【事例4】特例子会社へ出向
系列会社の Web アクセシビリティをチェック
株式会社沖ワークウェル 西田 朋己さん
【概要】 西田さんは大手電気メーカーで受注ソフトウェアの開発とプロジェクト管理をしていた。37 歳のときに緑内障を発症。半年間仕事を休んだのちに職場に復帰したが、視覚を多用する以前の仕事には戻れず、取り立てて仕事のない日々を 3 年くらい過ごした。その後、同じ会社の社会貢献推進室長と出会い、Web アクセシビリティチェックの仕事をしてみたらとのアドバイスを受ける。2004 年、室長が特例子会社を設立したときに西田さんもそこへ出向、特例子会社が系列会社等から受注した Web のアクセシビリティチェックを担当するようになる。
①西田 朋己さん 男性 47 歳
②視力と視野:手動弁または指数弁
障害程度: 身体障害者手帳 1 種 2 級
障害発生年月:1998 年 10 月、緑内障を発症。1999 年 3 月に障害者手帳 3 級を取得。
その後、徐々に悪くなり、現在は手動弁または指数弁。
眼疾: 緑内障
白杖の使用:使用
点字の使用:使用。職場復帰当初は使っていなかった。
③視覚障害に伴う休職の有無
発症当初は入院した。その後、年次休暇と目的別休暇(最大 40 日まで貯められる)、年末年始の休暇を使って 60 日ほど休んだ。休暇中は 1 ヶ月に 1 回くらいの頻度で、会社と連絡を取っていた。年度が替わる頃、そろそろ仕事に戻るか、という気分で復職した。通算、発症後半年間(1998 年 10 月~1999 年 3 月)休職したことになる。
④視覚障害に伴う離・転職または職種転換
離職、転職ともになし。職種転換と言えるほどかどうかはわからないが、出向という形での配置転換はあった。
⑤視覚障害または就労について相談したことのある支援機関
社会福祉法人日本盲人職能開発センター(以下、日本盲人職能開発センターと略す)東京障害者職業センター
⑥社会復帰のための訓練または職業訓練の受講経験の有無
社会復帰訓練
入所等の本格的な訓練はなし。歩行は東京都盲人福祉協会が実施。
職業訓練
本格的に制度等を利用した訓練はなし。日本盲人職能開発センターの好意によるところが大きい。
点字の学習
三田の障害者福祉会館で活動している点字ボランティアの方に頼み込んで、教えてもらった。仕事に就いていると、平日は 5 時以降、それと土日しか通えないため、平日の日中しか開かれていない訓練機関での訓練は利用できなかった。
パソコンの学習
2002 年 5 月に NPO 法人視覚障害者パソコンアシストネットワークで学習した。これに加え、職場で 1 人で練習した。また、日本盲人職能開発センターで開催された講習会にも参加した。
通勤訓練
東京都盲人福祉協会で 3 日間受けた。東京都の委託事業。
⑦現在の所属、職種、現所属での在職期間
株式会社沖ワークウェル事業部 IT 事業チーム、技術職、在職 4 年 4 ヶ月(2008 年 9月現在。西田さんが提出したファイルには 3 年 4 ヶ月とあったが、2004 年 4 月からの出向だと 4 年と 4 か月と思われる)
⑧現在の雇用形態
沖電気工業株式会社(以下、沖電気工業と略す)からの出向。任期なし(定年はあり)。フルタイム。
⑨最終学歴:大学卒
資格 : 日本商工会議所日本語文書処理能力検定 3 級、同ビジネスコンピューティング3 級、同 PC 検定文書処理 3 級をいずれも受障後に取得。
⑩業務で利用している視覚障害者用機器・ソフトウェア
ブレイルメモ、ラベルライタ「テプラ」PRO SR6700D、ものしりトーク、XP Reader、PC-Talker XP ver.1.14、JAWS for Windows ver.4.5(日本アイ・ビー・エム株式会社)ホームページ・リーダー ver.3.01 及び ver.3.04、らくらくリーダー
①業務の具体的内容
・ホームページの視覚障害者向けアクセシビリティチェック
沖ワークウェルが作成したホームページ(主に沖電気工業及びその関連企業から受注)を対象とする。ホームページ・リーダーと XP Reader/PC-Talker を使って読み上げを確認。チェッカーツールを使わないのは、チェッカーソフトウェアを読み上げられないことと、沖電気工業が独自のガイドラインを作っており、それに基づいてチェックするため。
現在では、沖ワークウェルの Web 作成者の技量が上がってきたため、また沖電気工業のガイドラインでテンプレートの使用がルール化されたため、仕事がなくなりつつある。
・事務処理作業(関連企業よりの受注)。
・視覚障害者向けパソコン指導・サポート(企業ボランティアや講習会受託)。
・ユニバーサルデザイン関連の意見や情報提供(主に沖電気工業を対象とする)。
②業務に関する指示・命令系統、他の人との業務上の連携
在宅勤務の社員が多いため、メールや専用機器(沖ワークウェル開発)を多用している。文書による通達、命令等はほとんどない。それ以外は、通常の会社と同じ。
③出張の有無、頻度
出張(遠距離)は年 1 回あるかないか程度。近距離日帰りの外出は月に 4 回~5 回ある。いずれも単独行動の場合もある。
④職場における人的支援の状況と必要性
支援は必要である。ただ、自然な支援で十分足りている。
⑤利用している視覚障害者用機器・ソフトウェア
現状は利用状況に大いに満足している。しかし、OS が Windows Vista に変わった場合は苦労すると思う。だから研修は絶対必要。
機器、ソフトウェアの機能に対しての希望はない。それより、職種・職域開発、それに伴う教育訓練体制の確立が重要。
⑥研修の受講状況
社内研修の中には、受講可能な研修はない。その他の研修は、年に数回は受講している。会社員として、研修は絶対必要である。
⑦業務遂行上の工夫、必要と感じる支援、課題
・支援技術に関する知識を積極的に収集している。
・業務遂行上の細かい工夫は、(多分)たくさんありすぎて書けない。
・ことさらの支援の必要は無いが、業務でガイドヘルパーが利用できる制度があれば嬉しい。
・晴眼者に比べ、作業効率はどうしても落ちる。工夫しても限度がある。
・最新 IT 技術にどのように追随していくかが自身の課題。
・自身以外では、教育訓練体制の不十分が最大の課題。
・ガイドヘルパーの必要性について
出張の際に誘導してくれる人が必要である。事前予約でなく、臨機応変に頼みたい。ガイドヘルパーや外出ボランティアは日常生活でしか使えないため。
・視覚障害者用ソフトウェアの開発の遅れ
職場のパソコンの OS やアプリケーションが変わったときに対応できない。
・JAWS for Windows の問題
JAWS for Windows を使える人しか、JAWS を教えられない。そんな人は少ない。
パソコンのパワーユーザー(視覚障害者)が JAWS を使う人で、「そのアプリケーションは JAWS でしか使えないよ」とか、「仕事をするなら JAWS じゃないと駄目」などと喧伝する。実際には XP Reader や PC-Talker で使えるソフトウェアも多く、私はほとんどこの 2 つで業務をこなしている。高級なスクリーンリーダを使えるスキルがあるということは、あまり重要ではなく、スクリーンリーダを駆使して業務上、必要な一般ソフトウェアを使えるスキルにびつけていくかが重要。自分の職種、業務に最適なスクリーンリーダを使いこなすことが大切である。
⑧業務面で会社が配慮してくれる事柄
・ラッシュを外すように勤務時間帯のシフト(フレックス勤務)。
・外部研修参加への理解。
・視覚障害者向けパソコンサポートに関する理解。
・頼めば、大抵のことは支援してもらえる。
⑨業務面で相談する相手
(墨字の処理やパソコントラブル時の対処も含めて)同僚、上司
⑩視覚障害者として勤務するようになって以降に、業務内容の変更があったかどうか
・出向という形で、変更はあった。
・変更前の業務は受注ソフトウェアの開発(プロジェクト管理)。
・受注ソフトウェアは視覚が前提条件、またプロジェクト管理の膨大な資料をこなすには視覚が不可欠。
①通勤と職場での移動
通勤時間は 1 時間 30 分。慣れるまでの歩行訓練は絶対必要。安全性確保のため、ルートの選定(混雑を避ける、判りやすいランドマーク等)を工夫している。現在、苦慮していることは特にない。設備面で望むことも特にない。周囲の自然な支援で何とかな っている。
②上司・同僚・外部関係者とのコミュニケーションや電話対応、回覧文書での工夫、課題
コミュニケーションや電話対応などでの苦労はない。回覧文書はほとんどない(在宅勤務者が多いため)。強いて言えば、音声利用下でのパソコンの話が通じにくい。
③休憩時間の過ごし方、宴席、親睦会等への参加
昼休みは自分のことをしている。宴席の回数は少ないが、全て参加している。
①視覚障害による業務遂行上の困難さを感じた時期と困難の内容
復職後 1 年目から 4 年目の出向までの間、ほとんど仕事がない、会社が自分に適した仕事を探そうとしないという困難な状況であった。その他、外出が許可されないといった無理解があった。
②その困難に関する相談の有無、相談した相手、受けた助言
現在の社長、中途視覚障害者の復職を考える会(現在 NPO 法人タートル 以下、タートルと略す)、日本盲人職能開発センター、社会福祉法人あかね「ワークアイ・船橋」に相談した。助言は色々受けたが内容はあまり覚えていない。理解されているという安堵感が何よりだった。タートルについては、通っていた病院の通院仲間から話を聞いた。
③復職に向けて準備したこと
以下は、復職前ではなく復職後に行なった。
・日本盲人職能開発センターでの公式・非公式のパソコン学習。
・NPO 法人視覚障害者パソコンアシストネットワークでパソコン学習。
・その他、パソコンは自分でも学習。
・点字ボランティアによる、三田での点字学習。
④休職した場合は、休職する必要があると判断した理由
治療のための休職。
⑤復職するまでに会社側が配慮してくれたこと
特になし(復職後は、数年後に外部の研修が許可になった)。
⑥復職前後での業務内容変更の有無
1.2 ⑩に述べた通り。
事業所名: 株式会社沖ワークウェル
本人との関係: 上司
役職名: 取締役社長
氏名: 木村 良二さん
2.3 復職の経緯について
(2)復職に際して、眼科医や就労支援機関と相談したか 本人はいろんな所と相談していたようだが、当社へ来る前なので、会社としては関 わっていない。
(5)復職後の業務遂行に必要な機器やソフトウェアの購入:なし
復職しても仕事のない時期は相当つらかったかと思う。そんなときに、話を聞いてもらえる人や団体に巡り会えたことは西田さんにとって幸運だっただろう。ヒアリングに対応して下さった木村氏は相当なエネルギーの持ち主である。特例子会社の設立と運営は大変だとは思うが、この会社での障害者雇用の経験を親会社に活かすような動きを、そのエネルギーで実現できたらうれしく思う。