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9カ国の一時的・部分的障害プログラム 「他国から学ぶ」最終報告書

はじめに

今日、世界の障害者政策は、ソーシャル・インクルージョンを目指して動きつつある。インクルージョンとは、障害者や高齢者などいわゆる社会的弱者が同じ地域社会で生活するのがあたりまえであり、これらの人々が生活することを前提として社会を構築しようとする考え方である。インクルージョンは、もともと、障害児を地域の普通学校に通学させることを意味していたが、今日では、より対象を広げてソーシャル・インクルージョンとして用いられることが増えている。特に、EUでは、インクルーシヴな社会を実現するための行動計画の作成と実施を加盟国に求めており、その計画においては障害者も対象の一つとして掲げられている。このようななか、全国生活協同組合連合会の支援を得て、世界のソーシャル・インクルージョンに関する調査研究を行うことができた。

本報告書は、世界のソーシャル・インクルージョン調査研究の一環として、2004年12月に発表された「他国から学ぶ:9カ国の短期障害給付・部分障害給付」報告書を翻訳したものである。同報告書は、米国社会保障局(SSA)から資金提供を受け、米国ルトガー大学を中心とした障害研究プログラムが、オーストラリア、ドイツ、イギリス、日本、オランダ、ノルウェー、南アフリカ、スウェーデンとアメリカ合衆国における障害給付制度を調査したものである。各国の調査には、リハビリテーション・インターナショナルの協力により、各国の専門家が協力している。日本からは、リハビリテーション・インターナショナルの日本の窓口である日本障害者リハビリテーション協会と高齢・障害者雇用支援機構を経由して香山千加子氏(高齢・障害者雇用支援機構)と寺島彰(浦和大学)が協力した。

報告書のタイトルが「他国から学ぶ」となっているのは、米国には障害年金制度があるが、それは、オール・オア・ナッシングの制度で、年金を全額給付するかしないかという選択しかない。それに対して、世界の他の国々には、短期的に給付される障害給付や、わが国の障害年金のように2級や3級といった障害1級の100/125、75/125といった部分的な年金が存在する。そのような制度を「学ぶ」という意味である。

研究に協力してみて感じたことは、異なった歴史をもつ制度を比較すること自体が非常に難しい上に、障害者政策に対する考え方が、わが国と西洋では基本的に異なっており、なかなか理解してもらえなかったところがあるということである。例えば、日本では、障害年金は機能障害のみで認定されるため、障害基礎年金を受給している人が通常の職場で働いているが、西洋諸国の人々は、公的な障害年金は、所得の補助が目的であり、年金を全額受給している者が常勤で働くことは想像もつかないようである。このような文化の違いがあり、わが国の制度を十分理解されず、結果的に日本人からみると日本の記述が少し違っていると感じるところがある。しかし、全体としては、おおむね正しく把握されていると思われる。また、世界の9カ国の障害給付に加えて各国の状況をその分野の専門家が情報提供しており、各国のソーシャル・インクルージョンの状況を把握するために役立つと考えられる。

我国においては、ソーシャル・インクルージョンに関心は薄いが、世界の状況をみれば、今後はもう少し関心を持っていかなければならないと考える。本書はそのための取り組みの第一歩である。

本調査研究にご支援をいただいた全国生活協同組合連合会に心から感謝申し上げる。

監訳者 寺島 彰
(浦和大学総合福祉学部)