事例14

【事例 14】合理的配慮を自然に実践
パソコン技術と人柄が大きな強み
マイクロソフト株式会社 木原 暁子さん

【概要】 木原さんは糖尿病により視覚障害となり、休職期間を経て前職を退職した。休職期間中には自ら視覚障害者の就労に関する情報を収集するとともに、退職後は生活訓練や職業訓練を受けた。そして 2006 年に開催された障害者就職合同面接会に自己 PR 文を持参してマイクロソフト株式会社の面接に臨んだ。PR 文に書かれているパソコン技術と明るく、積極的な人柄が評価され、採用に至った。現在の主な業務は、マイクロソフト株式会社の中途採用社員に関する調査、障害者雇用に関して人材紹介会社との調整、講演活動などである。業務のほとんどはペーパーレスという環境をい かし、スクリーンリーダを使ってパソコンでおこなうことができている。さらに、上司をはじめとする同僚の自然体のサポート、上司との定期的なミーティングにより、仕事上のバリアはほとんどないといっても過言ではない。

 

1 視覚障害者本人に対する質問と回答

1.1 基本的な事柄

①木原 暁子(きはら あきこ)さん 女性

②視力と視野:手動弁
障害程度: 身体障害者手帳 1 級 2003 年取得
障害発生年:2003 年
眼疾: 糖尿病網膜症
白杖の使用:使用
点字の使用:使用

③視覚障害に伴う休職の有無
前職の時に視覚障害に伴う休職が 1 年 6 ヶ月。

④視覚障害に伴う離・転職または職種転換の経験の有無:休職期間終了後、退職となる。

⑤視覚障害または就労について相談したことのある支援機関
NPO 法人タートル
ハローワーク
友人(視覚障害)

⑥社会復帰のための訓練または職業訓練の受講経験の有無
東京都盲人福祉協会 月 1~2 回の頻度で約 10 ヶ月
東京都視覚障害者生活支援センター 8 ヶ月
日本盲人職能開発センター 3 ヶ月

⑦現在の所属:人事本部採用グループ
現在の業務:人材採用、障害者啓蒙 期間は 2 年 2 ヶ月。

⑧現在の雇用形態:正社員

⑨最終学歴:栄養学校(専門学校)卒業
資格:栄養士

⑩業務で利用している視覚障害者用機器・ソフトウェア
JAWS for Windows、IC レコーダー、点字シール、マイクロソフト Office シリーズ、Outlook、OneNote、SharePoint、OCR ソフト

1.2 現在の業務について

①業務の具体的内容
・啓発活動
・IT ラーニングのプログラム(障害者のソフトウェア操作の技術研修)
・リファレンスチェック(中途採用者の前職場への電話聞き取り調査)
・講演活動(本人への直接依頼、外部から会社への依頼、会社からの内部研修依頼)

②業務に関する指示・命令系統、他の人との業務上の連携
・電話、電子メール、直接対話。
・ミーティング、特に上司とは一対一で。

③出張の有無、頻度
・年に 2~3 回(主として講演)
・誘導のための出張への同行はない。同行者にとって、その出張が有効かどうかで判断される。

④職場における人的支援の状況と必要性
・特に必要としていない。自然に周囲の人にお願いできるし、声もかけてもらえるからである。また、人的支援がつくと、特別な感じを醸し出してしまうため。
・社内はペーパーレスであり、書類の読み上げを依頼するのは週に 1 回程度である。

⑤利用している視覚障害者用機器・ソフトウェア
利用しているソフトは、JAWS for Windows である。JAWS に関する研修があればうれしいが、それよりも、その場で困ったことに対応してほしい。また、JAWS for Windowsが軽快に動作するようにして欲しい。

⑥社内研修の受講状況、その他の研修の受講、研修の必要性
研修費用のための金額は社員 1 人あたりの額が決まっている。その金額内であれば、社内外問わず、自分の仕事の都合、および上司がその人の成長に必要かを判断した上で受講することができる。
社内研修では 1 回の受講で情報が十分に得られない場合は、オブザーバーとして複数回の受講が認められている。会社では自己啓発は認められている。

⑦業務遂行上工夫していること、必要と感じる支援、課題
1 人の同僚にサポートを集中させない。サポートは分散させること。
また、仕事の関連性で依頼先を変えたり、前もって自分でトライしたが、やはりサポートが必要だったなどのように、サポートの依頼には気をつけている。
その他必要と感じる支援は、今のところは特になし。

⑧業務面で会社が配慮してくれる事柄
・会社で使用しているものとは異なる PC を購入してくれた。
・自席近くに誘導ブロックを敷設してくれた。
・自販機に点字シールを貼ってくれた。

⑨業務面で相談する相手
上司。通常は高橋氏。予算面などでは本部長。

⑩視覚障害者として勤務するようになって以降に、業務内容の変更があったかどうか
なし

1.3 職場生活全般について

①通勤と職場での移動
通勤時間は 40 分。歩行訓練を受けた(自宅~駅 3 回、駅~職場 2 回、職場内 1 回)。
苦慮することは、自宅から駅までが歩きにくい点である。
設備面で望むことは、エレベータ 5 基のうち 1 基のみに音声案内がある。自社ビルで はないので音声案内のエレベータの台数を増やすことは無理と思っている。仕方がないので、同乗者に尋ねている。

②上司・同僚・外部関係者とのコミュニケーションや電話対応、回覧文書での工夫、課題
・1 人の人にサポートを集中しない。
・データで欲しい(紙ベースではなく)と依頼すること。
・社外の人が自分を視覚障害者だとわかると、ゆっくり話し始めることが気になる。

③休憩時間の過ごし方、宴席、親睦会等への参加
・昼休みは友人とランチ、または社内コンビニに 1 人で行ったりする。
・宴席などは必ず出席する。

1.4 視覚障害者として再就職した経緯について

①現職に就くまでに求職活動に要した期間
2003 年に障害者になった後も求職活動はしていたが、実質的には日本盲人職能開発センターに入った後の 1 ヶ月。

②就職のための支援を受けた機関、その機関の支援の状況と課題
パソコン(Word、Excel)、話し方(3 分間スピーチ)、話し合いの進行役
日本盲人職能開発センター(期間:3 ヶ月)
特に話し方は面接時の自己 PR の際に大変に役立った。

③就職のための面接時に工夫したこと、面接した会社の対応に関する感想
自己 PR 文を作成した(A4 に 4 枚程度)。PR 文の中に事例として NPO 法人タートル石山氏の URL を記入した。また、視覚障害者を採用するに当たって、事業所側が不安に思うであろうことに対する対応策を記入した(歩行やパソコンの状況などについては、このような条件であれば可能と記入した)。

④離職経験がある場合は、前職の状況
前職は人材派遣会社の営業所所長であった。就職期間 4 年間のうち、1 年間は休職した。その後、視覚障害により退職した。

視覚障害者が就労している事業所担当者に対する質問と回答

事業所名: マイクロソフト株式会社
本人との関係: 上司
役職名: 人事本部採用グループ シニア HR マネージャー
氏名: 高橋 秀樹さん

3.1 新規採用に至った経緯

(1)どのような経緯で本人の面接をしたか
人材紹介会社ゼネラルパートナー主催の合同面接会で 1 次面接を実施した。その後、本社で 2 次面接を実施した。その際は、担当者が日本盲人職能開発センターへ迎えに行った。
採用が決まる前に、NPO 法人タートル理事石山氏の会社をマネージャーと本人が訪問した。これは、本人が 1 次面接の際に提出した書類の中に石山氏の URL を記載されており、視覚障害者の仕事の状況を調査するためであった。

(2)本人を面接した印象はどうだったか
・本人が面接の際に提出した PR 文に、やりたいことが記されていたことを評価した。
・明るいこと、コミュニケーションがとれそうなことを評価した。
・仕事が好きなこと、モチベーションが高かったことを評価した(採用する際には経験、およびポテンシャルを重視している)。

(3)視覚障害者を採用するにあたって、不安な点は何だったか
不安であった点は、まず、「仕事として何が用意できるか」ということであったが、これに対しては、「電話によるインタビュー」という仕事を本人が提案した。その他、パソコンの環境、英会話能力、本人へのサポート、視覚障害者の理解などである。
求人を出す際、仕事内容は既に固まっていた。その対象者として面接した木原さんが候補となった。上記の不安を解消するために、NPO 法人タートル理事(石山氏)の職場を訪問し、できることとできないことが明確となり、採用に至った(障害者枠で採用したわけではない)。

(4)採用に当たって、就労支援機関と相談したか
今回の採用に当たっては、採用時のマネージャーが障害者採用の経験があったため、特に相談はしなかった。

(5)採用の決め手となったことは何か
パソコンができ、コミュニケーション能力があり、用意していた仕事ができることが決め手となった。また、前向きで意欲的、かつ積極的な人柄も評価した。これらの点はマイクロソフト株式会社の基本的な採用方針とも合致していた。その他、キャリアを伸ばし、大きくチャレンジすることができるかという点も評価した。

3.2 入社後の状況について

(1)入社後、担当させた業務が決まった経緯 仕事の内容は事前に決まっていた。その内容は、リファレンスチェック、中途採用者の前職場への電話での聞き取り調査である。現在ではこの他に、障害者採用、人材紹介会社との折衝や調査、「障害者として働く」をテーマとした講演活動などがある。

(2)入社後、会社側、職場の同僚などが配慮したことは何か
床にものを置かない、声をかけるといった点はミーティングなどで伝えられたわけではなく、自発的に社員がするようになった。
その他、歩行訓練士に依頼して社内ファームを行った。また、「Outlook の使い方」等の研修として、社内の全盲エンジニアとミーティングしてもらった。
また、社内研修時間を倍増した(特に、他の社員では上司とのミーティングを毎日行った)。

(3)入社後の業務遂行に関して、必要な機器やソフトウェアを購入したか
・JAWS for Windows(ヘルスキーパー用としても同時購入)
・携帯電話 docomo らくらくホン(他の社員は指定されている別機種)
・ノートパソコン(本人が従来から使用している機種。他の社員は機種が指定されている)

(4)入社後、本人から相談を受けたことはあるか
上司との定期的ミーティングを増やして欲しいとのリクエストがあった。通常は平均 2 週間に 1 回のところ、毎週 1 回行った。

(5)入社後、本人の処遇に関して、何か困ったことはあった
特にない。強いてあげれば、採用する際は契約社員の予定であったが、本人から正社員への強い希望があったので、3 ヶ月間のトライアル雇用を経て正社員で採用した。

(6)今後、本人に期待することは何か
特定の分野だけではなく、他の分野にも活躍の場を広げてほしい。キャリアカウンセラーの資格を取りに行ってもらう予定である。

5 要望

・公的機関(特にハローワーク)での情報提供が紙ベース主体のため、使いにくい。電子データを活用した仕組みに改善してほしい。
・助成金交付に関し、交付決定と購入予定時期とかみ合わない。
・民間人材紹介会社の方が使い勝手がよい。よい人材がそろっている。

6 インタビュー後の感想

木原さんは、持ち前の明るさと、管理能力のキャリアを活かして仕事をこなしており、障害を感じさせない方であった。また、上司や同僚との積極的なコミュニケーションなど、モチベーションの高さを感じた。上司や同僚も木原さんに対し、配慮すべきところは自然体の中での配慮がなされている。木原さんも会社側もさらなるキャリアアップを望んでいることが印象に残った。

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