第3章 現在の要約筆記の手法と本システムが目指す方法の違い

パソコン文字通訳では、4人でチームを作り、2人のペアが交代で打っていく。パソコンのキーボード入力は、熟達した人では、1分間に200字の入力が可能であり、2人で入力すれば、話速度の300字/分に追いつくことが可能である。ペアの相方が打っているものは、お互いに自分のパソコンで確認できるので、それを見ながら、自分が打つべき場所を判断し、打っていく。従って、自分の打つ場所や順番を間違えると言うことはほとんどない。(まれに、既に次の人が打っているところまで、打ってしまうことがあるが、表示する前に確認し、消去すればよい)。

一方、手書きの場合は、3人または4人でチームを作るが、書くのは、基本的に一人である。3人または4人の役割分担は決まっていて、一人はメインの書き手、もう一人はサブで、サブは、メインの間違いを修正したり、聞き落としを伝えたりする。もう一人は、引き手でロールを適当なスピードで引っ張る役である。この役は、10~20分で順繰りに交代していく。4人の場合は、一人が順繰りに休憩をとることができる。

手書きシステムで、二人書きというのがある。この場合は、サブがメインの指示に従って、1行の後半を書いていくやり方である。この場合、1本の幅225cm程度の透明ロールに二人で書き込んでいくのであるから、かなり無理な姿勢をとる必要があるし、サブの人は、頭でOHPの投影を妨げたりするので、注意が必要である。またメインは、話し手の声を聞きながら、サブに声で指示を出し、サブはその指示を聞きとって、書き込む必要がある。話し手の声を聞きながら、メインとサブの間で音声で伝え合うという作業は、声の大きさが適当でないと、話し手の声や伝達の声を聞き逃したりする。こうしたメインからサブへの伝達方式になっているのは、手書きではかなり大幅な要約が必要であり、二人が別々に要約すると、文章がつながらなくなるからである。

パソコン要約筆記では、こうしたメインとサブという区別がないし、一方が他方に書く内容を声で伝えることはしない。これは、パソコン要約筆記の場合は、要約が少なく、特に声でのやりとりがなくても、以心伝心で、お互いが自分の入力する内容を判断できるからである。

手書きでは、話すスピードと書くスピードの違いから、文字数で約20%に要約する必要がある。これは、相当大幅な要約で、単に「えーと」とか「あのー」などのケバとか、繰り返しなどを省くだけでは、追いつけず、話を再構築して、別の表現にするなどの工夫が常に求められる。

しかし、これを、一人ではなく、4人で筆記していく形にすれば、書く量は4倍となり、80%に要約すればよいので、パソコン文字通訳の場合に近い形が実現するはずである。メインとサブが声でやりとりすることなく、以心伝心で、お互いが分担して入力することが可能となると思われる。現在は、OHPを用いて、3cm角の文字を書いていくのが標準であるが、タブレットなどを用いて電子ペンで書き込んでいけば、文字は半分の大きさで十分であり、またOHPの場合と比し、楽な姿勢で書くことができるので、更に文字数は増え、ほとんど要約を必要としないシステムを実現できる。

ただ、このシステムで問題となるのは、4人(注1)でうまく連携して入力できるかという点である。パソコン文字通訳の場合は、2人の連携であったので、自分の分担が容易に判断できた。しかし、4人という人数となると、自分の順番と書く範囲を即座に判断できることが求められ、これがスムーズにできるかという問題がある

そこで、どのようなシステムにすれば、これが可能となるか、シミュレーション・プログラムを作成することにした。

*注1:4人というのは、現在の手書き要約筆記、パソコン文字通訳の場合のチームの人数に合わせたものであり、もちろん、状況により、3人、4人、55人以上という場合もあろう。

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