【事例 15】就職面接会での運命的な出会い
特例子会社の起業スタッフとして貢献
NTT クラルティ株式会社 小髙 公聡さん
【概要】 金融機関に 15 年間勤務した後、網膜色素変性症により 30 代の半ばで文字処理が困難となり退職した。退職前、タートルの会に相談し、訓練機関についての情報を得る。その後、生活訓練・職業訓練を経て、2004 年 12 月に現在の会社に就職した。当時、NTT グループの障害者雇用推進を目的とした NTT クラルティ株式会社は設立に向けて人材を探していた時期で、小髙さんの面接会における「障害を持ってい る人が暮らしやすい社会を創りたい」という応募動機が会社の方針に合っていたこと、さらに、それまでの社会人経験やリーダーとしての資質が評価されての採用だった。現在は、メディア開発部 Web サイトグループ担当課長代理として勤務。15 名のグループメンバーの統括として、Web アクセシビリティ診断、サイト製作、機器やサービスのコンサルティング、研修受託業務、障害者向けポータルサイト運営等の業務に、多忙な日々を送っている。
①小髙 公聡さん 男性 1965 年生まれ
②視力と視野:両眼手動弁
障害程度: 身体障害者手帳 1 級 1981 年 6 月、大学卒業時就職活動中に取得
眼疾: 網膜色素変性症(4 才の時に発覚、ドーナツ状に視野欠損がある状態が続いていたが、30 代半ばに急激に悪化)
白杖の使用:使用
点字の使用:点字は CD など物の判別をする程度に使用
③視覚障害に伴う休職の有無:なし
④視覚障害に伴う離・転職または職種転換の経験の有無
2002 年 3 月に前職(政府系金融機関)を退職。
生活訓練、職業訓練を受けた後、2004 年 12 月に現在の会社に就職。
⑤視覚障害または就労について相談したことのある支援機関
前職を退職する前に、ハローワークと NPO 法人タートルに相談した。
⑥社会復帰のための訓練または職業訓練の受講経験の有無
生活訓練(点字・歩行)
国立障害者リハビリテーションセンター(期間:2002 年 4 月~9 月)
ネットワーク・プログラミング技術等を中心とした職業訓練
国立職業リハビリテーションセンター システム設計科システム開発コース(期間:2002 年 10 月~2004 年 9 月)
⑦現在の所属:メディア開発部 Web サイトグループ
職種:事務職 在職期間は 3 年 5 ヶ月
⑧現在の雇用形態:正社員、フルタイム
⑨最終学歴:大学卒
資格:行政書士、アマチュア無線技師
⑩業務で利用している視覚障害者用機器・ソフトウェア
JAWS for Windows ver7.1
①業務の具体的内容
Web アクセシビリティ(見やすいホームページ)の診断(グループ内企業、民間企業)・サイト制作、機器・サービスのコンサルティング、各種研修などの受託業務(仕様、見積り、契約、作業配分、スケジュール管理等)と、障害者向けポータルサイトの運営、携帯電話教室、研修、講演等の統括業務(約 2 年前から)。
②業務に関する指示・命令系統、他の人との業務上の連携
部長-担当部長-課長-本人(課長代理)-グループメンバー(15 名)
③出張の有無、頻度:あり。月 3 回程度。
④職場における人的支援の状況と必要性
作成した書類のレイアウト調整、出張時の誘導などは、他障害のメンバーがサポートしてくれている。特に誘導などは人員が不足しているのも事実だが、メンバーがサポートするという体制はベストだと思う。
職場介助者は期限があるものなので、職場内で助け合ってやれるのが理想的。
⑤利用している視覚障害者用機器・ソフトウェア
仕事上使っているのは JAWS for Windows1 本。これは動作が重いという点では思うところもあるが、カスタマイズもでき、ほぼ満足している。
グループウェアは、ブラウザ上で動作するサイボウズを使っているので、JAWS で操作できる。
JAWS for Windows は、多機能であるがゆえ研修の必要があると思う。他社へ出向いていって、JAWS for Windows をカスタマイズするという業務も行ったことがある(晴眼者が同行)。他社に立ち入る場合、セキュリティ等の問題があるが、システム管理者とのコンタクトができていれば、問題は生じない。
現メンバーは国立職業リハビリテーションセンターOA システム科出身者が多数である。日本ライトハウス出身や、自分である程度勉強してきた人がほとんどである。
⑥研修の受講状況
入社時研修を受講。今は OJT。資料等の配慮をされたうえで研修は必要と思う。
会社側担当者として同席した宮田社長より、健常者と同一の社内研修体系を現在作っており、小髙さんのレベルでは、マネジメント研修を予定していると補足された。
⑦業務遂行上工夫していること、必要と感じる支援、課題
テキスト変換ツールの利用や定型語句の登録等、視覚障害に起因するスピードダウンの防止に努めている。支援については、誘導や作成した書類のレイアウト等の訂正などをお願いするのに、どうしても気遣ってしまう。どこまで要求して良いのか。
電話器操作法については、ボタンの配置を覚えて対処している。ファクシミリは見える人に任せている。コピーはほとんど行わない。
⑧業務面で会社が配慮してくれる事柄
年休簿等、申請書類の Excel 化。会議資料は、原則 Word・Excel を使用して作成する。PowerPoint は不可となっている。
⑨業務面で相談する相手:課長、同年代の同僚。
⑩視覚障害者として勤務するようになって以降に、業務内容の変更があったかどうか
変更なし
①通勤と職場での移動
通勤時間は約 30 分。最近、引越したこともあり、歩行訓練の必要性を痛感している。幸い、要所に点字ブロックがあるため助かっているが、あとは自分なりのポイントを定めランドマークとしている。社内では困ることは少ない。
②上司・同僚・外部関係者とのコミュニケーションや電話対応、回覧文書での工夫、課題
用事があるとき、相手が在席しているかがわからないため、まず Windows Messengerを送り、開封確認が届いたところでその席へ向かうようにしている。
それと、食堂や休憩コーナーでは、声をかけてもらわないと話ができないということを、もっと他の社員に理解してもらいたい。
社内のレイアウトは頭に入っており、各社員の居場所はおおよそ把握している。
③休憩時間の過ごし方、宴席、親睦会等への参加
休憩コーナーで多くのメンバーと話をするよう努めているが、自分から声をかけられない点は心苦しい。宴席も、人工透析のない日は積極的に参加している。
①現職に就くまでに求職活動に要した期間
約 1 年。求職活動中、数十社の面接を受けた。
②就職のための支援を受けた機関
前職を退職する前に、事務職での転職を希望し、ハローワークに相談に行ったが、理療業を勧められた。「視覚障害=理療業」という先入観があるからか。ハローワークは最初の窓口でもあり、意識を改めてもらいたい(4 年前の話なので変わっているかもしれないが)。
国立職業リハビリテーションセンターの存在を NPO 法人タートルの相談会で知り、生活訓練を経て利用した。
手帳は、大学卒業時、主治医に勧められ取得し。主治医から就労についての情報の提供、話題はなかった。
③就職のための面接時に工夫したこと、面接した会社の対応に関する感想
「単に椅子に座るのも大変なんだ」と思わせないように、機敏な動きに努めた。スクリーンリーダのデモンストレーションを行ったこともある。
④離職経験がある場合は、前職の状況
前職は金融機関で主に債権管理を担当。2002 年 3 月まで 15 年勤務。金融機関ということで汎用機を使用しており、スクリーンリーダを導入する余地がなかった。
30 代半ばころ、文字処理が困難になり始めたが、会社には隠していた。
事業所名: NTTクラルティ株式会社
本人との関係: 上司
役職名: 代表取締役社長、経営企画部担当課長
氏名: 代表取締役社長 宮田 邦彦さん
経営企画部担当課長 井手 達也さん
(1)どのような経緯で本人の面接をしたか
ハローワークが主催する全都の障害者採用面接会で面接した。
一言で言うと運命的な出会いであった。小髙さんに初めて会ったのは、まだ NTTクラルティが設立される前で、NTT が障害者雇用に向けた会社設立のプロジェクトを立ち上げた頃だった。当時、NTT の研究所において障害者の有期雇用の採用募集をしており、東京都体育館で行われた全都の雇用面接会場でその様子を見るため、研究所のブースにお邪魔していた。そこに小髙さんが面接に訪れたのだが、応募の動機がこれから作ろうとしている会社にぴったりマッチしていた。
(2)本人を面接した印象はどうだったか
緊張感の中、しっかりした受け答えと優しい笑顔、就業経験もあり社会人として整っていた。
視覚障害者 1 級であったが、すんなり面接の椅子についていた。「障害をもっている人が暮らしやすい世の中にしたい」という熱い思いを、研究所の面接担当者に応募の動機として伝えていた。その場で、ホームページにもバリアがあることなどを説明してくれたことが、当社の事業のひとつにつながっている。
(3)視覚障害者を採用するにあたって、不安な点は何だったか
視覚障害に限らず、一番は社内外における安全の問題である。会社としても、障害者のことは勉強をしている最中で、最初は視覚障害者には点字ブロックや点字文書が必要程度の知識しかなかった。社内や通勤経路に点字ブロックがない場合はどうしたらいいのか、通勤経路の場合、市役所に敷設を依頼するのか、等といった状況だった。そこで、どうしたらいいのか、本人や国立障害者リハビリテーションセンターの担当者に尋ねることにした。通勤費などの支給認定においても、安全なルートを利用することを優先している。
過去に弱視者を身近にみていたので、違和感はなかった。
(4)採用に当たって、就労支援機関と相談したか
国立職業リハビリテーションセンター(ハローワークから紹介されて)
独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構
ハローワーク
(5)採用の決め手となったことは何か
応募の動機が会社とあっていることと、障害者の中でリーダー的な役割も可能と判 断した。「企業人」や「働く」ということを理解し、障害を持ったリーダーとなりうる資質が見えた。
多くの障害者を雇用する会社として、「NTT として障害者のためになることを事業に入れたい」との思いは、プロジェクトの当初からあった。
特例子会社化は、NTT グループの各社において雇用率がなかなか上がらなかったことと、一箇所に集約させることで多くの障害者を雇用できると判断したこと、そして、仕事を多様化でき、やり甲斐を創出できると判断したこと、障害者雇用促進の社会の流れがあったことなどから、NTT として最良の方法として選択した。採用は、まだNTT クラルティが設立されてなかったため、NTT 研究所が窓口になった。
(1)担当させた業務が決まった経緯
採用直後は、NTT クラルティという会社はまだ存在しなかったため、営業開始前からアルバイトで設立に向けた業務づくりに参画してもらった。
(2)入社後、会社側、職場の同僚などが配慮したことは何か
会社でのコミュニケーションの中で、職場内の不便さを解消するなど、改善に努めている。その項目を挙げると、座席位置、社内のコントラスト表示、絨毯の硬さによる区分、自動販売機のメニューや食堂のメニューの電子データ配布などである。社内食堂はセルフサービスのため、配膳を介助している。そのため、昼食は 30 分早く摂ってもらっている。
(3)拡大読書器、スクリーンリーダ、画面拡大ソフトウェアなど購入したか
必要な機器やパソコンソフト(FocusTalk、PC-Talker、XP Reader、ZoomText、ホームページ・リーダー、NetReader など)はすべて揃えている。JAWS for Windowsは会社で業務を進める上で必須のため、高価だったが、助成金を利用させてもらった。また、住宅についても助成金制度を利用している。ただ、手続き、事務処理が複雑で時間がかかる。
(4)入社後、本人から相談を受けたことはあるか
特になし。
(5)本人の処遇に関して困ったことはあったか
小髙さんの前職での収入額に NTT クラルティの給与体系の中では追いつかない点と、人工透析のための勤務時間が減ることに対する対応。
(6)今後、本人に期待するこはなにか
視覚障害者だけでなく、他の社員も含めた社内のリーダーとして、更にマネジメント力をつけてもらい、早期に管理職への昇進をめざしてもらいたい。
助成金制度の中で支給対象の期限が設けられているものがあり、その期限がきた瞬間会社の負担が大きくなるので、助けられているとは言い難い。
「運命的な出会い」との上司の方の言葉どおり、会社に切望されて入社した小髙さん。その穏やかな笑顔とお人柄で、課長代理というリーダー的立場でコーディネート役をしっかりと果たし、グループメンバーからの信頼も厚い。上司から、更なる管理者への昇進を期待されている様子が、短いインタビューの間にも感じられた。