障がい者分野における企業CSR(企業の社会的責任)支援の調査研究事業

事業概略書

事業目的

障がい者分野において、補助金・給付のみでなく企業CSR支援を受けることにより、安定 した事業所経営をはかるシステムを構築することを目的とし、国内外の企業や財団にイン タビューをはじめとする調査・研究を行う。

事業概要

1. 国内外の企業CSR 推進調査(インタビュー等)
   調査企業→海外:米国三菱商事
         国内:三菱商事・サントリー
   検討会→有識者3名による
2. 調査研究報告書作成

事業結果

 このプロジェクトがスタートした当初では想像できなかったような、世界規模の経済不 況や金融破綻。企業におけるCSR 意識はまさに今試されているといえるだろう。この現況 を頭におきながら、今回の調査研究プロジェクトを振り返ってみたい。

 現在、企業のCSR メニューの中心は「環境」におかれている。環境問題は世界的規模の 問題であり、規制や規格をめぐって、各国・各地域の産業政策の生々しい現実の中に位置 づけられている。今後も環境問題はより重要なCSR 課題となるだろう。事実、今回インタ ビューさせていただいた企業からは「CSR とはいえ、本体事業の活動に何らか結びついた 活動でないと、継続させるのは難しい」という声が聞かれた。

 企業のCSR の傾向から考えるなら、「障がいのある人によるアートの支援活動」は、本 体事業がクリエイティブ色の高い企業で採用されやすい、ということになるのではないだ ろうか。

 インタビューさせていただいた3 社は、いずれも世界でも名の知れた大企業である。仮 に、各社がCSR メニューとして、障がいのある人によるアートの支援活動に取り組んだと すれば、その牽引力は非常に大きなものになることが予想される。一方で、CSR 担当者の 方がこの支援活動をいくら高く評価されても、会社として、組織として一体的に取り組ん でいただくまでには長い道程を要することが少なくない。担当者レベルでの共感といった 「個人の主観的な思い」は、そのままでは「組織の意思」にはならない。特に規模の大き な組織では一般的に、ステークホルダーズの関係性が多様で複雑なのであり、「個人の思い」 が組織的な意思決定プロセスをクリアするためには、その主観性を排除し、一定の客観性 を確保しなければならない。本質的に価値判断が主観的なものにならざるをえない「アー ト」の領域で障がい者の活躍の場を創りだすための戦略は、その点で、定量的評価の比較 的容易な「環境」と異なるものになるだろう。「客観性を確保する」という意味で、既存の

 「現代アート市場」で評価を獲得するといった努力は有益といえるが、その一方で、「支援 の決定に至るまでのスピード感も勘案すると、中小企業や個人事業主のパトロネージの可 能性を検討することも重要と考えられる。

 以上を踏まえると、「クリエイティブを生業とする」「小さい単位の企業や個人事業主」、 つまり、デザイナーやクリエイティブディレクターといわれる人たちと直接タッグを組む ことが、障がい者と双方にとってメリットが大きく継続性が見込めるように思われる。本 調査研究プロジェクトではCSR の可能性について検討してきたが、「個人の社会的責任= Private Social Responsibility)」という視点もあるのではないだろうか。

 では、どうやって、そのような企業や個人事業主に出会うのか。3社のインタビューで は共通して「最後は“人”である」という言葉が挙がった。企業側からすると、国内のどこに、 素晴らしいアーティストと作品が眠っているのか分からない。また、個人単位で作品を持 ち込まれても、その作家や作品が「支援に値するもの」であるかどうかの判断基準がない 場合が多く、日常業務の中で対応することが難しい。作家や作品についての判断は主観的 なものにならざるをえないため、「誰が推薦しているか」といった「お墨付き」が重要にな る。福祉団体側からは「企業に対してどのようにアプローチしていいのか分からない」「障 がいのあるアーティストとその作品を、社会にどのように繋げたらよいのか見当がつかな い」という声が聞かれる。企業と福祉団体を繋ぐ人、あるいは、福祉団体内にビジネスと しての視点を理解している人=「ビジネスの視点と福祉の志、芸術をみる眼のすべてを持 った人」が必要とされているのである。

 それでは、具体的にはどのような人材か。福祉大学を卒業し、そのまま福祉施設に勤務 しては、この資質を身につけることは容易ではない。例えば、芸術・美術系の大学等を修 了し、なおかつ、一度就職したり自分で事務所を経営するなど社会経験のある者が好適で ある。さらに、芸術・美術だけに熱心であっては、この役割は務まらない。大前提として、 障がいのある人に寄り添いながら、障がい特性を理解し、そしてなによりもまずその人の 幸せが何かを想うことができるひとでなければならない。このような多岐に渡る資質を持 ったインターミディアリー( 仲介人)兼プロデューサーが、企業と福祉団体の双方から求 められている。

 国公立の美術館の学芸員として勤めながら、障がいのある人のアートやその人をとりま く環境、アーティスト自身に興味をもつ人もいるだろう。デザイナーとして活躍しながら、 障がいのある人のアートに魅せられ、そこから彼らが置かれている環境に疑問を持つこと で、何かを始める人もいるだろう。そう言う意味では、前述の「クリエイティブな個人事 業主」は、障がいのあるアーティストのパトロンにもなりながら、同時に彼らの可能性を 世に広めるプロデューサーにもなり得ると言える。

事業実施機関

社会福祉法人素王会 アトリエインカーブ
〒5470023 大阪市平野区瓜破南1-1-18
tel:06-6707-0165 E-mail:info@incurve.jp

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