【現代=時代の大きな転換期】であることが叫ばれ始めたのは1980年代のことである。例えば1982年の経済審議会長期展望委員会の報告書『2000年の日本―国際化・高齢化・成熟化に備えて―』は、その中で「人口・経済成長・国際的地位等からみて、今後21世紀に至る期間は、わが国にとって大きな転換期になろう。(中略)これまでのわが国は、欧米先進国に追いつくという比較的明瞭な目標の下に、恵まれた国際的条件を与件として効率的な発展を遂げてきた。しかしこうしたキャッチアップ過程を終えた今、わが国は一種の目標喪失状態にある。今後は他の国が歩んできた道を模倣するのではなく、わが国の長所・短所を生かした創造的な道を歩んでいかなくてはならなくなっている」と、【大きな転換期】であることの意味を明快に述べている。
以来20年余が経過しているにもかかわらず相変わらずの目標喪失・先行き不安状態であり、その背景や要因について多様に論じられているが、主要な論調を整理すると以下の3点に要約することができる。第1は、まさにキャッチアップ過程を終えたことによって「目標」とすべきお手本を失ったことであり、第2は、キャッチアップ過程であったがゆえに自らの目標創出能力を育ててこなかったこと(他人が創った目標により早く追いつくための技術やシステムは高度に発達させたものの、「無」から「有」を生み出すような真の目標創出能力を育ててこなかったこと)、そして第3は、キャッチアップ過程の出発点で自己を否定したことによって「自らの良さ(個性・アイデンティティ)」を見失ってしまったことである。
こうみると、現在の目標喪失・先行き不安状態を克服して転換期をのり超えるためには、自らの個性とアイデンティティを再確認し、自らの目標創出能力を育てながら、民主的ルールの下でコンセンサスを積み上げて目標を共有していくというプロセスが何よりも重要となる。しかも、キャッチアップ過程の反省にたつならば、いずれは「社会の主流(当たり前)」になるはずのものが「小さな芽(萌芽)」として既に現代社会の中に存在している…とみることが基本であり、この「小さな芽」に注目することこそが転換期をのり超えるための主要課題となる。しかし残念ながら、この「小さな芽」は現時点ではまさに「主流(当たり前)」ではないが故に容易につぶされない存在である。このような意味で、地域社会で模索を続ける少数の動きの中から本物の「小さな芽」を発見し、それを支援しながら大事に育てること…これが現時点の最大の課題と考えている。
以上のような認識に基づき、本調査研究では、①障害者自立支援法の下で模索を続けるわが国の知的障害者入所施設の全体的状況を明らかにすること、②その中における「小さな芽」の動向に注目してその生成・発達の条件を明らかにすること、③「小さな芽」が「主流(当たり前)」となるための方向性を探ることの3点を目的とし、①全国の知的障害者入所施設に対する第一次アンケート調査、②新体系移行済みの施設に対する第二次アンケート調査、③「小さな芽」として注目される典型施設に対する現地観察・ヒアリング調査の3種の調査を行った。そして、それらの成果を踏まえて現状認識を共有し、課題と目標共有するために3月28日の報告会を開催した。
最後に、今回の調査実施に際し、ご多忙中にも関わらずたくさんの方々のご協力を得られたことを感謝します。特に、アンケートの回答、訪問調査、報告会の参加など直接参画して頂いた皆様方に心よりお礼申し上げます。
入所施設からの転換モデル事業検討委員会
委員長 桜井 康宏