第9章 第三者機関・議会・マスコミなどによる解決

1―第三者機関

①運営適正化委員会

 障害者福祉を担っている施設や事業所での虐待や権利侵害に対しては、運営適正化委員会が相談を受理して調査に当たることになっています。せっかくの制度なので積極的に利用して機能させていくべきだと思います。都道府県の社会福祉協議会などが委員会を運営しており、少数の事務局員がたくさんの相談を処理しているのが実情です。外部委員は月に1回程度しか集まらないので、相談があってもその内容を委員が認識するのに時間がかかり、機動的な運営ができていないとの批判もあります。また、中立・公平性を重視するあまり問題の本質的な解決に至らないとの批判が従来からあります。

②障害者110番

 障害者110番という制度は各地の知的障害者の親の会(育成会)や身体障害者の当事者団体が委託を受けて定期的に電話相談などを実施しています。専門性を備えた相談員が専従で相談に乗っているわけではないので、この相談員が虐待などの深刻な人権侵害を直接解決することは難しいですが、気安く相談できること、ほかの相談機関や権利擁護機関につなげられること、などのメリットがあります。障害者自立支援法の施行にともなって廃止された県もあります。

③第三者委員

 オンブズマンや第三者委員は閉鎖的な入所施設などが、客観的な第三者の目で施設内を定期的にチェックしてもらう意味で導入してきたものです。弁護士や有識者などがオンブズマンを務めているところもあり、虐待や権利侵害の端緒や要因に気づいて施設側をバックアップしていくという面では役割を果たしているケースも多いと言われています。

 しかし、期待されている役割はあくまで施設をよくすることであって、利用者(障害者)の利益をどこまで代弁し守るのかという点では限界があるかもしれません。

④相談員

 「相談員」という名前は障害者福祉の世界ではあちこちで使われており混乱してしまうかもしれませんが、その中には親にとって気軽に何でも相談できる身近な存在として有効に活用すべきものがあります。

 かつて地域療育等支援事業のコーディネーターがいろんな相談に乗ってくれる相手として頼りにされていました。支援費制度の導入時に一般財源化されたのですが、多くの地域で相談支援事業は県や市町村の事業として存続しています。何か心配なことがあったら、とりあえずは相談支援事業のコーディネーターに相談してみるべきかもしれません。その上でコーディネーターが運営適正化委員会や県・市町村などの担当者やその他の関係者と連携しながら解決へと導いてくれることを期待したいです。

 地域福祉権利擁護事業とは地域で暮らすお年寄りや障害者の日常生活の相談に乗り、年金や買い物をするための金銭管理などを代行してくれる相談員がいます。虐待の相談や調査とは少し違いますが、中には意欲的に権利擁護を担い障害者を守っている相談員もいます。

 知的障害者相談員、民生委員、児童委員、人権擁護委員などはいずれも法律に定められた国の制度として古くからあります。ただ、年配の人の名誉職的な意味合いで任命されることも多く、有名無実化して活動が停滞しているとの指摘は以前からあります。地域によっては現役世代の人が意欲的に活動しているケースもあります。

 また、民生委員などは長年その地域に根をおろして生活している人で、人望が厚く影響力のある人が任命されていることが多いので、いろんな情報が集まり、行政などへの発言力が大きい場合があります。こうした既存の制度をうまく活用することが虐待防止や被害救済においても有効だと思われます。

2―議会

国会議員や国会に対する働きかけ

 虐待ケースについて国会議員への働きかけで、改善される場合があるでしょうか。

①国政調査権(憲法62条)によって、虐待調査をする場合

 国会は立法機関なので、虐待が法律の欠陥ゆえに起こってくる場合とか、一定の法による歯止めをかけなけ虐待が防げない、あるいは発生のおそれがあるというような場合には、国政調査権を行使してもらうために個別の議員へ相談や訴えなどの働きかけが考えられます。

②国会での質問

 国の対応などに問題がある場合に、議員が質問をして政府に施策を促すということも考えられます。

③請願(憲法16条)

 国政に対する要望として、議員を通じて提出します。

 請願の趣旨に応じて適当の常任委員会または特別委員会に渡され、その委員会では、審査を行い、議院の会議で採用するかを決め、内閣において措置することが適当とされたものは、議長から内閣総理大臣に送付されます。

④陳情

 陳情は請願と違い、議員の紹介を必要としません。要望する内容を簡潔にまとめた文書を議長宛てに提出し、議長が必要と認めたものは、適当の委員会に参考のため送付されます。

 以上のように、虐待が国全体に共通の立法(立法がない)にかかわるような場合や国や国に準ずる組織によるような場合には、国会議員を通じることが有益です。しかしながら、個別の虐待については、(身近な国会議員が事実上話し合いに立ち会ってくれるなどは別として)救済に利用することは期待できません。

地方議員への働きかけ

①請願(地方自治法124~125条)

②議会での質問

 国会議員と同様にできますが、やはり、この場合には、個別の虐待ケースというより、規模の大きな事件が想定されます。

③個別の相談

 地方議会の議員、特に市区町村の議員の場合には、地域との距離が非常に近いので、個別の相談に応じてくれることが多いように感じます。そして、人権問題であれば(お金の貸し借りなどとは違いますので)、話し合いの場に立ち合うなどの協力をしてくれることも多いと感じます。

 また、議員は役所とは繋がりがありますので、役所がらみの虐待の時には、有効だと思います。

3―NPO、マスコミ

 福祉や司法が設けている公的な制度よりも、むしろNPO法人などが各地で権利擁護機関を新設して、それが障害者の権利侵害にきめ細かい対応を果たしているケースも出てきました。身近なところにどんなNPOが活動しているのかをあらかじめ調べておくことが大事です。

 こうしたNPOは公的な権限もなく資金や人材も乏しい場合がほとんどですが、障害者や家族、親の会などの当事者が運営の中枢に関わっていたり、障害者問題に熱心な弁護士や研究者が関わっていたりするので、モチベーションが高く、ねばり強く被害救済を支援してくれることが多いのも事実です。

 与野党がつくろうとしている障害者虐待防止法では市町村に虐待防止センターを設置し、業務の一部をこうした市民グループやNPOにゆだねることを想定しています。いまから身近なところでこうしたNPOを準備しておいてもいいと思います。

 加害者である施設や学校や会社が虐待を否定して防御に入ると、決め手になるような物的証拠や目撃証言がないと真相解明や被害者の救済は難航してしまいます。水かけ論になり、行政や警察も手を出さない……という事態に陥っている事案は多いものです。

 窮余の打開策として議会で取り上げてもらう、マスコミに取り上げさせるということが有効な場合があります。世間の耳目が集まれば施設や会社側もなんらかの対応を迫られ、行政も動かざるをえなくなるのです。

 しかし、マスコミも不確かなことを報道して、その相手から名誉棄損で提訴されたりすることも増えてきましたので、簡単には報道しません。警察や行政などの当局を情報の拠り所にするときには少々あいまいなことでも記事にしますが、そうした権威を拠り所にしない報道は、いわゆる「調査報道」といって新聞社やテレビ局自身が報道に全責任を負うことになるので、より慎重な裏付けや確証を求められることになります。

 また、マスコミの傾向として被害にあった当事者の救済というよりは、個別の事件を社会問題化することにあることも忘れてはならないと思います。また、現場の取材記者が障害者に理解があり慎重な報道を心がけても、デスクや編集幹部などより報道に権限をもった立場の人がそうであるとは限りません。世間の注目度が高くニュース性があるうちは熱心に報道しますが、それがなくなれば潮を引くように無関心になって寄り付かなくなるという記者も多くいます。1~2年ごとに担当が目まぐるしく変わっていくのもマスコミの特徴です。そうしたことを留意した上で、マスコミを有効に活用すれば事態を大きく変えることにつながったりもするのです。

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