第4章 分析結果と考察

第1項 分析結果

 表2-1は別途真理表4を作製したものの中で、該当事例、効果あり事例があったもののみを抜粋している。独立変数の数値は、原因が存在する場合に1、欠如する場合に0とした。従属変数の数値は結果現象がみられる場合に1、見られない場合に0とした。また、独立変数値の組み合わせ該当事例の中に、結果現象の起きた事例と起きなかった事例があった場合、矛盾行として「?」で記している。ここでは、鹿又ほか(2001)による「各行における結果現象の生起率を全体のそれと比較する方法」を用いた。本研究の分析対象者17名に効果が発揮されたと事例は10事例であった。したがって、効果比率は0.59となることから、0.59以上の数値となる行を「効果あり」とみなし、その従属変数を1として取り扱った。また、0.59未満のものは「効果なし」とみなし、その従属変数を0とした。

4 独立変数が6つあり行の真意票となることから、紙片の関係上、割愛する。

表2-1 「アウトリーチとしての訪問型生活訓練」実施の真理表

  独立変数 従属変数 該当事例数 効果あり
事例数
効果比率
R S M I F C Z N X N/X
1 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0.00
3 0 0 0 0 1 0 ?→0 2 1 0.50
9 0 0 0 1 1 0 0 1 0 0.00
10 0 0 1 1 0 0 ?→1 3 2 0.67
15 1 0 0 1 0 0 1 1 1 1.00
23 0 0 0 1 1 1 0 1 0 0.00
25 0 1 1 1 0 0 1 1 1 1.00
26 1 1 1 0 0 0 1 1 1 1.00
35 1 0 0 1 1 0 0 1 0 0.00
43 0 0 1 1 1 1 0 1 0 0.00
44 0 1 1 1 1 0 1 1 1 1.00
45 1 1 1 1 0 0 1 1 1 1.00
58 1 1 1 1 1 0 1 2 2 1.00
  計  17 10 0.59

 上記の真理表から、効果ありと判断され、従属変数が1となる行は第10行、第15行、第25行、第26行、第44行、第45行、第58行となった。作成された式は次のようになる

Z = rsMIfc + RsmIfc + RSMifc + rSMIFc + RSMIFc   <式1>

= Mfc + Mc +Ifc + Ic      <式2>

= cf ( M + I )           <式3>

 <式1>は標準積和形の式である。この式を縮約すると最少和形の<式2>となる。さらにこの式を因子分解すると<式3>となる。この<式3>は「アウトリーチとしての『訪問型生活訓練』」を実施した際に、効果が得られた原因の組み合わせを示している。ここでは、<式3>について解釈を加えてみたい。
 一つ目は、cfが一つの要件となっている点である。つまり、「効果があった」とされる事例は、「容体が急変することへの支援を行なっていない」ということに加えて、「家族への支援に負荷がかかっていない」ということができる。容体が急変すると、支援内容に変化が生じる者の、それはマイナスへの変化であり、「地域に定着した生活」を送ることからかけ離れて行ってしまっていると解釈できる。また、家族への支援に関しても同様であり、家族支援に時間を割かれてしまうと効果が見出しにくくなってしまうということができる。
 二つ目は(M+I)ということで、「マネジメントがしっかりしていること」または「収入、住居が確保されていることが条件となっている。言い換えると、収入、住居が確保されていれば、マネジメントが十分でなくとも一定の効果を期待でき、逆に、収入、住居が確保されていなくても、マネジメントがしっかりしていれば、一定の効果を期待できるということである。
 以上の解釈から、今回の研究主題である「アウトリーチとしての『訪問型生活訓練』」の効果を整理すると、<式3>から見出されるのは、「アウトリーチとしての『訪問型生活訓練』」以外の要件が効果の条件となっている。この条件に加えて、場合により、M(ケアマネジメントの実施による支援内容の変化)があると一定の効果が見出せるという結果になった。

 

第2項 考察

 分析結果について整理すると、M(ケアマネジメントの実施)が絶対条件ではないものの、従属変数Z(結果)に一定の影響を与えていることが示唆された。つまり、ケアマネジメントをしっかりと実施し、支援内容を必要に応じて変化させていくことが重要な要素となっているということができる。現象面で捉えると、タイミングよくケアマネジメントを実施することで、次に必要な支援をタイミング良く引き出すことができるようになると考えられる。また、ケアマネジメントをタイミングよく実施するためには、それまでの情報収集が欠かせないことから、入院者やいわゆる「引きこもり」の者への一定程度の訪問によるジョイニングや情報収集が必要であると考えられる。
 その一方で、R(関係作り、ジョイニング)、(ステップアップの支援)が条件として設定されなかったことについて、次の2通りの解釈がなされると考えられる。

(1) 独立変数RSで設定した条件は、今回の従属変数Zで設定した「変化する」ことに対する条件ではなく、「地域に定着する」という本来の目標に対する条件である。

(2) 独立変数RSは「アウトリーチとしての『訪問型生活訓練』」のすべてではなく、別に重大な要件がある可能性がある。

 (1)であるとするならば、本研究上の時間的な制約によるものが大きいと考えられる。前述したように、本研究事業の調査期間が短期間であったため、結果に至るまでの支援が十分になされなかったという解釈である。また、cfが条件として設定されていることから、危機的状況になく、家族への支援がそれほど必要にないといった比較的対応しやすい事例のみの効果が見えてきたと考えることもできる。

 (2)であるとすると、「アウトリーチとしての『訪問型生活訓練』」の支援内容について、今一歩踏み込んだ整理をしなければならないといえる。「アウトリーチとしての『訪問型生活訓練』」は、入院や引きこもり状態の障害者にアプローチし、地域での「人間らしい」生活を送ってもらうまでの中間的な支援として位置付けてきた。そのため、独立変数RSにあるような支援内容の変化に着目した条件を設定した。これ以外の重大な条件設定に関しては、もう少し深掘りした整理が必要であると考えられる。

 

第3項 今後の課題

 本研究では、ブール代数アプローチにより、「アウトリーチによる『訪問型生活訓練』」による支援が結果に与える影響は一定程度明らかになったということができる。ただし、分析の過程で不十分な点も残されており、最後に本研究の課題について整理していきたい。課題はおおむね次の3つに整理できる。

(1) 本来の結果に至るまでの時間的不足
 今回の研究は、支援の内容を逐次記入していき、最終的な結果との整合を図るスタイルで進めてきた。しかし、本来の結果まで至っておらず、十分な分析ができていないのが現状である。生活訓練等のプログラムとして実践される半年から1年ないし2年程度の経過を経て分析することが妥当ではないかと考えられる。

(2) 入院者へのアプローチによる効果測定
 本研究事業は障害者自立支援法の枠外で、長期の入院者や引きこもりの精神障害者にアプローチすることで、よりよい結果を導き出すことを目的として実施した。特に自立支援法の対象とはならない入院者へのアプローチも試みてきた。しかし、今回の研究で対応したのは6ケース(分析対象は4ケース)であり、分析するケースとしては少なかった。そのため、十分に入院者へのアプローチをするには至らなかったといえる。入院中の者へのアプローチは、医療機関に対しアプローチすることが必要であり、ケースとして取り上げにくかったという現状があるといえる。

(3) 情報量の圧縮による単純化の弊害
 今回はブール代数アプローチを用いて分析を行なっていたため、詳細に取っていたデータを圧縮して活用している。そのため、本来重要なデータまで圧縮されて見えなくなってしまっている可能性は否めない。本研究ではコンタクトシートの中でコンタクトごとの時間も計測していたが、サービス内容とのひもづけが不明確であったため、分析の対象から除外している。データの取り方も含めて、コンタクトシートの活用方法を検討する必要がある。

 以上のような、課題を踏まえて今後の研究に生かしていきたい。

 

 定例会議委員

所属 氏名
特定非営利活動法人
陽だまりの会(枚方市)
 河野 和永 (代表者)
 小上馬 宗昭
 原 純
社会福祉法人
フォレスト倶楽部(枚方市)
 石川 泰代
 若林  桜子
社会福祉法人
みつわ会(寝屋川市)
 福岡 薫
 假屋 和代
社会福祉法人
鴻池福祉会(東大阪市)
 高取 佳代
 竹内 健介
大阪府
こころの健康総合センター
 川本 正明
 松川 祥恵
 明石 清美

 

委託事業者

株式会社
浜銀総合研究所
 東海林 崇
 江良 中

 

 

平成20年度 障害者保健福祉推進事業
生活訓練(訪問型)調査研究プロジェクト報告書
発行日
発行者
平成21年4月
代表法人 特定非営利活動法人 陽だまりの会
〒573-1161
大阪府枚方市交北2丁目7-15
℡&fax:(072)809-0015
Email:hidamari@e-sora.net

この冊子は、厚生労働省の
「平成20年度 障害者保健福祉推進事業」の補助金を受け作成しました。
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