音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

ICFをどう活用するか(第20回 RI世界会議-オスロ)

佐藤久夫

書誌情報
項目 内容
所属先 日本社会事業大学
転載元 季刊誌「リハビリテーション研究」121号

社会委員会セミナーでの2つの報告から

 RIオスロ会議での社会委員会セミナー「社会リハビリテーションの概念と方法を再考する」ではICFに関して2つの報告がなされた。 そのポイントは次のとおりで,2つともICFをどう活用するかという問題意識でのものであった。

1 ICFの中心的概念としての「参加」

 報告:ソーニャ・ストッコム(スウェーデン・ウプサラ大学名誉教授,北欧FIC協力センター)

 ICIDHは病気・変調から出発し,それが機能障害,能力障害,社会的不利の原因だとみる。ICIDHの重要な特徴は,器官,個人,社会の 3つのレベルに現象を区分したことである。

 ICFはICIDHの改訂版であるためか,その基本概念がICIDHのそれの延長線上でとらえられることが多く,ICFが備えている「全く新しいもの」が十分には 理解されていないのではないか。WHOは「参加」は「社会的不利」の呼び方を変えただけだというが,それ以上である。

 ICIDHの改定は,1993年の障害者の機会均等化に関する標準規則など,参加をめざす国際的な取り組みとともに進められてきた。スウェーデンでも 「利用者ではなく市民として」,「患者ではなく市民として」などが近年強調されてきた。こうした時代の要請の変化の中で改定されたものであり, 参加は単に社会的不利の言い換えではなく,人権視点の基礎となる概念である。

 参加がICFの中心的概念であるということは,実際的な場面を考えてみても明らかである。

 「参加制約」はクライエントが直面している問題を記述する基礎となる概念であり,支援・介入の目標となるものである。 これはどのような支援・介入を我々が念頭に置いているかに関わりなく当てはまる。たとえば,医療の臨床場面では,あきらかに直接的な目標は患者の治療であり, 機能障害を最小限にすることであり,身体レベルの機能を回復することであるが,その最終的な目標は人間的な生活へのよりよい参加の機会を提供することである。

 「参加制約」は,機能障害と活動制限によって説明される場合もあろうが,その場合でも機能障害と活動制限は環境因子と相まって参加の制約を 生み出している。 いろいろな介入は,心身機能・身体構造,あるいは活動制限,さらには環境因子のいくつかの要素をそのターゲットとすることがあるが, しかし常にそれらの介入の最終的な目標は「参加」である。

 このように解決すべき課題やニードの概念が参加を基礎としたものであれば,支援の帰結やサービスの質の評価においても,参加が最も重要な概念でなければならない。

 活動と参加は,残念ながら一つの分類の中に組み込まれた。改訂作業の中で,活動と参加の分類が1つに統合されたときに,「活動」は「能力capacity」で, 参加は「実行状態performance」で評価しようという一つの妥協案が出された。議論の末の合意として,活動と参加とは単に能力と実行状態という違いではなく, 人間の生活機能の次元の違いとして認識すべきである,しかし分類としてはICFでは1つのものとする,ということになった。わたし自身は, 参加の概念をより明確にしなければならないと感じている。実践的な経験を持ち寄って,ICFの改定の際には独立した活動分類と参加分類が 承認されるものと信じている。

 ICFには「役者」がなお欠けている。一つは障害者本人であり,もう一つは専門職や行政担当者など,本人を取り囲む人々である。 ICFのモデルを専門職の視点で読むか当事者の視点で読むか,という議論がある。しかしICFはbio-psycho-socialな統合モデルなので, どちらかを選べというべきではない。「参加」はこれらのいろんな視点を統合する鍵となる概念である。

2 ICF,政策と法制

 報告:佐藤久夫(日本社会事業大学)

 社会委員会は2002年に「ICFと政策・法制」のワーキンググループ(WG)を立ち上げた。この分野でのICFの活用の情報を収集して普及することが目的である。 実際の活動は2003年から始まり,2004年には調査票が作成・発送され,このセミナーでは6月までに回収された12カ国からの報告を紹介する。

 WGには社会委員会のメンバーのほか,RIの関係者でない人々も参加し,政府職員もNGO職員も含まれる。6月以前には21カ国38人がワーキンググループメンバー であった(その後オスロ会議などでさらに増えて,9月現在約30カ国50人)。

 調査票では,ICFの実際の活用とともに今後の活用の可能性も,またICIDHの活用実績についても尋ねた。ただし今回の報告では,実際の活用か活用に向けての 具体的な計画についてのみ紹介した。12カ国は活用の面から3つに区分された。

a 未活用:香港特別行政区,アイルランド,韓国,イスラエル
 これら4カ国・地域が「未使用」であるが,香港では「政府の保健・福祉・食品省主催でICF実行のための検討委員会が設けられ, 委員には関係各省庁の担当者とNGO代表が含まれている」という。アイルランドでは「全国身体障害・感覚障害データベースでの『障害disability』 の測定においてICF概念が活用され,また,中央統計局は心身機能,活動,参加を区別できるような情報を収集するための国勢調査用設問を準備している。 これらの取り組みでは,ICFの分類ではなく,モデルが使われている」と報告しており,データベースや統計面では活用している。
 韓国では2004年に翻訳とその出版が完了し,ようやく普及が本格的に始まったところだという。イスラエルではリハビリテーションサービスの 大きな改革が予定されており,ICFはその中で活用される可能性があるという。
b 活用された国々

活用されたICFの側面

活用された政策分野
カナダ*概念枠組み(ICIDHの)「対等」(On Equal Terms)というタイトルの政策。カナダのケベック州で1984年に策定された総合的な障害者政策。
オーストラリア「活動と参加」分類の3つの第1レベル項目「連邦政府と州・準州の障害サービス合意書」では、「障害」を「ICFの活動と参加 分類の3つの第1レベル項目の地域のサポートニーズの有無」で定義している。 報告に際してのデータ項目はICFの枠組みと評価点を基礎にしている。
概念枠組み 差別禁止法の障害の定義(AIHW、オーストラリア保健福祉研究所が提案中)
ドイツ概念枠組み概念枠組み
ドイツ社会法典No.IX-障害者のリハビリテーションと参加(2002)、障害者機会均等法(2002)

2004年4月1日から、ドイツ医療保険機構はリハビリテーション給付申請書にICFを活用した。

日本概念枠組み介護保険でのニーズ評価とケアプラン
介護保険のリハビリテーション給付の加算にあたって、ICFに基づいたリハビリテーション実施計画書を要件とした。
障害者基本法での障害の概念(2003年日本自閉症協会が要求したが実現しなかった。)
概念枠組み(ICIDHの)精神障害者へのリハビリテーションサービスと社会福祉サービスの提供 (1987年以前には医療サービスしか実施されなかった。)
HIV感染による免疫機能障害者が雇用率制度に組み込まれた。
*調査解答以外の情報による。
c 計画中の国々
活用される予定のICFの即面 活用される予定の政策分野
フィンランド 社会問題保健省が起草中の新しい障害者法での定義と用語
ハンガリー 「サポートサービス」のための障害評価
南アフリカ 概念枠組み 社会保障のための障害評価
スウェーデン 概念枠組み 社会保障のための障害評価
 以上のことから,次の点が指摘できる。
 1)回答した国々の中の多くは,政策分野でのICFの活用が始まった。
 2)活用および活用予定の例では,ほとんどが「分類」ではなく「概念枠組み」である。
 3)もっとも一般的な活用は,サービス・給付あるいは人権擁護などにかかわる障害の定義や評価での活用である。
 そのほかの活用としては,日本の介護保険でのリハビリテーションサービスや介護サービスのプラニングでの活用がある (この活用は政策面と言うよりは臨床面での活用であるが,政府がこのような活用を指示し,金銭的に誘導しているので政策として取り上げた)。 また,日本では精神障害者の能力障害/活動制限に対してのリハビリテーションサービス,社会的不利/参加制約に対しての社会福祉サービスなど, (対象者は同じ精神障害者で変わらないが)新しいタイプのサービスを導入するためにICIDHが活用された。
 4)さらに他の国からも回答が必要であり,またすでに回答している国からもより詳しい内容の回答が必要である。
 5)いくつかの先進国では,「ICFの活用」を確認することは非常に難しい。その理由は,2001年のICF採択以前から同様の考え方に基づく政策が採用 されてきていることが多いからである。フィンランドからの回答者は「国の法制や政策で明確にICFの考え方を採用したとは述べられていないが, ICFのいろいろな側面がすでに政策や法制の重要な内容となっている」と述べた。

ICFのモニタリングと倫理問題

 アイルランドのメンバーの一人は次のように述べた。WGの直接の目的ではないが重要な指摘なので紹介した。
 「障害者運動の活動家や障害者団体の代表たちは,ICFに対する重要な批判点として,その還元主義,好ましくない活用の可能性, そしてこの分類を支える倫理的枠組みの弱さを指摘している。このICFのような,政策形成や研究にとって強力でおそらく有効なツール, しかしまた自由を制限しプライバシーを侵害する可能性を持ったツールが,国際的なレベル,とくにその公的な展開プロセスにおいて, 厳格な監視の下におかれていないことは,受け入れがたいことである。不適切で,一貫性のないICFの活用は,障害分野や専門家の間で次第にICFへ の信頼性を損ねる結果になろう。」