Q1: | 地域生活移行を踏み出せない利用者の場合、「私の希望するくらし」を活用せず、従前より使用している計画書を活用しても構わないでしょうか? |
A1: | 「私の希望するくらし」は、岩手県が計画書の標準例として作成したものです。施設等において、従前から使用している様式を引き続き活用することでも構いません。 下図を参考に「私の希望するくらし」を活用したり、従前から使用している個別支援計画書を引き続き活用するなどして、利用者の地域生活移行に向けた支援に取り組んでみる方法もあります。地域生活移行を踏み出せない利用者の場合、各施設・病院等で、「なぜ踏み出せないのか」「どうすれば地域生活に対する関心を高めてくれるのか」など、今一度、スタッフ全員で検討することが、支援の一歩につながります。 |
<「私の希望するくらし」活用の一例>
Q2: | シートの原本は、サービス管理責任者が管理することでよいのでしょうか? |
A2: | 利用者と一緒にケア計画をすすめるという視点から、A~Dシートについては写しを、Eシートについては原本を本人に手渡し、ご理解いただくことが望ましいでしょう。 しかしながら、書類の管理が苦手な方(紛失してしまう等)の場合は、管理方法を工夫する必要が求められるでしょう。 |
Q3: |
Eシートの「とりくみの様子」については壁に貼ることが望ましいとのことですが、施設や病院によっては、スペース的に難しいという場合はどうしたらよいのでしょうか? |
A3: | シートを壁などに貼ることが目的ではなく、支援内容や進捗状況の確認を怠りがちになることを防ぐものです。 壁などに貼ることをひとつの例で示したものであり、計画書や支援内容等が常に確認でき、職員間でよりよい支援を行うことが可能となります。 |
Q4: |
施設において、サービス管理責任者が計画書を作成するとありますが、すべての利用者の計画書を作成することは無理があると思います。 |
A4: | 「障害者自立支援法に基づく指定障害福祉サービス事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18 年9 月29 日厚生労働省令第171 号)」及び「障害者自立支援法に基づく指定障害福祉サービス事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18 年2月6 日障発1206001 号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知)」8)に基づき、サービス管理責任者は、利用者に対する計画書の作成、ケア会議の開催及び定期的なモニタリング等を行うよう定められています。 しかしながら、作成に際しては、サービス管理責任者一人が背負いこむのではなくケア会議の開催などを通じて、関わる職員がチームとして計画書を作成していくことが望ましいでしょう。 |
8) 平成18 年12 月6 日障発1206001 号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知:「障害者自立支援法に基づく指定障害福祉サービス事業等の人員、設備及び運営に関する基準」及び「障害者自立支援法に基づく指定障害福祉サービス事業等の人員、設備及び運営に関する基準」
Q1: | ABCシートは、一度に作成してよいのでしょうか? |
A1: | 各シートについての記載については、特段の基準等はありません。相談から始まり、各シートを作成していく時間や手間は、一人ずつ異なると思います。本人の体調等に配慮しながら、一緒に作成していくようにしましょう。 |
Q2: | Eシートは、担当者が作成して、本人に渡しモニタリング面接のときに「7」以降を本人に記入してもらう、または、担当者が代筆するということで良いでしょうか? |
A2: | シートの作成については担当者が行い、利用者に確認してもらうことが大切です。項目の「7」以降について利用者の状態にあわせて、本人に記載してもらいましょう。なお、モニタリングの際は、利用者と担当者で行うのではなく、支援チームで行うことが望ましいでしょう。 |
Q3: |
計画票に月間スケジュール、週間スケジュール、一日のスケジュールが必要ではないでしょうか。 |
A3: | その計画が週単位で進められるものであれば、週ごとのスケジュール表が必要になると思います。また、月単位や日単位で進められるものであれば、それぞれの単位(月や日)によるスケジュール表が必要になると考えられます。 時に、月・週・日のそれぞれの単位で、利用者の生活状況を把握する必要が出てくる場合があります。その場合、月間または週間のスケジュール表があった方が把握しやすいことはいうまでもありません。 ただしその場合は、利用者の生活状況を把握することが目的なのであって、支援計画を進めるための「スケジュール表」ではないことに留意する必要があると思います。この場合は、利用者の「生活サイクル(またはリズム)の情報共有」が目的になりますので、目標達成のためのスケジュール表とは、使用する目的が異なります。 |
Q4: |
計画書に細かい収支(貯金、年金、など)について記載する必要があるのではないでしょうか。 |
A4: | 金銭面の詳細情報については、ニーズがそこにある(ありそうな)場合、あるいはニーズ査定により、金銭面へのアプローチが必要となった段階で収集しても間に合う場合が多いのではないでしょうか。 この部分は非常にデリケートな情報ですので、収集する場合は、それを必要とする根拠や、聴取するための十分な説明や関係づくりのためのゆっくりとしたアプローチが必要です。 |
Q5: |
希望といっても、「今日はカレーライスが食べたい」等の希望が主で、計画書に記載するほどの場合がない場合はどうしたらよいですか。 |
A5: | 広辞苑によると「ニーズ」は、「要求」「求め」9)を意味することから、支援者は、日頃、本人が訴える「デマンド(要望)」を本人の「ニーズ」と捉えがちです。 竹内は、「ニーズは『自立性とQOL』の向上を支えていくためのものでなければいけない、つまりニーズには、今、必要なことと、将来にわたって自立性やQOLのためのものという二重の性格をもっている」10)と述べています。 以上のことからも、支援者は「カレーライスが食べたい」といった「デマンド(要望)」を打ち消さず、まずは、耳を傾けてみることが大切です。実は、「母がつくったカレーを家族と自宅に帰って食べたい」など、具体的に本人のニーズが明らかになることにより、支援の方向性は見えてくることでしょう。 |
Q6: |
好きなことや夢を語るだけでは、現実にそぐわない計画書になると思います。 |
A6: | 何に対する計画書(スケジュール)なのか、という視点が大切だと思います。「計画書(プラン)」は、「目標」を計画的に進めるためのものですし、また「目標」は、「ニーズ」に基づくものという前提があります。「好きなこと」や「語られる夢」は、デマンドといわれるもので、「ニーズ」とは区別されるのが一般的です。 私たち専門家は、利用者が語る内容(デマンド)、関係者が持ち寄る情報、あるいは諸々の事実関係からニーズを査定する必要があります。「目標」は、査定されたニーズと、利用者のデマンド(希望)をうまく組みあわせながら、利用者が主体的に取り組めるようにアレンジして提示するものです。 この部分が、我々専門家の腕の見せどころでもあります。提示された「目標」を実行するために必要なのが、「計画書(プラン)」といわれるものです。誰が担当するのか、いつまでに実行するのか、どこでどのように実行するのか、次回の評価はいつ行うのかなどが記載されたものを指します。 |
Q7: | 「ウルトラマンになりたい」など、叶えられない夢や希望の場合は、計画書の作成は、難しいと思います |
A7: | 計画書の作成は、本人の「生活の質」を向上させる目的があります。例の場合、本人が大事にしている「ウルトラマン」を外してしまうのは、本人にとって大事な部分を回りが理解してもらえないと感じる場合もあるかもしれません。 「ウルトラマンになった時、あなたにとってどんなよいことがあるのですか?」とまずは尋ねてみましょう。例えば「ウルトラマンの本やビデオは毎日見ている」とか、いろいろな種類のウルトラマンの名前はもちろん、「出演する怪獣の名前や特徴までしっかりと覚えている」などの答えが返ってきたとしましょう。すると、「ウルトラマン」は、本人にとって生活の大切な部分となっていることがわかります。 まずは、利用者の大切にしていることや思いを計画書に盛り込んでみましょう。そうすることにより、利用者自身がその希望に向けて努力していること、生活で工夫していることなどが明らかになり、具体的な支援につながることでしょう。 |
Q8: |
計画書の作成において希望がかなえられない時、例えば本人が実家で家族とくらしたいと希望しているが、家族が受け入れられないことを表明している場合はどうしたらよいのでしょうか。 |
A8: | 実務的にはこういう場面の方が多いのかもしれません。しかしその場合も、まずはご本人の希望に沿った支援を展開する必要があります。仮にそれが、客観的に「無理だ」と考えられる場合でも、支援者として「まずは行動する」ことが求められます。 理由は、主に2 つあります。 1つは、「本人の希望に添って支援する」という支援者側の姿勢をご本人に体験的に理解していただくためです。 2 つめは、利用者に「現実検討していただく機会とする」ためです。 この2 つを同時並行的に行うために、家族を交えたケア会議を開くのも有効な方法だと思います。 ただしその場合でも、支援者側が結論を急いではいけませんし、諦めてはいけません。家族の感情を本人の前で表出されることによって、これまで気づかなかった家族の思いを、本人が知る機会になる場合があるからです。 家族の思いを本人がどう理解するか、あるいは家族の思いを理解したうえで本人がどのような行動をとるかという点を評価して、次の支援計画に反映させていけば良いわけです。 |
Q9: |
仮にどうしても本人の希望が受け入れられないとなったとき、本人の希望を変更させることもあると思いますが、なぜ無理なのかをこの計画書に記載していく必要はないのでしょうか。 |
A9: | ご指摘のとおりで、それができるようにシートは工夫されています。しかしながら、実現が難しいので目標を変更するということもあれば、支援の方法を変えてどうしたら実現するかといった2 つの視点を入れて振り返り、それをシートに反映させる必要があります。 あの手この手を尽くしても、すべての支援が良い方向に展開するとは限りません。 「本人の希望が受け入れられない」こともしばしば起こりえることです。その場合、モニタリングを目的とするケア会議で評価します。 その目標について、誰が、いつ、どのような支援を行ったのか、その支援の方法は妥当だったか、別のアプローチはないか等々チーム全員で振り返り(評価)を行います。その結果、「目標」を変更することもあるでしょうし、支援の「方法」を工夫する場合もありえます。いずれの場合も、「モニタリングによる(中間)評価」として記録しておくことが必要になります。 |
Q10: | 希望を聞いても、失敗することが目に見えている場合、計画書を策定すること自体が無駄な作業に思います。 |
A10: | 計画書の作成は、利用者の願いや希望を「計画書」という紙面に記載する作業を通じて、支援者と利用者がその実現に向かって共同作業を行うことであり、決して無駄な作業にはなりません。私達支援者は、利用者の「病気や生活の安定」を第一義的に考えがちですが、まずは「願いや希望の実現」のための支援から検討してみましょう。 その工夫として、利用者が「日頃、頑張っていること」「明日からでもできそうなこと」に焦点を絞り、少し手を伸ばせば実現できるような目標設定にすることです。それは、利用者の「自信や経験」となり、また、「失敗を未然に防ぐ」支援にもつながります。 |
Q11: |
計画書に基づき、一人の希望を叶えることは、他の人や支援者が困ることもあると思います。まずは、支援者や施設等の意向を盛り込む必要があるのではないでしょうか。 |
A11: | 利用者の希望を最優先するということは、周りの人たちが「利用者の『わがまま』をすべて受け入れて支援すること」ではありません。 計画の実行に際し、関係機関(者)の役割や決まりごと等も考慮しながら、「どうしたら自分のやりたいことに近づけるのか」ということを共に考えていく作業が重要です。サービスを受ける側も提供側も、意見を述べ、合い互いに工夫を重ねることがポイントです。 |
9) 新村出編著.広辞苑第6 版.東京:岩波書店,2008;2118.
10) 竹内孝仁.ケアマネジメント.東京:医歯薬出版社,1996;21.
Q1: | 司会を行うためのコツはありますか。すすめているうちに、どのようにすすめたらよいか混乱してしまいがちになります。 |
A1: | 堀11)は司会の役割として、「①中立的な立場から、話し合いの進行を舵取りする、②参加者の知恵を引き出し、最良の答えに導く、③議論の交通整理をして、納得性の高い結論を出す」と定義しています。 司会のコツとしては、まずは、上手に進行しようと司会者が一人で背負いこむではなく、参加者の胸を借りながら進めてみましょう。むしろ、一人で進めるよりも、参加者個々が話し合いに積極的に参加しようという気持ちが芽生え、目標に向かってチームとして取り組む姿勢を強化することにつながります。 |
Q2: |
司会が事例提供者にのみ質問を行うことで事足りるのではないでしょうか。なぜ、他の参加者に意見や質問を求めるのか、その意味がわかりません。 |
A2: | ケアマネジメントの対象となる利用者は、地域生活において、複数のサービス(2つ以上)を総合的かつ継続的に利用し、多職種による支援が必要とされる方となります。 そのことから、事例提供者が把握している情報に加えて、現在、支援しているまたは今後、支援する予定の参加者からも、具体的な情報や多様な視点に基づく意見を求めることが必要とされます。 |
Q3: |
アセスメントの要約がうまくできません。黒板に記載された情報をそのまま読んでしまい、参加者からは事例をイメージしづらいといわれます。 |
A3: | アセスメントを行う上で必要なコツとしては、大きく分けると2 点になります。 1点目は、利用者の特徴をとらえることです。そのためには、ケア会議において、参加者が多面的な視点から意見や情報を数多く出し合い、イメージを一致させておくことです。具体的には、会議の場所に利用者の姿が見え、実際に動きだすくらいの情報を出し合うことがポイントとなります。 2 点目は、利用者の特徴を基に、ケア会議で話し合われた内容を要約することです。 その2 点を留意しながら行うことにより、支援計画をより実行可能なものに結びつけることができます。 |
Q4: |
板書を行うと、情報を整理できず、黒板が真っ黒になって見づらいといわれます。 ポイントよくまとめるコツはありますか。 |
A4: | 書記(記録者)の役割としては、ケア会議において出された情報を整理し、利用者や参加者にとってわかりやすい記録を作成することです。 ポイントよくまとめるコツとしては、発言内容について、①箇条書きにする、②要約してから記入する、③文字を意識的に大きく書くなどの工夫をしてみましょう。また、慣れないうちは数人で行う、途中で交代するなど実践を積み重ねることも必要です。 |
Q5: |
従来のケア会議では、事例提供者が利用者に関する情報を記載したシートを出席者に提示し、出席者が事実を確認しながら行ってきました。シートが配布されず、ホワイトボードに書きながら確認しあうケア会議の方法は、時間を要するばかりで、実際、現場で行うには非効率的な方法だと思います。 |
A5: | ケア会議には、様々な手法があって良いと思います。 ただし、その会議が「形骸化」、「結論がない」、「事実確認のみで終わる」という場合は、ケア会議を開催すること自体に疑問が残ります。 岩手県が推奨するケア会議は、そのような点を解消することを目的とするものです。資料を配布しないことやホワイトボードの利用は、そのための手段であり、十分な議論や活発な意見交換により、ケア会議の場を「知識創造の場」として活用できるよう期待するものです。 |
Q6: |
ケア会議実施に際し、すべての支援者が出席できない場合もあると思います。その場合、チームとして支援するにあたり、出席できなかった方に対して、どのように情報提供、連携を図ればよいでしょうか。 |
A6: | 様々な事情により、会議の期日に支援者全員が出席できないことも少なくはないでしょう。 しかしながら、今後、チームとして支援するためにも、会議終了後、確認された支援目標や解決策等を、電話、電子メール等に互いに連絡を取りやすい連絡手段で速やかに情報提供し、連携を図っていきましょう。 |
Q7: |
事例提供者の情報が少ない場合、計画書を策定することは難しいと思います。そのような場合でも、限られた情報で計画書を策定しなければいけないのですか。その場合、ケア会議出席者の想像や思い込みが入ってしまうと思います。 |
A7: | ケア会議の参加に際し、事例提供者は、①日常生活(サービス利用等)、②医療(病名、服薬状況等)、③本人の能力(ADLやIADL等)等の情報を事前に把握しておくことが必要です。これらの情報が不足すると、ご指摘のとおり、計画書を作成することは難しいでしょう。 しかしながら、事例提供者が把握する情報には限りがあります。ゆえに、ケア会議においては、参加者が多面的な視点から情報を伝え、参加者全員で支援計画を検討し、実際の支援につなげていきます。 また、会議の開催に際し、その必然性も考えてみましょう。電話等の通信手段で事が足りるのであれば、会議開催の必要はありません。 「なぜ開催するのか(目的)」、「会議から得るものは何か(目標)」、「目標を達成するために何を議論するか(検討課題)」、「どのような手順で会議を進めるか(手法)」を事前に検討しておくことが重要です。 |
Q8: |
本人を入れて行うケア会議にはどのような工夫がいるでしょうか。また、障がい特性により、本人の理解力が低い場合など、支援者が配慮すべき点はどのようなことでしょうか。 |
A8: | これまでのケア会議が、「専門職による専門職のための会議」として機能していればいるほど、本人が会議に参加することに違和感や抵抗感を覚えることも多いと思います。しかし、本人や家族もチームの一員として歓迎し、目標達成に向かって互いに協力しあうことも決して悪くない方法です。 本人や家族が参加すると、支援者の言葉づかいが丁寧になり、本人の理解力に合わせた適切な配慮や支援を意識するようになります。支援者の好ましい変化が、利用者に悪影響を及ぼすとは考えにくいものです。支援者の「○○さん、一緒に頑張ろうね。」という一言は、利用者にとってどれほど励まされることでしょう。 ケア会議を相撲に例えれば、「土俵」のようなものです。本人と支援者が真剣に目標に向き合うため、最初は、不慣れなこともあると思います。けれど、「お互い、不慣れだけど一緒にがんばろう!」という姿勢を示すことこそ、支援の基本姿勢ではないでしょうか。 不慣れな場合には、ケア会議を進めていくためのルールをあらかじめ決めておくこともよいでしょう。参加者全員で終了時間を確認しておくのです。本人や支援者が、自分の思いを延々と話し続けてしまう場合などは、「お話する時間が長くなるとゴールまでいきませんがよろしいですか?」等と本人に確認すればよいのです。時間は無限に保証されているものではありません。本人も支援者も、時間管理には責任を持つことが重要です。 |
Q9: |
ケア会議において短期目標を設定し、実際の支援を行う場合、本人の長所や能力を伸ばす支援に限定してよいのでしょうか。生活していくうえで、直してほしい生活習慣等(例:酒を飲みすぎる等)を短期目標として指導しなくともよいものでしょうか。 |
A9: | ケア会議は、①概要把握、②全体像把握、③アセスメント、④目標設定、⑤計画策定の順に進められます。このうち「良いところ」または「悪いところ」の情報は、① および②の部分で把握され、かつ、③で吟味されることになります。①~②の部分は、あくまでも事実関係のみを提示することがコツです。 事例提供者(または支援者)の「主観」が入ってしまうと、③のアセスメントがぶれてしまいます。良くも悪くも、事実は事実として提示すべきです。「これはいけない」「こうすべきだ」という「支援者の主観」は、極力排除する習慣を身に着けることが理想です。この習慣は、トレーニングによって身につく部分でもあります。 以上のように、事例を多面的に把握するためには、事例の「良いところ」も「悪いところ」も、「事実」として把握する必要があるのです。 上記を踏まえたうえで、③のアセスメントに入ります(実際のケア会議では、各自の頭の中でアセスメントしながら情報収集(質問)を行っているものです)。③のアセスメント(=査定)では、「良いところ」または「悪いところ」が表面化してきた「背景」を読み込みます。 その際のポイントは以下です。一般の日常生活では、「飲むからダメ」「飲むことは悪いこと」「飲むから問題が起こる」という一次元的な思考法を用いています。しかし、我々専門家は、もう少し多次元的に物事をとらえるものです。つまり、なぜ「悪いところ」が表面化しているのか、常に悪いときばかりなのか、そうでない時はないのか等、その背景や機序を探索するわけです。 この例で言えば、どうして酒を飲まなければならないのか、酒を飲むと事例にとってどんな良いことがあるのか、酒を飲まずに過ごせた時期はなかったのか、その時期なぜ飲まずにいれたのか等々、「酒を飲むこと」だけではなく、「飲まなければならなかった背景」について、「つなげて考える」のです。 更に、酒を飲むのは本人の問題だけではなく、家族を含めた周囲の人間関係の問題によることも少なくはありません。そこで本人のみの問題として捉えるのは逆効果にもなりえます。アセスメントの段階までに、本人を含めた様々な立場の人のストーリーと文脈(言い分)を把握し、幅広い視点から本人が問題飲酒に至った背景を考えることにより、より効果的で拡がりのあるプランを作成することも可能です。 本人が否認しているからこそ「底つき体験」による自覚を待つという解決方法もありえますが、最近では、飲酒そのものに焦点を当てず、自己実現を応援していくことで、本人の断酒への意欲を高めるアプローチも知られています。 その際必要になるのが、各種専門性に基づく理論や知識です。医師であれば医学、保健師であれば保健学、あるいは社会福祉学や教育学、心理学や社会学など、それぞれの領域で開拓された学術的な知識です。 また、日頃から、自らの実践について学術的な裏づけを取る作業を怠らなければ、有効な「経験知」としてアセスメント(=査定)に役立つものとなります。時に、支援者の人生経験も有効に作用する場合がありますが、利用者の「人生」を理解しようとする場合、支援者一個人の人生経験などは、あまりにも無力であることの方が多いことを十分に理解しておく必要があるでしょう。 以上、要約すると、①②の段階では、良いところも悪いところも全てを「事実」として把握する。③アセスメントの段階では、①②の情報の上に立って、事例が(自らの)力を発揮しやすい点はどこにあるのか、苦手な部分はどこなのか等々を、専門的な知識の基に「査定」するということになります。 |
11) 堀公俊.今すぐできる!ファシリテーション.東京:PHP研究所,2006;54.
Q1: | 障がい者(児)のケアマネジメントを進めていくうえで、一番中心となって動くべきなのはどの職種でしょうか |
A1: | 障がい者(児)のケアマネジメントをすすめるうえで大切なことは、特定の職種(人)が背負いこむ支援ではなく、利用者の様々なニーズに対応する多職種から構成されるチームによる支援です。まずは、利用者に関わる支援者が連携を図ることからはじめてみましょう。支援者が連携を図る手法の一つがケア会議になります。ケア会議においては、参加者間で利用者の課題解決の方向性が共有化され、支援の中心となる職種(人)が明らかになります。実際の支援においては、支援の中心となる職種(人)を支援者同士がサポートし、利用者への支援を連携しながらすすめていきましょう。 |
Q2: |
ケアマネジメントを進めるにあたって、相談支援専門員(ケアマネージャー)が様々なサービスを仲介することで事足りるのではないでしょうか。 |
A2: | ケアマネジメントには様々なモデルがあり、利用者の状態やニーズに合わせて用いる必要があります。 仲介型(標準型)は、相談支援専門員(ケアマネージャー)がケアマネジメントの基本機能のみを行い、複数のサービスを調整するものです。しかしながら、複数のサービス提供に際し、相談支援専門員(ケアマネージャー)が一人で行うことが多いことから情報や支援の偏りなどが生じる場合もあります。 ケアマネジメントの対象となる障がい者は、「複数のサービスを総合的かつ長期的に利用する方々」となり、仲介型の援助機能だけでは不十分な場合があります。 その際のケアマネジメントのモデルとして、利用者の長所や持っている力を伸ばす支援を行う「長所(ストレングス)モデル」「リハビリテーションモデル」などがあります。利用者の抱える課題に対して、地域の様々な職種から構成されるチーム(多職種チーム)による支援を行うものです。これらのモデルは、利用者支援に際して、効果的であることが、国内外の研究や実践において明らかになっています。 |
Q3: |
モニタリングにおいて、本人以外の家族の満足度はどのように判断していけばよいのでしょうか? |
A3: | 本人の希望するくらしの実現には、本人のみならず、ご家族にとっても支援内容を満足していただけるケア計画が望まれます。 できれば、ケア会議開催時、ご家族にも「支援者」や「協力者」として参加いただき、可能な範囲での役割を担っていただけるとよいでしょう。その場合、個別支援計画書に家族の役割を明記し、モニタリングの際に、ご家族の労をねぎらいましょう。 |
Q4: |
生活満足度スケール(にこにこマーク)が判断できないほど、利用者本人の障がいが重い場合はどのようにすればよいのでしょうか? |
A4: | 「生活満足度スケール」での評価を得ることが困難な方の場合、記載要領にもあるとおり、家族や身近な方で、本人の代弁者となる方から評価してもらうこととなります。 また、支援者は。日頃の本人の変化や様子などから、例えば、「日中機嫌よく過ごしていた」等、ケア会議等において、話し合って評価することもよいでしょう。ケア会議で話し合うことにより、支援者側の主観的な判断ではなく、客観的な判断にすることが可能です。 |
Q1: | 普段は活発な方でも、職員が話しかけると寡黙になる方、理解する能力が低い方や重度の障がいを抱える場合、願い等を聞くことが難しいと思います。 |
A1: | 普段は活発で話好きな方であっても、会議や面接など「改まった場面」になると、緊張のあまり、うまく自分の思いや希望を伝えられない方も多いと思います。 作業の休憩時間など普段の生活場面において、本人の興味のある会話から少しずつ本人の思いや希望を聞いてみるなど、本人が安心して語る機会を設けることが必要です。 また、重度の障がいを抱える方の場合、「機嫌よく過ごしていた」などの支援者からの評価も大切なことです。 |
Q2: |
本人が、ことばや表現することが苦手な場合、どのように聞き取りを行うのでしょうか? |
A2: | 確かに、ことばや表現が苦手だったりする方はいらっしゃると思われます。 まずは、本人の発する言葉、行動や表現を大切に受けとめることからはじめてみましょう。本人の願いや希望を確認・検証する作業を繰り返すことにより、支援者が「チーム」として、「本人の希望や願いはなんだろう」と一緒に考えることが大切です。 |
Q3: |
「どうせできない」などマイナス思考の方に対しては、どのように対応したらよいのでしょうか? |
A3: | 「どうせできない」ということを利用者が発言した場合、「なぜできない」のかと原因を探る必要はありません。利用者自身が、どのような生活をしたいのか、そのために、取り組んでみたいことがあるのか、支援者が一緒に考えることからはじめてみましょう。 その際、支援者は、利用者自身の「今、できていること」や「持っている力」に着目します。まずは、「できていること」から取り組んでもらい、利用者の「よい変化」を見逃さず、ねぎらいながら支援していきましょう。 また、支援者が、いつも前向きで肯定的な姿勢で対応することも大切です。支援者の前向きな姿勢を見ることにより、利用者自身も「頑張ってみよう」という姿勢につながることでしょう。 |
Q4: |
親や家族の意見ではなく、利用者の意見を引き出すコツはありますか。 |
A4: | 支援する側の姿勢で大切なことは、まずは、利用者自身の願いや希望に耳を傾けることです。 しかしながら、親や家族の立場からすれば、「親も高齢になり今後のことを考えると、施設で見てもらっていたほうが本人には幸せだ」など、利用者の希望とは異なる意見を持つ方も少なくはありません。 「ご家族の方はあなたのことを様々心配されているようだが、あなた自身はこれからどうしたいのか」というように、親や家族の思いや意見は大切にしつつ、利用者本人の「希望」や「願い」に寄り添った支援を行うことが必要でしょう。 |
Q5: |
本人が今の生活に満足しているが、家族や支援者が本人の行動や対応に困っている場合は、どのよう支援すればよいのでしょうか。 |
A5: | 日頃の支援において、利用者の行動や言動に対して、「困る」ことも少なくはないと思います。支援する側が、困った時には「困った」と言えてこそ、互いに良好な関係が保てるのです。そのためには、自分の気持ちを相手に伝えて、かつ必要以上に傷つけないための話しかけの工夫が必要とされます。 工夫の一つ目は、「私は~と感じている」と、気持ちを表現してみましょう。 例えば、「おしゃべりばかりで、作業が進まないよ!」という代わりに、「あなたのおしゃべりを聞いていると、なぜか私はイライラしてしまうのです。」と言ってみるのです。言われた側も、「私がおしゃべりしていることで、周りがイライラすることもあるのか」と考える機会となるかもしれません。 次の工夫として、「~してはいけません、ダメ」という代わりに、「~ができたら、いいよね」と表現することです。 例えば、「パチンコ通いを減らしてよ!」ではなく、「パチンコに行く回数を減らしてもらえば、私も嬉しいのだけど」と伝えてみましょう。つまり、「~なったらよい、嬉しい、助かる」など、相手に期待することを表現してみるのです。 「話しかけ」の工夫だけでは、すぐに人の行動は変わらないかもしれません。しかしながら、支援者が「話しかけ」の工夫を意識して行い、積み重ねていくことが、利用者との良好な関係を築くための取り組みの一つとなります。 |
《「私の希望するくらし」を用いた事業者の声》 |
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「お金を稼いで家を建てたい」。その言葉や表現がどうして出てくるんだろう。支援者が、「無理」「突拍子もない」などと受け止めてこなかったのでないのか。そのような気持ちを抱えながら過ごす毎日でした。 そんな時、「私の希望するくらし」の作成に関わることができました。「私」が主語。支援者ではなく、「私」のための計画。これでよかったのですね。「変わっていく自分」を感じることができ、胸につかえていたものがすっきりと落ちた気がしました。 こんなことがありました。「私の希望するくらし」を使って希望などを聞きました。「やりたいことはあるけど、踏み出せなくて…」と言っていた方でした。しばらくしてお会いしたとき「車の運転を始めました」と話されました。踏み出せないことの一つだったのです。そして、「希望を話せたこと、聞いてくれたことかな」と心境の変化を話されました。希望を話すこと、それを受け止める人がいるだけでも変化があるんだと実感できました。はじめの一歩って大切なのですね。 「私の希望するくらし」はまだまだ発展途上にあると思います。しかし、基本はこれでいいと思っています。みんなで使いながら改良したり付け足したりして、もっといいものにしていきたいと思っています。 |
[ひばり障害者支援センター 村田 幸雄] |