事例11

【事例 11】健常者と区別なく仕事面で鍛えられ、活躍する弱視者
売り上げ基礎データの作成や企画業務などを ZoomText や音声で
大和リース株式会社 長谷川 和美さん

【概要】 長谷川和美さんは大学在学中の就職活動で、ZoomText Magnifier をインストールしたパソコンを用意し、また、支援して欲しいことを文書化して面接に臨むなど積極的に活動した。その結果、現在の会社に入社した。入社後、配属されたマーケティング事業部では、当時の同僚が弱視者だからといって長谷川さんの仕事を選別せずに、できない部分を仕事のプロセスを変えることでできるようにしてくれた。新人の時に鍛えられたお陰で仕事の基本を身に付けることができ、問題を解決する力が付いたという。入社してから 7 年、現在は事業推進部に所属し、ZoomText やスクリーンリーダを使ったパソコン上で売り上げ基礎データの作成やキャンペーンの企画、カタログ作成などを担当している。

 

1 視覚障害者本人に対する質問

1.1 基本情報

①長谷川 和美さん 女性 31 歳(1977 年 9 月 2 日生まれ)

②視力と視野:視力 右 0.01 左 0.01 視野 両眼中心暗点
障害程度: 身体障害者手帳 1 種 2 級
障害発生年月:1985 年頃(8 歳時)から
眼疾: 黄斑変性症
白杖の使用:現在、歩行訓練を受けている。
点字の使用:使用しない。

③視覚障害に伴う休職の有無:新卒採用のため、なし。

④視覚障害に伴う離・転職または職種転換の経験の有無:新卒採用のため、なし。

⑤視覚障害または就労について相談したことのある支援機関
大学在学時の求職活動で、大阪や東京の学生職業センターや民間の就職紹介会社で求人紹介を受けた。

⑥社会復帰のための訓練または職業訓練の受講経験の有無
日常、パソコン、歩行
日本ライトハウス視覚障害リハビリテーションセンター(以下、日本ライトハウスと略す)(期間:2000 年 8 月~2001 年 3 月)大学 4 年時、就職内定後、受講。

⑦現在の所属:事業推進部 展示場担当
職種:事務職 現在の部署は 4 年

⑧現在の雇用形態:正社員

⑨最終学歴:京都精華大学人文学部卒業
所有資格:ホームヘルパー2 級(大学 4 年生時に取得)

⑩業務で利用している視覚障害者用機器・ソフトウェア
XP Reader、ZoomText ver.9.0 Magnifier、イージーアイポケット

1.2 現在の業務について

①業務の具体的内容
売り上げ基礎データの作成やキャンペーンの企画、カタログ作成など。担当事業部から急に要求されて、短時間で資料を作成しなければならないことも多い。

②業務に関する指示・命令系統、他の人との業務上の連携
事業推進部では事業部ごとに 1 人ずつ担当者がおり、各自がそれぞれの事業部と協力しながら仕事をしている。したがって、展示場担当部署とのつながりが深い。個々の部員が独自に仕事をしているため、他の部員の仕事内容はわからないので、お互いに仕事を分担しづらい。仕事は自分 1 人に任されている形態で、視覚障害者に向いているとは思わない。
視覚障害者はチームでする仕事の方が向いていると思う。経験があるから、仕事がこなせていると思う。

③出張の有無:現在はなし。前の部署では、週 1 回程度、外出していた。

④職場における人的支援の状況と必要性
できること、できないことを周囲に伝える必要性を感じ、徐々に伝えていくようになり、必要な介助は受けられている。コピーは、前のコピー機では拡大・縮小コピーは手順を覚えて自分でできていたが、今のコピー機ではできないので手伝ってもらっている。また、紙文書の保存量を減らすために、文書や図面などはコピー機(スキャナ)で読み込んで各自のフォルダにイメージデータとして保存するようになっているが、フォルダの指定が画面上で見にくいため、やってもらっている。

⑤利用している視覚障害者用機器・ソフトウェア
満足している。
歩行やスクリーンリーダ上でのキーボード操作について研修を受ける必要性を感じて、再度、日本ライトハウスで生活訓練を受講している。

⑥研修の受講状況
昇進、昇格のために受講しなければならない社内研修はあるが、グループワークなどで、その場で資料を共有しなければならないので受けづらい。また、全国から集まった社員でグループを組む形態が多く、支援が受けづらく受講を躊躇している。

⑦業務遂行上の工夫、必要と感じる支援、課題
・仕事の配分やバランスを周囲と調整できるようになることが課題であると感じている。職務経験が長くなるにつれて、ルーチンワークが減り、急に命ぜられる仕事が増えてきた。経験がないとできない仕事も増えてきて、分担しにくい面もあるが、仕事量を同僚と調整できるようになることが必要だと思う。
・単独で仕事をする今の形態は、視覚障害者には向いていないと思う。チームを組んでする仕事内容の方が望ましいと思う。
・短時間でやり上げないといけない仕事も視覚障害者にとってはつらい。上司からはすぐに欲しいとデータを求められるが、経験があるからこなせるのであって、切迫した仕事は視覚障害者には向いていないと思う。
・中心視野がなく、文字の読み書きがしにくいが、動きは普通なので見え方に対する同僚の理解が得られないことがある。仕事が増えて、眼を酷使してしまうこともある。
・年に一度、上司との面談制度があるが、障害者については人事担当者とも面談する制度を設けた方がよいと思う。雇用率を達成するだけでなく、その中身が大事である。定着率を高めていくためにも、人事担当者が障害をもった社員の状況を聞く場が必要だと思う。

⑧業務面で会社が配慮してくれる事柄
パソコン操作ではスクリーンリーダも使用しているが、画面拡大ソフトウェアを使用してマウス操作することも多い。眼に頼らずに音声出力によるキーボード操作技術を高めるためのパソコン訓練と、歩行訓練を日本ライトハウスで受講したいと希望し、それを研修として認めるように人事部門に要求した。人事部門では、2008 年 7 月~10 月の間、週 3 日の午前半日勤務とし、午後から日本ライトハウスで社外研修として訓練受講を認めてくれた。訓練に係る費用は、交通費も含めてすべて会社負担である。

⑨業務面で相談する相手
元の部署の同僚とは、いろいろなことを相談し合えている。

⑩視覚障害者として勤務するようになって以降に、業務内容の変更があったかどうか
当初はマーケティング事業部に配属された。当時の同僚は、見えないからといって仕事を選別するのではなく、仕事のどの部分ができないかを伝えると、仕事のプロセスを変えてできるようにしてくれた。仕事の基本を叩き込まれたお蔭で、問題を解決する力が付いたと思う。
その後、会社の組織変更などもあり、定期異動があった。3 回目の異動で、今の部署へ配属になった。

1.3 職場生活全般について

①通勤と職場での移動
通勤時間は 1.5 時間。出勤時間が早いため、通勤ラッシュに遭わない。
通勤歩行訓練などは必要性を感じていない。

②上司・同僚・外部関係者とのコミュニケーションや電話対応、回覧文書での工夫、課題
仕事上、来客は多い。来客対応では、相手になかなか視覚障害を理解してもらえず、提案書などを指さして説明されることも多いが、会話の中で内容を言葉で引き出すように努めている。
電話は積極的にとるようにしている。不在者へのメッセージなどは自筆でメモをとり、読み返すときは拡大読書器を使っている。
また工夫していることは、FAX を送信する際、同僚は登録した短縮ダイヤルを押しているが、見にくいので FAX 番号を手入力している。
その他、コピーやイメージデータの保存については、1.2 ④項に記載ずみ。イメージデータ化された文書を読むときには、印刷して読んでいる。

③休憩時間の過ごし方、宴席、親睦会等への参加
昼休みは同僚の女性社員と昼食を共にしている。
忘年会や飲み会には積極的に参加している。こうした場での同僚とのつながりを大切にしている。

1.4 視覚障害者として新規に就職した経緯について

①現職に就くまでに求職活動に要した期間
大学 3 年生の 1 月から就職活動を開始し、4 年生の 6 月には就職が内定した。全部で30 社以上面接を受けて、5~6 社から内定をもらった。

②就職のための支援を受けた機関、その機関の支援の状況と課題
学生職業センター
民間の就職紹介会社

③就職のための面接時に工夫したこと、面接した会社の対応に関する感想
面接時にノートパソコンを持参し、画面拡大ソフトウェアを使ってデモを行った。
また、履歴書以外に視覚障害をもった自分が苦手なこと、支援して欲しいことをまとめて文書として提示した(例えば、拡大読書器が必要なことと、どんなものであるか等)。
面接してくれた会社はどこもよく話を聞いてくれ、印象はよかった。
たとえ不採用になっても、「この会社は私のことが理解できなかっただけだ。必ず、分かってくれる会社があるはずだ。」と自分を信じていたので、全く落ち込まなかった。世間知らずで、怖い者なしだったのかもしれない。

視覚障害者が就労している事業所担当者に対する質問と回答

事業所名: 大和リース株式会社
本人との関係: 採用時の人事担当者
役職名: 人事部長
氏名: 古橋 智さん

3.1 採用に至った事前面接を担当された方への質問

(1)どのような経緯で本人の面接をしたか
大阪学生職業センター主催の合同面接会(新卒対象)で、本人が応募してきた。

(2)本人を面接した印象
障害への配慮を求める障害者が多い中で、本人は頑張りたいという意欲や会社に貢献したいという前向きな姿勢を示してくれた。なんとか採用したいと考え、内定を早く出した。

(3)視覚障害者を採用するにあたって、不安な点は何だったか
聴覚障害者はこれまで採用してきたが、視覚障害者は初めてであった。当初、配慮すべき点が分からなかったが、本人から配慮事項を出してくれ、また、必要な機器も調べて提出してくれたので、不安はなかった。

(4)採用に当たって、就労支援機関と相談したか
採用が決ってから、大阪府障害者雇用促進協会(現大阪府雇用開発協会)より、機器やソフトウェアを購入するにあたっての助成金の説明を受け、助成金を利用した。

(5)採用の決め手となったことは何だったか
前向きな姿勢を示してくれたこと。

3.2 採用後の処遇について

(1)入社後、担当させた業務が決まった経緯 本人はパソコンを使う業務を希望していた。電話応対も可能で、内勤事務となると
本社の業務になる。その中で最初は全社のマーケティングを担当する部署に配属した。

(2)入社後、会社側、職場の同僚などが配慮したことは何か
本人の弁によると、当初、配属された部署では、仕事のどの部分ができないかを伝えると、仕事のプロセスを変えてできるようにしてくれた。

(3)入社後の業務遂行に関して、必要な機器やソフトウェアを購入したか
入社時に、拡大読書器やパソコン、XP Reader、ZoomText Magnifier 等の購入に助成金を活用した。また、その後のソフトウェアのバージョンアップは会社が費用を支払った。

(4)入社後、本人から相談を受けたことはあるか
これまでは特になかった。
今回、歩行訓練と音声出力によるキーボード操作技術を高めるためのパソコン訓練を日本ライトハウスで受講するにあたり、社外研修として欲しいとの希望が出たので、検討し承認した。費用は会社負担である。他の社員が提案してくる社外研修受講希望と同じ扱いで、戦力アップにつながる研修と判断し、会社負担での受講を認めた。

(5)入社後、本人の処遇に関して、何か困ったことはあるか
特になし。

(6)今後、本人に期待することは何か
会社としては障害者を区別せず、健常者と同じように働いてもらいたいと考えている。今後もキャリアアップを図り、昇格も果たして欲しい。
更にマーケティング関係の部署だけでなく、プロジェクトを統括する立場に立てるよう頑張って欲しい。

3.3 障害者雇用について

助成金の相談窓口では、企業サイドに立った適切なアドバイスがもらえたが、申請手続きが複雑である。

6 インタビュー後の感想

新卒採用で入社し、第一線で仕事をしてきた弱視者の事例として取り上げた。面接の際に本人から配慮して欲しい事項を出し、また、必要な機器も調べて提出するといった積極性と、頑張って会社に貢献したいという熱意が採用に結びついたという。そして入社後も、配属された最初の部署では、上司や同僚が仕事を選別するのではなく、仕事のどの部分ができないかを伝えると仕事の過程を変えてできるようにしてくれたという配慮の仕方も、通常とは異なるやり方である。この最初の部署で他の社員と同じように扱われ、仕事ができるように鍛えられたのが、その後の自信につながったという。
夜遅くまで仕事をしたという本人の頑張りと、配属された部署が人を育てようとした姿勢はすばらしいと思う。視覚障害者でも補助的な業務に終わらずに、キャリアを積んできた事例として取り上げた。

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