Ⅱ.自治体による分析ソフトの活用事例

『障害者自立支援給付分析ソフト』および『障害者自立支援給付圏域間比較分析ソフト』の開発にあたり、これまで市町村および都道府県の担当職員の参加を得て、研究会を継続的に開催してきた。各自治体から提供された実績データを試行的に分析し、研究会ではその結果に基づき、分析ソフトの構造とその活用方法について議論してきた。いくつかの自治体では、実際に分析ソフトの活用を試みており、ここではその事例を紹介したい。
分析ソフトの活用方法としては、大きくは以下の3点を想定している。

1) 市町村における給付実績管理に関する基礎的データを提供

『障害者自立支援給付分析ソフト』で出力される「受給者データベース」は、汎用性が高く、各自治体の事情に応じて加工することが可能であり、障害福祉サービスの利用に関する台帳管理に活用できる。さらに分析ソフトを継続的に活用することで、計画策定のみならず予実の管理の確認ができるなど、障害福祉行政の日常業務の作業 負担を軽減することができる。
今回の試行事業では、給付実績について、全国規模でのデータベースを提供してきた。これを活用することで同規模市町村との比較という視点から当該自治体の基盤整備の状況を相対的に評価することができる。

 

2)都道府県による障害福祉施策の広域的な調整

 

 都道府県が市町村の協力のもと、実績データを集約することで、都道府県全体の給付実績が把握できるだけでなく、市町村単位、圏域単位での基盤整備の達成状況を評価することができる。また、都道府県障害福祉計画の策定において、基盤整備の重点化、圏域ビジョンの設定など、都道府県の広域的な調整に基礎的データを提供することができる。
今回の試行事業では、8県(50圏域)から提供を受けて分析するとともに、その結果を各県にフィードバックした。そのうち、山口県、栃木県においては、平成21年度の第2期障害福祉計画の策定で、圏域ビジョン等に本分析ソフトによる分析結果が活用されている。

3)障害福祉施策に関する協議や研修会への情報提供

 本分析ソフトでアウトプットされる『分析報告書』は、グラフや表を用いることで視覚的に理解することを重視している。そのため、地域自立支援協議会といった協議の場で、関係機関が情報を共有するための素材として活用しやすい。試行事業において市町村単位でデータ提供の協力を得られた圏域については、圏域会議等の場に分析 報告書を提供してきたが、いずれの場でも協議が活性化したという報告を受けている。
また、当初は想定しなかった活用方法として、研修の教材として活用された事例がある。三重県では、県下の市町職員を対象に障害福祉計画の策定に向けて開催された研修会において、本分析ソフトによる分析結果を教材として活用された。分析ソフトの新たな活用可能性の検証を今後の研究課題としたい。
※ 以下のページからは、自治体における活用事例の紹介として、研究会に参加した自治体職員によるレポートを掲載している。

レポート①

市町村における活用事例 ― 愛知県春日井市

 

 当市では、2年間に渡り「『障害者自立支援給付分析ソフト』の開発・試行事業」に参加し、本分析ソフトを試行的に日常業務に活用してきた。今回のレポートでは、実際に作成した資料を紹介しながら、その活用方法について解説してみたい。ただし、以下の資料に示す数値は本レポートのために加工したものであり、春日井市の実際の分析結果とは異なる。

 

支給決定・給付実績の統計

 最初に活用したのは、支給決定・給付実績に関する統計資料の作成である。「受給者データベース」を活用することで、支給決定データを容易に集計できるようになっただけでなく、個々人のサービスの利用内容を複数サービスの利用を含めて把握できるようになった。また、利用者の属性と支給決定および利用実績を一元的に管理できるため、障害区分や障害程度区分別や年齢別といった区分での支給決定や利用実績の統計の求めに、担当者として迅速に対応できるようになった。また、こういった統計データを経年的に保存しておくことにより、月ごとの支給量の変化を見ることが可能になり、この蓄積を計画作成時に利用することが出来る(資料1)。

(資料1)障害区分別給付率

 

支給決定量と利用実績との格差

 

 「受給者データベース」では、サービスごとの支給量と利用実績との差について、人単位だけではなく、時間ないしは日数で算出できる。これを活用することで、基盤整備の優先順位について多面的に分析することができる。利用率が低いサービスが、必ずしもニーズが低いとは言えない。支給決定されているにもかかわらず利用できていない人がいる、その結果として利用率が低くなっている場合もある、ということに気づくことができる。
また、この分析ソフトで提案している「サービス機能別」という分類は、基盤整備の計画に活用できると考えている。たとえば資料2は「分析報告書」に掲載されている支給決定者・受給者の人数の表である。ここでは、「居宅での介護」のサービスはいずれも給付率が70%を超えているが、「日中活動支援」の給付率は全体的に低く、50%を下回るものもある。このように、1 つ1 つのサービスごとの比較では見えづらいが、機能捌にまとめることで一定の傾向を見出しやすく、基盤整備の優先度を判断するための資料となる。

資料2 サービス別給付実績

 

他市との比較

 

 『障害者自立支援給付圏域間比較分析ソフト』の分析結果は、市の担当者としても関心が高い。県という単位で分析ソフトを利用すると、本市に居住する者が他市の事業所・施設を利用している状況を把握できる。このことで、必要な資源が本市で供給することができているかどうか、資源が不足しているか足りているかを見ることができる。

 

春日井市域内事業所充足率 (2008 年6 月サービス利用)

 

サービス機能 サービス種類 事業者数 利用者数 費用総額(千円)
全体 域内 割合 全体 域内 割合 全体 域内 割合
居宅での介護 居宅介護 37 32 86.5% 188 169 89.9% 9,779 8,536 87.3%
重度訪問介護 13 8 61.5% 19 11 57.9% 1,761 969 55.0%
行動援護 5 4 80.0% 21 20 95.2% 755 742 98.3%
重度包括 0 0   0 0   0 0  
日中活動支援 療養介護 2 0 0.0% 3 3 0.0% 785 0 0.0%
生活介護 10 3 30.0% 114 105 92.1% 12,379 10,691 86.4%
自立訓練(機能訓練) 1 0 0.0% 3 0 0.0% 278 0 0.0%
自立訓練(生活訓練) 0 0   0 0   0 0  
就労移行支援 2 1 50.0% 4 3 75.0% 569 493 86.5%
就労継続支援A型 0 0   0 0   0 0  
就労継続支援B型 3 1 33.3% 46 42 91.3% 3,983 3,539 88.9%
児童デイ 15 12 80.0% 113 105 92.9% 3,960 3,706 93.6%
旧 身体通所 5 2 40.0% 33 25 75.8% 5,154 3,438 66.7%
旧 知的通所 11 3 27.3% 115 88 76.5% 17,380 12,709 73.1%
短期入所支援 短期入所 9 5 55.6% 47 37 78.7% 2,817 2,564 91.0%
居住支援 ケアホーム 15 7 46.7% 44 31 70.5% 4,721 3,431 72.7%
施設入所支援 7 1 14.3% 31 21 67.7 2,294 1,524 66.4%
グループホーム 2 0 0.0% 2 0 0.0% 103 0 0.0%
宿泊型自立訓練 0 0   0 0   0 0  
通勤寮 0 0   0 0   0 0  
旧入所施設 旧 身体入所 14 2 14.3% 63 45 71.4% 19,189 14,322 74.6%
旧 知的入所 20 2 10.0% 98 61 62.2% 20,122 12,051 59.9%
合計 171 83 48.5% 944 763 80.0% 106,028 78,714 74.2%


② 障害児

 

サービス機能 サービス種類 事業者数 利用者数 費用総額(千円)
全体 域内 割合 全体 域内 割合 全体 域内 割合
居宅での介護 居宅介護 14 11 78.6% 21 16 76.2% 947 776 81.9%
重度訪問介護 0 0   0 0   0 0  
行動援護 1 1 100.0% 4 4 100.0% 77 77 100.0%
日中活動支援 児童デイ 15 13 86.7% 166 157 94.6% 5,793 5,545 95.7%
短期入所支援 短期入所 5 4 80.0% 12 8 66.7% 373 299 80.1%
その他 0 0   0 0   0 0  
合計 35 29 82.9% 203 185 91.1% 7,190 6,696 93.1%

 

 

これまでこうした利用実態は、個人レベルでの把握は可能であったが、市全体としてどの程度を他市に依存しているのかを把握することはできなかった。この分析ソフトを利用すると、他市に依存している量を確保する必要があるかどうかの目安になる。ただし、この分析ソフトは単独の市町村では利用できない。県のリーダーシップを期待したい。

 

 

2時点間の比較分析

 

 市町村の担当者として、最も期待しているのが、『障害者自立支援給付2時点間比較分析ソフト』である。このソフトが開発されると、これまで2時点の「受給者データベース」を用いて手作業で行っていた支給決定量や利用実績の変動の把握を、任意の期間で瞬時に見ることが可能になる。
資料3は『2時点間比較分析ソフト』の開発段階の分析結果である。2007 年から2008年の1 年間の利用者の変化を示している。居宅介護や行動援護といった居宅での介護の利用人数が減っているのに対し、生活介護や就労継続支援B 型といった日中活動支援の利用人数が大幅に増えている。居宅介護の利用人数が減ったことは、ヘルパーの不足という要因もあるが、一方では、日中活動支援の新規参入の事業所がでてきたことで、市全体としての利用構造が変化したことが読み取れる。このソフトを活用することにより、実際の伸び率から今後の利用を見込むことでき、計画策定時の根拠資料になると考えられる(資料3)。

 

今後のソフト開発への期待

 

 分析ソフトの開発段階に関わってきた市町村の担当者という立場として、今後のソフト開発への期待について述べておきたい。開発当初から、この分析ソフトの最大の問題として、国保連に送信したデータのみを算定するということで、国保連に送られないデータに関しては算定されていないということを指摘してきた。「受給者データベース」には独自にデータを加えることができるが、その結果が「分析報告書」には反映されないため、結果として、報告書と現状とのギャップが生じる。この点については、現在、市町村担当者の手入力により利用実績を追加してデータに取り組むことが出来るように開発が進められている。これにより利用者全体の正確な状況が見えてくるのではないかと期待している。
また、この分析ソフトを利用することで、利用者単位でのデータ分析をすることができるようになったが、次には、事業所単位でのシェア分析ツールを期待している。それぞれの事業所に対して、本市の依存の度合いがわかり、事業所としてもどのサービスに力を入れていく必要があるか明確になるのではないかと考える。

サービス機能 サービス種類 2007 年
12月
2008 年
12月
増減 伸び率
居宅での介護 居宅介護 220 200 -20 -9.1%
重度訪問介護 9 9 0 0.0%
行動援護 21 20 -1 -4.8%
重度包括 0 0 0 -
日中活動支援 療養介護 4 4 0 0.0%
生活介護 156 182 26 14.3%
自立訓練(機能訓練) 0 1 1 -
自立訓練(生活訓練) 0 0 0 -
就労移行支援 4 1 -3 -75.0%
就労継続支援A型 0 0 0 -
就労継続支援B型 124 220 96 77.4%
児童デイ 0 0 0 -
旧 身体通所 23 29 6 26.1%
旧 知的通所 142 122 -20 -14.1%
短期入所支援 短期入所 38 37 -1 -2.6%
居住支援 ケアホーム 42 61 19 45.2%
施設入所支援 22 33 11 50.0%
グループホーム 2 3 1 50.0%
宿泊型自立訓練 0 0 0 -
通勤寮 0 0 0 -
旧入所施設 旧 身体入所 72 51 -21 -29.2%
旧 知的入所 98 72 -26 -26.5%

(資料3 二時点間分析ソフト-利用者の変化)

 

レポート②

 

都道府県における活用事例 ― 山口県

 

 本県では、『障害者自立支援給付圏域間比較分析ソフト』の開発事業に参加し、山口県国民健康保険団体連合会と連携して全市町村から実績データの提供を受け、試行的に分析してきた。以下では、その分析結果について想定される活用方法を整理してみたい。

 

 

1.都道府県自立支援協議会および地域自立支援協議会の活性化

 

 都道府県に設置される自立支援協議会の役割は、都道府県全域での相談支援体制の構築に向け、広域的な調整や助言等を行うとともに、各地域(市町村、圏域)で設置された地域自立支援協議会で明らかになった課題を検討する場としての役割を担うとされる。しかしながら、実際には、地域の相談支援体制の構築に向け、アドバイザーを配置しその体制強化を図っているものの、まだ県全体の課題検討の場には至ってないのが現状と思われる。他県をみても、地域自立支援協議会の活動が障害福祉計画の策定に関する機能が中心となっているところが多く、本来の地域課題の解決等に向けた取組や、施策提言機能の充実等が求められている。
そこで、給付分析ソフトを活用することで、客観的なデータ分析に基づいた、各圏域の地域課題や強みの洗い出しができるのではないかと考えている。県としては、圏域ごとのデータを地域自立支援協議会に提供することで、当該地域のサービスの提供体制や利用状況を検証する材料としてもらいたいと考えている。また、(都道府県)自立支援協議会と地域自立支援協議会との双方向でのやりとりにより、共通の課題認識が促進される。
それぞれの地域で課題解決方策の検討を行い、その地域だけで解決困難な課題については、都道府県全体の課題検討の場である(都道府県)自立支援協議会に提言される、その根拠としてこの分析ソフトが活用できるのはないかと考えている。

 

2.障害福祉計画の策定・進行管理での活用

 

 『圏域間比較分析ソフト』に加えられた圏域ごとの充足の度合いは、都道府県が、圏域単位のサービス提供基盤の整備方向やサービスの利用促進方法等の方向性を検討する材料となりうる。実際に、本県では、平成21年度に策定した「やまぐち障害者いきいきプラン」(障害者計画と第2期障害福祉計画を一体的に策定)の中で、「障害保健福祉圏域計画」として、サービスごとの利用実績に加え、「圏域内充足率」のデータを掲載し、分析を加えている(資料1)。
規模の小さな自治体においても、圏域単位での連携が求められるなかで、他圏域との比較といった客観的なデータを介在させることで、サービス提供状況の検証が可能となり、利用動向を踏まえたサービス提供基盤の整備が進むことが期待される。

 

3.新たなソフト開発および機能強化への期待

 

 今後、給付分析ソフトの機能強化等により、以下のような点について検証が可能になることを期待している。
① サービスの利用状況の変化からみる、「地域生活への移行」、「一般就労の促進」といった政策課題の達成状況の検証
② サービス提供の基盤整備と実際のサービス利用との関係の検証


岩国圏域レポート1
岩国圏域レポート2

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