1.事業所運営は成り立っているのか?

 今回の調査では、事業所運営で問題と感じることについて自由記載を求めたところ、何らかの記載をした事業所のほぼ全数が、単価が低い、経営が困難、ガイドヘルパーの調整困難などを訴えていた。調整困難の理由としては、ヘルパー不足、高齢化、不定期利用や長時間拘束に伴う事業所及びガイドヘルパーの負担感などがあげられている。

 これらの回答は、「身体介護を伴わない」単価が主である視覚障害移動支援事業所の悲鳴と言える。中には、「このままでは事業(視覚障害移動支援)の撤退も考えざるを得ない」とする事業所もあり、危機的状況が伺える。

(1)報酬単価

 支援費制度前は、ガイドヘルパー制度は家庭奉仕員派遣事業の身体介護として位置づけられ、単価は3000円台(神奈川県・岐阜県・京都府の例)であった。しかし、支援費制度移行時には、移動介護について、初めて「身体介護を伴う(以下、「伴う」という)」と、「身体介護を伴わない(以下、「伴わない」という)」の二段階の単価設定が導入された。この時、視覚障害者の移動介護については、多くの自治体が「伴わない」単価としている。平成18年(2006年)10月より地域生活支援事業に移行し、自治体が単価を定めることとなったが、その多くは、支援費時代の考え方を引き継ぐところがほとんどで、現在に至っている。

 今回の調査でも、事業所における契約者数の多い自治体の報酬単価について尋ねたところ、回答対象となった自治体のうち約3分の2の自治体が、支援費時代を受け継いだ“伴わないのみ”の単価設定としている。これは1時間単価で1500円をベースとするものである。
また、4分の1程度の自治体が、「伴う」と「伴わない」という2つの基準を“併用”している。「伴う」は1時間4000円ベースのところが多くみられる。

 残り、1割弱の自治体が“伴うのみ”の設定となっている。

 “併用”を導入している4分の1の自治体において、「伴う」と「伴わない」各々の利用者の割合はどのくらいなのだろうか。“併用”自治体のうち、「伴う」の決定を受けている利用者が過半数の自治体は非常にまれである。例外的に、身体障害者手帳1級の視覚障害者であれば「伴う」決定としているところもあるようであるが、多くの自治体は、車いす使用やふらつきなどを支えるという、いわゆる身体的介護の必要性の有無を、「伴う」「伴わない」の判断基準としている。同様の基準で実施している京都市を例にとると、約95パーセント以上の利用者が「伴わない」決定になっている。視覚障害者に必要な援助は、いわゆる身体介護ではなく、的確な視覚情報の提供に基づいた安全の確保であることからすると、京都市の比率は当然の結果である。このことからも、“併用”自治体における大半の利用者は、「伴わない」決定を受けていると推測できます。

 これらのことから、視覚障害移動支援事業所は、基本的には1時間1500円の報酬単価で運営をしている実態が浮き彫りになったと言える。

 ごく一部の“併用”自治体の「伴わない」単価と、“伴わないのみ”の自治体の単価において、支援費時代の国基準である1時間1500円よりも高い金額(1700円~2400円など)の設定をしているところがある。国の義務的経費ではない地域生活支援事業の支出は僅かでも抑えたい自治体が、旧国基準単価より高額としている事実は、1500円の設定では事業運営上いかに無理があるかを、財政の苦しい自治体でさえも認めざるを得なかった何よりもの証拠と言える。

 支援費時代前には3000円台であった単価が、一気に1500円とされた事業所の苦悩と戸惑いは説明するまでもない。同一事業の単価がこれほどまでに削減されたのはなぜなのだろうか。事業の内容やガイドヘルパーが担う役割が、単価設定に正当に反映されているのかを見直す必要があるのではないだろうか。

(2)収入減

 平成18年(2006年)10月に視覚障害者の移動支援事業が地域生活支援事業に移行するにあたり、通院については介護給付でも利用が可能になったこと、平成20年(2008年)10月からはさらに追加して役所等に行く場合についても個別給付の利用が可能になった。個別給付の居宅介護も事業実施している事業所によっては、視覚障害者の外出支援についてその利用目的にあわせて制度の使い分けをした派遣をしているが、視覚障害の移動支援のみを実施する事業所においては、個別給付扱いとなるものについては派遣できず、その分収入が減少することになったのである。

(3)サービス提供責任者

 サービス提供責任者の配置基準を設けるかどうかは自治体によって異なる。支援費制度時の配置基準を持つ自治体に所在する事業所からは、基準通りにサービス提供責任者を配置するのは経営上困難との強い訴えがある一方、地域生活支援事業となって基準を撤廃した自治体に所在する事業所からは当然そのような声はあがっていないが、サ―ビス提供上の質の低下を容認するものとも言える。

(4)ヘルパーの活動手当

①基本給

 226事業所のうち、ガイドヘルパーの時給が1000円に満たないところが46事業所見受けられた。これは、移動支援の報酬単価が低額であることと直結している。一方、時給1000円を超える事業所は100事業所を超えた。視覚障害移動支援以外の事業(介護保険や障害のホームヘルパー事業等)も実施している事業所においては、視覚障害移動支援で収支バランスが取れなかったとしても、事業別にヘルパー時給の差はつけにくいため、やむを得ず統一している結果と考えられる。そのために、事業赤字を訴える事業所が多くなっている。

②交通費

 ガイドヘルパーが利用者と同行している間に発生する交通費は、利用者負担としているところがほとんどであるが、利用者と出会うまで、ないしは別れてからヘルパーが自宅などへ戻るまでの交通費は事業所負担となる。

 視覚障害移動支援の場合、ホームヘルパーなどと比べるとヘルパー宅から利用者宅まで距離があり公共交通機関を利用することが多くなる。また、片道利用の場合、利用者と同行しない移動が遠距離になることもあり、それに伴う交通費も普段よりは高くなるのである。すなわち、移動支援の特殊性として、交通費支出は多いと言える。

 公共交通機関の利用が便利な地域ではバス代などを基準とし、バイクなどでの移動が多い地域では、1キロ単位の金額を設定するなどして支払われている。

 その一方で、交通費は支給していない、ないしは1回につき50円~200円程度とする事業所も見られた。仮に1000円を超える時給であったとしても、交通費を含むのであれば、ガイドヘルパーの実質収入はその額には及ばないことになる。

③事業所負担となる支出

 事業所はヘルパーに対して、利用者との同行時間帯の活動手当以外に、交通費や片道手当、待機手当、キャンセル手当など何がしかを支払っている。

 片道手当は、活動手当の支給対象とならない拘束時間について少しでも保障しようとするものである。待機手当は、通院時の院内同行で活動とは認められない時間帯や、利用者から同伴不要とされる会議中の時間帯など、ヘルパーが事実上拘束を受ける場合に支払われる手当である。キャンセル手当は、前日や当日に利用者からキャンセルがあった場合の手当になる。

 報酬単価が低く経営が困難であるにもかかわらず、これらの手当を支払わなければガイドヘルパーの負担となり、結果として後述するようなヘルパー不足に拍車がかかるため、事業所は苦肉の策を講じているのである。

 中には、苦しい経営事情から、これらの手当支払いについて、利用者にその負担を求めている場合がある。キャンセル手当については、はっきりと「利用者からのキャンセル料を支払いに充てる」と回答したところがあった。視覚障害者の外出は同伴者があっても困難を伴うものであり、その上に悪天候となれば外出は控えざるを得ない。さらに、年齢が高ければ体調にも左右されやすいため、直前のキャンセルは避けられないものとなる。このように障害故に生じるキャンセルについても利用者負担となっている現状が垣間見えるのである。また、目的地でのヘルパーの待機時間について利用者に負担を求める例も少なからずある。

 いずれにしても、報酬でカバーしきれない支出が事業経営をさらに圧迫していること、その一部が利用者負担によって賄われていることは見過ごすことはできない。

(5)ヘルパー調整

①ヘルパー数が不足、調整困難

 ここ2年ほどにおいて、高齢者や障害者分野においてホームヘルパーが不足しているが、とりわけガイドヘルパーにおいては、低賃金や不安定収入だけでなく、多様な負担感からヘルパー離れが深刻である。このため、利用希望に応じられないジレンマを感じている事業所は多く存在する。

②ヘルパーにとって安定的収入にならない

 事業所の収入が少ないため、ガイドヘルパーの時給が安いことは前述した通りだが、視覚障害者移動支援事業の特徴としてさらに次のような点があげられる。

 ガイドヘルパーが拘束されていても報酬算定されない時間帯が生じてくる。

 会議参加などで会場内での支援が必要でない場合は、その間実質的にガイドヘルパーが拘束されていても報酬の算定対象とはならない。また、支給量を節約するために利用者から断りが入ることもある。その結果、移動支援の利用は行き帰りのみとなる。一人のヘルパーが行き帰りのみに対応する場合は、行き先での待機時間が事実上の拘束時間となるものの、事業所収入が得られないためにヘルパーはその時間帯は無報酬となることが多い。また、行き帰りを異なるヘルパーで派遣する場合は、いずれも利用者と一緒に行動しない移動時間が長くなるがこれも無報酬である。すなわち、ヘルパーにとっては、拘束時間に見合った報酬が得られないのである。

 キャンセルの比率がホームヘルパーに比べて多くなる。

 外出は体調や天候に左右されやすいために、活動を予定していても直前のキャンセルや、利用者宅まで出向いたところで外出中止が判明することも少なくない。

 ガイドヘルパーの活動は、終了時間が変動しやすいため、予定終了時刻直後に、別の活動を約束することは困難である。その結果、終了後の活動予定は入れないか、余裕を持った開始時間の活動を約束することとなる。すなわち、一人一人のヘルパーの1日ないしは1週における活動可能時間帯の中で、効率よく活動を計画・実施しにくい仕事なのである。また、外出というものは当然のことながら、不定期なものも多く、急な用務も生じる。これに対応する移動支援は、ヘルパーにとって効率的な予定が組めるものではない。

 これらの様々な理由によって、ガイドヘルパーにとって安定的な収入になりにくい。

③ガイドヘルパーのさらなる負担

 長時間の活動となる場合のガイドヘルパーの精神的・肉体的負担は大きくなる。事業所もこのことに頭を痛めながらも、休憩時間の保障や時間短縮もしにくく、放置されているのが現状と言える。

 ガイドヘルパーは、その業務の性格上行き先が活動のたびに違うことがある。ヘルパーが行ったことのない場所であれば、スムーズなガイドをするために事前の経路や交通機関等の時刻確認は不可欠となる。待ち合わせ場所も利用者宅とは限らないため、時には、事前の下見も必要な場合がある。しかし、これらに要する時間及び労力はヘルパーの厚意に支えられていることが多い。

 また、昼食時間帯を挟む活動の場合、店やメニュー選択の自由がヘルパーに常にあるとは言えず、結果として負担を伴うことも否めない。

 ガイドヘルパーという仕事にやりがいを感じる人であっても、これらの労働条件や負担によってその魅力が色あせ、ガイドヘルパー離れや新規希望者の減少につながっている。従事者養成研修会を開催しても応募者が集まらない状況は全国的な傾向である。その結果、ヘルパーの減少、高齢化が進んでいる。

 安心して手引きが受けられる、利用料が介護保険のそれより安い、移動支援を利用すれば医療機関内の付き添いが受けられる、不定期の利用申し込みが可能、などの条件に合う地域や事業所では利用希望が増えている。しかし一方でヘルパー不足は加速しており、利用を断らざるを得ないという回答も多く見られた。利用申し込みに対応できず、他事業所を探すも、同様の理由から断られ、視覚障害者が危険を押して単独で外出せざるを得ない状況も生まれて来ている。

(6)へルパーの質

 ガイドヘルパーの絶対数が不足している中で、質を求めることは後手になっている。実態調査の回答でも、「経験豊富なヘルパーが定着しない」「スキルアップは必要だが手が回らない」などの意見が見られた。視覚障害者の移動支援は、移動時の安全確保だけで終わるものではない。視覚障害者の心理や見えにくさを理解した上で、安心できる状況を作りながら必要な情報提供を行わなければならない。それには高度な知識と理解、そして技術が必要だが、これらを維持・向上させるだけのスキルアップには手が届いていない。

 現在、国が移動支援従事者養成講習会受講をガイドヘルパー資格の要件としていない中で、視覚障害の特性を理解できていないヘルパーが活動可能な状況となっている。そこで、養成講習の実施再開を強く求める回答も見られた。

(7)現場の声

 ある自治体の障害福祉課の担当職員が、「視覚障害移動支援のみの事業経営では苦しいことは分かるが、そうであるならば単価の高いホームヘルパー事業も手がけたらよいのではないか。それが経営戦略というもの。」と発言したことがある。視覚障害者の移動保障を中心に取り組む事業所の場合、利用者の在住地域の分布状況から広域エリアを営業地域とすることとなる。その場合、ホームヘルパーなど他の事業を実施しようとしても、ヘルパー数の確保やサービス提供責任者を中心とする職員配置、広域エリアにおける効率的派遣などから成り立ちにくい。

 そもそも、視覚障害移動支援という一種のみの事業実施では、経営が成り立たない事業単価そのものが問題であると言わざるを得ない。

 他の事業の「おまけ」としての実施でしか成り立たない事業である限り、視覚障害者の特性を真に理解した事業実施などできない。

 赤字経営を嫌うがために、不定期利用や片道、短時間利用はお断りとする事業者が後を絶たない。このような不正常な事態が解消されるだけの報酬単価が正に求められるのである。

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