3.事業のまとめ

サービス管理責任者の業務実態を把握するために、平成19年度サービス管理責任者指導者研修の受講者232名に対してアンケート調査を行い、また、生活介護・療養介護、地域生活(身体)、地域生活(知的・精神)、就労、児童の各分野からそれぞれ5名、平成19年度サービス管理責任者指導者研修の受講者からサンプリングしてヒアリング調査を行い、さらに、各分野それぞれ5名の人に対して、サービス管理責任者業務実態タイムスタディを実施した。


(1)アンケート調査について

  アンケート調査は、①国の指導者研修に対する満足度、②指導者研修の内容が現場に役立っているか、③研修内容と現場とのずれ、④指導者研修の良かった点、⑤;指導者研修の内容の改善点、⑥テキストの内容に対する改善点、⑦都道府県研修を企画する上での課題、⑧サービス管理責任者の課題等について質問した。
障害者自立支援法に基づく事業への移行に関しては、41.4%が移行しており、27.6%がまだ移行していないと回答している。生活介護・療養介護の分野が新事業体系に移行している割合が13.8%と他の事業と比較して低くなっている。

①国の指導者研修に対する満足度

  指導者研修の満足度に関しては、各分野とも満足していると回答した者が多かった。概ね、研修の意図は達成されていると言える。サービス管理責任者の位置づけ、役割、責任、プロセス管理、地域格差・取組の違い等サービス管理責任者のコンセプトを理解したとの回答が多い。一方で、以下のような問題点も指摘されている。
・ 研修の時間的な余裕がない。
・ 資料が多く、消化不良の感がある。
・ 地域の実情とかけ離れている。
・ 事業希望者への研修・企画のポイントが欠けている。
・ 力量アップの道筋が欠けている。
・ 相談支援専門員との立場の違いや連携が明確にならなかった。等

②指導者研修の内容が現場で生かされているか

  約8割以上の受講者が、指導者研修の内容が現場で生かされていると回答している。職員の研修を開催したり、スキルアップに繋げている、現場での指導・助言に生かされている、着眼点・見通しなどのヒントを得られている等の肯定的な回答がみられた。しかしながら、以下のような問題点も指摘された。
・ 事業が新体系に移行していないため、研修で学んだことを生かし切れていない。
・ 勤務実態がサービス管理責任者と異なり、概念的には整理されたが現実とかけ離れている。
この点は、今後、事業を新体系に移行していくなかで、サービス管理責任者の研修内容
が生かされてくると思われる。

③研修内容の現場とのずれ

 研修内容が現場に生かされていると回答した人が多いが、現場とのずれを感じている人が多い。その理由として、
・ サービス管理責任者の業務に専念する環境を必要としている。
・ 現場の多忙さに追われている。
・ 兼務による困難さ・責任体制の未確立・地域へ関わる努力がある。
・ 支援ネットワークの未成熟・資源不足がある。等がある。

 これらの点を踏まえると、サービス管理責任者を取り巻く環境は、それぞれ受講者間によって異なっており、今後、サービス管理責任者だけを見るのではなく、職場環境、地域環境との関連のなかでサービス管理責任者をみる必要性を感じる。

④指導者研修の良かった点

 指導者研修で良かった点を質問したところ、サービス管理責任者の役割、サービス提供プロセスの流れがわかりやすい、演習においてファシリテーターの関わりや発言が勉強になった、ロールプレイを通じてサービス管理・アセスメント・モニタリング、自立支援協議会の重要性が理解できた等の意見があった。

⑤;指導者研修の内容の改善点

研修内容の改善に関して多くの意見を指摘している。
・ 内容が重複しているので、内容を厳選する必要がある。
・ 相談支援専門員との違いを明確にする。
・ 演習においてより具体的な事例を用いる。
・ 演習において事例が医学モデルの印象が強い。
・ 演習において討議する時間がほしい。
・ 個別支援計画の参考例・サービス内容のチェック方法・スーパーバイズの仕方・重度障害者へのアセスメント方法・利用者の意向の聴き取り方
等があげられている。研修内容に関する改善は、時間の問題もあるが、現状の3日間の枠は崩せないので、都道府県の研修と国の指導者研修を明確にすみ分けして、研修内容を検討する必要がある。

⑥テキストの内容に対する改善点

 概ね、現状のテキストを肯定的にとらえているが、少し修正してほしい、修正してほしいと回答した受講者もいる。修正点としては、
・ サービス管理責任者と他の職種との連携、自立支援協議会との関係
・ エンパワメントの視点にたった事例を取り上げ、アセスメント・モニタリングの手法を学ぶ
・ 具体的な困難事例・支援会議モデル・ツールとしてサービス管理責任者業務日誌・記録用紙・利用者がわくわくするような個別支援計画タイムを加える等が指摘されている。

⑦都道府県研修を企画する上での課題

 都道府県の研修に関してはほとんどの受講者が参画しており、実際に企画・運営して体験的に回答している。組織的な点では、
・ 障害者自立支援研修委員会(仮称)等の組織を立ち上げて研修を企画する
・ 県の担当者との温度差がある
内容的には、
・ 地域の特性に配慮した研修とすべきである
・ 研修の受講者間に意識の差があり、演習を進行するのが難しい
・ 相談支援のスキルに違いがあり、研修の質の担保を考えると研修の実際との乖離がある
・ 地方研修では、国の研修内容をそのまま実施することは困難であり、地方研修の内容を検討する必要がある
等の指摘があった。

⑧サービス管理責任者の課題

サービス管理責任者の課題として多くの意見が出された。
・ 施設の中での位置づけの明確化と関係機関との連携が大きな課題である
・ 相談支援専門員とサービス管理責任者の違い・業務内容の明確化・サービス管理責任者現任研修の検討・理事長及び施設長のサービス管理責任者の業務に対する理解
・ 個別支援計画作成における各担当職員との連携と調整会議のあり方・個別指導を含めた支援員の能力開発に関わる人事労務管理能力の向上・サービス管理責任者に係わる介護報酬の新設等の課題がある
・ 60名に一人の配置基準は現実的に無理がある、サービス管理責任者を管理する立場の人がいないのでモチベーションを維持することが難しい、新事業体系における日中活動支援と居住支援との連携と役割分担が課題となる
・ 個別支援計画の重要性をスタッフに理解してもらうことが難しい
・ サービス管理責任者としての業務を遂行するために、フィローアップ研修が必要となる等が指摘されている。


(2)ヒアリング調査について

 ヒアリング調査にご協力をいただいた方は、サービス管理責任者の業務を深く理解しているとともに、長年臨床経験を積んでいる方ばかりであった。また、都道府県の研修においても、中核的な役割を担っており、多くの示唆を得られた。

① 道府県の研修について

・ 都道府県の研修に携わって、日常業務との兼ね合いが難しく、研修プロジェクトの実行にかなり無理が出てきているようである。
・ 県の担当者の意識改革が必要である。
・ 日常業務との兼ね合いは、国の指導者研修の期日を早めるなどの工夫を考える必要があるかもしれない。
・ 国の指導者研修における都道府県担当者向けの内容を、都道府県の地域福祉プラン、施設の現状、整備計画、都道府県地域自立支援協議会の役割、地域連携システム体制等を加える。
・ 研修参加者の質の問題があり、フォローアップ研修の必要性がある。また研修を3日間ではなく4日間はどうかとの提案もあった。人材確保の観点から、基本的な部分=共通講義については、一定の専門性を持った人を国で認定し派遣をすることで質を維持していく。
・ リアリティのある事例を使用する必要がある。そのために、事例提供を義務づけることも考えるべきである。

②国の指導者研修の改善点について

・ 講義内容では、重複している内容が盛り込まれているとの指摘があり、内容を再度チェックし重複がないように検討する必要がある。
・ 地域に根ざした事例に変える必要がある。
・ 模擬評価会議を開催する。
・ アセスメント票等を細かく作り直し、標準的なものを示す。
・ サービス管理責任者・相談支援専門員の関係・連携を具体的に示す。

③サービス管理責任者の業務について

 サービス管理責任者の業務は、幅広く事業所の性格によって異なり、また、地域によっても異なることがうかがえる。ヒアリングによって、サービス管理責任者の業務はやりがいのある仕事であるが、管理業務、宿舎管理業務、事務業務、他の事業業務とのバランスが難しく、ほとんどの人は研修で指摘されたサービス提供プロセスの管理だけでなく多くの業務を抱えている。しかしながら、業務の多忙さより、利用者の思いをいかに実現していくかを真剣に悩んでいる様子である。ほとんどの人が意見として言っているが、事業所における人材育成・スキルアップに関する悩みや実践を伝えていた。

(3)業務実態調査(タイムスタディ)について

  業務実態調査によって、サービス管理責任者として働いている人の業務が幅広いことがわかった。通常のサービス提供プロセスの一連の流れである相談支援時の状況把握、アセスメント、個別支援計画の作成、個別支援計画の実施、中間評価、終結、関係機関との連携以外にも、実習生の受け入れ、事務的業務、説明責任、職場研修・スキルアップ等多岐にわたっている。これらの業務は、サービス管理責任者が置かれている職場環境、事業規
模によって異なっている。直接支援するタイプのサービス管理責任者、管理的な業務を兼ねているサービス管理責任者などタイプがあり、今後の業務分析を行うことによって、いくつかのタイプがあることが予想される。今回の業務コードをさらに検討を加えて、事業所が新体系に移行した時点でサンプル数を増やして調査する必要がある。そうすることにより、サービス管理責任者の業務指針あるいはワークインデックスが作成されてくると思われる。当面は、これらの幅広い業務を研修のなかでどのように位置づけるかが課題となる。

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