第2章事業の成果 4.ヒアリング調査

1)キャッシュフローの問題

  新体系移行に伴う課題としてキャッシュフローの問題が多く聞かれた。請求から入金までの期間が2ヶ月あることと、手続きにミスがあった場合は入金が3ヶ月以上遅れるケースもあり、事業規模が小さく資金に乏しい事業所はつなぎの資金繰りに苦労している。特にNPO法人などは事業で利益が出ると課税されるので、社会福祉法人と比べて内部留保が思うように進まず、すぐに資金ショートを起こしてしまう(経営的に)不安定な状況にある。

  また、事業経営者は新体系移行後の重要な時期に資金を集めるために東奔西走しなければならず、本来行うべきサービスの充実や組織体制の強化などに時間が割けないといった状況に陥ってしまう。これは自立支援法の理念からみても望まない状態であることは明らかであり、事業者に福祉サービスに専念させる為の具体的な支援策が求められている。例えば、新体系移行後6か月~1年くらいの期間、公的金融機関のつなぎ融資が受けられる制度を整備するなど、経営リスクを軽減する措置が急務であると考えられる。

2)資金調達の問題

  新体系移行に伴い利用者を増やしたり新サービスを始める場合、拠点を開設(整備)する資金の調達が予想以上に困難であることがヒアリングから明らかになってきた。拠点の整備には少なくとも200~300万くらいの資金が必要である。ケアホームを新設するとなれば3,000万~5,000万くらいの資金が必要となるが、これだけの資金を設備資金で捻出できる事業所はそう多くないのが実情である。作業所や地域活動支援センターから移行した事業所は年間の事業規模より大きい資金を必要とするわけで金融機関からの借り入れも厳しい状況にある。

  特にNPOにおいては、県の施設整備資金や福祉医療機構を利用しようとしても社会福祉法人優先で使わせてもらえないという声が多く聞かれ、資金調達に大きな課題を抱えていると言わざるを得ない。

  日本財団がNPOと社会福祉法人の助成金額を同水準にするなど少しずつ環境は改善されてきてはいるものの依然として厳しい状況に変わりはない。法人格の取得のし易さや事業活動の自由度、意思決定の迅速さなどを考えると、NPOは今後の地域支援の担い手として大きな役割を担っていることは間違いなく、早急な資金調達の支援策が望まれる。

3)合意形成の問題

  新体系へ移行するためには組織内で意思決定を行わなければならないが、この意思決定が十分な合意を得てない場合が多いことがヒアリングから見えてきた。この合意の相手は利用者と事業者ではなく、事業所内におけるトップと職員との間の合意であるケースが多く、このギャプが現場の混乱やモチベーションの低下を招いている。

  例えば、職員が新体系移行を望んでいるのにトップが動かないケースがある。新体系への移行は利用者にとってもメリットがあり、職員にとっても事業の拡大がはかられると将来の所得の安定につながることから、移行を進めたいと思っているが、トップがこれ以上の責任を抱えたくない為、話合いの場で曖昧な結論に終始してしまうことが多い。これが職員のモチベーションの低下を招き、離職へとつながっている。

  また、自立支援法のメリットを十分に検討して合意していない場合、移行を進めたとしても職員の負担だけが増えたと誤解を招き、同様な結果を招いてしまう。 他に、合意に向けて延々と話し合いを行っているが結論が出ず、どんどん疲れていってしまうケースも見受けられた。

  いずれにしても合意が図られていないことが大きなストレスと問題を招いていることは明らかであり、今後は合意形成の手法を導入するなどの対策が必要であると思われる。

4)高齢化の問題

  小規模作業所の経営者の方の中にはかなり高齢の方が多く見られる。ヒアリングをしていても、行政の支援を頼みにしていて、主体的に自立支援法を勉強して新体系に移行するという意思を感じることは少なかった。利用者も事業者もスタッフも高齢化している状況で新体系に移行するのはかなり困難な作業であると考えられる。

  地域には新体系に移りたいが利用者の数が思うように伸びないといった、まだ中堅や若手の事業者もいることから、高齢化を抱える事業所の事業継承として、このような積極的な事業所とのマッチングを図ることも考えてゆかなければならいと思われる。

  いずれにしても高齢化の問題はこれからどんどん加速していくことが予測されるため、どういう形で高齢化した事業所を支えてゆくのか、具体的な道筋を示すことが重要かつ急務である。

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