第4 章 障害者自立支援法に基づく「研修の見直し」に関する検証

1 目的
 障害者自立支援法に基づく相談支援従事者初任者養成研修において、①計画書を用いた研修内容を盛り込む、②研修内容や演習手法の見直しを行うことにより、受講者の研修満足度及びケアマネジメントに関する理解度について探り、研修見直しに関する有効性及び妥当性について明らかにすることを目的とする。

 

2 研究方法
 県が主催する相談支援従事者初任者養成研修において、演習前後にアンケート調査を実施した。
 従来の研修においては、研修プログラム等に関する「満足度」に限定された調査のみを実施していた。しかし、今回は、研究目的に鑑み、研修満足度に係るアンケートに加え、カークパトリック8)に基づく、レベル1「反応」及びレベル2「学習」に関する調査を実施した。
 調査に際し、研修プログラム及び演習手法等について見直しを行うと共に、研修講師は特別アドバイザーを中心に依頼した。併せて、研修プログラムについては、県自立支援協議会地域移行部会委員の意見も参考とした。
 研修プログラムについては、「ケアマネジメントの理論」等に加えて、計画書作成に関する説明を組み入れた。また、受講者への事前課題として、計画書のAシート及びBシートを作成するよう指示した。演習はケアマネジメントの「ストレングスモデル」による手法を用い、講師はWGの構成員が担当した。
 昨年度までは受講者30~40 人に講師一人が対応し、研修の事前打合せも1~2回程度であり、研修内容や役割分担の確認のみであった。そのことから、①各グループに講師1 名を配置、②1グループあたりの人数は10 名まで、③受講者全員が司会、記録、事例提供等役割を担う等、「演習手法」の見直しを行った。
 また、講師間に指導技術の格差が生じないよう、平成20 年4 月から、特別アドバイザーによるケアマネジメントの理論やケア会議手法について定期的に指導を受け、併せて、研修運営に関する打合せを、随時、特別アドバイザー等を交えて複数回実施した。

表1 カークパトリックの4 段階評価(D.L.Kirkpatrick2006:21-26)
  レベル1 反応(受講者は研修に満足したか
  レベル2 学習(受講者はどのような知識、技能などを理解、習得したか)
  レベル3 行動変容(受講者は習得したことを職場で利用したか)
  レベル4 結果(受講者の職場は、研修によって成果があがったか)

 

3 調査内容
 先行文献やWGにおいて協議された内容や特別アドバイザーからの指導を受け、①「満足度」に関する調査、②「理解度」に関する調査として「ケアマネジメントのサイクル(8項目)」や「計画書の活用」に関する事項を調査項目とした。

 

4 分析方法
 調査票に記載された項目をエクセル表に取り込み、単純集計した。

 

5 調査対象
 県が主催する相談支援従事者初任者養成研修の受講者(220 名)を対象とした。
 倫理的配慮として、担当する県担当者から調査目的、方法、成果の公開方法、守秘義務に係る内容等を説明し、調査票の記入をもって協力の同意を得たものとした。

 

6 結果
 アンケート調査によって得られた各項目の単純集計の結果は以下のとおりである。
(1)研修満足度に関する調査(レベル1)
①基本属性
 表2に受講者の基本属性を示す。回収された調査票は220 で受講者数と一致した。うち有効回答数は211(有効回答率95.9%)であった。男性104 人(49.3%)、女性107 人(50.7%)。平均年齢は40.1 歳。平均経験年数は3.2 年。障害領域(重複回答あり)では、身体障害49 人(22.7%)、知的障害99 人(46.0%)、精神障害97 人(21.9%)、児童20 人(9.4%)であった。取得資格は、社会福祉士21 人(9.3%)、介護福祉士19 人(8.4%)、精神保健福祉士15 人(6.6%)、看護師12 人(5.3%)、保健師7 人(3.1%)、作作業療法 士1 人(0.4%)、なし152 名(66.9%)であった。

 

表2 受講者の基本属性
               〔人(%)〕

有効回答 211(回答率95.9%)
性別 男性 104(49.3%)
女性 107(50.7%)
平均年齢 40.1歳
経験年数 3.2年
障害領域
(重複回答あり)
身体障害 49(22.7%)
知的障害 99(46.0%)
精神障害 46(21.9%)
児童 20(9.4%)
国家資格
(重複回答あり)
 
社会福祉士 21(9.3%)
介護福祉士 19(8.4%)
精神保健福祉士 15(6.6%)
看護師 12(5.3%)
保健師 7(3.1%)
作業療法士 1(0.4%)
なし 152(66.9%)

②満足度(レベル1)
 調査項目は、各研修プログラム(10 プログラム)と研修全体について、「1 非常に不満」から「7 大変満足」までの7 段階について評価を行った。調査結果は、表3 に示す。
 講義については、いずれも「5 だいたい満足」と回答した者が最も多かった。
 10(演習)については、「6 満足」と回答した者が77 名と最も多く、「1 不満」から「3やや不満」と回答した者は無かった。
 研修全体の評価としては、「6 満足」と回答した者が87 名と最も多かった。なお、有効回答数211 名のうち、「5 だいたい満足」~「7 大変満足」と回答した者は203 名であった。

 

表3 研修満足度に関する調査

〔人(%)〕

講義内容 満足度
1 非常に不満 2 不満 3 やや不満 4 どちらでもない 5 だいたい満足 6 満足 7 大変満足
1 講義
・ケアマネジメント概論 0(0.0) 0(0.0) 4(1.9) 31(14.7) 92(43.6) 64(30.3) 20(9.5)
・相談支援専門員の役割 0(0.0) 0(0.0) 5(2.4) 35(16.6) 102(48.3) 53(25.1) 16(7.6)
・ケア会議の技術 0(0.0) 4(1.9) 5(2.4) 23(10.9) 70(33.0) 67(31.8) 42(20.0)
・「私の希望するくらし」の意義と活用について 0(0.0) 0(0.0) 4(1.9) 45(21.3) 110(52.2) 41(19.4) 11(5.2)
2 行政説明
・障害者の地域生活移行について 0(0.0) 1(0.5) 9(4.3) 76(36.0) 94(44.5) 27(12.8) 4(1.9)
3 事例報告
・地域自立支援協議会の役割1(北上市地域自立支援協議会) 0(0.0) 0(0.0) 2(1.0) 58(27.4) 103(48.9) 40(19.0) 8(3.7)
・地域自立支援協議会の役割2(久慈圏域地域自立支援協議会) 0(0.0) 1(0.5) 4(1.9) 41(19.4) 105(49.8) 44(20.9) 16(7.6)
・ケアマネジメントのプロセス~プランニングからモニタリングまで 0(0.0) 0(0.0) 3(1.4) 25(11.8) 100(47.4) 62(29.4) 21(10.0)
4 演習
・モデルケア会議体験 1(0.5) 4(1.9) 12(5.7) 21(10.0) 84(39.8) 57(27.0) 32(15.1)
・ケア会議 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 3(1.4) 57(27.0) 77(36.5) 74(35.1)
5 研修の全体評価 0(0.0) 1(0.5) 1(0.5) 6(2.9)  72(34.2) 87(41.0) 44(20.9)

 

③理解度に係る調査(レベル2)
 演習前後の理解度を測るために、3 日目の演習前と5 日目の研修終了時の2 回に分けて調査を実施した。
 演習前の調査では、回収された調査票は220 であり受講者数と一致した。うち有効回答数は210(有効回答率95.4%)であった。また、演習後の調査では、回収された調査票は220 であり受講者数と一致した。うち有効回答数は202(有効回答率91.8%)であった。調査結果を表4 に示す。
 調査項目は、「ケアマネジメントの目的、対象、サイクル(5項目)」、「ケア会議の進め方(5 項目)」及び「私の希望するくらし」について、「1 すでにほぼ理解しているし、人にも説明できる」から「5 何のことか全くわからない」までの5 段階について評価を行った。
 演習前は、「3(4)モニタリング」「4(3)参加者の役割」以外の項目では、「4 おおまかにわかったが、一部理解が危うい」と回答した者が最も多かった。
 また、いずれの項目においても、1、2 日目の「ケアマネジメントの理論」や「ケア会議に関する」講演受講しているにも関わらず、「5 何のことか全くわからない」と回答している者がいた。
 演習後は、いずれの項目においても、「2 内容は理解できたが、人に説明する自信がない」と回答している者が最も多く、「5 何のことか全くわからない」と回答した者は無かった。
 計画書の活用については、演習前は「1 すでにほぼ理解しているし、人にも説明できる」「2 内容は理解できたが、人に説明する自信がない」と回答した者が併せて29 名(13.8%)であったが、演習後は108 名(53.4%)と3.8 倍となった。

 

表4 研修理解度に関する調査

〔人(%)〕

項目 演習 理解度
1 すでにほぼ理解しているし、人にも説明できる 2 内容は理解できたが、人に説明する自信がない 3 内容は何とか理解できた 4 おおまかにわかったが、一部理解が危うい 5 何のことか全くわからない
1 ケアマネジメントの目的について 2(0.9) 38(18.1) 78(37.2) 86(40.9) 6(2.9)
16(7.9) 112(55.5) 60(29.7) 14(6.9) 0(0.0)
2 ケアマネジメントの対象について 4(1.9) 42(20.0) 77(36.7) 79(37.6) 8(3.8)
28(13.9) 101(50.0) 56(27.7) 17(8.4) 0(0.0)
3 ケアマネジメントのサイクルについて
(1)アセスメント(査定) 9(4.2) 49(23.4) 73(34.8) 73(34.8) 6(2.9)
32(15.8) 115(56.9) 46(22.8) 9(4.5) 0(0.0)
(2)プランニング(計画) 5(2.3) 45(21.4) 75(35.8) 89(42.4) 7(3.3)
31(15.3) 116(57.5) 47(23.3) 8(3.9) 0(0.0)
(3)インターベンション(介入) 5(2.3) 28(13.3) 71(33.9) 96(45.8) 10.0(4.7)
18(8.9) 99(49.0) 72(35.6) 13(4.9) 0(0.0)
(4)モニタリング(追跡) 9(4.5) 41(19.6) 78(37.2) 77(36.7) 5(2.3)
23(11.4) 109(53.9) 55(27.3) 15(7.4) 0(0.0)
(5)エバリュエーション(終結) 4(1.9) 29(13.8) 75(35.7) 90(42.9) 12(5.7)
11(5.4) 104(51.5) 69(34.2) 18(8.9) 0(0.0)
4 ケア会議の進め方について
(1)司会の役割について 3(1.4) 32(15.3) 67(31.9) 101(48.1) 7(3.3)
30(14.9) 117(57.9) 50(24.8) 5(2.4) 0(0.0)
(2)板書の役割について 4(1.9) 48(22.9) 67(31.9) 82(39.1) 9(4.2)
46(22.8) 118(58.5) 30(14.8) 8(3.9) 0(0.0)
(3)参加者の役割について 6(2.8) 48(22.9) 82(39.1) 68(32.4) 6(2.8)
53(26.3) 118(58.5) 27(13.3) 4(1.9) 0(0.0)
(4)事例提供者の役割について 6(2.8) 57(27.2) 76(36.2) 66(31.5) 5(2.3)
44(2.9) 122(60.4) 29(14.4) 7(3.4) 0(0.0)
(5)ケア会議の進行過程について 2(0.9) 31(14.8) 81(38.6) 89(42.4) 7(3.3)
30(14.9) 123(60.9) 43(21.3) 6(2.9) 0(0.0)
5 「私の希望するくらし」の活用方法について 3(1.4) 26(12.4) 56(26.7) 115(54.8) 10(4.7)
15(7.4) 93(46.1) 70(34.7) 24(11.8) 0(0.0)

 

6 考察
 本調査は、①計画書を用いた研修を行うこと、②受講者の研修満足度及びケアマネジメントに関する理解度について探ることにより、研修見直しに関する有効性及び妥当性について検証し、以下のとおりまとめた。

(1)ケアマネジメントに関する正しい理解と実践
 本県においては、従来、各種研修会及び講演会に関しては、カークパトリック8)の理論に基づく、レベル1「反応」に係る調査のみ実施してきた。研修プログラムの満足度について把握できたが、受講者の「ケアマネジメント」に関する理解度について把握できていなかった。
 今回、カークパトリック8)の理論に基づく、レベル2「学習」に係るアンケートを演習の前後に行った。その結果、明らかにケアマネジメントの理論等に関して、演習後の理解度が向上していた。
 特に、レベル1のアンケート結果において、演習に係る満足度が高く、「1 不満」から「3 やや不満」と回答した者はなかった。そのことからも、今回の演習手法等の見直しが効果的であったことが確認された。
 成功要因としては、①ケア会議やケアマネジメントに関する多数の研究を行っている特別アドバイザーからの指導を演習講師が受けたこと、②特別アドバイザー等を交えて研修運営に関する打合せを複数回実施したことと考えられる。
 そのことは、波及効果として、受講者の満足度や理解度の向上に併せて、講師自身の指導力向上となり、本県における「ケアマネジメント」や「ケア会議の手法」に関する指導者の育成につながったといえよう。

(2)計画書の活用に関する普及
 計画書の開発後、各施設等には、年度当初に当課から郵送すると共に、当課のホームページからダウンロードできることを周知していた。しかしながら、レベル2 のアンケート結果において、半数以上の者が「4 おおまかにわかったが、一部理解が危うい」、「5 何のことか全くわからない」と回答していた。
 今回、①事前課題として計画書のA・Bシートを作成すること、②計画書の活用に関する講義、③講義及び演習中に計画書の作成に関する指導を随時行うこと等の工夫を行った。その結果、計画書の活用について「5 何のことか全くわからない」と回答した者はなかった。
 以上のことからも、県が主催する研修会等において、「計画書の活用」に関する①説明や実践を研修内容に組み入れること、②施設等への周知、③地域や施設等における指導者の育成について、より一層の推進が必要と考えられる。

 

7 本研究の限界と課題
 今回の調査については、「計画書の活用」と「ケアマネジメントに関する正しい知識や技術の向上」に関して、受講者の「反応」と「学習」に焦点をあてたものである。そのことから、受講者が今回の研修で得た知識や技術を各自の職場において、カークパトリックの理論に基づく、レベル3「行動変容(受講者は習得したことを職場で利用したか)」、レベル4「結果(受講者の職場は、研修によって成果があがったか)」について把握することはできなかった。今後、受講者の「行動変容」に関する追跡調査の実施を課題としたい。
 併せて、今回の調査で得られた結果をもとに、本県では、①サービス管理責任者研修、②圏域別研修、③事業者を対象とした「個別支援計画等作成・ケアマネジメント技量向上のための実地研修会」等についても、相談支援従事者初任者研修会のプログラムや演習手法を基礎とした研修を実施している。これらの研修会についても、今後の検証の対象に加えたい。

 

8 まとめ
 計画書を用いた研修内容を盛り込み、加えて、研修内容や演習手法の見直しを行ったところ、受講者の研修満足度及びケアマネジメントに関する理解度がいずれも向上した。
 これらのことから、「障害者自立支援法に基づく研修の見直し」に関する有効性及び妥当性について明らかにすることができた。

 

8)D.L.Kirkpatrick and J.D Kirkpatrick.Evaluating.Training Program:The four levels(3rd edition)2006;21-26.

 

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