イントロダクション

障がい者自立支援法が施行され、はや3 年が経とうとしている。同法では、国と都道府県による重層的な支援を受けつつも、市町村が一元的に制度運用を担うことが明確に示された。ただしそれを行政が単独で行うことは想定しておらず、障がい当事者を含む地域の多様な団体や個人の役割を重視し、協議・協働しながら遂行するという考え方が示されている。それが「地域自立支援協議会」である。その新しい仕組みに設置主体の行政だけでなく、参加する関係機関の期待も高まっている。
障がい者自立支援法は、法の成立から施行までの期間が極めて短く、当時、市町村は制度改正に伴う事務手続きに忙殺されていた。そのため、多くの市町村で地域自立支援協議会の運用方法についての十分な議論がされることなく協議会が設置されたケースが見受けられている。豊田市においては、平成19 年1月より自立支援協議会設立準備会を開催し、設置に向けての議論(協議の場を作るための協議)を丁寧に積み重ね、平成19 年11 月に「豊田市地域自立支援協議会」を設置した。協議会では、設置からのこの1 年半の間に、積み上げられた多くの地域課題の整理、協議を行ってきた。協議することにより、着実に協議会は活性化し、協議体としての自律性を育むことができたのではと自負している。
本書の執筆は、その到達点を確認するための1つのステップだと考えている。平成19 年11 月の設置は決して他の地域に先駆けているわけでもないし、現段階での具体的な成果が見えているわけではない。しかし、私達がこの間に重ねてきた議論の痕跡とそこに込められたミッションを、これからの自立支援協議会を担っていく後進に伝えるために、そして立場や地域を超えた多くの仲間と共有し、議論するために本書の発刊に至っている。
自立支援協議会がどんなに活性化したとしても、それだけで障がいのある人の暮らしを支えることはできない。地域全体でその暮らしを支えていくためには、相談支援事業者だけでなく障がいのある人に関わるすべての機関、そして地域住民の方々にも理念と情報を発信する必要があると考えている。本書をきっかけとして、1人でも多くの方に、「豊田市地域自立支援協議会」の存在と、地域での暮らしを支えるという理念を知ってもらえれば幸いである。
本書は、大きくは2部で構成される。前半は、「地域自立支援協議会の設計思想と運用マニュアル」として、豊田市地域自立支援協議会の仕組みを紹介している。§1~3の総論は、関係機関だけでなく、他機関、他地域にも仕組みを広く紹介するための概説である。
§4~10 の各論は、豊田市の自立支援協議会の運用マニュアルに相当するものである。運用の指針としてこれまでの取り組みとそこに至る経緯を再整理したもので、今後新たに協議会に参加するメンバーへのメッセージを含んでいる。
後半は、「相談支援事業からみた地域自立支援協議会」として、個別事例に即して自立支援協議会の果たしている役割についての検証である。具体的には、自立支援協議会のメンバーである相談支援事業者による事例検討のレポートを紹介する中で、自立支援協議会の可能性と課題を整理している。これから自立支援協議会を担う新たなワーカーへの研修テキストに相当するものである。

※ 本書における表記について

◇障害の「害」をひらがなで表記することについて 豊田市では、平成19 年12 月26 日「豊田市障害の表記方法の特例を定める条例」(条例第101 号)において、「表記方法の特例を定めることにより、市民の障害者に対する関心及び理解を深め、もって障害者の福祉の増進に寄与すること」を目的として、法令中の障害の用語を含め「障がい」と表記することを定めている。

◇「共働」について
本書で「協働」を「共働」と表記することについて、豊田市では市民と行政が協力して働くことのほか、市民と行政が、共通する目的に対して、それぞれの判断に基づいて、それぞれ活動することも含んで、“共に働き、共に行動する”ことでよりよいまちを目指すことを意味しており、本書でもこの表記を用いている。

◇「ワーカー」について
本書では、相談支援事業者の実務者を意味する用語として「ワーカー」を用いている。
「ワーカー」という用語に、特定の制度上の意味合いを持たせてはいないし、市としての明確な定義があるわけではない。自立支援協議会に関わるワーカーの職種や立場は多様である。しかし、コーディネートだけでなく、実際のサービスに裏打ちされた相談支援を展開したいという思いから「ワーカー」という用語を従来から用いてきており、本書でもそれを採用した。なお、本書で「自立支援協議会」「協議会」と表現する場合には、特別な説明がない限り、自立支援法に基づく「地域自立支援協議会」を意味する。

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