事例1

【事例1】 グループ企業の強みを活かし、新たな道で活躍中
「好んで障害者になったわけではない」と常務が最大の理解者
株式会社本間組 阿部 幸夫さん(現在、株式会社エイチ・オー・エス ホンマ健康ランド出向中)

【概要】 阿部さんは健康ランドのマッサージルームに勤務して3年になる。阿部さんの前職は自動車関係の仕事。網膜色素変性症により視力が低下するにつれ、営業から整備士、事務職と業務内容を変更して対応していた。しかし、仕事の継続に困難を感じ、将来に不安を抱えていた。そのとき、常務からグループ企業内にあるマッサージルームへの出向と資格取得までの3年間を有給による休職と研修期間にするという提案を受けた。阿部さんは自らマッサージ師に関する情報を収集し、その提案を受けることを決断した。出向先の健康ランドは通勤手段であるバスの最終に間に合うような勤務時間にするなど、働きやすい環境を整え、阿部さんを迎えた。現在は、4名のマッサージ師のリーダーとして活躍している。;

 

1 視覚障害者本人に対する質問と回答

1.1 基本情報

①阿部 幸夫さん 男性 1954 年生まれ

②視力と視野:光覚弁
障害程度: 身体障害者手帳 1 種 1 級、1992 年交付
障害発生年月:1981 年 5 月頃
眼疾: 網膜色素変性症
白杖の使用:使用
点字の使用:使用

③視覚障害に伴う休職の有無: あり 2001 年 9 月 16 日~2005 年 3 月 31 日(41.5 ヶ月)

④視覚障害に伴う離・転職または職種転換の経験の有無
職種転換:あり 2005 年 4 月

⑤視覚障害または就労について相談したことのある支援機関
新潟県立がんセンター新潟病院、
社会福祉法人新潟市社会事業協会信楽園病院(以下、信楽園病院)、
新潟市障がい福祉課、中途視覚障害者の復職を支援する会(現 NPO 法人タートル)

⑥社会復帰のための訓練または職業訓練の受講経験の有無
点字・歩行・パソコン・ロービジョン・ハンドライティング・調理・コミュニケーション・運動
国立塩原視力障害センター(期間:2001 年 10 月~2002 年 2 月)
あんま・マッサージ・指圧師、鍼師、灸師養成課程
新潟県立新潟盲学校高等部専攻科理療科(期間:2002 年 4 月~2005 年 3 月)

⑦現在の所属:株式会社エイチ・オー・エス サービス部
職種:マッサージで 3 年 6 ヶ月。

⑧現在の雇用形態:株式会社本間組人事部からの出向(正社員・フルタイム)

⑨最終学歴:新潟県立新潟盲学校高等部専攻科理療科卒
所有資格:あんま・マッサージ・指圧師、鍼師、灸師

⑩業務で利用している視覚障害者用機器・ソフトウェア:なし

1.2 現在の業務について

①業務の具体的内容:健康ランドマッサージルームでのマッサージ業務。

②業務に関する指示・命令系統、他の人との業務上の連携
指示・命令は担当部長から受ける。
日常的な業務やマッサージの予約状況は、マッサージ受付からインターホンで連絡を受けたり、連絡をしたりして把握している。
その他、連絡ノートに記載されていることもあり、同僚に読んでもらっている。

③出張の有無:なし

④職場における人的支援の状況と必要性
マッサージ業務に関しては特に必要な支援はない。
それ以外の業務に関しては、声かけを自然におこなってくれている。

⑤利用している視覚障害者用機器・ソフトウェア
業務では視覚障害者用機器・ソフトウェアは使用していない。

⑥研修の受講状況
社内研修は特にないが、マッサージ技術の自己研鑽はおこなっている。その一環として新潟県立新潟盲学校に月 1 回程度、技術チェックに赴いている。

⑦業務遂行上の工夫、必要と感じる支援、課題
マッサージを受けているお客様が不快とならないよう、状況に応じた大きさの声を出すように心がけている。

⑧業務面で会社が配慮してくれる事柄
・タイムカードをわかりやすい位置を選ばせてくれた。
・休暇届など諸届の代筆。
・最終バスに間に合うような勤務時間の設定。

⑨業務面で相談する相手:担当部長

⑩視覚障害者として勤務するようになって以降に、業務内容の変更があったかどうか業務内容の変更はあった。
自動車関係の仕事(営業・整備)から休職期間から総務部に在籍、現在は出向先のサービス部に在籍。視力低下により、業務の遂行がより困難になると考えられたため。

1.3 職場生活全般について

①通勤と職場での移動
通勤は路線バスのみを利用し、時間は約 1 時間。
通勤経路は、国立塩原視力障害センターの訪問による歩行訓練を受け、経路の選択と安全性の確認を行った。

②上司・同僚・外部関係者とのコミュニケーションや電話対応、回覧文書での工夫、課題自分から聞いたり、周囲の人が自然に支援してくれるので、課題はない。

③休憩時間の過ごし方、宴席、親睦会等への参加
・昼休みは弁当を持参しているため、建物内で過ごしている。
・懇親会などがあれば、参加することもある。

1.4 中途視覚障害を経て同じ会社に復職した経緯について

①視覚障害による業務遂行上の困難さを感じた時期と困難の内容
自動車販売の営業を行っていたが、視力低下により車の運転が困難となり整備に業務内容を変更。その後、さらに視力低下が進み、細かな整備作業に困難さを感じ、事務職へ再度業務内容変更。事務職では拡大読書器を活用し、事務処理を行っていたが、細かい文字が読めなくなり、困っていた。

②その困難に関する相談の有無、相談した相手、受けた助言
・会社の総務部長である常務。
・NPO 法人タートル、信楽園病院、新潟県立がんセンター新潟病院。

③復職に向けて準備したこと
・歩行、パソコン、点字などの生活訓練を国立塩原視力障害センターで受講。
・あんま・マッサージ・指圧師、灸師、鍼師(以下、三療)の国家試験受験資格取得のため新潟県立新潟盲学校に入学。

④休職した場合は、休職する必要があると判断した理由
休職した。三療の国家試験受験資格を取得するために盲学校入学の必要があったため。

⑤復職するまでに会社側が配慮してくれたこと
・休職期間の延長。
・休職期間中の給料保証。
・三療の国家資格取得後、復職を確約した。

⑥復職前後での業務内容変更の有無
業務変更あり。変更前は自動車関係の仕事。

視覚障害者が就労している事業所担当者に対する質問と回答

事業所名: 株式会社エイチ・オー・エス ホンマ健康ランド
本人との関係: 上司
役職名: 代表取締役
氏名: 山﨑 栄一さん

2.1 休職前の状況について

(1)本人の仕事面での状況
休職前は出向元に在籍していたため、直接仕事の状況は把握していない。

(2)本人が仕事以外の状況で、何か困難な状況に陥っていると感じたか
出向元の総務部長(以下、総務部長)は、拡大読書器などを使用しても事務処理が困難な状況を把握していたようだ。

2.2 本人の休職の経緯について

(1)休職の理由
視力低下により、自動車関係の仕事の継続が困難になったためと総務部長より聞いている。

(2)休職に対する産業医や会社側の考え
総務部長がグループ内にあるホンマ健康ランドでマッサージ師として働くことを提案した。

(3)休職に際して、会社側が本人に配慮した点
三療の国家資格取得のため、休職期間を延長し、盲学校在籍中は休職期間としたこと、および休職期間中の給料を保証した。

(4)休職する際に、復職させることは決まっていたか
三療の国家資格取得後、マッサージ師として勤務することは決まっていた。

(5)休職中、本人の眼の状況や復職への準備状況について、本人から報告を受けたか
盲学校入学前に総務部長から、国家資格取得後に勤務することの報告は受けていた。そのため、3 年後に配属されることがわかっていたので、その間のマッサージ師は増員しないで受け入れ体制を整えた。

2.3 復職の経緯について

(1)本人の復職を認めた理由:三療の国家資格を取得したため。

(2)復職に際して、眼科医や就労支援機関と相談したか:相談しなかった。

(3)復職後の業務は休職前の業務と違っていたか
休職前とは違った業務として勤務することを前提としての復職であった。

(4)復職に際して事業所側が配慮した事項
・マッサージの施術レベルの違いやコミュニケーションを図るために、本人の申し出に応じ、盲学校在籍中から職場に顔を出すことを認めたこと。
・通勤手段の最終バスに間に合うような勤務時間としたこと。

(5)復職後の業務遂行に必要な機器やソフトウェアの購入:申請はしなかった。

(6)復職後の本人からの相談の有無について
施術室の環境整備、お客様が来たことがわかりづらいという相談を受け、改善した。

(7)復職後、本人の処遇に関して困ったこと
困ったことはない。むしろ、復職したことにより、マッサージルームの雰囲気が変わった。またマッサージ師である同僚の代弁者のような役割を果たしてくれている。

(8)今後、本人に期待すること
マッサージ師の同僚とのさらなるコミュニケーションを取って欲しいし、固定客をつかんで欲しい。

6 インタビュー後の感想

継続雇用に対する会社とご本人の強い熱意を感じた。また、新しい職場では、会社側や先輩マッサージ師からの信頼も厚く、喜びをもってお客様に最高のサービスを提供しようという意欲に溢れているように感じた。

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