はしがき

NPO法人タートルの目的等

 本調査研究事業の報告に当たり、まず、特定非営利活動法人(以下、本文中NPO法人)タートルが目指す目的等について概要を紹介する。

 昨今の音声ソフトを用いたパソコンや拡大読書器等のIT機器の発達は目覚ましく、視覚障害者が不可能だった文字処理を可能にした。

 これを機にIT機器を活用する事務的職種において、就業を可能にし、高いレベルの成果を上げられるようになり、就労者数は増加傾向にある。

 そして、報告書にみられるとおり当該企業において、それぞれの視覚障害者は役職に登用されるなど高い評価を得ており、責任あるポストで本来の能力を発揮し、活躍の領域を拡げている。

 ただ、パソコンや支援ソフト等は、視覚障害者が安定的に働き、より効率的に作業をするためには必須の道具となっていることに鑑み、だれもが容易に活用しやすい更なるアクセシビリティーの高い商品の開発の促進が望まれているのも現実である。

さて、NPO法人タートルは、東京都知事の認証を得て、平成19年12月3日付けで発足した。その前身は、事務的職種において働き続けたい願望を持った中途視覚障害者による「中途視覚障害者の復職を考える会(通称、タートルの会)」という名称で、任意団体として、14年前の平成7年6月に発足した。

 「通称、タートルの会」は、発足当時から中途視覚障害者の就労相談や、効率よく働くためのスキルアップ交流会、就労継続、職域拡大、調査研究、図書の発刊等に注力した、主に視覚障害当事者を対象にした活動を行ってきた。

 その過程において、視覚障害者の雇用継続・拡大を図るためには、雇用主の理解と協力はもとより、広く一般社会の理解を得ることが不可欠との認識が拡がり、任意団体のままで活動を続けるより、社会的に一定の責任を有する公的機関として事業を展開するほうがより理解と協力を得られやすいだろうとの判断により、NPO法人へ移行することになった。

 東京都知事から認証を得たNPO法人タートルは、これまでの「通称:タートルの会」の活動を引き継ぎ、新たに「障害の受容」を心理的な面から促す「ロービジョンケア」をはじめ、生活訓練・職業訓練を行う視覚障害リハビリテーションの促進の普及発展や、雇用主が抱いていると言われる視覚障害者の雇用に対する不安を解消する支援のためのセミナーの開催、併せて、広く社会の理解を得るための普及啓発をさらに拡充することを目的としている。

これらの目的を達成するために、雇用主の理解と協力を得る努力と、医療、福祉、訓練施設、職員組合等と連携協力し、社会資源を有効に活用して、視覚障害者が「あたり前に働ける社会環境の整備」と、「福祉から就労へ」という理念の実現をめざし、微力ながら尽力していくこととしている。

 人事院と厚生労働省が発出した中途視覚障害者の雇用継続に関する次の通達は、就労継続を希望する中途視覚障害者にとって行政からの支援策として、追い風となる画期的な朗報となった。本通達が確実に周知徹底されることに合わせ民間企業で働く視覚障害者についても、公務員と同様の行政上の支援策が講じられることが強く望まれている。

 1.「障害を有する職員が受けるリハビリテーションについて(通知)」
人事院から各府省庁・都道府県あて、平成19年1月29日付け(職職-35、人研調-115)

 2.「視覚障害者に対する的確な雇用支援の実施について(通知)」
厚生労働省職業安定局障害者雇用対策課長から各都道府県労働局職業安定部長あて、平成19年4月17日付け(職高障発第0417004号)。

本調査事業の趣旨

 NPO法人タートルは、音声ソフトを利用したパソコン等IT機器を活用し、それらの操作法や安全な単独歩行の視覚障害リハビリテーションを受講したスキルによって事務的職種等で、「当たり前に働ける」ことを目指しているのは前述のとおりである。

 このような趣旨で事業を展開しているNPO法人タートルは、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長から「平成20年度障害者保健福祉推進事業(障害者自立支援調査研究プロジェクト)」(平成20年6月9日付け)の「視覚障害者の就労の基盤となる事務処理技術及び医療・福祉・就労機関の連携による相談支援の在り方に関する研究」を受諾した。

 NPO法人タートルの前身、「通称:タートルの会」が、過去、独自に発刊した4冊の図書のうち、「視覚障害者の就労の手引き書(レインボー)~100人アンケート~」と、「視覚障害者の雇用継続支援実用マニュアル」においては視覚障害者の就労の実態を報告してきた。

しかし、このたび国の企画立案にもとづく視覚障害者の就労実態調査研究事業が、当法人に委託されたことに伴い、より広い視野から今日の視覚障害者の就労・雇用状況に合致した報告書を作成するため、「学者、眼科医、経営者団体、労働組合団体、職業訓練指導者、雇用主、視覚障害者当事者等」の関係者で構成する「検討会」と、さらに「ワーキンググループ」をNPO法人タートル内に設置した。

 第1回検討委員会において、道脇正夫委員長は、「タートルの原点は、雇用継続支援にあ る。」等と総括し、視覚障害者を雇用している会社を訪問し、ヒアリング調査を行うことを決定した。

 この決定にもとづき、ワーキンググループでは、「継続」、「復職」、「再就職」、「新規」の就業形態別に分類し、広くいろいろな職域において活躍している対象者を抽出し、本人用と雇用主用の調査表を作成後、相手先と日程調整を行ったうえで研究事業の訪問調査を開始し、その結果を取りまとめた。

 さらに、眼科医、雇用主・人事担当者、ハローワーク、職業センター、訓練施設、労働組合、経営者団体、視覚障害当事者等を対象に、事故により失明後3年で復職し事務部門で成果を上げている事例の紹介を軸に「視覚障害者雇用継続支援セミナー」を開催した。

関係者に対する謝辞

 視覚障害者の雇用継続に関する課題や本事業を推進するために設置した検討会の委員等に就任してくださった方々は、真剣な議論の展開はもとより、高い次元からのご指導ご助言に合わせ、原稿の執筆等に取り組んでいただいた。

その過程において、道脇正夫委員長には、何度も事前打ち合わせのためにご足労を願ってきたが、本事業の目的達成のためにおしみない心血を注いでいただいた。

 そして、ワーキンググループの方々には、訪問調査の質問項目の作成と検討作業、並びに各地に出張して訪問による調査に本人と雇用主方から聴き取り、それを文字化する作業、さらに分析して事例の特徴を端的な表現にする編集作業などを精力的にやっていただいた。

 さらに、厚生労働省の関係部局の関係者には、一方ならないご指導ご助言を賜った。

 また、事務局を受け持ったほうにおいては、作業が滞ることのないように、細心の注意を払いながら裏方を守っていただいた。

 NPO法人タートルにとっては今回の国から委託された事業は、はじめて経験する大仕事であったが、多くの皆様方の精力的なご支援ご協力によりお蔭さまでご指定の期間内にすばらしい成果を盛り込んだ事業をなし遂げられた。

 末筆に当たり、NPO法人タートルを代表し、本紙面を借りて本事業達成のためにご支援ご協力をくださった皆様方に対し、深甚なる感謝の意を表し、心から厚くお礼申し上げ謝辞に代えさせていただく。

平成21年3月31日

特定非営利活動法人タートル

理事長 下堂薗 保

検討会委員名簿

氏名 フリガナ 所属
委員長
道脇 正夫
ミチワキ マサオ 職業能力開発総合大学校 名誉教授
井上 英子 イノウエ エイコ 資格障害者就労生涯学習支援センター 代表
小野 束 オノ ツカサ 筑波技術大学保健科学部 学部長
下堂園 保 シモドウゾノ タモツ NPO法人タートル 理事長
杉江 勝憲 スギエ カツノリ 社会福祉法人日本盲人職能開発センター 施設長
高橋 宏 タカハシ ヒロシ 日本ロービジョン学会 理事 北九州市立総合療育センター眼科部長
田中 恒行 タナカ ツネユキ 社団法人日本経済団体連合会 労政第一部雇用管理グループ長
津田 諭 ツダ サトル 社会福祉法人日本ライトハウス 視覚障害者リハビリテーションセンター 職業訓練部長
寺島 彰 テラシマ アキラ 浦和大学総合福祉学部 学部長 教授
花井 圭子 ハナイ ケイコ 日本労働組合総連合会雇用法制対策局長
宮田 邦彦 ミヤタ クニヒコ NTTクラルティ株式会社 代表取締役社長

アドバイザー名簿

氏名 フリガナ 所属
工藤 正一 クドウ ショウイチ 厚生労働省障害者雇用対策課
吉泉 豊春 ヨシイズミ トヨハル 厚生労働省職業能力開発課

ワーキンググループ名簿

氏名 フリガナ 所属
安達 文洋 アダチ フミヒロ 国際紙バルプ商事株式会社 NPO法人タートル 理事
安部 稔 アベ ミノル 大阪障害者職業能力開発校 主査 *調査補助員として
石川 充英 イシカワ ミツヒデ 社会福祉日本盲人社会福祉施設協議会
東京都視覚障害者生活支援センター
指導訓練課 主任生活支援員
石山 朋史 イシヤマ トモフミ ラックホールディングス株式会社
NPO法人タートル 理事
久保 恵子 クボ ケイコ 北九州市立総合療育センター眼科
視覚障害者生活訓練士 *調査補助員として
坂田 光子 サカタ ミツコ 社会福祉法人日本盲人職能開発センター
総合相談担当
杉田 ひとみ スギタ ヒトミ 東京大学医学部付属病院ヘルスキーバー
NPO法人タートル 理事
津田 諭 ツダ サトル 社会福祉法人日本ライトハウス
視覚障害者リハビリテーションセンター 職業訓練部長
星野 史充 ホシノ フミタカ 株式会社富士通中部システムズ
松坂 治男 マツザカ ハルオ NPO法人タートル 副理事長
渡辺 哲也 ワタナベ テツヤ 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所
教育研修情報部 主任研究員

事務局

氏名 フリガナ 所属
吉田 治 ヨシダ オサム NPO法人タートル 編集担当
三浦 恵美子 ミウラ エミコ NPO法人タートル 庶務 担当
篠島 永一 シノジマ エイイチ NPO法人タートル 理事・事務局長
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