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9カ国の一時的・部分的障害プログラム 「他国から学ぶ」最終報告書

要約

このレポートは、米国社会保障局(SSA)から資金提供を受け、9つの国々、すなわちオーストラリア、ドイツ、イギリス、日本、オランダ、ノルウェー、南アフリカ、スウェーデンとアメリカ合衆国における障害給付制度を概観している。これらの制度は、給付に資金を供給する方法、提供されるプログラムのタイプ、障害の定義、そして、誰に資格があるかという点で大きく異なる。プロジェクトの目的はこれらのプログラムがどのように運営されているかについて一般的な理解を得ることであり、とくにアメリカの連邦プログラムではカバーされていない2つの分野すなわち、部分的給付および一時的給付を扱う方法と、労働への復帰の努力を評価することに焦点が当てられた。

昨年、我々はリハビリテーション・インターナショナルの援助で、各国の数人の専門家の名前を確認した。これらの専門家は学会、リハビリテーション計画、給付制度の専門家である。各人は、障害給付制度の構造、雇用と再統合の推進に関連する制度に関していろいろな質問項目をもつアンケートに答えた。このアンケート結果と、入手できる書籍からの情報を加え、さらに、専門家との徹底的な議論をプラスして、このレポートに掲載している国別の章の基礎を作り上げた。各章は、各国の障害給付プログラムの重要ないくつかの内容をカバーしている。それは、次のものである。

  • 給付のタイプ
  • 管理方法
  • 資金
  • 給付額
  • 給付の活用
  • 障害の定義と認定
  • リハビリテーションと再統合(re-integration:社会復帰の意味に近い。訳注)の選択肢
  • 最近の制度の変化。

このレポートの後の方の章にあるこれらの国々についてのレポートにより、最初の3つの章の分析のための基礎的材料が用意された。第1章では、9つの国それぞれにおける障害者制度のマクロレベルでの背景などに関する調査の概要と、我々が全体として発見したものの詳細を述べる。第2章はそれぞれの国の一時的障害給付プログラムの側面を記述しており、第3章は部分的障害給付プログラムをカバーしている。このレポートの重要な調査結果は以下のとおりである。

  1. 多くの国では、長期給付の一部として、あるいは、この置き換えとして期間限定プログラムを提供している。期間限定プログラムは期間が限られており、長期のプログラムの置き換えや代替物としての役割を果たしたり、短期の給付が終了した後にしか利用できなかったりする。一部の期間限定プログラムは、特に若い成人や潜在的なリハビリテーション能力のある人を対象としている。ドイツ、ノルウェー、スウェーデンでは、永続的給付の代わりに期間限定プログラムがある。最重度障害者を除き、ほとんどの永続的障害給付の期間が3年に限定されているドイツでは、最も厳しい手続きを課している。すなわち、3年経過すると受給者は再申請しなければならない。また、期間限定給付は、給付を受ける人に対して生涯給付を保証しているわけではないので、それは、障害給付制度における再統合に関する記録を更新するよい機会である。それに加えて、いくつかのプログラムには、再統合を進めるためのリハビリテーション給付を行っている。
  2. 短期のプログラムにおいては、財源確保などの責任が、政府から雇用主にシフトしつつある。受給者数とプログラム費用の増加をくい止めるために、政府は病気や症状が現れてから短期給付が開始するまでの当座の期間については、雇用主が費用を負担するよう義務付けている。オランダとイギリスでは、雇用主が自らその短期のプログラムを管理し、資金を提供することが要求されている。この責任のなかには、再統合に強く焦点を当てることが含まれている。例えば、被用者が一定期間の短期給付を受けたあとは、雇用主はリハビリテーション計画の作成を要求される。
  3. 部分的障害給付プログラムを実施することにより、「オールオアナッシング」の障害認定をしなくてすむが、障害認定プロセスはより難しくなる。誰が障害給付の受給資格があるかを決めるのは難しく複雑であり、オーストラリアと日本の障害認定基準表から、オランダの賃金喪失評価まで、各国は多様な定義によってこの複雑さに対応してきた。我々が発見したことは、過去10年にわたって、多くの国々が、障害の定義を変更してきており、自身の職業に関する能力ではなく、いろいろな仕事に対する能力を評価し始めたことに気づいた。
  4. 部分的障害給付プログラムにより受給者の雇用が伸びるとは限らない。しかし、部分的プログラムをもつ国では障害のある人の雇用率がより高い。我々が調べた国ではどこも、障害のある人の大部分が労働をしていない。しかし、部分的給付を受けている人は、永続的給付を受けている人より雇用されている場合が多いようである。また、障害のある人の就職率は、部分的給付の制度のある国全般でより高い。これは、障害給付政策以外の要因、例えば雇用支援の有無を反映しているのかもしれない。
  5. 永続的障害給付プログラムでは、すべてのプログラムにおいて、復職して給付を終了する人の割合は低い。一旦永続的障害給付の受給者になると、死亡するか別のプログラムに移行するまで受給は続く。これは、国、給付の額、部分的な給付の有無、またはリハビリテーションサービスがあるかどうかに関係なく正しい。
  6. 勤労者税額控除は、いくつかの国では障害給付に代わる有効な手段であるようだ。イギリスでは、障害のある低収入の自営主は、税額控除のために資格を得られる。この税額控除は、永続する障害給付プログラムに申請する動機を減らし、障害プログラムによる復職率を改善することが期待される。

本研究から得られた情報は、我々の疑問を解決するよりもそれ以上に疑問を提起した。障害給付プログラムの運営方法についての知識を拡大するためには次のステップとして次のようないくつかの調査プロジェクトが考えられる。

第1章において示されるマクロレベルのデータからは、障害のある人のためのいろいろな種類(疾病給付、期間限定給付、部分的給付、全額給付など)の給付制度があるために、障害のある人のための障害給付制度がより拡大して行き、また、就職率が高くなることにつながるということが示唆されている。職業復帰に関していえば、いろいろな種類の給付を提供することにより、政府は、障害のある人のいろいろなニーズをより効果的に取り扱うことができるというのが理由かもしれない。いろいろな種類の障害給付をもつ国々は、この研究ではカバーしきれなかった職業復帰促進のための他の法律や制度に特徴があるのかもしれない(例えば雇用割当や差別禁止法)。この疑問は、多くの国々における障害のある人の雇用率を決定する要素に関して、障害のない人と比較しながら、マクロなレベル分析を通して研究するという新たなテーマを提供した。しかし、この研究に参加している9カ国だけでそのようなマクロ分析を実施することは可能ではなかった。

障害給付制度における、再統合、リハビリテーション、障害の管理、医療の利用におけるアプローチは、かなり異なっている。障害給付制度におけるリハビリテーションプログラムを各国にまたがって比較することにより、新しいアプローチを確認することができ、さまざまな技術の効力を評価できると思われる。

いくつかの国では、永続的障害給付に代わるプログラムを最近制度化した。これらのプログラムがどのように実施されていくかを追跡していくことは、特に重要であると思われる。特に次の2つのプログラムは慎重に注意を払っていかなければならない。それは、ドイツの期間限定給付の再申請手続きの最初の波を乗り切った経験、および、イギリスの障害給付つきの労働税控除である。

このレポートの枠組みは、9つの国の一時的および部分的な障害プログラムにおいた。しかし、今後、引き続いて、それぞれの国の労働市場と障害給付プログラムの職業復帰に関連する経験のミクロレベルでの事例研究をおこなうことができるかもしれない。たとえば、データが手に入れば、若者向けの期間限定プログラムの再統合の効果を評価することで、より深い分析のための理想的な機会を提供することになろう。

我々の研究「他からの学習」最終報告では、それぞれの国のいろいろなプログラムを記述する中で、各国が障害のある人々の職業復帰を促進しようとしている多くの解決策を概観している。我々は、この報告書により、既存の障害給付プログラムを改良する方法や代替的な制度を開始する方法に関しての知見と議論が導き出されることを望む。