本事業では主に大牟田市内の障害児の登下校見守り等支援事業でのインフォーマルサービスの開拓を図るものとした。
障害者自立支援法施行後、移動支援事業は市町村の裁量により提供されるサービスだが、事業対象となる就学期の児童・生徒の移動支援は登下校の時間が決まった支援になるため、フォーマルサービスでの対応が全国的に難しいのが現状である。
本市の自立支援協議会で協議し、ボランティアの募集・育成・ニーズの把握等を協議し移動支援のモデル事業となった。事業が進に中、支援を実施した地域では少しずつボランティアが認識され、声をかけてもらう場面もあった。また、ボランティア支援を受けて対象児も自立登下校ができるなどの自立促進への手助けができ、保護者も子どもと距離をもって接する勇気やきかっけとなった。
この事業の開拓により本市でのボランティア活動の認識が高まっていけば、地域性の強いインフォーマルサービス提供が、今後可能なものになると考えられる。
事前に登下校時のニーズ調査を行い、ボランティアへの見守り・声かけ等のニーズは高い結果が見られた。また、インフォーマルサービスでの移動支援ニーズ調査からは、ボランティアの活動は少ない、または不要という結果であった。実際、地域の中でボランティアが根付いていないため、活用できない・知らなかったなどにより要望が少なく、そのため手助けはほしいが何とかなっているという現状であると思われる。しかし、ボランティアがいれば野外活動への同行や通学の介助や見守りなどの手助けを希望したいという回答は多く得られた。
この結果から、サービスを利用したいが今のままでも大丈夫、第三者に預けることが不安または申し訳ないなど、保護者を取り巻く福祉環境が大きく影響していると思われる。ボランティア支援利用によって障害児や保護者の地域社会参加のきかっけとなり、地域密着のインフォーマルサービスの支援提供ができるようになるのではないかと考えられる。その為にはボランティアの募集と育成が重要となる。事前のニーズ調査によって移動支援ニーズの現状が浮き彫りとなり、本事業支援利用児及び保護者のアセスメントでは、コーディネーターが個別に対象児の性格や特徴、ボランティアへの支援希望などの聴き取りを十分に行った。コーディネーターが直接支援対象児に会うことで、第三者と初対面でどのような反応が見られるのか観察をした。また、支援場所の確認として保護者に同行してもらいながら下見を行い、事前に危険個所の確認も行った。ボランティアも同様に個別でのアセスメントを行い、今までのボランティア活動・経験等や支援に対する不安などを聞き取り、支援利用児とのマッチングの情報とした。
また、対象となる子どもの障害の特性を知るために重度知的障害者施設での研修を行った。研修のフォローアップとして仮実施期間を設け、直接支援対象児と触れ合って関係づくりの場とした。
仮実施期間後より11月から2カ月の本実施期間をスタートさせた。ボランティアと支援対象児のアセスメントで得た情報とボランティアの交通手段を考慮してマッチングを行った。またボランティアには、事前に対象児の特徴などをまとめたレジメと支援場所の地図を配布し、対象児別の支援説明を行った。
本実施開始初日はコーディネーターも同行し、対象児とのコミュニケーションの取り方などの支援サポートや、お互いの関係性など支援状況の確認を行った。また個別でのサポートなど状況に応じてボランティアと利用児及び保護者への対応を行った。
支援キャンセルなどの連絡体制はコーディネーターへ連絡、または緊急を要する場合はボランティアと保護者が直接連絡をすることで対応をした。その中で、コーディネーターの役割として事業の間接的な支援者として支援状況の管理または支援サポートを行っていたが、直接的に支援に入ることもあった。
対象児を今まで取り巻く環境では、女性と関わることが多く支援ボランティアには女性を希望していたが、今回の事業参加で男性との関係づくりのきっかけになればと考え、女性ボランティアと一緒に男性ボランティアも支援に入ってもらった。支援当初はなかなか母親から離れることが出来ずボランティアとの距離が見られた。支援経過の中、対象児がボランティアを認識しお互いの関係ができ始めた。その後はスムーズにボランティアと支援が進み、母親と一緒に登校する時には、学校近くの交差点より対象児一人で行くことができるようになった。
性格がとても明るく、自発的に他者に関わることがあるため初対面のボランティアともスムーズに関係ができた。支援経過中もお互いに良好な関係づくりができ支援日の朝は準備を急ぎ、楽しみにしている様子だった。今回の事業参加で保護者以外の第三者(ボランティア)との関係づくりなど対象児にとって社会参加への良い経験だったのではないかと思われる。
性格的に少し頑固なところもあるが、自発的に行動し興味がある事に積極的に関わる。また身体を動かす事が好きで体力を付けるために徒歩での登下校をしている。学校までは距離があるため、対象児の好きな遊びを取り入れながら支援を行った。
初めてのボランティアとも良好な関係ができ、支援もスムーズに進んだ。また、危険個所の確認ができていなかったが、遊びを取り入れた支援で危険個所の認識かできるようになり、事前の声かけで自発的に確認するようになった。
対象児は初めての人に対して、その人がどのような人か見極めるために相手を試すことがある。行動として、隠れる・逃げる・突然走り出す等、さまざまな行動で相手の反応を見極めている。初めてのボランティアにはそのような試す行動が多く目立った。
しかし、良好な関係が出来ると、対象児の人なつっこい性格で自発的に関わる様になりスムーズに支援が進み、支援を楽しみにしている様子も見られた。今回の事業参加によって『一人で登校する』という意識の芽生えとなり、保護者も子どもを一人で登校させるきっかけとなった。また、学校側(担任の先生)の協力もあり、完全自立登校が出来るようになった。
他者が自己のパーソナルスペース近づきすぎると拒否反応を示すため、パーソナルスペースへの配慮が必要だった。また、音に対して特に敏感なため大きな声での声かけや雑音がある所などの対応が求められた。性格的に穏やかで物事をゆっくりと進めるため支援も対象児のペースで行った。
支援初日はボランティアがパーソナルスペースに入り過ぎてしまい拒否されてしまった。しかし初日の支援が終わり自宅に帰った対象児には、とても達成感が見られた。支援が進む中で、保護者同伴が無くなりボランティアと2人だけで下校ができるようになった。本人の意志で事業に参加したこともあり、大きな達成感と大きな影響を与えたと思われた。今回の支援は対象児にとって、いろいろな体験をすることで社会参加への可能性が拡がったと思われる。
本実施前に、コーディネーターが対象児に一緒に帰ることを伝えると、緊張した様子ではあったが拒否は見られなかった。後日対象児と一緒に下校をし、支援方法について保護者と話し合った。通学路のコースにこだわりがあり、徒歩の速度が少し速く危険個所での注意が疎かになっていた。声かけには反応はあるが、他者から触れられることを嫌がるため危険時の対応を考慮しなくてはならなかった。
ボランティアの支援初日は対象児との待ち合わせ場所から、保護者が待つ場所までの支援だった。通常使用している通学路は車と近距離のため、反対側の歩道を勧めた。やはり対象児は嫌がり、今までと同じ通学路を帰った。その後、対象児にパニックが見られたため支援は終了となった。
対象児にとってストレスとなってしまったが、逆に自立心を芽生えさせ、自立下校のきっかけにもなったが、今後の支援方法や関わり方などいくつか課題が残った。
実施期間中に中間ヒアリングをボランティアと利用児及び保護者に個別で行い、支援に対しての不安や改善等の聴き取りをした。支援開始当初は登下校時の見守り・声かけ等の援助支援だったが、子どもの自立登下校を促進させたいという希望があり、支援経過中に自立登下校を目指す訓練的な支援方法へと変容した。
ボランティアと利用児及び保護者に個別のヒアリングで、事業全体の感想と今後の活動継続について聴き取りを行った。対象児にとって第三者との関わりは、新しい体験であり保護者を含め最初は不安や戸惑いも見られた。しかし、支援の経過と共に、対象児も社会参加や自立登下校のきかっけなどさまざまな影響を与え、子どもの自信へと繋がったのではないかと思われる。
保護者も子どもと距離を置くことで新たな発見や子どもの可能性の広がりを見ることができたのではないかと思われる。
今回の事業の目的とするインフォーマルサービスの開拓において、モデル事業を円滑に進めるためにコーディネーターを配置した。地域密着でのサービス提供において柔軟に対応するためには、個々の繋がりが強く求められ、その懸け橋としてコーディネーターが間に入ることで支援が進むのではないかと思われる。よって、今回の事業について移動支援ボランティア育成とコーディネーターの役割が重要になると考えられる。