3.社会福祉法人の経営課題

 「2.」で概観したような障害者福祉サービスの制度の変革は、サービスの担い手である 社会福祉法人のあり方にも大きな影響を及ぼすものであり、社会福祉法人の経営も変革が 迫られることとなった。

 

3-1.社会環境の変化と社会福祉法人への要請の変化

 

 まず、社会福祉法人とは何か、という点について整理しておく。
 社会福祉法人とは、1951 年に制定された社会福祉事業法(現在の社会福祉法)により創設され、「社会福祉事業を行うことを目的として設立された法人」である。
 社会福祉事業とは、社会福祉法第2 条に限定列挙されている第1 種社会福祉事業と第2種社会福祉事業を指す。

第1種社会福祉事業 生活保護法に規定する救護施設、更生施設などを経営する事業など
児童福祉法に規定する乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、知的障害児施設、肢体不自由児施設などを経営する事業
老人福祉法に規定する養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホームを経営する事業
身体障害者福祉法に規定する身体障害者更生施設、身体障害者療護施設、身体障害者福祉ホームなどを経営する事業
売春防止法に規定する婦人保護施設を経営する事業
授産施設を経営する事業及び生計困難者に対して無利子又は低利で資金を融通する事業
第2種社会福祉事業 児童福祉法に規定する児童デイサービス事業、助産施設、保育所などを経営する事業など
老人福祉法に規定する老人デイサービス事業、老人短期入所施設などを経営する事業など
身体障害者福祉法に規定する身体障害者デイサービス事業、身体障害者短期入所事業など
知的障害者福祉法に規定する知的障害者デイサービス事業、知的障害者短期入所事業など
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に規定する精神障害者社会復帰施設を経営する事業など
生計困難者に対して、無料又は低額な費用で介護老人保健施設を利用させる事業など

 

 第1 種福祉事業は、公共性の特に高い事業であって、対象者の人格の尊厳に重大な関係を持つものであるとされ、第2 種福祉事業は、第1 種福祉事業に比べると、事業実施に伴う弊害のおそれが比較的少ないものとされている。原則として、第1 種福祉事業は国・地方公共団体または社会福祉法人によって経営される。
 社会福祉事業の担い手である社会福祉法人の基本的な性格として、措置制度のもとでは、以下のような点が指摘されている。

 

<措置制度のもとにおける社会福祉法人の基本的な性格>
「公益性」と「非営利性」の性格を備えていること
社会福祉事業の「純粋性」を保って、その「公共性」を高めるために設けられたものであること
憲法第89 条による公の支配に属さない慈善または博愛の事業に対する公金支出禁止規定を回避するために設けられたものであること
社会福祉事業では公的責任の原則が適用され、公が責任を持って措置を行い、事業の遂行を社会福祉法人に委託する方式が採られてきたこと
<措置制度のもとにおける社会福祉法人の経営の傾向>
法人経営というよりは施設管理が中心になりがちであること
事業規模は零細になりがちであること
補助金と寄付が経営の前提となること
サービスが画一的なものになりがちであること
同族的な経営になりがちであること

 しかし、以下のような社会環境の変化によって、社会福祉法人の経営のあり方についても変革が迫られることとなった。

<社会福祉法人の経営に変革を迫る社会的な変化>
平成12 年度から介護保険制度が導入され、社会福祉の分野でも措置から契約への 転換が進展していること
社会福祉サービスが量的にも拡大していること
介護分野を中心に、営利法人やNPO法人など多様な担い手が活躍するようになっていること
国家財政や地方公共団体の財政が厳しくなっていること
認知症高齢者や独居高齢者の増加、ノーマライゼーションの浸透により施設から 在宅への動きが強まっていることなどを要因として新たなニーズが拡大していること
<社会福祉法人の経営に要請される変革>
施設管理から法人経営を重視するあり方に転換すること
自立・自律・責任に基づく経営の革新を行うこと
効率的・安定的な経営を確立すること
多角的・積極的な経営を展開すること
ガバナンスを確立して経営能力を向上すること
利用者の利便性や満足度を高め、利用者の選択を視野に入れた事業展開を行うこと
社会に対して積極的に情報開示すること
福祉・介護にかかわる人材の育成機関としての役割を果たすこと
先駆的な事業へ積極的に取り組むこと
社会福祉法人が持っている専門性や機能を効果的・効率的に地域に還元して、地域福祉のけん引役となること

 一言で言うと、社会福祉法人が、自らの努力によって利用者を獲得し、必要な資金を事業収入として稼得する経営マインドを持つことが要請されているのである。

図式 求められる社会福祉法人の経営のあり方

 

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3-2.規制改革と民間参入

 

 主として小泉内閣以降に行われた規制改革によって、福祉サービスの民間参入が促進されることが目指された。

<総合規制改革会議の流れ>
総合規制改革会議「規制改革の推進に関する第1 次答申」(平成13 年12 月)
総合規制改革会議「規制改革の推進に関する第2 次答申」(平成14 年12 月)
総合規制改革会議「規制改革の推進に関する第3 次答申」(平成15 年12 月)

 平成16 年3 月には「規制改革・民間開放推進3 カ年計画」が閣議決定され、株式会社等による特別養護老人ホーム経営の解禁も盛り込まれた。

株式会社等による特別養護
老人ホーム経営の解禁
(a)構造改革特区における公設民営方式またはPFI(民間資金等活用事業)方式による株式会社の特別養護老人ホーム経営の状況や、施設体系のあり方の見直しの状況を見ながら、全国における取り扱いなどについてさらに検討を進める。
(→逐次検討)
(b)構造改革特区で講じられた規制の特例措置の効果等を評価するため、の民間人からなる委員会を平成15 年7 月中に設立し、年内に評価方法や基準等を検討する。認定された構造改革特区において実施されている規制の特例措置について、評価のための委員会で特段の問題の生じていないと判断されるものについては、速やかに全国規模の規制改革につなげる。
(→逐次実施)

 その後、構造改革特区の事例として、北海道・乙部町、岩手県・一戸町の2町において、地方公共団体が設置した特別養護老人ホームの管理が株式会社に委託されている。

<北海道・乙部町の事例>
 公設公営の特別養護老人ホームを民間企業(株式会社ジャパンケアサービス)に管理委託することにより、施設サービスと民間企業(株式会社ジャパンケアサービス)が行っている在宅サービスおよび町が運営委託している通所介護とを併せた総合的なサービスの提供とともに、効率的・効果的な運営によって経費の節減が図られ、節減された経費を他の福祉サービス充実のための財源に当てることができる。 さらに、民間感覚を活かした良質で利用者本位のサービスを提供できるなど高齢者が住み慣れた地域で暮らせる高齢者福祉の確立を図る。
<岩手県・一戸町の事例>
 平成16年度に国、県の補助を受けて小規模の特別養護老人ホーム(定員20名)を町が整備し、平成17年度の開設に合わせて株式会社結愛サービス公社に管理委託する。 高齢者が住み慣れた場所で、心身ともに健やかで生きがいを持って暮らせるような介護保険サービスや介護予防・生活支援(地域支え合い)事業、高齢者保険事業のサービスを一体的に提供するなど高齢者福祉の総合的な推進を図る。

 

3-3.会計基準の変更

 

 措置から契約へと福祉サービス提供のあり方が抜本的に転換することに伴い、社会福祉法人の会計基準についても変革が行われた。平成12年2月に「社会福祉法人会計基準」が通知され、平成12年度から新たな会計基準が適用されることとなった。

<新たな会計基準の基本的な考え方>
社会福祉法人単位での経営を目指し、法人全体の経営状況が把握できる会計基準とする。そのために、従来は施設を会計単位としていたものを、法人一本の会計単位とされた。なお、各施設等の経営状況を判読できるよう、家計単位の内部に施設ごとや事業ごとの経理区分が設けられた。
社会福祉法人単位での経営を目指し、法人全体の経営状況が把握できる会計基準とする。そのために、従来は施設を会計単位としていたものを、法人一本の会計単位とされた。なお、各施設等の経営状況を判読できるよう、家計単位の内部に施設ごとや事業ごとの経理区分が設けられた。
会計基準は、法人としての高い公益性を踏まえた内容とされた。
会計基準は基本的な事項について定めたもので、詳細についてはそれぞれの法人で自主的に定めることとされた。
<留意点>
原則として、全ての法人について適用されるものとされた。
措置費(運営費)支弁対象施設のみを運営している法人については、当分の間、 経理規定準則によることができるものとされた。
これまで、経理規定準則が適用されていない法人については、当分の間、従来の会計基準によることができるものとされた。
病院会計基準を適用している肢体不自由児施設、重症心身障害児施設、助産施設及び老人保健施設等については、当分の間、従来の会計処理によるものとされた。
授産施設については、別途通知される予定の会計基準によるものとされた。
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