2.障害者福祉サービスを取り巻く制度動向

 障害者福祉サービスを取り巻く制度は、この10年で大きく変わりつつある。ここでは、措置制度から支援費制度、自立支援法に至る流れを示す。

 

2-1.措置制度

 

 戦後長らく、障害者福祉サービスでは措置制度と呼ばれるサービス提供体制が中心であった。措置制度とは、以下のような概要である。

<措置制度の概要>
地方公共団体は、対象者を社会福祉施設に入所措置する
地方公共団体が措置の実施者である
地方公共団体は委託費として、対象者の生活費及び施設の事務費を施設に支払い、 施設は入所を受託した対象者にサービスを提供する
対象者本人やその扶養義務者に対して、負担能力に応じた費用を徴収する

 なぜ措置制度が採られるようになったのかについては、いくつかの理由が考えられるが、大きくは以下の3点が中心である。

<措置制度が採られるようなった要因>
各種福祉サービスの整備が不十分で、それらの資源に限りがあったため、行政側が限られた福祉資源を必要に応じて、効率的な割り当てを行う必要があったこと
生活保護法・児童福祉法でも措置制度が採られており、障害者福祉法でも参考にされたこと
制度の枠組みが議論されたときに、措置の考え方がすんなりと受け入れられて、措置の制度についての議論がなされなかったこと

 以上のような措置制度については、戦後の日本における福祉サービスの展開に重要な役割を担ったことは事実であるが、長い時間のうちに措置制度の根本的な課題が目立つようになってきたことも確かである。

<措置制度の課題>
サービスの利用者(すなわち措置の対象者)が施設や事業者を自らの意思によっ て自由に選べないこと
サービスの利用者と提供者のダイレクトな契約ではないため、利用者の自己決定 や利用者本位のサービス提供が貫徹されにくい傾向があること
サービスの利用者に利用者としての主体的な意識が働きにくいこと
サービスの提供において、創意工夫や効率性が追求されにくく、サービス内容の情報提供も不十分になりがちなこと
サービスの利用者と提供者の間で法的な権利義務関係が不明確になること

 そのような課題が表れてきた背景としては、以下のような点で、社会全体の変化が起こっていることが挙げられる。

<社会全体の変化>
公的責任の眼目が「結果の平等」から「機会の平等」に移ってきていること
国や地方自治体は福祉サービスの利用者と提供者を結びつけるコーディネーターとしての役割を期待されるようになってきていること
障害者に対する福祉サービスが拡充されてきていること
ノーマライゼーションや障害者の自立、社会参加といった概念が広く国民に浸透しつつあること

 

2-2.支援費制度

 

 措置制度の課題を解決するために、平成15年度より支援費制度が導入された。

<支援費制度導入の趣旨>
ノーマライゼーションや障害者の自立、社会参加を実現する
サービス利用者が提供者と対等の立場に立って、契約に基づいてサービスを利用するようにすること
サービスの利用者が自らの意思によって自由にサービスを選ぶことができるようにすること
行政は福祉サービスの利用料を支援すること

 支援費制度の枠組みにおいては、福祉サービスを受けたいと思う利用者は、居住する市町村に対して支援費の支給申請を行うことになるが、サービス給付に至る全体の流れは次ページに示す通りである。

 支援費制度の導入は障害者福祉において画期的なものであったが、問題点もまた早く顕在化した。主な問題点は以下の通りである。

<支援費制度の問題点>
身体障害・知的障害・精神障害といった障害種別ごとに縦割り的にサービス提供が行われる状況は変わらなかったため、サービス利用者からみて分かりにくいものであること
地方自治体間でサービス提供状況に格差が大きいこと
財源の確保が難しいこと


支援費制度の枠組み図

 

※画像をクリックすると、拡大画像もご覧になれます。

 

 

2-3.自立支援法

 

 以上のような状況を踏まえて、障害者福祉のサービスを抜本的に変革するものとして、障害者自立支援法が平成18年度から施行されることとなった。
 自立支援法のねらいとポイントは以下の通りである。

<自立支援法のねらい>
障害者の福祉サービスを一元的に提供する体制を確立すること
障害者の就労を促進すること
地域の限られた資源を活用できるよう規制緩和を行うこと
公平なサービス利用のために、手続きや基準の透明化・明確化を図ること
増大する福祉サービス等の費用を社会全体で負担し、支えあう仕組みを強化すること

 

<自立支援法のポイント>

1 障害者の福祉サービスを一元化

(1)給付の対象
身体障害者、知的障害者、精神障害者、障害児を給付の対象とし、障害種別に関わりなく共通の福祉サービスを共通の制度で提供する。
サービスの提供主体は市町村に一元化された。

(2)自立支援給付の内容
①介護給付費
ホームヘルプ、ショートステイ、入所施設、ケアホーム等のサービスが「介護給付費」として位置づけられた。
②訓練等給付費
 自立訓練、就労移行支援、就労継続支援、グループホーム等のサービスが「訓練等給付費」として位置づけられた。
③自立支援医療費
 これまでの更生医療、育成医療、精神障害者通院医療費の3つの公費負担医療が「自立支援医療費」に再編された。

(3)地域生活支援事業の創設
 地域の実情に応じて柔軟に行われることの望ましい事業として、相談支援、移動支援、日常生活用具、手話通訳等の派遣、地域活動支援等の事業が「地域生活支援事業」に再編された。

2 利用の手続きや基準の透明化、明確化

(1)障害程度区分の認定と支給決定
 福祉サービスの個別の必要度を明らかにするために、新たに設けられた「市町村審査会」の審査と判定に基づいて、市町村による障害程度区分(6 段階)の認定が行われる。
 給付を受けるために、利用者からの申請に基づいて市町村の支給決定が必要となる。

 

(2)ケアマネジメントの制度化
 適切な支給決定とさまざまなサービスを組み合わせたサービスの計画的な利用を支援するために、市町村または相談支援事業者によるケアマネジメントが導入された

3 サービス量と所得に応じた利用者負担

(1)原則は定率10%負担
 食費や高熱水費が実費負担となり、サービスの量に応じた定率1 割負担となる(ただし所得に応じた月額上限が設けられている)。
 ②公費負担医療の利用者負担
 新たな自立支援医療費では、医療費の定率1 割負担となる(ただし所得に応じた月額上限が設けられている)。

4 社会資源活用のための規制緩和

 市町村が地域の実情に応じて取り組み、身近な地域でサービスが利用できるよう、空き教室や店舗の活用を可能とする規制緩和が行われた。

5 障害福祉計画によるサービスの確保

 国の定める基本方針に即して、都道府県、市町村が障害福祉サービスや地域生活支援事業等の提供体制を確保するために「障害福祉計画」を定めることとなった。

 

(資料)東京都社会福祉協議会「障害者自立支援法とは…」に基づいて作成。

menu