移動支援サービスは視覚障害者・児の社会生活上必要不可欠な外出、突発的なニーズの対応など柔軟性のある外出及び余暇活動等の社会参加をするための外出・移動等の介護を対象としている。
支援費制度により、障害者・児が移動支援サービスを受ける際の利用者負担分が原則1割となったことから、「与えられる」サービスから「選択できる」サービスへと変化した。
このことにより、利用者が率直に意見等を言える環境下になった。
また、介護保険サービスの利用者が増加したことにより、事業所の新規参入が増え、質の良い事業所を選択できるようになった。
しかし、障害者自立支援法の施行に伴い報酬単価の改定と人手不足が生じ、今後は介護保険サービスに支障が生じる可能性が高いことが考えられる。
一方、移動等支援事業は地域生活支援事業の一つとして市町村が責任を持って行うこととなり(市町村に裁量権がある)、各市町村の財政力により、運用方法や負担軽減によって障害者負担に地域差が広がっている実態が浮かび上がっている。
ここでは、利用者のニーズや事業所の運営状態のアンケート調査結果を踏まえて、あるべき自立支援法について提示する。
事業所はサービス提供するためには、市町村に事業開始に必要な書類を作成し提出する。
この書類は地域によって形式や種類が異なるが、おおむね次のような書類が必要である。
関係書類の提出は地域によって異なり、また指定・委託などの形式も異なる場合があるので、サービスを開始する市町村に問い合わせる必要がある。
事業開始の届け出が受理され、決定あるいは指定されて初めてサービスを提供できる事業所となる。
またガイドヘルパー(以下ヘルパー)が在籍する必要があり、登録や契約など、雇用する形は事業所により様々だが、利用者数や利用規模によっては常勤換算率を用いる市町村や、利用時間数によって人員定数を定めている市町村がある。
移動等支援サービスは、利用者が外出したい時にいつでも自由にというスタイルから、継続性及び計画性よりも緩やかな利用となることが想定される。
ヘルパーの収入という面においては約束できる場合は少なく、多くのヘルパーを登録し、網目のようなガイド可能時間を設定し、利用者の依頼した時間に合うヘルパーを派遣する必要がある。
また事業所には管理者、サービス提供責任者などの配置を必要としている市町村もあり、さらに派遣をコーディネートする人員も必要となる。また請求事務に係る人員や備品なども明示する必要があり、そうした内容を審査され決定あるいは指定され、事業を開始することができる。
関係書類は5年あるいは10年保管することなど決めている場合もある。
実態として人員の換算率は事業所の経営を圧迫することがあり、その解消として一つは算定単価の引き上げ、換算率の改定などが考えられる。
利用者としては、移動支援サービスを提供する事業所があったとしても選択できない地域も存在し、都市部と山村部ではサービスの質の格差も生じている。
さらにヘルパーの不足や報酬単価の低さなどから積極的に移動等支援サービスを提供する事業所も少なく、利用できない場合や、外出を控えるといった傾向も見られることから、全国のすべての地域で同様のサービスを受けられる体制が急務であると考える。
市町村の運用となることから、サービスの報酬単価や内容は様々で、調査結果からも分かるように次の点を把握する必要がある。
地域によっては利用者の状況により、
報酬単価が異なる場合がある。この場合でいう「身体介護を伴う」報酬単価は居宅介護の「身体介護」の報酬単価と、「身体介護を伴わない」報酬単価は同「家事援助」の報酬単価と類似している。
その判断基準として、
市町村独自の基準を持ち「身体介護を伴う」、「身体介護を伴わない」の判断がされている。分かりやすく身体障害者手帳の等級を考慮し判断している市町村もある。
1割負担という原則から報酬単価が高くなれば利用者負担も高くなることから、事業所と利用者の利害は相反することがあり、その調整点となる単価設定が望まれる。
概念として「社会生活を営む目的」とあり、その内容については様々な考え方がある。
厚生労働省では平成20年(2008年)4月に医療機関、行政組織等への外出は障害福祉サービスの「通院介助」での利用を認めているが、移動支援サービスでの通院を認めている市町村もある。
また社会通念上不適当と思われる場所や、通勤、通学といった営利や継続的外出には利用できない場合もある。
社会生活を営む上ではすべての外出が社会生活であり、障害者にだけ内容の制限を設けることは望ましくない。一部地域では利用の制限を設けずどのような外出も可能にしている事業所もあるが、些少である。
地域差による移動手段の確保は市町村が責任を持って行うべきである。
移動に係る手段として公共交通機関を利用しての移動となるが、地域によってはその代替がなく、利用が困難な場合もある。この解消する主なものとしてヘルパーの自家用車での移動が考えられる。これは保障すべき内容がすべて、事業所・利用者に任されており、公的な保障が明確でないためにほとんどの事業所では行っていない。福祉移送サービスなども行われているが一部である。
このような場合に対する事業所や利用者に対する保障を明確にすることで利便性がさらに良くなると思われる。
多くの場合原則日帰りの利用としており、その移動できる範囲になるが、宿泊を伴う外出もあり得ることから、すべてにおいて利用できるようにすることが望ましい。宿泊に関しては一部市町村で認めている場合もあるが、就寝時などは提供時間に設定されない場合が多く、突発的なニーズや事由への対応も不十分なことから、宿泊派遣を行っている事業所は少ないが社会生活において十分想定されることから行うことが望ましいと考えられる。
市町村によっては、従前の市内・県内のみと限っている場合もあるが、外出においては制限を設けないことが当然と考える。
また1か月における受給時間においても、市町村により上限の時間が設定されている場合もあることから余裕をもった時間を設定し受給する必要がある。
報酬単価に基づいて、ヘルパーへの活動費が決定されるが、必要経費として、利用者宅などへの往復の交通費などを考慮した活動費となる。また片道のみの提供や短時間の提供などは、報酬額を超える経費が発生することもあり(例示)、利用者とヘルパーの地域性や、交通手段等を考慮する必要がある。
障害福祉サービス事業所や介護保険事業所では複数のサービスを提供している場合もあるが、視覚障害の移動支援サービス事業所は単独の事業所が多く、その点を考慮しても報酬単価の引き上げがなくては、維持運営できない。
また活動費の低さから質の良いヘルパーが他のサービス提供事業所に異動する場合や、ヘルパーのなり手が減少する状況もあることが、ますます移動支援サービスの利用について支障となっている。
(例)経費が算定単価を上回る場合とは・・・
●「身体介護を伴わない」サービスにおいて、提供時間60分の算定単価約1500円とした場合
→ヘルパーの交通費が500円、活動費が1000円の場合で、500円+1000円=1500円 となり事務経費その他の人件費がマイナスとなる。
利用の開始・終了場所が自宅でなく、外出先である場合なども多く、それに係る交通費等の経費を事業所で負担するのか、ヘルパーが負担するのかは事業所の考え方によるが、経費として事業所が負担することにより、ヘルパーの負担感が軽減され、より多くのヘルパーが活動できることも考えられる。
また利用者への経費加算は負担増を招き、移動等の保障という観点からは加算は適さない。
飲食に関しては個別負担とする。ただし会食や、会議など食事が前提となる利用においては、ヘルパーが選択できる場合を除いて利用者の負担とする。
その他ツアーなどのパック旅行などの代金負担は利用者となる。ただし食費などの明細が分かる場合はそれぞれが負担する。
今後は会食や観劇、コンサートなどの趣味に関して入場料などが高額と想像されることから利用者負担とする考えを見直す必要がある。
事業所は利用者に適正なヘルパーを派遣する必要がある。たとえば性別や年齢、身長など(例示)に配慮した人選をすると、より歩きやすさや話しやすさが出てくる。またヘルパーの趣味や特技などの情報から、利用者の目的に合うヘルパーのコーディネートをすることにより、利用しやすさが生まれる。
ヘルパーが多種にわたり存在すれば多くの利用者のニーズに対応が可能だが、ほとんどの事業所では利用者に対してヘルパーが5-6名という現状では難しいと考えられ、少ないヘルパーがどのような利用者にも対応できるような研修や実務が必要となる。
また緊急を要する依頼に対して、迅速かつ適切に対応できるようにすることで利用者の安心につながる。
さらに利用者からヘルパーの指名を受け付けることも利用しやすい条件の一つであり、対応ができることが望ましい。
内容の変更や中止などに対応できる体制や、ヘルパー、利用者への連絡手段の確保(携帯電話・メール・ファックスなど)が必須である。
ヘルパーが決定後、利用者へのヘルパー氏名の報告を行った後、ヘルパーは依頼内容などの確認のために利用者へ連絡をする。この連絡によって「声を伝える」ことができ、利用者はより安心できる。
→持ち手となる腕や肩につかまりにくく、また歩幅も異なるために歩きにくさが出てくる。
→特にトイレや入浴の支援の場合は同性でなければ利用が困難な場面もある。
→お互いの話題などが合わなかったりすることもある。
ヘルパーは、利用者の移動支援サービスの当日は時間と内容を理解しサービス提供をする。視覚障害特性を理解し安全・安心な支援を行う。
提供終了時には時間の確認を音声で行う。
印鑑などの押印を求める自治体もあるが、その書類の煩雑さや印鑑の忘れなどを考え、一か月単位とするなど簡便な確認とする。
事業所は利用者に理解できる情報提供により、次の書類を点字・拡大文字・音声・SPコードなどで発行しなければならない。
その他必要な書類等も同様に利用者の理解できる情報提供とする。
又契約などの手続きに関しても訪問し、障害特性を理解しながら行う。(代筆可とする)
利用者の1割分を差し引いた9割分を市町村に代理請求するが、市町村ごとに請求方法や算定単価が異なること、書類の様式が異なることなど、事務が煩雑であることも今後検討する必要がある。
事業所は視覚障害者移動支援従業者養成研修の修了者を在籍させてサービス提供する。さらなる利用者の利便性を高めるためにヘルパーの初任者養成研修と既存のヘルパーの資質向上を常に図る必要がある。
市町村によっては研修に関する要綱を示している場合もある。資格要件を明確にすることが利用者への保障となる。
また日盲連、日盲社協の加盟施設等が開催しているスキルアップ研修などに積極的に参加するように周知する。
利用者は移動支援サービスの利用を市町村に申請し、月の利用時間数の受給を受けることで利用ができる。その際に計画時間数や106項目の区分判定の調査を受け支給が決定する。前述の基準[3の(1)記載]、介護保険や障害福祉サービスの利用の状況、家族の状況などから、対象サービスを使い分ける、あるいは制限している場合もあるが、移動支援サービスにおいては一つのサービスで利用が可能とすることが望ましいと考える。
地域生活支援受給者証(決定通知書等)には、おおむね次の内容が記載されている。
受給者証は手帳形式や、通知文書の場合もある。
内容に不服がある場合は交付先に問い合わせる。(不服申請)
また負担額上限管理票を発行している市町村もある。この場合は利用している種々のサービスの負担上限額を合算して、払いすぎた負担額を還付する場合に必要な書類としている。
特に65歳以上の介護保険該当者や特定疾患を持つ方々は複数のサービスを利用されていると想定される。
受給決定通知後、移動支援サービスを提供している事業所を選択し「契約」をすることにより利用の開始となる。
事業所を選択する場合に確認することとして、次のような事が挙げられる。ただし事業所情報の個別内容は、市町村による説明が前提とし、対象事業所を紹介する。
事業所選択後は各種説明を受け契約する。利用料の支払いに関してはおおむね金融機関による引き落しが大半である。
さらに急な利用が発生し、後日契約を行う場合にも対応を可能にしておく必要がある。
サービスの提供を受ける場合事業所に申し込む。依頼内容が決定している時点での申し込みが適当であるが、急な外出などにも対応できる事業所が望まれる。
依頼する内容としては次の
を伝えることで、事業所はヘルパーを手配する。市町村によっては、行き先や名称などの記載を事業所に義務化しているところもある。
ヘルパーを指名できることも利用者の利便性が高まるが、育成も含め多種のヘルパーを利用することも期待される。
また利用する際は身体障害者手帳を所持し、公共交通機関などの割引制度を用いる。
利用サービスに係る問題などが発生した場合、利用者と事業所で解決を進めるが、できない場合は都道府県に設置してある運営適正化委員会に相談することができる。
サービス提供を受けている間の交通費は利用者負担となる。
原則公共交通機関の利用となるが地域によって、また今後は、高齢化が進み移動が困難になることが推測されることから、ヘルパーの自家用車の利用も、その補完がなされれば可能とすることが望ましい。
サービスの提供後ヘルパーが提供時間の確認をする際に、開始と終了時間の確認後押印する。読み上げ呼称を必須とし、不明確な場合には説明を受ける。押印が困難な場合もあり、1か月ごとに1度押印する場合もある。
自治体によって、1割・0.5割または無料などの基準が設けられている。
負担上限月額を超える負担は発生しないが、介護保険サービスや障害福祉サービスを併せて利用している場合はすべてのサービスの利用負担を合算して上限負担を設定し、手続きなどで還付される場合もあるので、各市町村に問い合わせる必要がある。
今回は移動等支援サービスに係るそれぞれの場合において、調査結果から顕在化した内容に基づき、事業所・利用者の最も適切なサービスをイメージした。
支援費制度から始まったこの移動支援サービスは、現在様々な形となり全国で展開されているが、実際は地域格差が多く見られ、同一障害でありながら同一のサービスを享受できない状況がある。このことをいち早く是正する必要がある。
事業所の運営の維持を基本に、利用者の利便性、ヘルパーの定着と質の向上も含め検討する必要がある。