の場合は月1,350ドル未満でなければならない。もし、現在の平均月収がSGA基準以上でない場合は、次の段階へ進む。この第一段階に通過したからといって直ちにSSIあるいはSSDIの受給を認められることはないが、その後の認定過程においてSGA基準以上の所得を得ていると判明した場合には、申請が却下される。

第二段階では、障害の重症度が調査される。SSIあるいはSSDIを受給するためには、就労に必要な基本的活動に支障を来すほどの重大な障害がなくてはならない。もし申請者の病状が基本的な労働活動を妨げるものであると判定された場合、次の段階に進む。それほどでもないと判定された場合は、SSDIへの申請は却下される。第一段階の就労調査と同様に、この障害状況調査にパスしたからといって直ちにSSIあるいはSSDIを受給できるわけではない。しかし、障害症状がそれほど重くないと判断されたことにより、障害程度調査を通過しなかった場合は、申請は却下される。

次の第三段階は医学的リスト調査である。SSAは、そのような障害がある場合には自動的にSSIあるいはSSDIの受給が認められる重度障害を定めたリストを持っている。申請者の障害がリストに載っていない場合は、DDSの検査官がその障害がリストに載っている障害と同程度に重度かどうかを検査する。そのように判定された場合、申請者はSSIあるいはSSDIを受給できる。そうでない場合には、次の第四段階に進む。この第三段階の調査は、第一、第二段階と異なり、この段階の調査の結果のみによってSSIあるいはSSDIの受給が認められることがある。しかし、申請者の状態が医学的リストに記載されていないためにこの調査を通過しなかった場合でも、申請は却下されず、第四段階に進む。

第四段階は、これまでの職歴についての調査である。ここでは、申請者が障害前に従事していた種類の仕事を現在も行うことができるかどうかを決定するために、申請者の調査が行われる。もし申請者が以前と同様の仕事に就くことができれば、その申請は却下される。もし障害前に従事していた仕事に就くことが不可能であると判定された場合には、次の最終段階へ進む。第三段階と同様、第四段階で受給が決まる場合もあり、第四段階で却下されることはない。

最後の第五段階は、より包括的な労働力検査である。ここでは、アメリカ国内のいかなる職についても就労が不可能かどうかを判定するための調査が行われる。申請者の能力、教育、年齢、経験のすべてがこの判定に関わっている。国内のどんな仕事もできないと判断された場合、SSDIの受給が決定する。申請者に可能な職があると判断された場合は、申請は却下される。

申請者が最初にSSAに連絡をしてからDDSによる最終的な決定が下されるまでの期間は、2001年の統計では106日である。SSIあるいはSSDIへの申請が却下された場合は、再審査を請求することができ、再審査は行政法担当判事によって行われる。行政法担当判事はSSAに雇用された司法官であるが、法や連邦規則に基づいて独立した決定を下すことが期待されている。行政法担当判事による意見聴取では、申請者は弁護士あるいは代理人をたてることができるが、SSA側の意見は聴取されない。

行政担当判事による決定に対する異議は、SSA控訴委員会に申立てができる。SSA控訴委員会の決定に対しては、連邦地方裁判所に控訴でき、他の決定と同様に連法裁判所の決定に対しては、連邦控訴裁判所、さらには連邦最高裁まで上告が可能である。

[SSI]

補足的保障所得(SSI)プログラムは、アメリカの障害者所得保障プログラムの構成要素として主要な部分をなしており、資力審査が実施される。給付や行政コストは合衆国の一般予算から支出されており、財源となるのは一般所得税である。後にこの章で扱う社会保障相互基金(Social Security Trust Fund)については、そこからSSIにかかる費用や給付を支給されることはなく、SSIによって影響を及ぼされることはない。SSI給付は、子どもも成人も両方が対象となる。

SSIは資力審査のあるプログラムであり、給付を受け取るためには、障害のあることともに収入と資産が一定制限以下であることが必要である。基礎所得調査では、個人の場合不労所得が月当たり584ドル未満でなければならず、夫婦の場合は月当たり866ドル未満でなければならない。不労所得に含まれるのは、利子、社会保障などの政府のプログラムからの給付、そして年金や労働者補償などの給付金である。給与所得については公式の制限はないものの、就労によって得た所得は、各月ごとに次の定式に従ってSSI給付から差し引かれる。

  • 不労所得、就労所得に関わらず、各月の所得の20ドル分までは、SSI給付からの減額計算に組み込まれない。
  • 各月に不労所得と就労所得の両方がある場合には、就労所得から、制限基準の65ドルを除いた部分の半分が、SSI給付から差し引かれる。
  • 各月に就労所得のみがある場合は、制限基準が85ドルとなり、それを除いた部分の半分がSSI給付から差し引かれる。
  • 税金の還付、資産売却益、政府による一定の小規模かつ特定の援助プログラムによる給付は、SSI給付の減額対象とはならない。
  • 22歳以下の盲人あるいは障害者については、月当たり1,340ドルあるいは年間5,410ドルまでの就労所得はSSI給付の減額対象とならない。

所得調査に加えて、申請者の持つ資産価値を測るための資産調査も行われる。個人の申請者は2,000ドル以上の資産を保有してはならず、夫婦の場合は3,000ドル以上ではいけない。ただし、居住する建物と土地と自動車1台についてはこの資産には含まれない。さらに、1,500ドル未満の価値のある生命保険と、1,500ドル未満の墓地や埋葬基金も資産に含まれない。政府によるいくつかの小規模な特定の援助プログラムによる資産も減額対象の資産には含まれない。

SSIプログラムの受給者はすべて、同額の基礎月額給付を受ける。SSIの受給が決定された場合、個人では月額564ドル、夫婦では月額846ドルの現金給付を受けることができる。この額は、収入調査の算定式に基づき、各月の所得によっては減額されることがある。14の州とコロンビア特別区では州による補助金が上乗せされるので、支給の月額の合計は増える。この州による補助金は各州により異なるが、額がもっとも大きいのはカリフォルニア州で、SSIを受給する個人の障害者は最大で月額790ドル、夫婦の場合は月額1,399ドル受け取ることができる。州の補助金により自動的に支給額が増額される14州に加え、他の30州でも補助的なプログラムを導入しているが、この場合追加支給を受けるには、州に対して新たに申請を行い、認定を受ける必要がある。

SSIプログラムのもとでは、医療給付は行われない。受給者は、州ごとの収入調査と資産調査の条件に合う場合には連邦政府のメディケイドプログラムに申請することができ、65歳以上という年齢条件に合う場合にはメディケアプログラムに申請することができる。加えて、SSI受給者は、連邦政府による食料補助プログラム(Food Stamp Program)や、貧困家庭一時扶助(Temporary Assistance to Needy Families、TANF)のような公的福祉プログラムの受給資格もある。これらの公的福祉プログラムを利用するためには、一般には、それぞれのプログラムに別個申請する必要がある。

[SSDI]

社会保障障害年金(Social Security Disability Insurance, 以下SSDI)は、就労できない障害者に現金給付と医療給付を与える保険プログラムの最も主要なものである。SSDIはSSAによって運営されており、給付金や運営費用は障害保険相互基金(Disability Insurance Trust Fund)から提供されている。障害保険相互基金は、アメリカ財務省によって社会保障給付プログラムの財源を確保する目的で運用されている二つの信託基金のうちの一つで、もう一つは高齢者・遺族相互基金(Old-age and Survivors Trust Fund)である。障害保険相互基金は、連邦所得納付金法(Federal Income Contributions Act、FICA)と自営業者納付金法(Self Employment Contributions Act、SECA)に基づき、雇用者と被雇用者の給与税によって財源が確保されている。相互基金の資金は直ちに給付支払いに用いられ、使用されない資金は国債に投資される。相互基金運用のために指名された高齢者・遺族・障害年金理事会は、2018年には基金の支出が収入を超え、2042年には基金が底を尽くだろうと予測している。

SSDIプログラムには、資力審査はない。しかし、給付を受けるためには、そのプログラムに加入していなければならない。保険料の支払いは、FICAあるいはSECAプログラムに基づく税の納付による。しかし、アメリカにおけるすべての職業がFICAあるいはSECAプログラムによって保険をかけられているわけではなく、FICAあるいはSECAによって税を支払っていない職場で就労している労働者は、SSDIに加入することができない。FICAあるいはSECAに基づいて税金を支払っている場合、障害発症時までに必要最低限の信用単位を獲得していれば保険給付を受けることができる。保険加入の職場での賃金のうち、毎年900ドルごとに1単位が加算される。保険給付に必要な単位を、表1で年齢別に示している。

表8:SSDIプログラムでの必要単位表

SSDIプログラムによる給付が認められると、DDSによって障害が発症されたと判定された時期から6ヶ月以内に給付が開始される。SSDI受給者に毎月支払われる現金給付の額は、以前の就労所得と申請時における保険単位によって決定される。2002年における、SSDI給付の新受給者の平均月額は、898ドルである。

SSDIプログラムの受給開始後24ヶ月経つと、受給者は、無料で入院費用を保証するメディケア・パートAプログラムによる給付を受けることができる。また、医師の診療費と外来診療費を保証するメディケア・パートBプログラムについては、標準月額保険額66.60ドルで加入することができる。また、筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病)のSSDI受給者に関しては、24ヶ月の待機期間はない。

SSDI受給者の受給中の就労は、SGA基準以上の収入を得ない場合に限り認められている。SGA基準以上の収入があった場合、その月は試用労働期間に組み込まれる。試用労働期間中は、所得制限なしでSSDI給付を全額受給できる。60ヶ月ごとに9ヶ月まで試用労働期間が認められており、この9ヶ月は連続していなくてもよい。試用労働期間の終了後に所得がSGA基準を超えた場合、受給者はSSDIプログラムからはずされ、現金給付の支給は終了する。試用労働期間後93ヶ月まで、メディケア・パートAによる保障は継続する。

[職業的リハビリテーションと労働切符プログラム(Ticket to work program)]

SSIあるいはSSDI受給者は、州の職業的リハビリテーション(Vocational Rehabilitation、以下VR)センターが提供する職場復帰支援策を利用することができる。州のVRセンターが受給者の職業復帰支援に成功し、受給者が試用労働期間より長い期間、SGA基準以上の所得を得て就労した場合、VRセンターの費用はSSAによって払い戻される。ただし、SSIあるいはSSDIの受給者がVRあるいはその他のリハビリテーションプログラムへの参加を義務づけられているわけではない。

1999年に、労働切符と労働奨励向上法(Ticket to Work and Work Incentives Improvement Act)が議会を通過した。この法律により、特定の州のSSIあるいはSSDI受給者は、州のVRセンターあるいは民間の業者が提供する雇用復帰支援サービスを受ける無料券を受け取ることができるようになった。無料券を受け取ったVRセンターあるいは民間業者は、受給者が試用労働期間を超えてSGA基準以上の収入のある職に就いた場合、サービスにかかった費用の全額をSSAによって払い戻しされる。労働切符プログラムは3段階で導入され、2002年2月に13州がプログラムに参加、2002年11月に他の20州、そして残りの17州が2002年11月に導入した。

労働者補償

アメリカでは、職業に由来する病気や事故を理由に障害を受け、それにより就労できなくなった人を対象とする特別規則がある。それぞれの州は独自の労働者補償プログラムを持ち、それにより、雇用に由来する事故あるいは病気による医療費や収入減少に対する保障が受けられる。連邦政府は、連邦公務員と、海事労働者と鉄道関係労働者のうちの一部を対象とする労働者補償プログラムを運営しているが、アメリカの民間労働者と公務員のほとんどは、州の労働者補償プログラムによって保障されている。

また、5つの州においては、民間の雇用者は州の基金によって運営される労働者補償保険プログラムに加入することを義務づけられている。また、20州においては、雇用者は、労働者補償保険プログラムについて、州の基金によるものあるいは民間の保険業者によるもののどちらかに加入しなければならない。自己資金による保障、つまり、起こりうる保障請求に対して十分な自己資金を保有していることを州に提示すること、が認められているのは、ノース・ダコタとワイオミングの2州を除くすべての州と、プエルトリコ、米ヴァージン・アイランドの各地域である。このうち、いくつかの州では、自己保証が認められるのは個人の雇用主のみであり、その他の州では雇用者集団がその成員につき自己保障することが認められている。

一つの障害につき、SSDIと労働者補償給付を同時に受給することは可能である。そのような場合、SSDIあるいは労働者補償給付のどちらか一方の給付額はもう一方の給付額によって減額される。36州においてSSDIの給付が労働者補償給付額の割合により減額され、残りの14州では労働者補償給付がSSDI給付額の割合により減額される。

家族医療休暇

1993年に家族医療休暇法(Family Medical Leave Act)が成立し、多くの被雇用者が、ケガや病気の家族の看護のため、あるいは自分の深刻な病状の治療のため、無給休暇を取る機会を得られるようになった。また、新生児や新しく養子となった子の世話をするためにも、休暇を取ることができる。この法律による休暇を取る場合、ケガや病気が職場で起きたものであるか、あるいは就労に由来するものであるか、は問われない。12ヶ月ごとに12週間について休暇を申請することができる。

地方、州、連邦レベルのすべての公的機関はこの法律の対象となり、また、民間についても、被雇用者数が50人以上のすべての企業が対象となり、年間最低20週休暇を申請できる。申請のためには、その職場に少なくとも12ヶ月就労し、その間の就労時間が1,250時間以上でなくてはならない。その職場の業務遂行の上で欠かすことのできない重要な被雇用者については、休暇後に以前の職に復帰することが認められない場合もある。

休暇が必要となるケガあるいは病気が雇用中に起き、労働者補償プログラムによって保証されている場合、特別な規定がある。雇用主は家族医療休暇法による休暇の代わりに労働者補償プログラムによる休暇を用いることができ、労災による非就労期間は労働者補償プログラムにより認められている12週間の休暇期間の一部として計算することができる。

州の一時的障害保険

次の5州(カリフォルニア、ハワイ、ニューヨーク、ニュージャージー、ロードアイランド)とプエルトリコでは、州による一時的障害保険(Temporary Disability Insurance、以下TDI)プログラムが実施されている。ハワイ、ロードアイランド、ニューヨークの各州では、すべての雇用主が州のTDIプログラムに加入することが義務づけられている。また、カリフォルニア州とニュージャージー州では、被雇用者を保障する同等の民間保険プログラムへの加入がある場合、州のTDIプログラムへの加入が必要でない場合もある。

どの州においても、現金給付期間は26週から52週までの一定期間であり、給付額は法定ガイドラインによって以前の収入に応じて定められる。どの州のプログラムも、給付開始の前に数日間の待機期間を設けており、受給のためには職歴と所得について一定の基準が定められている。ロードアイランドでは、給付は公的資金から供出されており、その他の4州では公的基金と民間保険から資金が提供されている。また、プログラム運営費は被雇用者からの供出金で賄われている。TDIが給付されるのは、一般にSSDIあるいはSSI給付が支給されていない場合のみである。

メディケイド

メディケイドは、収入と資産が一定基準に達しない者を対象に、処方薬を含む医療給付を与える連邦政府によるプログラムである。メディケイドには州政府と連邦政府が共同で資金提供しており、連邦政府のプログラムではあるものの、認定方式は各州がそれぞれ定めている。大概の場合、メディケイドを受給できるのは低収入あるいは資産がごくわずかな個人あるいは家族に限られている。いくつかの州では、メディケイドの受給資格がない障害者について、州から保険を購入することが認められている。

メディケア

メディケアは、職歴のある高齢者を対象とする公的な保険プログラムの主要なものである。ほとんどのアメリカ人は給与税の形でメディケア相互基金(Medicare trust fund)に資金を払い込んでいる。メディケアの対象となるのは、65歳以上のすべてのアメリカ人と、2年の待機期間が経過したSSDI受給者、それに末期的な腎疾患を抱え人工透析を必要とする者である。

メディケアは、パートAとパートBの二つの部分から構成されている。パートAの対象となるのは、入院および、入院患者に対する高度な技術を必要とする看護施設でのケア、それに家族介護の一部である。最低40四半期以上の期間保険に加入している場合、パートAの保障については年間の割増保険料はない。保険加入が40四半期に満たないが、30四半期以上の場合、月額の割増保険料は206ドルとなり、30四半期未満の場合は月額割増保険料が375ドルとなる。入院した場合、メディケア加入者は最初の50日間までの看護費用として912ドル支払う必要があり、入院61日目から90日目までにつき一日当たり228ドルの支払い、91日目から150日目までにつき一日あたり456ドルの支払い、そして、150日目以降退院までの間は病院によって決められた入院費用の全額を支払う必要がある。21日間から100日間にわたる高度な看護施設を用いた治療については、一日当たり114ドルの支払いが必要である。

メディケア・パートBの対象となるのは、訪問医療あるいは訪問サービス、外来患者の医療ケア、家族介護の一部、そして耐久性の医療機器である。パートBの加入には、月額78.20ドルの支払いが必要である。パートBの範囲となるサービスについて、加入者は、年間110ドルの免責額を差し引いた後、メディケアで承認された額の20%を支払う必要がある。パートAとパートBの両方に加入している者は、特別な「メディギャップ」と呼ばれる保険に加入することもできるが、これはメディケアの範囲外である自費負担の一部分まで保険の対象となるものである。

メディケア加入者のうち、処方薬を対象とする民間の保険に加入していない者は、メディケア・ドラッグカードを購入することにより、医薬品の一部につき割引価格で購入できる。このカードは年間30ドルで購入できるが、低所得者の場合は無料である。また、低所得者のカード保有者は、自動的に年間600ドルまでのクレジットを得るので、それを用いて割引価格の医薬品を購入することができる。600ドルまでのクレジットを使い切ってしまった場合でも、カードを用いて医薬品の割引を受けることができる。

2006年からメディケアには新しい処方薬対象保険プログラムが導入される。このプログラムは、年間35ドルの費用で、250ドルの免責額を差し引いた後2,250ドルまでの医薬品費用について、その75%がメディケアによって支払われるというものである。医薬品費用が年間2,250ドルの基準を超えた場合、自費負担費用が年間3,600ドルを超えるまでの部分の医薬品は正規の料金で購入しなければならない。また、年間3,600ドルを超える医薬品費用全体の95%については、メディケアによって支払われる。この新しいプログラムは民間によって運営され、加入者はどの民間業者に加入するかを選択することができる。

高齢者遺族保険

高齢者・遺族保険(the Old-Age and Survivors Insurance、以下OASI)プログラムは、SSIが運営するアメリカにおける主要な一般的年金プログラムである。OASIはFICA、SECAに基づく税収入によって財源が負担されており、給付を受けるためには保険の範囲となる職種で必要な保険単位を獲得している必要がある。一般に、給付を受けるためには保険対象の職種での10年以上の雇用経験が必要とされる。給付の月額は、以前の収入と獲得単位数によって決定される。

退職者については、62歳から給付を受け取ることができるが、全額給付を受け取ることができるのは完全に退職する年齢とされる65、66、67歳(出生の年によって変わる)以降である。退職者は、完全退職年齢以降全額給付を受けながら就労することが可能であり、自動的にメディケアプログラムに加入する。OASIによる給付は、配偶者、扶養家族、あるいは遺族の支給も可能である。

アメリカのその他の公的福祉プログラム

アメリカはその他の先進国ほど福祉国家としての規模が大きいわけではない。国民が全員加入している健康保険制度がなく、すべての低所得者を対象とする全般的な福祉プログラムも実施されていない。

全般的な基本的福祉プログラムのうち、主要なものは貧困家庭一時的援助(Temporary Assistance to Needy Families、以下TANF)と呼ばれ、母子家庭あるいは州ごとに定められた収入の基準値を下回る家庭に対して期間限定の現金給付を与えるものである。TANFは州への定額交付金という形で連邦政府により財源が負担されているもので、認定方法や給付方法については各州が定めることができる。どの州においても給付は限定的なもので、給付を受けるためには一定の就労、職業訓練、あるいは教育活動に最低時間以上参加することが義務づけられている。いくつかの州では、これに加えて付加的な福祉プログラムが実施されており、時間的および職業的な制限がより緩和され、より広い範囲の者を対象としている。

アメリカでは、限られた財力しかない者に対する住宅補助が実施されているが、このプログラムを実施する州あるいは地域の公共住宅機関の資金の大部分は連邦政府が負担している。低所得の個人あるいは家族はまた、連邦食料切符プログラム(Food Stamp)を利用することも可能であるが、これは認可された小売店で食料品を購入する際に使用できるクーポン券あるいは電子給付カードを支給されるものである。食料切符プログラムの利用者は、TANFプログラムの場合と同じような就労あるいは職業訓練を受ける必要がある。妊娠中の女性あるいは子育て中の女性については、女性、新生児、子どもプログラム(Women, Infants, and Children program)が実施されており、子どもの健康に必要と認められる食料品を購入する際に使用できる無料券が支給される。

合衆国の各州は連邦政府が実施する失業者支援プログラムに参加しており、職が見つからない人あるいは自らの責任でない理由によって失業している人に対して限定的な現金給付を支給している。この失業者支援プログラムは雇用者税により運営されており、農業従事者あるいは自営業者のなかには制度の対象とならない者もいる。給付の受給者は受給中に積極的に職探しをしなければならず、求人がある場合には相応ないかなる仕事でも引き受けなければならない。ほとんどの場合、失業給付の支給期間は26週間であるが、州あるいは連邦政府によって給付期間が延長される場合もある。

いくつかの州によって実施される付加的な公的福祉プログラムには、補助的医療保障プログラム、現金給付、住宅補助、教育補助、職業訓練、就職あっせん給付などが挙げられるが、これに限られるものではない。これらのプログラムはそれぞれの州の財源により州が運営するもので、認定方法や給付額についても各州の裁量に任されている。

参考文献

Berkowitz, Edward D. 1987. Disability policy: America's programs for the handicapped. New York: Cambridge University Press.

Board of Trustees, Federal Old Age and Survivors Insurance and Disability Insurance Trust Funds, 2004. Annual report of the board of trustees of the federal old age survivors insurance and disability insurance trust funds. Washington: Board of Trustees, Federal Old Age and Survivors Insurance and Disability Insurance Trust Funds.

Social Security Administration. 2003. Fast facts and figures about social security. (15) Baltimore, MD: Social Security Administration.

Social Security Advisory Board. 2001. Disability decision making: Data and materials(51-62,79-82). Washington: Social Security Advisory Board.