【事例9】先天性視覚障がい(全盲)のハンデを克服して事務職に挑戦
敏腕採用担当者との出会い
株式会社日立製作所 A さん
【概要】 労政人事部労務・雇用企画グループに 3 年 5 ヶ月総合職として従事している。大学 4 年から就職活動をしたが、当事は全盲で就職できる人は少なかった。ハローワーク、学生職業総合支援センターの就職相談や面接会に参加して、100 社くらい受けたが、書類選考で落とされることがほとんどだった。大学卒業後は日本盲人職能開発センターにて 1 年、パソコン・ビジネスマナー等の訓練を受けた。弱視に比べて全盲に対する理解はまだまだと感じ、悩んだ時期もあった。採用に至った経緯として、既に弱視の方は雇用していたが、全盲の視覚障がい者の新規雇用の実績はなく採用に取り組んでいた。2 週間のインターンシップ終了後に通常の採用試験を受けることとなった。採用担当者は以前の会社での経験から、社内の理解を得るには、実習を通じて仕事ができることを証明してみせる必要があると考えていた。PC スキルの高さと誠実に仕事に取り組む姿勢が評価された。就職してからは主に障がい者採用業務を担当してきたが、現在は主として女性活用プロジェクトの一員として、データ分析や各種資料の作成を担当している。
①A さん 女性 20 代
②視力と視野::手動弁(目の前にあるもののみ認識可能。周囲とのコントラストにより光と色を多少認識もできる)
障害者手帳:生後まもなく障害者手帳取得
眼疾: 先天性小眼球
白杖の使用:使用
点字の使用:使用
③視覚障害に伴う休職の有無:なし
④視覚障害に伴う離・転職または職種転換の経験の有無:なし
⑤視覚障害または就労について相談したことのある支援機関
ハローワーク
学生職業総合支援センター
社会福祉法人日本盲人職能開発センター
⑥社会復帰のための訓練または職業訓練の受講経験の有無
パソコン・ビジネスマナー等
日本盲人職能開発センターにて 1 年間。
⑦現在の所属:株式会社日立製作所労政人事部労務・雇用企画グループ
職種:事務職で 3 年 5 ヶ月
⑧現在の雇用形態:正社員(総合職)
⑨最終学歴:大学卒
所有資格:Word、Excel 検定、珠算検定、図書館司書
⑩業務で利用している視覚障害者用機器・ソフトウェア
ブレイルメモ BM24、ラベルライタ「テプラ」PRO SR6700D、XP Reader、JAWS for Windows、ホームページ・リーダー、ALTAIR for Windows、らくらくリーダー、スキャナ
①業務の具体的内容
・自社及びグループ会社の障がい者雇用の促進
・就職面接会への参加・新卒の障がい者に対するアピール・応募者の調書作成、民間企業における障がい者求人サイトの自社ページの運営、グループ会社の障がい者雇用率調査、コンサルティング、就職面接会の企画運営
・実習生のスーパーバイザー
・社内外のセミナーでの発表
・大学や公的機関、障がい者施設の講演
・現在は主として女性活用プロジェクトの一員として、データ分析や各種資料の作成を担当
②業務に関する指示・命令系統:労務雇用企画グループ主任(部長代理)
③出張の有無、頻度
現在の業務ではデスクワークが多く、月に 1 回程度。前職では週 1~2 回。
④職場における人的支援の状況と必要性
前職では外出時や書類のチェックを直属上司に当たる主任に依頼していた。
スクリーンリーダで対応できない部分では画面を見てもらったり、移動時の手引きなどは、入社当初に適宜依頼をしたことが現在も受け継がれている。(職場介助者利用)
⑤利用している視覚障害者用機器・ソフトウェア
・第 1 種作業施設設置等助成金を活用した 2 度目のソフトウェアの購入は新規購入から期間を空ける必要があるため改善して頂きたい。
・Excel や PowerPoint の勉強等情報交換を社外の全盲者と行っているが、土・日曜に勉強できる場がほしい。
・個人用にブレイルメモシリーズを必要としているが、日常生活用具として認定がおりない。今後更に認定している自治体範囲が広がれば良い。
・OCR ソフトウェアではまだ誤認識することが多いため、更なるバージョンアップを望んでいる。
・PowerPoint の情報を、点図で出力できる機器があれば効率的に情報の把握が可能になる。
⑥研修の受講状況
総合職社員として働くために必要な研修は適時受けさせてもらっている(我社では総合職枠で入社すると、2 年間の研修期間があり、研修を受けつつ業務を行うシステムになっている)。しかしながら基本的にスライドを見ながらの講義が多いため、口頭の補足説明だけでは理解が困難である。そのため事前に情報把握すべく、資料はなるべくデータで事前に頂けるよう依頼している。
視覚障がい者のための研修、たとえばプレゼンテーションの研修等があると良い。聴衆の表情等反応が見えない中で、効果的なプレゼンを行うポイント等学習したい。
⑦業務遂行上工夫していること、必要と感じる支援、課題
・外出時のサポートでは、たとえばセミナー等1人で行くときはタクシーを利用したり、現地でのサポートを事務局側に事前依頼をしておく。
・ファイルにラベルライタ「テプラ」を貼ってすぐに判別できるようにする。給茶器やごみ箱にも、自分で点字シールを作成し、貼らせてもらっている。
・イントラネット内に音声に対応していない部分があるので、システム担当者や同僚に相談、改善を依頼している。
・議事録等をとる際は IC レコーダを活用している。
⑧業務面で会社が配慮してくれる事柄
・事前にデータで資料を送ってくれる。
・エレベータの点字表示。
・助成制度の利用。
・職場のパソコンに JAWS for Windows がうまくインストールできなかったので、新しく別のメーカーの PC を購入してもらった。
⑨業務面で相談する相手:上司、同僚
①通勤と職場での移動
通勤時間は 1 時間弱と短時間だが一度ある乗り換えの場が人通りの激しい駅のため苦慮している。通勤経路、社内および会社周辺の歩行訓練を東京都盲人福祉協会に依頼し、5~6 回行った。
社内に点字ブロックはないが、特に必要性は感じない。社内では白杖を使用していない。ワンフロアに 200 人くらいの社員がおり、無数のブロックに分かれデスクが並べられているが、通路は眼で見て判断している。
②上司・同僚・外部関係者とのコミュニケーションや電話対応、回覧文書での工夫、課題
紙の書類や回覧は、重要な部分だけ、上司や同僚に読んでもらっている。
メールや電話での連絡が多いので、早い時期に視覚障害であることを伝えておくと、その後誘導などを依頼するときにスムーズ。
社員 1 人 1 人 PHS を持っており、電話連絡もスムーズにできる。
イントラネットのスケジュール管理が JAWS でも対応できないので、朝礼で同僚の予定等を把握しておく。
③休憩時間の過ごし方、宴席、親睦会等への参加
昼休みは 45 分間で、社員食堂(隣のビル)を利用することに費やして終わる。15 時の休憩には同僚と会話するなどし、過ごす。
なるべく宴席にも参加している。
①現職に就くまでに求職活動に要した期間
約 2 年(大学 4 年時と、日本盲人職能開発センター時代)
②就職のための支援を受けた機関、その機関の支援の状況と課題
ハローワーク
学生職業総合支援センター
就職相談、面接会等
2003 年当時は全盲で就職できる人はほとんどなく、真剣に取り組んでもらえなかった。100 社くらい受けたが、不採用で、書類選考で落とされるケースが多かった。
日本盲人職能開発センターで 1 年間、パソコン・ビジネスマナー等の訓練を受けた。
③就職のための面接時に工夫したこと、面接した会社の対応に関する感想
Word や Excel で作成した表やグラフの文書や、支援機器のパンフレットなどを持参した。階段が多いとか紙が多いなどの理由で断られた。
弱視に比べて全盲に対する理解はまだまだと感じ、悩んだ時期もあった。
事業所名: 株式会社日立製作所
本人との関係: 就職当初の上司
役職名: 労政人事部労務・雇用企画グループ
(1)どのような経緯で本人の面接をしたか
当社は既に視野狭窄や弱視の方は雇用していたが、全盲の視覚障害者の新規採用実績はなく、社会的使命からも先駆的に事例を創りたく、全盲の方の採用に取り組みだした。筑波技術短大(現筑波技術大学)と日本盲人職能開発センターからインターンシップをそれぞれ一名ずつ受け入れ(2 週間)、インターンシップ終了後に通常の採用試験を受けてもらった。
(2)本人を面接した印象
解らないことや要望事項などをきちんと伝えられる方なので、こちらも対応しやすく、このような方なら仕事もやっていけると感じた。
(3)視覚障害者を採用するにあたって、不安な点は何だったか
ノウハウを持っていたので、特に不安はなかった。以前の会社で全盲の方を採用しようとした時の経験から、社内の理解を得るには、雇用以前に実習を通じて仕事ができることを証明してみせる必要があると考えた。
(4)採用に当たって、就労支援機関と相談したか
セミナーなどで得た情報をもとに、直接日本盲人職能開発センターへ相談に行った。
(5)採用の決め手となったことは何だったか
・PC スキルの高さと誠実に仕事に取り組む姿勢。PC スキルについては、Excel などでデータベースや統計の取り扱いができるレベルの人材を求めていた。
・インターンシップの成果発表の際に、自身の視力について、PC 環境、通知の発信、Excel の操作などのデモンストレーションを行い、部内の人たちにプレゼンテーションスキルと事務処理能力の高さをアピールした。
(1)入社後、担当させた業務が決まった経緯
障害特性を理解している私のそばで仕事を担当してもらうのが良いと考え、障害者雇用、Web 上の会社概要の作成業務等に携わってもらった。応募者の管理、面接日程連絡調整、面接会の企画運営、面接調書の作成、日立グループ全体の障害者雇用推進に関わっている。その他に、学生への会社説明や実習生の指導も担当してもらっている。
(2)入社後、会社側、職場の同僚などが配慮したことは何か
・昼食は社員食堂に一緒に行って、席まで誘導する。
・回覧文書の読み上げ。
・通路に物を置かないこと(総務部から関係部署に注意喚起するよう依頼)。
・エレベータ内に点字シール。
・会社としては、通勤途上の安全面に配慮して、東京駅前の横断歩道に音声信号機を設置していただくよう丸の内警察署に依頼をした。
(3)入社後の業務遂行に関して、必要な機器やソフトウェアを購入したか
障害者職場介助助成金、第一種作業施設設置等助成金(スクリーンリーダ、OCR、ブレイルメモの購入)を活用した。
(4)入社後、本人から相談を受けたことはあるか
住宅助成制度の申請についての相談
(5)入社後、本人の処遇に関して、何か困ったことはあったか
特になし。普通に接している。健常者と同じ処遇で同じ様に働いてもらっている。
(6)今後、本人に期待することは何か
総合職として、着実にキャリアを積み上げていってほしい。
助成制度などの申請手続きが煩雑なこと、さらに時間がかかりすぎるために必要な制度を利用しにくいので、簡素化してほしい。
訓練校が少なすぎる。また、英会話や財務会計、コミュニケーションスキルなどパソコン訓練以外のコースも必要と思う。
ねばり強い挑戦と、障がい者採用の経験豊富な上司との出会いにより、彼女が実力を発揮できる会社に就職できたと思う。ますますキャリアアップされ、仕事の幅を拡げていかれることと思う。