【事例 12】10 年の実績に会社も信頼と期待を寄せる
パソコンをフル活用して採用業務で会社に貢献する全盲の石山さん
ラックホールディングス株式会社 石山 朋史さん
【概要】 1995 年、網膜剥離による突然の失明。前職の自動車部品メーカーにおける生産管理の仕事に戻ることなく、1997 年に退職した。
退職後、東京都盲人福祉協会の歩行訓練の訪問指導を受ける。並行して、再就職にむけて活動を始める。障害者の就職面接会に臨むが、うまくアピールできていないことに問題があると認識した。その結果、見えない者が業務を遂行するにあたり、どのような手段、サポート機器が必要なのかについて明確にした資料を作成し、面接担当者にアピールすることで成功をつかんだようだ。
会社側は彼の積極性は認めるものの、入社当初どんな仕事が可能なのか分からず、模索を 1 年つづけ、彼の可能性を引きだし、抜群の企画力、緻密な管理力、綿密な他者との交渉力、そして明朗闊達な性格を見抜き、現在の業務を担当させ任せたという。
①石山 朋史さん 男性 1967 年生まれ
②視力と視野:全盲
障害程度: 身体障害者手帳 1 級 1996 年交付
障害発生年:1995 年
眼疾: 網膜剥離
白杖の使用:使用
点字の使用:点字は覚えたが使っていない。
③視覚障害に伴う休職の有無
1995~1997 年の 3 年間休職し、前の会社を退職している。
④視覚障害に伴う離・転職または職種転換の経験の有無:あり
⑤視覚障害または就労について相談したことのある支援機関:特になし
⑥社会復帰のための訓練または職業訓練の受講経験の有無
歩行訓練と点字指導
東京都盲人福祉協会の訪問指導(約半年)
⑦現在の所属:人材開発部 10 年
⑧現在の雇用形態:正社員
⑨最終学歴:大卒
⑩業務で利用している視覚障害者用機器・ソフト
常時使っているのは XP Reader。JAWS for Windows は入れているが、あまり使っていない。一般の OCR ソフトとスキャナは入れているが、スキャナは、今は使っていない。イントラネットでほとんどの書類は読めているため。
①業務の具体的内容
ラックホールディングス株式会社における中途採用(キャリア採用)を全面的に任されている。募集については、人材紹介会社(人材バンク)と社員紹介が主。応募者は月100 人を超えており、書類選考後、1 日平均 2~3 人は面接している。書類はメールでやり取りし、履歴書・経歴書等は Word や Excel で作成されているので、ほとんど問題なく音声で対応。採用決定通知もメールで行う。内定後の囲い込みやフォロー、そして採用全般の企画等も行っている。
②業務に関する指示・命令系統、他の人との業務上の連携
人材を求めている現場の本部長および事業部長と一緒に面接し、合否のすり合わせを行った結果、人事部長の承認を得て、採用決定していく。給与条件等は石山さんが算定して、応募者に提示している。派遣のワーカーがいて、具体的事務処理は石山さんの指示に基づきワーカーが行う。
③出張の有無、頻度
今はまったくない。新卒採用担当をしていた頃、結構大阪などにも行った。
④職場における人的支援の状況と必要性
いわゆる視覚障害に基づくアシスタント(職場介助者)はいない。作業そのものはすべて自分でできているので、ワークシェアというか、派遣会社からの女性に作業分担している。考えること、企画することを石山さんが主として行う。
⑤利用している視覚障害者用機器・ソフトウェア
スクリーンリーダを使っているが、研修は必要ない。特に必要とするソフトウェアは今現在はない。
⑥社内研修の受講状況、その他の研修の受講、研修の必要性
入社当初は、面接研修など外部研修は受けたことがあるが、今は業務が忙しい。
⑦業務遂行上工夫していること、必要と感じる支援、課題と感じること
工夫については、例えば、ノートパソコンを持ち歩き、会議、打合せなどでメモを、かなだけの文字で記録して、後で聞いて自分の役に立てている。また、2~3 年前に社内イントラネットの Lotus Notes を Web 系に変更したことがあり、当初、音声が出なくて仕事にならないからと、音声化を求めて提案し、経営会議で諮って予算を取ってもらい、作り込みしてもらった。今は課題といえるものは特にない。
⑧業務面で会社が配慮してくれる事柄
当初、視覚障害とはどういうことかについてよく分かっていない頃は、「どうすればいいんだ」とよく聞かれたことはある。今は何でも自分で解決できてしまうし、社内全体が、視覚障害者が働いていること自体を気にしないで済んでいる。
⑨業務面で相談する相手
相談するとすれば上司なのだが、現実あまり相談することがない。また、相談もしていない。
⑩視覚障害者として勤務するようになって以降に、業務内容の変更があったかどうか
該当しない。
①通勤と職場での移動
通勤時間は 1 時間 15 分程度。乗り換えは 2 箇所。就職内定が出た後、週に 2 度、2週間、計 4 回ほど、東京都盲人福祉協会から来てくれ、自宅から会社までの歩行訓練を受けた。半年間という短期間ではあったが、一時期今と違う場所で仕事をしていたことがあり、通常の出入りは回転ドアであるが、危険だと総務とビルのオーナーとで話し合い、普段は使わない自動ドアを使えるようにしてくれた。今通勤しているビルのエレベータは音声ガイド付きに改造してくれた。
②上司・同僚・外部関係者とのコミュニケーションや電話対応、回覧文書での工夫、課題
課題と感じることは特にないが、コミュニケーションというか、他人との対話が大切だという認識を持っている。取引先との関係をうまくつくっていくためには、理解しあうための対話が重要。
③休憩時間の過ごし方、宴席、親睦会等への参加:他の社員とまったく同じ。
①現職に就くまでに求職活動に要した期間
急に全盲になったため、継続雇用はまったく考えず、休職期間中は治療に終始。退職後、1998 年 4 月から情報収集や具体的活動を始めた。まず、タートルの会の 9 月交流会に臨み、再就職せねばと考え始めた。障害者の合同面接会では、20 社は受けたが全滅。ハローワークの一般の求人に切り替えて今の会社に面接し、10 月には内定をもらっている。一発で決まったわけで、異例とも言える。歩行訓練を受けるため、1 月からの入社にしてほしい、と頼んだ。求職活動は 2 ヶ月弱。
②就職のための支援を受けた機関、その機関の支援の状況と課題
特に支援は受けていない。職業訓練施設の指導員からアドバイスというか、ヒントをもらい、履歴書だけではダメということが合同面接会でわかっていたこともあり、履歴書に経歴書や書類作成の手段、方法、使用ソフトウェアのカタログなどを添えて面接に臨むこととした。これが功を奏したと言える。具体的に A4 紙で 3、4 枚程度作って、Word ではこう、Excel ではこう、と説明できる資料とした。
③就職のための面接時に工夫したこと、面接した会社の対応に関する感想
面接時の資料持参は面接担当者にとって質問等もありきたりの質問でなく、具体的にどんなことができるのかが分かり、採用後の業務についてのイメージを作りやすかったのではないかと推察している。
④離職経験がある場合は、前職の状況
車の部品メーカーに約 10 年勤め、生産管理部門の工程管理業務を経験している。突然の失明で退職した。
事業所名: ラックホールディングス株式会社
本人との関係: 上司
役職名: 人材開発部長兼経営企画室
氏名: 山中 聡さん
(1)どのような経緯で本人の面接をしたか
公共職業安定所に求人を出し、その応募により採用。
(2)本人を面接した印象
明るい人柄、やる気があり、障害を感じさせない。好印象。
(3)視覚障害者を採用するにあたって、不安な点は何だったか
どのような仕事ができるか。仕事の範囲とか質に不安。視覚障害者を受け容れることに対する不安はなかった。
(4)採用に当たって、就労支援機関と相談したか
求人票を出した公共職業安定所と相談した。
(5)採用の決め手となったことは何だったか
本人のやる気と基本的なパソコンスキル。
(1)入社後、担当させた業務が決まった経緯
最初の配属は総務で、社内や公共職業安定所と相談しながら、また本人に業務体験してもらいながら、やってきた。業務体験では封筒のノリづけなど道具を使う仕事はむずかしいし、またパソコンを使う仕事は範囲が限られると判断。バイタリティがあり、何にでもトライしようとするところと、以前の会社での経験と社交的な性格を考慮して人事部の採用を担当してもらうことにした。
(2)入社後、会社側、職場の同僚などが配慮したことは何か
会社側として基本的に甘やかさない方針をとるようにした。社内環境を整えることを打ちだした。社員に歩行スペースを確保することを意識させた。例えば、職場の同僚などが配慮したことは普通当たり前にしている事、キャビネットを開け放しにしない、机の引き出しを出しっ放しにしないなどで、本人が視覚障害者であることを社内では忘れてしまうほど何でも普通にしている。エレベータは音声化するよう改造した。点字は本人がつけている。
(3)入社後の業務遂行に関して、必要な機器やソフトウェアを購入したか
スクリーンリーダ、スキャナなど必要な機器やソフトウェアを購入した。また、それらの購入に際して、助成金は申請した。
イントラネットにより社内情報は掲示板にすべて掲載しているが、音声化できない場合があり、気がついた人が必要な情報(紙も含め)を Word や Excel など音声化可能なファイル形式でイントラネットに落としてくれている。
(4)入社後、本人から相談を受けたことはあるか。
入社後、本人から相談を受けたことはほとんどない。むしろ必要のないくらいよくやっている。
(5)入社後、本人の処遇に関して、何か困ったことはあるか
特にない。給料等は、最初は世間の相場にあわせて決めたが、その後、実績に即して正規化している。
(6)今後、本人に期待することは何か
次のステージに向かい、核になる業務を身につけていくことと会社に提案すること。会社の発展となるよう生産性向上の工夫や企画力を期待している。更に第一線で活躍していただきたい。また、後に続く視覚障害者の目標となるように意識してほしい。
NPO 法人タートルで活躍することは社会貢献であり、他の視覚障害者の目標となることであり、会社としても大いにやって頂きたい。
本人の努力もさることながら生来の明るさ、社交的性格、積極性、コミュニケーションスキル、問題解決能力等を磨き上げ、10 年の経験と実績が示す自信を強く感じた。後に続く視覚障害者に自らのノウハウを伝えていこうとする気概を感じさせてくれた。
また、人事採用担当として、社内にいる他の健常者の担当者と同等以上に能力を発揮し、実績を積み上げてきている。このことを会社側もよく認識し、会社の発展に寄与すべく、更なる工夫と企画力の向上に期待をかけていることがよく理解できた。