はじめに

 障害のある人に対する虐待はどこでも起きる可能性がある。

 なんて言われてもピンとこないという人は多いのではないでしょうか。テレビや新聞では時々報道されるけれど、悪質な一部の施設でのことであって、多くの施設では虐待なんて行われてはいない。そう思ってはいませんか?

 障害のある人は何も言ってくれないけれど、もしかしたら虐待されていることを隠しているのかもしれません。必死に自分なりに何かを訴えているのに、周囲の人々が障害者の訴えをくみ取れていないだけなのかもしれません。

 施設でも家庭でも職場でも学校でも病院でも、障害のある人は虐待されています。これまでに発覚した多くの事例がそれを物語っています。初めから虐待が表に出るケースなんてなくて、ひどい目にあいながら障害のある人は沈黙しているものです。障害者の家族ですら目をそらし、あきらめてしまっているのです。勇気を出して県や市町村など関係機関に相談しても相手にされなかったり、黙殺されてしまったりするケースも残念ながらたくさん報告されています。相手にされないから、ますます障害者は無力感のアリ地獄の中であきらめてしまっているのです。

 なぜ、公的な関係機関は黙殺するのでしょうか。障害者なんて殴られてもいいんだと思っているような人はいません。まさか…と思いながら、どうしていいのかわからないので、障害者の助けを求める声に耳をふさいでいるのではないですか?

 ならば、SOSを受けた時にどうすればいいのか知りましょう。あなた一人でなんとかしようなどと思わず、同僚や身近な関係機関と協力しながら障害者を救ってほしいのです。

 このマニュアルは行政機関ではたらく人、障害者福祉に携わっている人のために作成しました。判断能力にハンディのある人は虐待にあいやすく、被害を受けてもなかなか声を上げてくれません。虐待について相談や通告を受けながら何もしないのは、障害者の沈黙に付け込んでいることにほかなりません。ほんの少しの勇気と知識があれば、障害者を救うことができるのです。

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