来所による相談支援においては、【表.1】にあるように、1年間で75名に対して、合計230回の支援を行った。内容としては、本人もしくは家族と面接し、ひきこもりに至った経緯や現状、日常生活について話す中で、社会経験の乏しさからくるつまずきや悩みを引き出し、本人の気持ちによりそいつつ一緒に問題を解決できるよう支援を行った。ほとんどの相談者が来所された時から緊張感が強く、コミュニケーションを苦手に思っている方が多く見られた。
また広汎性発達障がいや精神障がいの疑いがある方も多くみられた。相談を継続するにあたっては、定期的な来所を呼びかけ、外出のきっかけつくりと昼夜逆転等の生活リズムの改善等を図った。具体的な相談としては、生活の相談、対人関係の相談、就労の相談が多かった。
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4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | 合計 |
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相談実人数 | 6 | 6 | 5 | 5 | 6 | 7 | 7 | 8 | 6 | 6 | 6 | 7 | 75 |
相談延べ数 | 14 | 15 | 11 | 21 | 24 | 23 | 22 | 22 | 19 | 21 | 20 | 18 | 230 |
生活の相談については、今まで家族以外の人と接する機会がない方が多く、できる限り受容の姿勢で本人の話を聞くようにして信頼関係を築いた。
また、対人関係の相談については、大半のケースで対人関係のつまずきでひきこもり状態となっており、ほとんどの人が苦手としている。しかし、本人はその状態を具体化することが難しく、面接を中心に支援した。通常、一対一の面接をする場合が多いが、ひきこもり支援に関しては、できる限り利用者1人に対して、支援者が2名で対応した。当初は対面する人数が少ない方が良いと考えていたが、一対一だと、「何か話さないと」と考えてしまい、本人へのプレッシャーが強くなると考えられたため、精神保健福祉士(以下、PSW)と臨床心理士(以下、CP)の二人で対応するようにした。
会話の中では支援者同士も会話をして、本人の考える時間をつくることにより、自分自身を振り返ったり、返事や話題を考えたりする時間をつくるよう心掛けた。ほとんどの利用者は雑談が出来なかったため、雑談を広げることで、コミュニケーションの苦手なところを見つめ直す支援をおこなった。
また、その次の段階として、コミュニケーションの苦手なところについてソーシャルスキルトレーニングを取り入れ、実際的なスキルを習得し、より社会に適応しやすくなるよう支援をおこなった。本人を取り巻く環境や情緒面、特性に合わせてできることを伸ばし、苦手なことをどのように乗り越えるかを一緒に考え、不安やパニックになる前に対策(見通し)をたてられるよう練習する支援を行った。
このような支援を重ねることで、支援センターの場が本人にとって安心できる「居場所」となり、守られた中で自己の課題に取り組むことで、自尊心を育み、就労に向けて取り組めるようになったと考えられる。
就労の相談については、ほとんどの人が将来への不安をもっており、「就労したい」という気持ちはあるものの、実際はコミュニケーションにおける不安が強く、困難なケースが多い。また不登校からひきこもってしまい、就労経験が全くない場合もあり、「仕事する」というイメージが湧かないというところから、就労するイメージを具体化する支援をおこなった。
就労経験が少しでもあるケースについては、支援や活動で自信を取り戻すことで前進できるケースがみられた。ただ、本人の自己評価は全体的に低く、就労してからも休みを利用して支援センターを利用するケースもあった。具体的な就労支援については、若者サポートステーションや就業・生活支援センターと連携しておこなった。
また就労相談をしていく中で問題となったのが、一般就労するか障がい者雇用を利用するかの選択であった。一般就労は難しいという現実はあっても、未受診や受診したことはあっても障がい受容ができてないケースが多く見られた。また、精神障がい者保健福祉手帳の取得率は低く、就労へのアプローチは難しいものであった。
ひきこもり相談の多くは、家族からの相談で始まった。家族からの相談は、ひきこもり支援の第一歩といえる。ひきこもり状態であり、コミュニケーションが苦手で家族以外の人と話すことがないケースが多く見られた。家庭訪問や面接により、本人と一定の信頼関係を築くまでは家族相談が中心となった。
家族との相談については、「ひきこもり」という状態にストレスを感じ、「どう対応してよいのかわからない」という相談が多くみられた。家族にとっては、日々の生活の中での悩みであるが、少しの支援や助言で変化することも考えられた。家族は一番身近な理解者であることから、『家族の安定=本人の安定』へと繋がっていくことがわかった。
しかし、家庭訪問や本人の来所相談に繋がっていった場合、支援者と家族との繋がりに敏感になる利用者がみられた。本人にとって家族の味方をする支援者は自分の支援者ではないという思いが感じられ、支援者は、家族との距離については、配慮が必要であると感じた。
ひきこもりへの支援は、どうしても本人への支援が中心となるため、家族への支援については困難なことが多い。しかし、当事業が終了となることから、不安を感じていた家族もあったため、家族の集いを開催したところ、8家族9名の家族の参加が見られ、支援センターの活動を理解し、定期的な家族の集いの開催を希望されている。今後も家族の集いを通じて、家族への支援も継続していく。
電話相談については、【表.2】のように年間で210件の相談があった。本人より家族からの相談が中心であった。本人の場合、自分が掛けても誰が出るか分からず、また、掛ってきても誰からの電話なのか相手が出るまで分からないため苦手となる。やはり、コミュニケーションが苦手であるため、その対応が難しいようである。ただ、家族からの電話相談も多くあり、本人が電話できないため、本人の代弁となったり、本人への対処方法の相談が多くあった。
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4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | 合計 |
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相談延べ数 | 13 | 15 | 27 | 17 | 9 | 3 | 16 | 14 | 20 | 27 | 16 | 33 | 210 |
電話が苦手な利用者にはメール相談を活用した。メールでは顔は見えないが、コミュニケーションが視覚化されるため、意思疎通の手段として、非常に有効なものであると考えられる。メールでの相談件数は【表.3】にみられるように、年間で381件であるが、受信メールは1,6051通あり、また送信メールは1,095通となっており、多くのやり取りを行った。
その内容としては、日常の情報交換から、支援センター利用の連絡などであった。また場合によっては、医師とも話せず、受診ができないケースにおいて、診察の手段として医師からの課題について、本人と支援者とがメール交換をおこない、それを文書化して診察のための1つの情報とすることもあった。
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4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | 合計 |
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相談延べ数 | 46 | 42 | 24 | 32 | 26 | 29 | 25 | 18 | 25 | 26 | 43 | 45 | 381 |
訪問支援においては、【表.4】にあるように年間で43名に対して、合計92回にわたり、本人がひきこもりの支援を求めていても自宅からの外出が困難な人等を中心に、訪問を希望していることを条件として訪問をおこなった。訪問は自宅だけでなく、本人の希望や安心できる場所を優先し、医療機関受診の支援等の工夫もして活動した。訪問を必要とするケースのほとんどは普段から家族としかコミュニケーションがとれてない場合が多く、家族以外の人と接触することによる刺激は、本人にとって良い意味で大きかったようで、外出をしたり社会と繋がりをもつようになったケースもあった。
しかし、買い物に出て自宅に戻れなかったり、社会性の乏しさから、インターネットのサイトで他の利用者とトラブルになってしまい、自分の世界と現実社会とのギャップを感じ、再びひきこもってしまうこともあった。
また、自宅を訪問する場合、支援者が限られた者となるため、本人が支援者へ過度の期待や希望をもってしまうことがあるため、訪問については、支援方法や相手との距離を見極めながら、より慎重で、かつ継続的な支援が必要と思われる。
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4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | 合計 |
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支援実人数 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 4 | 3 | 3 | 5 | 5 | 4 | 4 | 43 |
支援延べ数 | 5 | 7 | 11 | 9 | 9 | 4 | 8 | 8 | 8 | 8 | 6 | 9 | 92 |
他機関との連携会議については、【表.5】のとおり、年間10回、定期的に個別のケース会議を行った。また、巻末に添付した資料を基に、当事業やひきこもり支援についてのプレゼンテーションも行った。
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4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | 合計 |
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会議出席 | 0 | 2 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 2 | 0 | 1 | 0 | 3 | 10 |