第2章 一次調査の結果

一次調査の結果

桜井 康宏(福井大学大学院 教授)

第一次調査の概要

調査実施:2008年9月

調査対象:全国知的障害者入所更生・授産施設1717件

有効回収:971件(有効回収率57.1%)

調査内容(分析項目)

1.経営主体・施設の概要

2.移行の実態(移行の有無/移行した理由/移行しない理由)

3.移行後の居住支援(居住支援事業/GH・CH整備)

4.移行後の日中活動支援

5.移行後の施設整備

6.移行に伴う定員・職員数・収入の変化

分析指標

a.経営類型

1.超総合型(入所・通所・ホーム・訪問・相談・その他)
2.総合型(入所・通所・ホーム+α)
3.準総合型(入所・通所・ホーム)
4.地域生活型(入所・通所+α)
5.地域居住型(入所・ホーム+α)
6.入所居住型(入所+α)

b.主体種類

1.民間
2.公共(公的性格主体を含む)

c.施設種類

1.更生
2.授産

d.障害程度区分

1.軽度(~4.5未満)
2.中度(4.5~5.0未満)
3.重度(5.0~)

e.開設時期

1.古期(~1979)
2.中期(1980~1989)
3.新期(1990~)

f.定員規模

1.小規模(~49人)
2.中規模(50~69人)
3.大規模(70人~)

1.経営主体と施設の概要

・経営類型は、超総合型6%、総合型33%、準総合型15%、地域生活型10%、地域居住型19%、入所居住型9%であり、主体種類は、民間84%、公共16%、施設種類は、更生87%、授産13%である。

・開設時期は、古期33%、中期28%、新期39%、定員規模は、小規模21%、中規模51%、大規模28%である。

・【図1-1】【図1-2】より、地域生活型には小規模・新期の割合、地域居住型には大規模・古期の割合、入所居住型には大規模・新期の割合が相対的に高くなっている。

・【図1-3】より、障害程度「重度」の割合は総合的経営の事業所ほど高い傾向がみられ るが、地域生活型でも相対的に高くなっている。

・【図1-4】より、障害程度「重度」の割合は新期のものほど高く、また、【図1-5】より、小規模施設ほど高くなっている。上記の地域生活型の「重度」の割合の高さは、小規模および新期の割合の高さに起因するものと考えられる。

・【図1-6】~【図1-9】によって主体種類別にみると、公共は民間に比して古期・大規模および軽度の割合が相対的に高く、経営類型は超総合型と地域居住型の割合が高くなっている。

・【図1-10】~【図1-13】によって施設種類別にみると、授産は更生に比して古期・小規模および超総合型・総合型の割合が相対的に高く、障害程度は「軽度」の割合が極めて高くなっている。

2.移行の実態(移行の有無/移行時期/移行の理由/移行しない理由)

2-1.移行の実態

・「移行済み」16%、「準備中」35%、「検討中」49%である。

・【図2-1】より、「移行済み」の割合は総合的経営の事業所ほど高い傾向がみられるが、 地域居住型でも相対的に高くなっている。

・【図2-2】【図2-3】より、「移行済み」の割合は新期および小規模で高いが、大規模でも同程度に高くなっている。また、【図2-4】【図2-5】より、「移行済み」の割合は民間および授産で極めて高くなっている。

・【図2-6】より、移行実態によって障害程度区分は大きく異なり、「重度」の割合は移行済>準備中>検討中の順となっている。

2-2.移行時期

・【図2-7】より、「移行済み」の移行時期はH19年度・H20年度にほぼ二分されている。
一方、「準備中」の移行予定期はH21年度を中心としながらH23年度まで分散し、「検討中」の移行予定時期は「H22年度」から限度の「H24年4月」まで分散している。

・【図2-8】~【図2-10】より、「移行済み」の移行時期は、古期・大規模・軽度でとくに早くなっている。

2-3.移行の理由

・【図2-11】より、「移行済み」「準備中」の移行理由はいずれも「時代趨勢(遅かれ早かれ移行しなければならないから)」が最も高いが、「準備中」では70%を占めてとくに高いのに対して、「移行済み」では52%にとどまり、「経営戦略(活発な事業展開を進める経営戦略に切り替えたから)」が44%で相対的に高くなっている点が特徴的である。この「経営戦略」とは、後述の他項目のとの関係からみて、居住支援・日中活動支援における「多角的展開」を指すものと解釈される。一方、「肯定評価(移行しても事業収入への影響が少なかったから+対象から外れる利用者の受け皿整備の見通しができたから)」は26%にとどまり、「行政指導(行政指導があったから)」や「特対活用(特別対策事業を活用したから)」も10~20%程度にとどまっている。

・【図2-12】より、「行政指導」は超総合型でとくに高く、「特対活用」は総合的経営の事業所ほど低くなっている。「時代趨勢」「肯定評価」「経営戦略」は総合型・順総合型で相対的に高くなっている。

・【図2-13】より、新規の事業所ほど移行理由が複合的で多様となっている。

・【図2-14】より、「行政指導」は大規模ほど高く、「時代趨勢」は中規模でとくに高くなっているが、「特対活用」「経営戦略」は逆に小規模ほど高くなっている。

・【図2-15】より、民間では「特対活用」「肯定評価」、公共では「行政指導」「その他」の割合が相対的に高くなっている。

・【図2-16】より、更生では「肯定評価」、授産では「時代趨勢」「経営戦略」の割合が相 対的に高くなっている。

・【図2-17】より、軽度ほど「行政指導」「時代趨勢」「経営戦略」の割合が高くなるのに対して、重度ほど「肯定評価」が高くなっている。

2-4.移行しない理由

・【図2-18】より、「検討中」の「移行しない理由」としては「状況待ち(21年度の見直しがどのようにされるのか状況を見極めてから方針を立てたいから)」が80%以上で最も高いが、「収入不安(事業運営費が減収になるから)」「区分不安(障害程度区分による利用制限への方策が立てられないから)」がそれぞれ60%程度、「問題山積(問題が山積みのため5年の経過措置ぎりぎりまで移行を延ばしたいから)」も40%程を占めるなど、多くの事業所が複数回答で多様な理由をあげているが、「職員不安(職員数の確保が困難だから)」「専門不安(常勤換算方式の導入による職員の専門性確保が困難だから)」はずれも20%程度となっている。経営類型別にみると、準総合型と入所居住型の指摘率が全般的に低い点を除けば大きな違いはみられない。

・【図2-19】【図2-20】より、新規事業所ほど、また、小規模事業所ほど、「移行しない理由」が複合的で多様となっている。

・【図2-21】より、公共に比して民間の方が「移行しない理由」が複合的で極めて多様となっている。

・【図2-22】より、更生と授産の差は小さいが、更生は「職員不安」「専門不安」、授産は「区分不安」「収入不安」「問題山積」がやや高くなっている。

・【図2-23】より、重度ほど「職員不安」「専門不安」、軽度ほど「区分不安」「問題山積」 が相対的に高くなっている。

3.移行後の居住支援(居住支援事業/GH・CH整備状況/GH・CH箇所数)

3-1.居住支援事業

・【図3-1】より、「移行済み」「準備中」ともに、「入所支援のみ」が約40%、「入所支援+GH・CH」が50%強であり、「GH・CHのみ」は数%にとどまっている。なお、以下においては「CH・CH」を「GH」と略す。

・【図3-2】より、「入所支援+GH」の割合は、地域居住型89%>準総合型77%>総合型57%>超総合型50%>入所居住型20%>地域生活型0%の順であり、必ずしも経営の総合性とは対応していない。

・【図3-3】より、「入所支援+GH」の割合は古期>中期>新期の順となっている。

・【図3-4】より、「入所支援+GH」の割合は中期後・大規模が同程度に高く、小規模で は30%台に低下している。

・【図3-5】【図3-6】より、「入所支援+GH」の割合は民間と更生で相対的に高く、公共と授産で低くなっている。

・【図3-7】より、「入所支援+GH」の割合は中度>軽度>重度の順であり、必ずしも障害程度区分とは対応していない。

3-2.GH・CH整備状況

・【図3-8】により、過去から今後にかけてのGHの整備状況をみると、H18年度以前の整備率は61%、H19・H20の整備率は30%、今後の整備率(予定)は54%である。これを移行実態別にみると、H18年度以前、H19・H20年度ともに「移行済み」>「準備中>「検討中」の順に大きな差がみられる。今後の予定については差が小さくなっているが、「検討中」の整備予定はやや低くなっている。

・【図3-9】より、「移行済み」のGH整備状況を経営類型別にみると、いずれの次期においても超総合型>総合型>準総合型>入所居住型>地域生活型の順であり、移行率が相対的に高い地域居住型の整備状況は、H18年度以前には超総合型、H19・20年度は準総合型と同程度に高くなっている。

・【図3-10】より、開設時期別のGH整備状況は、H18年度以前は中期>古期>新期の順、 H19・H20年度は古期・中期・新期の順であるが、今後は中期・新期の高さが目立っている。

・【図3-11】より、定員規模別には、H18年度以前は大規模・中規模の整備状況が高いが、H19・H20年度の差はなく、今後は中規模での高さが目立っている。

・【図3-12】【図3-13】より、主体別の整備状況には大きな違いがみられないが、種類別には、授産の整備状況が過去から今後にかけて一貫して高くなっている。

・【図3-14】より、障害程度別にみると、H18年度以前とH19・H20年度については大きな違いがみられないが、今後については軽度>中度>重度の順となっている。

3-3.GH・CH箇所数

・【図3-15】より、GHの箇所数は1~2箇所程度から10箇所以上まで多様であるが、移行実態別には「移行済み」>「準備中」>「検討中」の順であり、「移行済み」と「準備中」では5箇所以上が過半数であるのに対して、「検討中」ではは30%台に大きく減?している。

・【図3-16】より、経営類型別にみると、超総合型>総合型≧地域居住型>準総合型>地域生活型>入所居住型の順であり、整備状況と概ね同様の順となっている。

・【図3-17】より、開設時期別にみると、中期は3~9箇所の中間帯の割合が相対的に高いのに対して、古期と新期は1~2箇所と10箇所以上の両極の割合が相対的に高くなっている。ただし、5箇所以上は古期>中期>新期の順となっている。

・【図3-18】より、定員規模別にみると、開設時期と同様に、中規模は3~9箇所の中間帯の割合が相対的に高いのに対して、小規模と大規模は1~2箇所と10箇所以上の両極の割合が相対的に高くなっている。

・【図3-19】【図3-20】より、主体別・施設種類別にみると、民間・更生に比して公共・授産のGH箇所数が極めて多くなっている。

・【図3-20】より、障害程度別にみると、GH箇所数は軽度≧中度>重度の順であり、重度では10箇所以上がとくに?なくなっている。

4.移行後の日中活動支援

・【図4-1】より、「移行済み」「準備中」ともに「生活介護」がほぼ100%であり、それに加えて、「自立訓練」「就労支援」「継続B」がそれぞれ20~30%で続いているが、「移行済み」では「自立訓練」の割合が相対的に高いのに対して、「準備中」では「継続B」の割合が相対的に高くなっている。

・【図4-2】より、超総合型と地域居住型は「自立訓練」「就労支援」「継続B」の3種とも高いが、準総合型は「自立訓練」「継続B」の2種が極めて高くなっている。また、入所居住型は「就労支援」が極めて高くなっている。

・【図4-3】より、開設時期別にみると、「自立訓練」と「継続B」は古期に目立ち、「就労支援」は中期に目立っている。

・【図4-4】より、定員規模別にみると、大規模>中規模>小規模の順に支援内容が複合的で多様となっている。

・【図4-5】【図4-6】より、主体別・施設種類別にみると、民間・更生に比して公共・授産の支援内容が複合的で多様となっている。

・【図4-7】より、障害程度別にみると、軽度>中度>重度の順に支援内容が複合的で多様となっている。

5.移行にともなう施設整備

・【図5-1】より、「移行済み」では「整備なし」が43%を占め、「GH整備」27%、「作業スペース拡張」26%、「入所施設改修」16%となっている。「準備中」では「整備なし」が28%に減?し、「GH整備」が大きく増加し、「入所施設改修」もやや増加している。「検討中」は「整備なし」が21%にさらに低下し、「GH整備」41%、「作業スペース拡張」33%、「入所施設改修」32%と大きく増加している。

・【図5-2】より、経営類型別にみると、「整備なし」がとくに目立つのは地域生活型であり、日中活動支援が多様な超総合型と地域居住型の整備状況が多様となっている(超総合型は「GH整備」「作業スペース拡張」「入所施設改修」のいずれも高いが、地域居住型は「作業スペース拡張」に加えて「居住スペース拡張」の高さが目立っている)。

・【図5-3】より、開設時期別にみると、「整備なし」は新期>古期>中期の順であり、中期では「居住スペース拡張」「作業スペース拡張」「入所施設改修」、古期では「GH整備」が相対的に高くなっている。

・【図5-4】より、定員規模別にみると、「整備なし」が目立つのは中規模であり、小規模では「GH整備」「入所施設改修」が相対的に高くなっている(「作業スペース拡張」は中規模・大規模が同程度に高くなっている)。

・【図5-5】より、主体別にみると、公共における「入所施設改修」の高さが目立つ程度で大きな違いはみられない。

・【図5-6】より、施設種類別にみると、「整備なし」は更生で極めて高く、授産は「GH整備」と「入所施設改修」がとくに高くなっている。

・【図5-7】より、障害程度別には大きな違いがみられない。

6.移行に伴う定員・職員数・収入の変化

6-1.定員の変化

・【図6-1】より、「移行済み」では「増加」10%、「変化なし」60%、「減少」30%であるが、「準備中」では「減少」が40%と高くなっている。

・【図6-2】より、経営類型別にみると、「増加」が目立つのは地域生活型・地域居住型・入所居住型、逆に「減少」が目立つのは超総合型・総合型・準総合型である(地域居住型は両極への分化傾向がみられる)。

・【図6-3】より、開設時期別にみると、「増加」には大きな違いはみられないが、「減少は中期>古期>新期の順となっている。

・【図6-4】より、定員規模別にみると、やはり「増加」には大きな違いはみられないが、 「減少」は小規模と大規模で高く、中規模では極めて低くなっている。

・【図6-5】【図6-6】より、主体別・施設種類別にみると、民間・更生で「増加」がやや高く、公共・授産では「減少」が極めて高くなっている。

・【図6-7】より、障害程度別にみると、大きな違いはみられないが、「増加」は中度>軽度>重度の準となっている

6-2.職員数の変化

・【図6-8】より、「移行済み」では「増加」47%、「変化なし」35%、「減少」18%であるが、「準備中」では「増加」が27%に低下し、「変化なし」42%、「減少」32%となっている。

・【図6-9】より、経営類型別にみると、「増加」の割合は超総合型>地域生活型>地域居住型>総合型>準総合型>入所居住型の順であり、必ずしも経営の総合性とは対応していない。

・【図6-10】より、開設時期別にみると、「増加」は新期でとくに高くなっている。

・【図6-11】より、「増加」の割合は中規模>大規模>小規模(「減少」の割合は逆順)となっている。

・【図6-12】【図6-13】より、民間・更生は「増加」、公共・授産は「減少」の割合が相対的に高くなっている。

・【図6-14】より、障害程度別にみると、「増加」は重度で極めて高く、「減少」は軽度>中度>重度の準となっている。

6-3.収入の変化

・【図6-15】より、「移行済み」では「増加」50%、「変化なし」16%、「減少」34%であるが、「準備中」では「増加」15%、「変化なし」13%、「減少」72%と大きく異なっている。

・【図6-16】より、経営類型別にみると、「増加」は地域生活型で際だって高い点が特徴的であるが、その他は超総合型>総合型>準総合型>地域居住型≧入所居住型の順(「減少」はその逆順)であり、経営の総合性とほぼ対応している。なお、「変化なし」は超総合型・総合型・準総合型にほぼ限られている。

・【図6-17】【図6-18】より、「増加」の割合は、開設時期別には新期>中期>古期、定員規模別には小規模>中規模>大規模の順(「減少)はその逆順)となっている。

・【図6-19】【図6-20】より、主体別・施設種類別にみると、民間・更生での「増加」が極めて高くなっている。

・【図6-21】より、障害程度別にみると、「増加」の割合は重度>中度>軽度の順(「減少」 はその逆順)となっている。

・以上から、収入変化で「増加」よりも「減少」の割合が高いのは、地域居住型・入所居住型・大規模・公共・授産・軽度である。

図1-1から図1-13まで

図2-1から図2-11まで

図2-12から図2-23まで

図3-1から図3-10まで

図3-11から図3-21まで

図4-1から図5-7まで

図6-1から図6-21まで

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