第3章 地域自立支援協議会の標準的な組み立てと進め方

第1節 標準的な組み立て

 ここで説明する重層的な組み立てについては、あくまでも標準的なものであり、人口規模や社会資源の状況等、地域の実情に応じて組み立てることが重要であると考えます。例えば、小規模自治体においては重層的な組み立てにする意味がない場合もあると思います。形は地域の実情に応じて設定するとして、協議会の運営に当たっては、ここで説明する各種会議の機能(役割)を理解して、形はどうであれ、それを意識した運営をすることが形骸化を妨げる工夫の一つになると思います。
また、必ずしも最初から先進地の形を真似ることが重要なのではなく、例えば、最初は個別支援会議と定例会からスタートして、必要に応じて専門部会(プロジェクト)を付置したり、開催回数を増やしていくなどのステップアップの視点で始めることが、形骸化を防止する現実的な体制づくりとも言えます。
ここでは、個別支援会議をベースとして、定例会、全体会、事務局会議(運営会議)、専門部会(プロジェクト)を置く重層的な組み立てについて説明します。(図3-1-1)
個別支援会議は、これまでも各地域でケア会議とかサービス調整会議等の名称で開催されてきたと思いますが、個々の障害者の課題解決やサービスの利用調整のために本人、家族、相談支援事業者及びサービス事業者等の関係者が集まって協議する場です。ここに集まった関係者は、Aさん個人の支援についてのチームですから、相談支援事業者を中心に最後まで責任を持つことになりますが、そのために必要な社会資源がないなど、個別支援会議では解決できない課題が明らかになります。そうした課題を地域自立支援協議会の定例会で報告したり、専門部会(プロジェクト)で深めることによって地域の課題として持ち上げていくことになります。

第1節 標準的な組み立て

 定例会は、個別支援会議など相談支援事業者の活動報告を中心に、参加者が地域の現状や課題などの情報共有を行う場です。地域の関係者が顔を合わせることも大きな目的ですので、定例的に、できれば毎月開催することが重要です。
全体会は、定例会や専門部会(プロジェクト)で積み上げてきたことについて、年2~3回程度、地域の代表者が集まって、意思決定をしたり確認する場となります。
専門部会(プロジェクト)は、個別支援会議から持ち上げられた地域の課題の内、事務局会議(運営会議)や定例会において、その課題に関係の深い者により、協議すべきと判断された課題について、比較的少人数で検討を深めていく場です。
そして、各会議の準備をしたり、地域自立支援協議会全体の運営・方向性を検討する場として事務局会議 (運営会議)を位置づけます。(図3-1-2)
なお、協議会の立ち上げ(初期段階)においては、個別支援会議をベースとすることは同じですが、定例会のみが位置づけられたものが基本的な形(図3-1-3)となります。そこから、必要に応じて専門部会(プロジェクト)等を付加していくことになるイメージです。


図3-1-2
図3-1-3

第2節 各会議の進め方と関係性

1.個別支援会議は協議会の命綱

1)個別支援会議とは

① Aさんの支援について、必要な関係者が随時集まって協議する場です。
②原則としてAさん本人や家族も出席しますが、必須ではありません。それよりも、常に、あるいは結果としてAさんのニーズに則した支援となることが重要です。
③基本的に相談支援専門員が主催しますが、市町村やサービス事業者が呼びかける場合も考えられます。特に、意識的に個別支援会議を定着させようとする初期段階においては、行政が主催する(お座敷を用意する)ことも有効だと考えます。
④ 参集する関係者については、その時点におけるAさんのニーズに対応した関係者が参集することとなります。
行政やサービス事業者だけでなく、民生委員や近隣住民の方等も考えられます。なお、同一法人や一事業所内のケア会議ではなく、地域の異業種・他職種の関係者が参集し、連携して支援することを指向することが望ましいと考えます。

2)個別支援会議のポイント

図3-2-1

① 個別支援会議は、Aさんの支援について協議する場ですから、そのために必要な関係者が過不足なく参画することが第一歩です。主催する相談支援専門員等が、利用が予想されるサービス関係者や支援に必要な情報提供者を中心に参集を呼びかけます。必要に応じてメンバーを入れ替えたり追加することもありますが、Aさんの支援について最終的に責任を持つ、課題解決のためのチームです。
② 本人のニーズや思いに沿った支援になっているか、常に自問自答しながら進めます。もし、話の方向が外れてきたら、元に戻すのが相談支援専門員の役割です。何のために、今日集まったかを忘れないことが重要です。
③必要な支援は、必ずしもすぐに用意できるものばかりではありません。すぐにできる支援と時間がかかるものを分けて議論することが肝要です。すぐにできる支援については、その場で具体的な役割分担を明確にします。現状ではできないことを確認することも大切なことで、地域自立支援協議会へ持ち上げていきます。
④頻繁に顔を合わせ、共にケースに関わり、悩むことで連携が醸成されます。個別支援会議の積み重ねが、顔の見える関係性やネットワークを作ります。個別支援会議で培(つちか)われた小さなネットワークが、地域のネットワークを作っていきます。


2.事務局会議(運営会議)は協議会のエンジンであり羅針盤


図3-2-2

1)事務局会議(運営会議)とは

①地域自立支援会議の運営に関して協議する場です。具体的には、定例会の協議事項や提出資料等の調整をする場であり、定例会の前に定期的に開催するとともに、必要に応じて開催することとなります。(定例会が第3水曜日の場合、運営会議は第2水曜日とするなどが考えられます)
②定例会等の調整だけではなく、協議会の運営の方向性や地域づくりに係る戦略を協議する場でもあります。
③ そのため、構成員は、行政と相談支援事業者を中心に、地域のコアなメンバーが想定されます。

2)事務局会議(運営会議)のポイント

① 事務局会議(運営会議)は、定例会等の日程や会議事項・会議資料の調整役(事務局機能)であるとともに、協議会全体の運営や方向性について協議する重要な会議であると考えています。言い換えれば、協議会の舵取り役でありエンジンといった位置づけです。
② 具体的には、協議会や地域の現状を把握分析して、課題はたくさんあると思いますが、その中から、今、何を優先して取り組まなければならないか、長中期的には何を狙っていくのかを協議します。そして、協議会のどこにその課題を投げかけたらいいかを決めていきます。もし、適当な協議の場がなければ、例えば、専門部会(プロジェクト)を設置する等の工夫をします。効率的な協議を行うための交通整理役です。
③ 開催日程等について、事務局機能として定例会等の日程に合わせた開催が必要になりますし、緊急的に方向性を出さなければならない事項がある時は、行政担当者と随時会議を開催できるようなフットワークの軽さも必要です。
④ 事務局会議(運営会議)は、個別支援会議とともに行政担当者と相談支援専門員が濃密な関係を構築できる絶好のチャンスです。お互いに機能を発揮するとともに、お互いの役割を尊重して、信頼関係を構築してください。
⑤ 協議会で議論する内容と、自治体(予算編成・人事異動等の一年間の仕事の流れ)や地域の動き(地域の行事等)を意識して、両方がスムーズに連動するように協議会の日程調整をすることが肝要です。例えば、市町村の予算が大方固まったところで新規事業等の提案をしたり、都道府県の事業申請時期を無視してグループホーム整備を計画しても意味のないこと(1年遅れやご破算)になってしまいます。


3.定例会で地域の情報を共有し、具体的に議論

図3-2-3

1)定例会とは

① 地域の課題について、地域の関係者が定期的に集まって情報共有・協議する場です。
②メンバーは実務者(現場)レベルが中心。(全体会は代表者レベルが中心)例えば、全体会が施設長で、定例会にはサービス管理責任者が出席するなどが考えられます。
③ 定期的(毎月)に開催することが望ましいと考えます。

2)定例会のポイント

① 地域の情報共有が、定例会の最大の目的ですので、参加者を絞るというより、福祉関係者だけでなく多種多様な関係者で構成される会議であると考えます。
②内容は、相談支援事業者からの活動報告が主です。活動報告の中には、サービス事業者等の工夫等についても報告されるわけですので、そうした工夫やアイデアを参加者全員が知ることで、職人芸的に行われてきた個々の工夫も共有できます。そして、行政や参加者からの情報提供や、事務局会議(運営会議)で全体に諮(はか)ることが必要だと判断された事項について協議します。
③何か月も前の活動報告や情報では意味がありませんので、定例会は間を置かず定期的に開催することが肝要です。毎月開催が望ましいと思われ、年間を通して毎月第3水曜日に開催する等ルール化しておくと、参加者の日程調整が容易です。
④困難ケースについて定例会で協議することも考えられますが、定例会は参加人数が多く、また様々な関係者が参加しますので、責任ある協議の場となり得るか、個人情報の管理の面からも吟味する必要があります。定例会では、情報共有の意味で、報告して助言を求める程度にとどめ、アドバイザーや相談支援部会等の活用が有効な場合もあると思います。
⑤相談支援事業者の活動報告は、情報の共有が目的ですが、同時に事業者の評価の場でもあります。また、どの事例、あるいは何を定例会に報告するかは相談支援専門員のセンスやプレゼンテーション能力が問われるところであり、相談支援専門員にとっても実践的な研修の場であることを認識してください。


4.専門部会(プロジェクト)で議論を深め、施策提案等を目指す

図3-2-4

1)専門部会(プロジェクト)とは

① 地域の抱えた課題について、課題ごとの地域の中核的なメンバーが集まり、議論を深める場です。
②具体的には、障害別、課題別(権利擁護、地域移行、退院促進、就労、進路等)、地域別、職種別等の専門部会を、地域の実情や緊急性に応じて設置します。必要に応じて、専門部会(プロジェクト)の追加や統廃合、メンバーの入れ替えも自由です。
③ 課題に応じて、定期的、あるいは集中的に開催します。

2)専門部会(プロジェクト)のポイント

①専門部会(プロジェクト)は、課題ごとに議論を深めて、課題解決のための調査研究や施策提案等の具体的な結果を出すことを指向します。事務局会議(運営会議)等から与えられた課題や専門部会(プロジェクト)としての課題について、期限を決めて計画的に調査・協議を重ね、定例会や全体会にその結果を報告(提案)します。情報共有や単なる議論の場ではないことを意識して運営します。
②専門部会(プロジェクト)は、障害別など、比較的大きな課題ごとに設置する場合もありますし、地域生活移行調査を行うためとか、地域啓発のためのフォーラムを開催するためのプロジェクト等、より具体的なテーマに絞って設置する場合もあります。一般的に取り組みが遅れているとされる精神障害や権利擁護、また、障害者自立支援法の目指すところ(地域生活移行・退院促進・一般就労)に係る部会設置について意識的に検討してください。
③地域には、他の制度や事業に位置づけられた退院促進・就労支援・特別支援教育等の協議会やネットワーク会議が存在します。会議の準備や出席で忙しくて、相談支援専門員の本来業務に支障を来しては本末転倒ですので、専門部会(プロジェクト)と他の協議会を兼ねるなどの効率的な開催が望まれます。

3)専門部会(プロジェクト)の設置例

①身体障害部会、知的障害者部会、精神障害者部会、障害児部会等、障害別に障害特性を踏まえて協議する場です。基本的には各障害別に協議しますが、共通する課題については合同で協議することも考えられます。
また、より具体的なテーマについては、ワーキングで深めることもできます。
②地域生活移行、権利擁護、就労支援、進路等、課題別に協議する専門部会(プロジェクト)を設置します。
障害別をベースに、より優先順位の高い課題別専門部会を設置することが考えられます。
③さらに、具体的な事項に係るプロジェクト的な専門部会を設置することも考えられます。例えば、地域資源マップの作成、地域生活移行に関する利用者調査、地域啓発のためのフォーラム開催についての部会です。
特に、協議会立ち上げ時においては、より具体的なテーマで専門部会(プロジェクト)を設置・運営することが効果的であると考えます。
④その他、大規模自治体等における地域別部会、広域で協議会を運営する場合の行政部会、サービス事業者や相談支援事業者の職種別専門部会が考えられます。


5.全体会で地域課題を確認し、施策提案等へ

図3-2-5

1)全体会とは

① 地域の課題について、地域の関係者が情報共有・協議する場です。
② メンバーは関係機関の代表者レベルが中心。(定例会は実務者(現場)レベルが中心)例えば、全体会には施設長が、毎月の定例会にはサービス管理責任者が出席するなどが考えられます。
③ 年2~3回程度開催します。

2)全体会のポイント

①全体会では、定例会等に参画している各関係機関・団体等の代表者レベルが集まり、地域自立支援協議会全体の計画、実績、方向性等について協議・確認します。定例会や専門部会(プロジェクト)で協議された事項や施策提案等について、協議会全体として意思確認を行います。そして、具体的に地域として取り組んだり、自治体へ提案してくことになります。
②地域自立支援協議会の重要性や相談支援の日常的な活動について、各関係機関・団体等の代表者に伝えて認知してもらうという点からも重要な会議です。また、地域のシステムとして協議会や相談支援体制が機能するためにも必要な会議です。


6.個別課題等の普遍化

図3-2-6

 地域自立支援協議会は、会議を設置することが目的ではなく、個別支援会議等から持ち上げられた課題を、Aさん個人の課題から地域全体の課題として普遍化していく、そのプロセスを行うためのシステム(仕掛け)です。
地域の相談支援従事者は、個別支援会議や普段の相談支援業務を通じて、様々な「できない」「サービスがない」「使いづらい」等に遭遇しているはずです。そして、それらについて、立ち話をしたり、仲間内で愚痴を言い合ったりしていませんか。それで終わってしまったのでは意味がありません。その立ち話や愚痴を整理・集約して「何とかしましょうよ」と提案・問題提起する場が地域自立支援協議会です。
以上の整理・集約をする場が事務局会議(運営会議)です。これはみんなに知っていてもらいたいから定例会でじっくり報告してもらおうとか、実態調査みたいなものが必要だから専門部会(プロジェクト)で話をつめてもらおうとか、交通整理役である事務局会議(運営会議)で協議・調整していきます。
また、公的なサービスや制度がない中では、インフォーマルサービス等を工夫して凌(しの)いでいるはずです。そうした職人芸的な支援の工夫についても、定例会で報告することによって参加者全体に伝えることができます。
そして、そのプロセスを官と民、あるいは他業種・他職種の人間が協働することによって、真の連携が醸成されていくのです。協議会を設置して、自己紹介をしたからといって自然に連携ができるわけではなく、個別支援会議で具体的な連携の経験を積み重ねたり、定例会で具体的な情報を共有したり、そうした協議会の運営を通じて連携が徐々に培(つちか)われ、協働の成功体験を積み重ねることで地域の支援力が高まっていくのです。
個別支援会議からの課題を、全体(定例会・全体会)で協議し、個別の課題を地域の課題とすることが大きな流れで、そのプロセスを円滑かつ効率的に運営するために事務局会議(運営会議)や専門部会(プロジェクト)があるといったイメージです。(表3-2-1)

表3-2-1
図3-2-7

7.地域における工夫

1)必要に応じてステップアップしていく

 まずは個別支援会議を日常化させて、定例会を定期的に開催することからスタートします。(図3-2-7「基本型」参照)併せて、方向性を確保するために、相談支援事業者と行政を中心とした事務局会議(運営会議)を持つことも必要です。事務局会議(運営会議)は、既存の相談支援事業者の連絡会議や勉強会を母体にしてもよいですし、ない場合は、行政が呼びかけることが現実的だと考えます。相談支援事業者を中心に、地域を作っていこうと指向するメンバーを集めることがポイントだと思います。
そして、個別支援会議や定例会で見えてきた地域の課題について、必要に応じて専門部会(プロジェクト)を設置していきます。定例会は多種多様な関係者が参加していますので、特定の課題については、専門性を確保したり、ある程度人数を絞って議論を深める専門部会(プロジェクト)の必要性があると考えています。
全体会は、定例会に参集する機関・団体等の代表者が年に何回か集まって、協議会の方向性や施策提案等について意思決定する場ですので、メンバー構成によっては定例会がその役割を行う地域もあるものと考えられます。


2)大規模市・政令市等における、市協議会と区(地域)協議会

 人口規模の大きな市、例えば政令市においては、地域自立支援協議会を市の全体会の設置に加えて、区(地域)ごとの協議会を設置するなどの工夫を講じているところがあります。都道府県地域自立支援協議会と地域自立支援協議会のような関係です。


3)複数市町村による共同設置

 社会資源の利用状況等から、特に一般的な相談支援を複数市町村で共同実施している場合には、地域自立支援協議会についても複数市町村で共同設置することが考えられます。従来から圏域ごとに調整会議を行ってきたところも多いと思いますので、自然な流れとも言えます。その場合、協議会で確認された施策等が絵に描いた餅に終わらないように、予算権限を有する自治体担当の協議の場として行政部会を設けることも有効です。


4)圏域調整会議と地域自立支援協議会

 市町村が設置する地域自立支援協議会と都道府県が設置する都道府県自立支援協議会との間に、広域的な課題等を協議する場として圏域単位の協議会を設置している都道府県もあります。事務局は、県の現地機関や代表市町村が担当しています。


地域自立支援協議会←→圏域協議会(調整会議)←→都道府県自立支援協議会

第3節 立ち上げのポイント

 「自分の市町村にいる障害のある人が地域で安心して暮らすためにどのような仕組みを作ればいいのか」という課題は地域を越えて普遍的なものです。さらにこの課題は時代を越え、制度を問わず存在しています。過去からこれに取り組んできた都道府県や市町村は障害者自立支援法が施行される前から独自のシステムを作り対処してきています。法の施行後、改めて地域自立支援協議会とは何かから考えている市町村は当然立ち遅れてしまいます。
しかし、そのギャップを埋まらない溝として捉えるのではなく、福祉文化の差として捉え直してみて欲しいと思います。なぜわが町では障害者施策がうまく進まないのか、なぜ当事者たちに元気がないのか。その大きな原因に「個別支援の質」の問題があるということに気づくだけできっと文化は大きく変えられます。「個別支援の質」を上げるための大きな道具がこの地域自立支援協議会なのです。
*ここでは市町村をモデルとした説明を展開しますが、市町村を圏域や圏域市町村と読み替えていただいても通じるように構成しています。
* 文中で特に断りのない限り地域自立支援協議会を協議会と表記します。

 なお、ここでは8つの段階に分けて地域自立支援協議会の立ち上げのポイントを整理します。


ステップ1 共有する「なぜ地域自立支援協議会が必要なのか」

ステップ2 設計する「どのような筋立てならうまくいくのか」

ステップ3 協議する「どのような組織構成を考えるのか」

ステップ4 説明する「誰にどのように声がけしていくのか」

ステップ5 規定する「どんな法規を整備するのか」

ステップ6 組立てる「どのような手順で進行するのか」

ステップ7 工夫する「どのように資源を活用するのか」

ステップ8 展開する「どのように発展をさせていくのか」


ステップ1「なぜ地域自立支援協議会が必要なのか」を共有する

図3-3-1

ポイント
そもそも何のために協議会が必要なのかについて行政担当課が十分な理解をしておくことが出発点です。そして今後重要なパートナーとなる(委託)相談支援事業者とその意義を共有しておくことが大切になります。
キーワードは「明確な意義の共有」です。

具体的には…

 協議会を設ける意義についてどのように考えますか?またどのように周囲に説明するでしょう?厚生労働省が示した評価実施、情報共有、困難事例調整、社会資源開発、構成員教育、権利擁護といった一般的に考えられる機能をより具体的に示さないと、関係者だけでなく住民や当事者への説明は困難です。上図の10のメリットは地域生活支援の観点から見たもので、地域を強く意識していること、社会資源の開発やサービス改善を重視していること、相談支援事業者との協働関係を中心に据えることで自ずと出てくるポイントです。多くの市町村で、①過去に個別支援会議がうまく機能せず、意図した社会資源の改善開発ができなかったこと、②施設から在宅へ戻るための支援体制が整っていないためそれを支援するサービスを成立させかつ機能させる必要があること、③福祉サービス供給に限界があり、地域住民の力と相談支援事業者の力をうまく合わせていかないと支援に行き詰ることが共通課題としてあることから、上図にあるような4つの目的も共有しやすいと思います。無論それぞれの地域によって、協議会をどのような形で利用するのかは異なってくるはずです。大切なことはその意義を協議会の構成員がしっかり共有しておき、何か疑問が起こった時には、そこに立ち帰れるようにしておくことです。「一体何のために協議会をしているのだろう」という疑問は利害が対立する人たちが入ってくれば来るほど深まります。そんな時にこのメリットをしっかり説明できなければ、特に相談支援事業者との関係づくりは難しくなります。まずは協議会のコアになるメンバーの中で、何を目指して協議会を持つのかについて徹底的に話し合いを持っていくことから始めてください。


ステップ2 「どのような筋立てならうまくいくのか」を設計する

図3-3-2

ポイント
地域にはそれぞれ特性があり、協議会の目的を達成するためのストーリーもその地域性を活かしてこそ描けるものです。山間島嶼地域から政令指定都市まで、そこにあるヒト、モノなど様々な資源を活用した筋立てを考えます。キーワードは「地域特性」です。

具体的には…

 「協議会を設ける意義はよく解るが自分の地域には参加するメンバーすら見当たらないし、相談支援事業者もない。」というのが多くの町村が置かれている現状です。実際、多くの小規模町村では地域包括支援センターが唯一の相談者で高齢者地域ケア会議が合議機関になっていることが多いのです。このように先行して出来ている仕組みを活用して協議会と同様の機能を持たせることももちろんOKです。高齢者から児童まで世代を超えた地域課題を様々な人が集まって考える場を作ったほうが、より住民力が発揮され総合性で優れているとも言えます。逆に都市部では事業者が多く、様々な利害の調整をしなければなりませんが、それぞれの事業者やNPOの専門的な領域を活かした仕組みを作ることも可能です。どちらがいいということではなく、それが地域的特長であり限界でもあります。ただし、その限界をカバーするためにある筋立てを想定しておく必要があります。複数の市町村が圏域メンバーで協議を行う時には事業所のサービスエリアを平等に活用できるようにしたり、相談支援事業者が複数ありサービスエリアが重なっている場合には相談支援専門員が相互に対応できるように委託料や委託範囲を合議するといったように、お互いの住民が不利益にならないように工夫してデメリットを防ぐ必要があります。こうした合議に加わらない市町村があると圏域の相談支援事業自体が停滞することもあります。都市部ではあまりに人口が多すぎて圏域が広大になり、かえって圏域内事業所の協議会への帰属意識や参加意欲を下げているところもあり、より一層小さな相談エリアを設定して小規模拠点を設置するなど、圏域を身近なものとする工夫が求められます。


ステップ3 「どのような組織構成を考えるのか」を協議する

図3-3-3
ポイント
地域課題を解決するために効率的な組織を編成する必要があります。小さな地域では複雑な組織は不要ですし、都会では多くの関係者がいて、一度に集まることが難しいので、どうしても重層的な形にせざるを得ません。キーワードは「問題解決型」です。

具体的には…

 協議会は個別支援会議で出てくる課題を解決するために最も効率的な組織とするべきです。個別支援会議では利用者のニーズを掴み、それを解決するために支援計画を決めていきますが、その際に現行のサービスでは解決できない課題が残ることがしばしばです。相談支援を行っていると普段からそれらの課題にはいくつかの共通項があることに気づきます。ところが、しばしば「こうしたサービスや地域資源があればいいがどうすればできるだろう」という想いはあるもののそこで止まってしまい、結果的に利用者のサービス改善につなげられず、利用者のエンパワメントが進まないことが見受けられます。そこで、毎月定例の相談支援事業者等で「どうすればできるか」について議論をする場(上図では運営兼定例会議)を設けます。この場で例えば「保証人なしで住める賃貸住宅の確保」が上がれば、住居に係る関係者、企業を集めた部会(上図では専門部会)が召集されます。部会では専門家の意見を聞きながら真に使える支援策とするためのフロー作成や関係者の役割分担が決められ、同時に事業を行う際の相互の協力が確認されます。ほとんどの作業はここで終り、全体会で情報が共有されることになります(上図では全体会、ここで当事者の人たちの意見を聴くこともひとつの手です)。
さらに、組織運営に相談支援事業者が積極的に関わるかどうかは大きな鍵になります。司会役に相談支援事業者がなることが多いのですが、彼らが利用者の想いを専門家や企業、住民などにうまく訴えていくことで問題解決に向けた雰囲気が大きく変わります(例えば、委託相談支援事業者を各部会のリーダーとすることが考えられる)。


ステップ4 「誰にどのように声がけしていくのか」を説明する

図3-3-4
ポイント
問題を解決するために動いてくれる人々をどれだけ集められるかが勝負です。小さな地域なら住民の顔が見えるでしょうし、都会なら動きのいい事業者かもしれません。また、人材を集めるための説明力も問われます。
キーワードは「形式に拘(こだわ)らない人選」です。

具体的には…

 部会の編成が決まるとそれぞれの構成メンバーを選ぶ作業です。繰り返しますが課題解決が目的ですからこれまで積極的に問題解決に当たってきた現場レベルの職員や地域の実践者を中心に選ぶのが基本です。地域の利害に配慮しすぎて?物言わぬ人や自己主張ばかりを繰り返す人を入れてしまうと部会の雰囲気が一気に壊れてしまいます。ポイントとしては、①相談支援専門員との良好な関係や地域での信頼感(実績)を有していること、②部会の趣旨(ステップ3で述べたような流れを説明し、あくまでどのようなフローでどのような役割分担で問題を解決するかを議論し、かつ自ら実践していく仕組みを作る場であること)を理解していること、③利用者のエンパワメントや権利擁護を重視し、そのために所属組織のサービスや利害を調整する能力があること、です。最初からこれらすべてを有している人は実際には少なく、資質を持っていれば議論を進める中で条件が整備されていきますので、前向きにメンバー選考を進めてください。また、メンバーの固定に拘(こだわ)る必要もありません。部会は議論するテーマに関して意見を聴くために、必要に応じてゲストを呼ぶことも可能です。
特に医師、弁護士など専門的職種の人たちは、業務の関係から定期的参加が困難であることが多いので、部会のレギュラーメンバーに入れるよりも、ポイントを絞ってアドバイスをもらう方が現実的です。議論を効率化するためには数多いメンバーよりも、誰をレギュラーとし、誰をゲストとするかという整理をきちんと行うことが重要です。無論、レギュラーメンバーには可能な限り部会への皆出席が求められますが、日程や開催時間等に配慮することも必要です。


ステップ5 「どんな法規を整備するのか」を規定する

図3-3-5
ポイント
行政内部や議会、市民に説明するための法規的整備は当然必要になります。それぞれの市町村の事情により規定の持ち方も様々ですが、審議会(施策推進協議会等)など上位機関や役所内のコンセンサスに配慮した協議会の位置づけが理想です。キーワードは「組織の目配り」です。

具体的には…

 地域自立支援協議会は厚生労働省令に基づく協議の場です(第8章Q&Aコーナー参照)。地方自治法では国に準則がある時には条例化の必要はなく、したがって多くの市町村では要綱により協議会を規定しています。
市町村の事情によっては条例による附属機関とするところや規則で規定するところもあるようです。いくつか共通する課題があるとすれば、①要保護児童対策地域協議会や地域ケア会議など既存の組織を活用した協議会をどのように規定するか、②協議会での課題を自治体の内部の関係課と調整をしやすくするために組織規定はどうしたらいいか、③協議会で生み出された改善案を自治体の施策とするためにどのような組織規定をするかという点だと考えられます。①は小規模な自治体では現実的な課題です。恐らく専門家の数も限られているので、障害者、高齢者、児童といった壁を越えた協議会という形で統合化して運営することが効率的で実際的な議論ができるのではないでしょうか。いずれも要綱の規定ですからそれぞれの要綱を改正するよりも新たな要綱規定を作成することになります。②については行政内部に各課長レベルからなる幹事会的組織を要綱に位置づけておくことで解決している例が多いようです。③については協議会での提案を受けてこれを障害福祉担当課が施策とするためにオーソライズする場として審議会(施策推進協議会等)などの諮問機関を活用することが考えられます。この場合、諮問機関は、通常、条例上の附属機関ですから、要綱で規定された協議会との整合が問題になります。上図の例では協議会の中核メンバーと審議会の委員を一致させることで意思統一されるような工夫をしています。

 

ステップ6 「どのような手順で進行するのか」を組立てる

図3-3-6

ポイント
利用者の権利擁護に関わる課題が協議会のテーマになるので相談支援事業者などに丸投げするのではなく、行政担当課は進行管理をすることが重要です。提出される事例、課題を事前に中心メンバーとしっかり把握しておきます。キーワードは「原点は個別支援会議」です。

具体的には…

 協議会での議論の流れは一定しているわけではありませんが、課題の深さによって概ね3つに整理できます。
①個別支援会議で生じた課題を相談支援専門員の定例会で出し合うことで他の相談支援事業者からのアドバイスで解決に持っていく場合、②それではうまく解決できないので関係する専門家の意見を聞く専門部会(プロジェクト)を設けて、それらの人たちの協力や理解によって問題の解決に繋がる場合、③単なる理解・協力だけでは継続的な解決が困難で何らかの制度や仕組みづくりをしなければならない場合、④③のような仕組み(居住サポート事業や退院促進事業、成年後見人の申立て事業)を作った場合にその運用をチェックするということも考えられます。いずれにせよ、議事の根拠は個別支援会議で出てきた課題となるので、①その要点記録と出てきた課題を書式を統一して積み上げておき定例会でテーマとして取り上げられる形に整えておくこと、②定例会では多くの課題を一度に取り上げるのではなく、構成員に共通したものの中から優先度の高いものを決めて解決の道筋を探り、お互いのノウハウだけでは解決できない課題を絞って専門部会(プロジェクト)に投げかける、③専門部会(プロジェクト)では当該事例を自分のクライアントとして捉えてもらい具体的な対応策を練り、専門家としてあるいは業界として解決できるなら受け入れていただき、制度的な仕組みを作るならその案を提示する、④制度案を全体会に諮り承諾を得る(必要に応じて審議会等に諮問して予算化や計画化をする)、⑤構成員が合同して仕組みの最終調整を行い制度のスタート後も運用面の問題を修正する、という流れを作り、最終的に利用者の個別支援のフォローアップまでつなげます。


ステップ7「どのように資源を活用するのか」を工夫する

図3-3-7
ポイント
協議会に外せない機能として社会資源の開発があります。利用者のエンパワメントに必要な環境づくりのために役立つマンパワーと場の確保、そして仕組みづくりをネットワークで解決することになります。キーワードは「領域を越えたネットワークづくり」です。

具体的には…

 地域ネットワークの構成要素には住民のネットワーク、専門職のネットワーク、さらに企業やNPOなど地域にある様々な活動組織が考えられ、協議会が起点となってどのように情報を共有し、課題解決に向けた動きを作るかによって社会資源の開発成果に大きな差が出てくると言えます。そこで自治体としては、地域住民には直接障がい者本人や家族を見守る役割があり、その手助けを地域内の活動組織が行い、専門職はその動きを見ながら専門家として関わるべき場面に適切な支援を実施し、相談支援事業者は権利擁護の観点から利用者のこれらのネットワークの活用を支援してエンパワメントにつなげる、という大まかな役割分担を描いてネットワークづくりに取り組む必要があります。例えば、不可解な行動をするため住民が迷惑がっている利用者がおり、家族にも対応する力が不足しているという事例では、地域住民の理解と協力なしには生活継続ができないので、相談支援専門員は近隣住民、自治会、民生児童委員に働きかけを行います。その時、協議会の一員として行くのか一民間事業所として行くのかでは大きな違いです。協議会の一員として、地域で住民と支援開議を開催できるからです。そこでは、何か対応に困った時にはそれを支える活動組織、例えば、当事者による家庭訪問や就労支援があり、いつでも応援できること、その後ろにはホームヘルプやデイケアを実施する医療機関などのプロもおり、これらの人たちがすべて協議会のネットワークとして機能し得るということは極めて大きな力になります。さらに、そうした協力関係から新たな社会資源が生み出される可能性が高まります。実際に空き家を住民が提供し、そこに活動組織が利用者の居場所を運営して引きこもりを防いでいる例があります。


ステップ8 「どのように発展をさせていくのか」を展開する

図3-3-8
ポイント
協議会は様々な拡がりを持つ可能性を持っています。居住サポートは1人暮らし高齢者や母子家庭にとっても役立ち、就労支援はホームレスのアルバイト先確保につながり、普遍的な社会資源を生み出すことになります。キーワードは「分野を越えた資源の開発」です。

具体的には…

 地域は元々対象者別に分かれているわけではありません。家族の中もそうです。高齢者から子どもまで様々な課題を抱えた人たちで構成されていますから、協議会の中の議論もどんどんファミリーケアや地域コーディネートというような視点で語られるようになるでしょう。高齢者の地域ケア会議や子どもの要保護児童対策地域協議会でも同様の視点が高まります。地域のネットワークづくりや地域資源の活用という観点からすると対象者別の縦割りは非効率的であり、かつ効果薄です。ステップ7で述べた地域の居場所も世代を越えて様々な人たちが出入りすることで初めて活性化します。自治体としては地域ケア会議や要保護児童地域対策協議会の現在の社会資源の開発機能の高さを判断して、それが既に十分に高ければ地域自立支援協議会を合流させるということも考えていいでしょうし、そうでなければ地域自立支援協議会の開発機能を他の会議に反映させるという意図も持つべきでしょう。
上記の図に示したとおり、利用者の個別支援をきっかけにしてそれを地域づくりにまで発展させ、さらにレベルの上がった地域が利用者を支えるというプラスのスパイラルを実現するためには、協議会のように地域ネットワーク形成と地域の社会資源開発を意図した仕組みが不可欠になります。地域ネットワークの充実は利用者の発見にも寄与し、情報を知らないまま先の見えない生活を送る障がい者を減らすことにもつながります。
福祉行政だけでなく、住民自治の立場から、住民の安全の確保の立場からと様々な観点から幅広くこの仕組みを評価し、発展させていくという視点が重要となるでしょう。

おわりに

 今回お示ししたステップの考え方は、実際に取り組む中から感じたことを振り返ってみてポイントを整理したものであり、すべてのプロセスを網羅したものではありません。協議会は、立ち上げた後に運営をしていく作業の中でどんどん中身が変わっていくものですから、ガチガチに決め事をしてもなかなかうまく進めなくなるものです。
むしろ、ここでおさえて頂きたいのは、細かなことが詰めきれずに協議会の運営を諦(あきら)めてしまったり、利害関係者の対立を避けるために利用者の権利擁護を後回しにしてしまう協議会を延々と続けるようなことは絶対に避けていただきたいということです。協議会の体裁のよさや豪華なメンバー構成よりも、どのような議論をして結果として何を生み出したのかが問われる訳で、そのような結果を出してくれる協議会をまずは目指して何でもぶつけ合えるコアメンバーを早く見つけるところから始めてみていただければ幸いです。


イラスト
コラム

精神障害者地域移行支援特別対策事業と相談支援事業・地域自立支援協議会

1)精神障害者地域移行支援特別対策事業の創設の目的

 平成18年度から実施した精神障害者退院促進支援事業で浮かび上がってきた課題は、自立支援員による個別支援により、推進が図られつつあるものの、医療機関等から地域生活への移行及び定着を支援する体制を整備するための総合調整機能が弱いことでした。
そこで、精神障害者退院促進支援事業を見直し、より医療と福祉及び地域の連携を図ることを目的とした「精神障害者地域移行支援特別対策事業」が平成20年度から開始されることになりました。

2)見直しのポイント

 「地域移行推進員(自立支援員)」に加え「地域体制整備コーディネーター」を指定相談支援事業者等に配置し、精神科病院・関連施設の事業利用対象者が地域生活に向けて地域の福祉サービス事業者等を円滑に利用できるように、関係者の連携を図り、相互に協力しながら事業を進めます。
①地域移行推進員(自立支援員)の役割
病院・施設等における利用対象者のニーズに沿った地域移行支援を推進するための、退院等に向けた啓発活動や個別の支援計画の作成、院外活動に係る同行支援等といった個別支援を主に担当します。
②地域体制整備コーディネーターの役割
病院・施設等への働きかけ、必要な事業・資源の点検・開発に関する助言、指導、複数圏域にまたがる課題の解決に関する助言等といった退院・退所・地域定着に向けた支援に必要な体制整備の総合調整を担当します。

見直しのポイント

3)精神障害者地域移行支援特別対策事業と相談支援・地域自立支援協議会

 精神障害者地域移行特別対策事業の実施にあたっては、地域移行推進員は利用対象者のニーズを聞き取り、地域体制整備コーディネーターは利用者が暮らしたい地域の情報を得て、医療関係者とその地域の相談支援事業者等と連携を図りながら、関係者がチームとなってそれぞれの役割を担います。そして、支援の困難な事例や事業を進めていくことによって明らかになった課題等については、関係者が問題意識を共有する場として、地域自立支援協議会を活用します。具体的には地域移行部会等を設置し、部会で明らかにされた課題を地域の問題として地域自立支援協議会で議論し解決の方向性を見いだします。

精神障害者地域移行支援特別対策事業の流れ(イメージ)
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