1 研究目的
県民からの意見を基に、県民への「障害者の理解」に関する啓発普及を行う手法や手段を明らかにし、①地元新聞への企画広告掲載、②県内全戸へのリーフレット配布を行うことを目的とする。
2 データの収集方法
身体障害、知的障害、精神障害を抱える当事者(以下「当事者」とする)で県自立支援協議会の委員等を担っている者及び県内の大学に在学する者から、広告掲載及びリーフレット作成に際しての意見について、八幡9)の文献に基づく「インタビュー会議」の方法により実施した。
調査は、外部からの騒音が影響されにくい会議室で行い、調査時間は、当事者150 分、大学生105 分であった。
インタビューは、司会者1 名、司会者補助1 名、記録者1 名で実施し、調査対象者からの了承を得て、ICレコーダーに発言内容を記録した。当事者の調査は、平成20 年12 月18 日、大学生の調査は平成21 年1 月26 日に実施した。
3 調査内容
先行文献を参考に、障がい保健福祉課(以下「当課」とするの)担当職員間で質問内容を協議し、以下の質問項目を定め聞き取りを行った。
表1 質問項目
当事者 | 大学生 |
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1 伝えたいメッセージについて 2 キャッチコピーについて 3 伝えたい情報について |
1 障害者に関するイメージについて 2 障害者が正しく理解されるための手法 3 障害者を理解したきっかけ 4 キャッチコピー・デザイン等について |
4 分析方法
ICレコーダーに録音された内容を逐語録として起こした後、内容を箇条書きし、発言内容の要旨をまとめた。
5 調査対象
調査対象者は、表2 のとおりである。
倫理的配慮として、当課から、当事者については対象者あて、大学生については、学部長あてに、調査目的、方法、成果の公開方法、守秘義務に係る内容記載した文書による依頼を行い、調査当日に対象者から口頭で同意を得た。
表2 調査対象者
当事者 | 大学生 |
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対象者:6 名 (内訳) 1 性別 男性3 名、女性3 名 2 障害別 身体障害者2 名 (疾病:脊髄損傷 1 名、聾唖者1 名) 知的障害者2 名 (療育手帳B 取得者2 名) 精神障害者2 名 ( 疾病:統合失調症圏2 名) |
対象者:8 名(県内の社会福祉系学部に在学) (内訳) 1 性別 男性3 名、女性5 名 2 学年別 3 年生3 名、4 年生5 名 3 障害者施設等の実習経験 有 6 名 無 2 名 |
※ 対象者の基本属性は、平成20 年12 月1 日現在のもの。
6 結果
(1) 当事者を対象としたインタビュー会議
① 伝えたいメッセージについて
多様な意見が提供されたが、障害をマイナスイメージで捉えず、正しく理解し、個性として尊重すべきという意見が多かった。
表3 伝えたいメッセージに関する発言内容
項目 | 発言内容 |
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①嬉しかったこと | ・ 父の世話をして地域の人からがんばっていると認めて もらえている ・ さりげない言葉かけ、手助けが嬉しい ・ 勇気を持って障害を周囲に話した。話をすることで理解 を得られた。障害にも様々な特徴がある ・ 若い人は障害を個性で捉えてくれている。うれしい。 |
②困っていること | ・ 障害者用駐車場を利用できないことがある ・ 先生との関係を良くしたい |
③希望すること | ・ あいさつして欲しい(障害の有無にかかわらず) ・ うたがいの目で見られるのはいやだ。あれこれ詮索し ないで、色眼鏡でみないで ・ 生活の煩わしさを分かって欲しい ・ やりたいこと、頑張っていることを応援して欲しい ・ 本人が辛いとき、本人の頑張りを見守って欲しい ・ 正しい理解とそれぞれの特徴に合わせた対応をして ほしい |
② キャッチコピーについて
障害者は見た目や心の状態などは健常者と異なるが、「思っていること」「感じていること」は一緒など、端的に表現する意見が多かった。
内容 |
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・ ノーマライゼーション+4つのキーワード ・ 僕たちは本当にフリー(身も心も) ・ 見る側の視点を取り入れる内容 インパクト ・ みんな一緒だよ ・ あなたのそばにもきっといるよ ・ 聞いてください私達の声を ・ みんなちがっていい ・ あなたのそばにいる誰かのために ・ 未来に続くどこまでも |
③ 伝えたい情報について
活動状況、障害の個性、関係機関の紹介などを写真やイラストを使って表現する、という意見が多かった。
表5 伝えたい情報について
内容 |
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・ 精神疾患→治療すると回復できる正しい知識 ・ 同じ仲間がいるよ 自助グループ、活動の紹介 ・ 苦手な部分、手伝って欲しい部分、こんなことで困っていますの例示 (障害の個性部分をメッセージとして、マンガ風) ・ メールアドレス、FAX番号、関係機関の紹介など ・ 写真(実際の場面)を活用 ・ 障害者の笑顔 ・ 困っている場面 ・ 活動している場面 ・ イラストを活用 ・ あたたかく見守って欲しい、みなさんと |
(2) 大学生を対象としたインタビュー会議
①障害者に関するイメージについて、②障害者が正しく理解されるための手法、③障害者を理解したきっかけ、④キャッチコピー・デザインの4つの質問項目についてインタビューを行い、自由に発言してもらった。発言内容は以下のとおりであった。
表6 障がい者に関するイメージについて
内容 |
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・ そもそも障害者について知らない ・ 同じ障害の中でも違いがあるけれど、共通するところが分からない ・ 「できないこと」が「できること」よりも強調される ・ メディア、事件のイメージが強い、恐い ・ かわいそうな、子供っぽい ・ 目に見える障害しか知らなかった ・ 子供の頃は単純に助けなきゃと思っていた ・ (特殊学級の児童に対して)言葉を選ぶことなく話していた ・ 大学に入るまで知的障害が、何か分からなかった。原因が分かって理解できた (精神の場合、「脳」に障害があると理解) ・ どこまで手伝ってよいか分からなかったが、関わりを通して、思っていたより身近に 感じた |
表7 障害者が正しく理解されるための手法
内容 |
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・ 実際に関わってみる(紙面でできる?) ・ 1日の流れを紹介 (ずっと家・施設に居るのではなく通所施設に行っていることが分かると親近感が分かるのでは。大学のパンフレットには大学生の1日の生活が載っている) ・ どう接して欲しいか載せる(障害者への声のかけ方、一言声をかけてからの対応方法など) ・ 障害者の写真を掲載する ・ 意外な一面(例えば、ヒップホップをする障害者、などを掲載) ・ 障害者の中でも相反する意見(リーフレットにあるような「こんなことに困っています」に関しても支援して欲しい人と、して欲しくない人がいるのでは) ・ 障害→絵でなく、絵→障害 ・ 障害者の絵ではなく、良い絵だからという視点で見てほしい、でも実は、障がい者が描いてい るということを暗に示す方がよいと思う→「障害」を全面に出さないほうが、インパクトがある ・ 障害があるからといって、接し方を特別扱いしない方がよいと思う ・ 障害者の人数を数値で示す(関心をもってもらうために、こんなに身近に居ることを示す) ・ 一番わかってほしいのは、当事者の方自身だと思うので、当事者の声(メッセージ)を写真などと一緒に掲載する ・ 障害の原因を知ってもらう(でも細かいと、読んでもらえない) |
表8 障害者を理解したきっかけ
内容 |
・ 2 年の時はよく分からなかった。3年になって関わるようになって、理解しはじめた ・ 障害者の作ったお菓子、小物を買うこと ・ 有名人が発達障害者であるのが分かって、身近プラス能力が高いということを感じたこと ・ 障害なのに頑張っている。障害なのに害はないことがわかったこと |
表9 キャッチコピー・デザイン等について
内容 |
・ 「障害者」を全面に出すと、障害者に興味のある県民しか見ないのでは ・ 普通のチラシでもそうだが、健常者にも有利な情報を掲載する(簡単な料理のレシピ、小物系の写真、売っている場所等掲載する) ・ 障害者の思いを一方的に受ける感じなので、健常者側の声、意見も欲しい(障害者:「理解して欲しい」、健常者:「でも、どうしてほしいかが分からない」) ・ コンビニのCMのように。2人とも最終的に合意する、というシナリオでマンガにする。(リーフレット) ・ 新聞広告に障害者の絵を用いる場合、1枚でも複数でも良いと思う。1枚だとインパクトがある点では良い。複数だと色々なバリエーションがあって他の絵と比較しながら説明などを見て、興味を持つかも知れない。多すぎると、見ない(大きい絵が中央に1枚、周囲に小さい絵が複数) ・ リーフレットに掲載する役所の電話番号は、相談したい人は調べれば分かるので要らないのでは。 ・ 当事者・家族以外の県民が見た場合、ボランティアをしたい、と思う人がいる場合のアクセス先は有った方が良いのでは |
6 考察とまとめ
本調査は、①地元新聞への企画広告掲載、②リーフレット作成を行い、県内の全世帯 への配布を目的として、当事者や大学生からの意見を基に、県民への「障害者の理解」 に関する啓発普及を行う手法や内容を探り、以下のようにまとめた。
(1) 啓発普及の際、「障害」を前面に出すのではなく、個性としてとらえ、特別扱いしないこと。
(2) 「障害者の思いや願い」を伝え、更にいわゆる障害者に対する「健常者の声、意見」も併せて伝えること。
(3) メディア、事件のイメージが先行することもあり、障害の原因や特徴など正しい知識を得られるような内容が必要であること。
以上のまとめを基に、別紙のとおり広告及びリーフレットを作成し、企画広告については、平成21 年3 月20 日に掲載し、リーフレットについては、県内全世帯に配布した。
7 本研究の限界と課題
掲載及び配布による県民からの反響については、今後、アンケート調査等を行い、その検証については今後の課題としたい。
9)八幡紕芦史.〔図解〕会議の技術.東京:PHP研究所,2004;198-199.