ここでは、訪問調査対象とした視覚障害者が事務処理業務で活用している機器・ソフトについて解説する。更に、調査対象者から挙げられた機器・ソフトに関する課題を取りまとめた。
スクリーンリーダとは、パソコン画面上の文字情報や、画面が変化した様子、それに入力文字などを音声で読み上げることで、画面を見なくてもパソコンを操作できるようにするソフトウェアである。画面読み上げソフトとも言う。スクリーンリーダを使えば、ワープロソフト、表計算ソフト、電子メールソフト、インターネットブラウザ(閲覧ソフト)など、一般的なアプリケーションソフトを視覚障害者も利用できるようになる。マウス操作を排し、すべてキーボードから操作。
基本ソフト Windows に対応したスクリーンリーダ製品は、平成 21 年 2 月現在、6 種類が購入可能である。製品のほかにフリーソフトもある。そのうち、今回の調査対象者が利用していたソフトについて簡単に紹介する。
視覚障害者用製品の老舗、株式会社高知システム開発が開発・販売。視覚障害者にとっての操作性を重視し、6 点入力方式、6 点漢字または漢点字による入力ができる。点字ディスプレイ出力機能も標準装備。対応する基本ソフトに応じて、Windows XP 用のPC-Talker XP と、Windows Vista 用の PC-Talker Vista がある。同社では視覚障害者用の各種アプリケーションソフトを開発・販売しており、それらと組み合わせた利用が便利である。平成 19 年度のパソコン利用状況調査では、利用者数が最も多かった。
高知システム開発のホームページ:http://www.aok-net.com/index.htm
障害者職業総合センターの研究成果を、株式会社システムソリューションセンターとちぎが製品化したソフトウェア。Windows 用スクリーンリーダとしては国内初登場。視覚障害者の就労支援を目的として、職場で使われる一般用アプリケーションソフトの多くに対応している点が特徴である。利用者の操作に応じた素早い応答性にも定評がある。点字ディスプレイ出力機能を標準装備。XP Reader は、基本ソフト Windows XP に対応した95Reader Ver. 6.0 の愛称である。
95Reader のホームページ:http://www.ssct.co.jp/barrierfree/95reader/index.html
米国 Freedom Scientific 社の製品の日本語版。日本語化と販売をしているのは、視覚障害者の情報アクセスを推進する有限会社エクストラ。視覚障害者の就労支援のために開発されたこの製品は、画面上の情報を「何でも読む」ことができる。コンパクトなプログラムである「スクリプト」を書くことであらゆる一般用アプリケーションソフトに対応できる点が特徴である。点字ディスプレイ出力機能を標準装備。国内の最新版である Version 9.0 は Windows XP と Vista に対応している。
JAWS のホームページ:http://www.extra.co.jp/jaws/index.html
2006 年 1 月より、株式会社スカイフィッシュが販売を始めた比較的新しいスクリーンリーダ。95Reader 同様に、多くの一般用アプリケーションソフトに対応している。新しい基本ソフト Windows Vista には、国内のスクリーンリーダの中ではいち早く対応した。
FocusTalk のホームページ:http://www.skyfish.co.jp/product/focustalk/index.html
日本障害者リハビリテーション協会が開発・無償配布している。Windows のコマンドプロンプト画面で動作する。エディタ、Web ブラウザ、メールソフト、辞書検索、ファイル管理などを、このソフト一つで実現できる。音声出力のほかに、文字の拡大表示、点字出力機能も有する。
ALTAIR for Windows のホームページ:http://www.normanet.ne.jp/~altair/
スクリーンリーダ製品としてはほかに、VDMW300/500、xpNavo がある。
VDMW300/500 を開発・販売するアクセステクノロジーのホームページ: http://accesstechnology.co.jp/
xpNavo を開発・販売するナレッジクリエーションのホームページ:http://www.knowlec.com/
インターネットの読み上げに特化したソフトは音声 Web ブラウザとも呼ばれる。見出し(ヘッダ)や入力箇所を順次選択して読み上げるなど、インターネット閲覧に便利な機能がスクリーンリーダより充実している。
日本アイ・ビー・エムが開発・販売する音声 Web ブラウザの先駆け。視覚障害者にとっての使いやすさを考えたテンキー操作などを特徴とする。PDF 文書や Flash コンテンツの読み上げに対応するなど機能の追加と改良を重ね、視覚障害者の利用率も高かったが、version 3.04 以降、製品の更新はおこなわれていない。
ホームページ・リーダーのホームページ: http://www-06.ibm.com/jp/accessibility/solution_offerings/hpr/index.html
株式会社高知システム開発の製品。視覚障害者が検索しやすいように、Web ページの情報から必要なものだけを集めて提示する機能を持つ。画面の拡大表示もできる。
高知システム開発のホームページ:http://www.aok-net.com/index.htm
音声 Web ブラウザ製品としてはほかに、ボイスサーフィンがある。
ボイスサーフィンのホームページ:http://www.amedia.co.jp/product/vsurfing/
画面を拡大表示したり、色を変更したりすることで視力が低い人にも画面を読みやすくするソフトウェア。パソコンの基本ソフト Windows にも「ユーザ補助」というユーティリティソフトがあり、同様な機能を実現できるが、それより高性能である。
米国 AiSquared 社の製品を日本語化し、NEC が販売している。国内で販売されている画面拡大ソフトの中では利用率が最も高い。画面拡大では、全画面拡大と部分拡大を選べる。最大拡大率は 16 倍。色の設定では、白黒反転、輝度反転など、ユーザの見え方に合った配色を選択できる。ポインタとカーソルの強調表示、十字カーソル表示、マウス位置への拡大画面の移動など、機能は多彩である。
ZoomText Magnifier のホームページ: http://121ware.com/product/software/zoomtext/index2.html
スクリーンリーダと連動してパソコン画面情報を点字で出力するハードウェア。国内で一般に用いられる製品は点字 40 マス程度を表示。音声だと聞き逃してしまうこともあるが、点字だと確実に読むことができ、文章の推敲などに強みを発揮する。
国内では、ケージーエス株式会社のブレイルメモシリーズと米国 SynapseAdaptive 社の ALVA シリーズの各製品が広く使われている。
ケージーエス株式会社の視覚障害者向け製品のホームページ:http://www.kgs-jpn.co.jp/piezo.html
ALVA シリーズ製品のホームページ:http://www.synapseadaptive.com/alva/Alva_Pro/alva_products.htm
6 点点字入力、点字表示機能を持った視覚障害者用の電子手帳。パソコンと接続して点字ディスプレイとしての利用も可能である。
・ブレイルメモ BM24
ケージーエス株式会社が製造・販売。同じシリーズのブレイルメモ BM16 とともに広く普及。近年では、同シリーズで小型化を図ったブレイルメモポケットへ移行しつつある。
点字電子手帳製品としてはほかに、ブレイルセンスがある。
ブレイルセンスのホームページ:http://www.extra.co.jp/braillesense.html
紙に印刷された文字情報をスキャナで電子画像化した後、電子テキストに変換するソフトウェア。視覚障害者用に操作性を考慮して開発された製品を使う場合と、一般用の製品をスクリーンリーダで使う場合がある。更に、視覚障害者用製品では、ソフトウェア単体のものと、ハードウェア一体型のものがある。価格が安い順にならべると、一般用、視覚障害者用ソフトウェア単体、視覚障害者用ハードウェア一体型となる。いずれの種類も数多くの製品が市販されている。それらについては、下の Web ページを参照していただきたい。
活字 OCR ソフト:http://j7p.net/soft/ocr.html
テレビモニタを利用し、テレビカメラで捉えた映像を拡大して表示する撮影装置である。近年、携帯ができる小型液晶モニタ(およそ 5~6 インチ程度のもの)を内蔵した機種が増えてきたが、就労支援機器として使用する場合には、一般的に卓上型といわれるもので、モニタサイズとしては 14~19 インチ程度のものが実用的である。
国内メーカーとして 3~4 社、輸入されているものを含め数十機種流通している。CRTモニタや TFT モニタを利用する。モニタサイズによって拡大倍率は変わってくるが、概ね3~50 倍程度に拡大できるものが標準的である。読むことは勿論のこと、細かい文字を書かなくてはならないときにも利用でき、弱視者にとっては有効な支援機器である。購入する場合には、視覚障害者手帳を所有していれば等級に関係なく 1 割負担で購入できる(ただし、障害者自立支援法施行後は自治体によってその実施内容にばらつきがある)。高齢・障害者雇用支援機構では本器に関する貸出事業が実施されており、視覚障害者を雇用しようとする企業が試用できるシステムもある。
バッテリ、小型液晶モニタ内蔵でシステム手帳程度の大きさのものが、近年輸入機種を中心に多く出回るようになってきた。ただし読むことや見ることに対して手軽である反面、ものを書くときに使おうとするとやや使いにくさを感じることが多い。また形態上、画面が小さいために拡大倍率としては、20 倍程度までが限度であり、その場合には 1~2 文字しか入らないこともあって、雇用支援機器としてはやや物足りなさを感ずる。卓上型拡大読書器の補助的な使用として、会議のときの資料確認、部屋を移動しての文書確認など、限定的な使用となる。
・ラベルライター「テプラ」PRO SR6700D
ラベル作成に広く使われているテプラに点字作成機能が付いた機種。点字の記号や規則を知らなくても点字印刷ができる。一般の文字と点字を 1 枚のラベルに印刷できるユニバーサルデザインである。
「テプラ」PRO SR6700D のホームページ:http://www.kingjim.co.jp/products/electronic/tepra/sr6700d.html
スクリーンリーダの一般アプリケーション(社内イントラネットを含む)への対応の強化が望まれている。職場では、社内共通のパソコン環境を使うことが前提とされているためである。機能的な対応不足に加えて、新しい基本ソフト・アプリケーションソフトへのスクリーンリーダの対応の遅れも課題とされている。
現在、企業での事務処理業務には、Microsoft Office 製品が利用されている場合が多い。Microsoft Office は、Word(ワープロ)、Excel(表計算)、Outlook(メール、スケジュール管理)、PowerPoint(プレゼンテーション)、Access(データベース)など、固有の機能を持つ複数のソフトで構成されている。Office 製品は数年ごとにバージョンアップを行っており、現在は主に 2003 や 2007 というバージョンが利用されている。
メールソフトについては、Windows XP の場合は Outlook Express、Windows Vista の場合は Windows メールがそれぞれ標準搭載されており、これらを利用している場合も多い。
また、メールやスケジュール管理機能の利用については、組織内で情報を共有できるグループウェアが導入されている場合もある。Web 上で使用できるグループウェアを Webブラウザで利用する場合、Internet Explorer が主に使用されている。Internet Explorerも数年ごとにバージョンアップを行っており、現在は主にバージョン6や7が使用されている。
ここでは、PC-Talker XP / Vista、JAWS for Windows、FocusTalk Ver.2.0 という3種類のスクリーンリーダについて、Microsoft Office 製品及び Internet Explorer への対応状況を中心に説明する。
PC-Talker は、Word、Excel、Internet Explorer に対応している。
Word と Excel については、Office 製品で使用可能なアドイン機能(Office に独自のコマンドや独自の機能を追加する追加プログラム)を利用し、音声化を実現している。2003 では、メニューバーのメニューコマンド[ファイル]の右に[読み]が追加される。2007 ではリボンの[表示]の右の[アドイン]にメニューコマンド[読み]が追加される。
Word の[読み]では、カーソル位置から全文読み、段落読み、1行読み、行頭からカーソル手前読み、カーソル位置から行末読み、書式情報読み、罫線情報読み、識別読み、コー ド読み、カーソル位置の読み上げ、選択範囲の読み上げ、ファイル名の読み上げ、ページ設定の読み上げなどの各コマンドが使用できる。
Excel の[読み]では、1行読み、カーソル以降行読み、カーソル手前行読み、1列読み、カーソル以降列読み、カーソル手前列読み、書式情報読み上げ、配置情報読み上げ、罫線情報読み上げ、ワークブック名読み上げ、シート名読み上げなどの各コマンドが使用できる。また、セルの編集、罫線の編集など、編集作業を行い易くするコマンドも用意されて いる。
・Internet Explorer と NetReader・MYMAILⅢ
Internet Explorer の Web コントロールを仮想的なカーソルで読み上げる。移動コマンドとしては、1項目ずつ、10 項目ずつ、1文字単位、リンク単位での移動が使用できる。読み上げコマンドとしては、仮想カーソル位置からページの読み上げや、ページの内容をすべて読み上げが使用できる。
PC-Talker のメーカーである株式会社高知システム開発が提供している音声 Web ブラウザ「NetReader」を併用することにより、適当な区切りを見つけて移動できるインテリジェントジャンプ、フォームや見出しの単位で移動できるジャンプコマンド、表(テーブル)を読むことができるテーブルモード、マークをつける機能など、より多彩な機能が利用可能となり、さらに効率的なブラウズ環境を実現することができる。
また、同社では、PC-Talker の Outlook、Outlook Express、Windows メールへの読み上げ対応について公表していない。同社が開発しているメールソフト、MYMAILⅢの使用を推奨している。
・マウス関連機能について
PC-Talker には、マウスカーソルのフォーカスがあたった部分を読み上げる機能があり、ロービジョンユーザーにとっては有効利用できる場合がある。
JAWS for Windows は、Word、Excel、Outlook、Outlook Express、Windows メール、PowerPoint、Access、Internet Explorer に対応している。各ソフトウェア用のスクリプトファイルが JAWS for Windows に組み込まれ、音声化を実現している。各ソフトウェアに設定ファイルがあり、各種情報の通知をどの程度まで行うのかを調整することができる。
情報入手のためのキーコマンドを使用して、文字書式、フォントの色、カーソル位置の座標などを確認することができる。文書内のコメントやリンクなどについては、一覧表示することができる。
また、ナビゲーションクイックキー機能を使用すると、文書内を要素ごとに移動できる。例えば、コメント、エンドノート(文末脚注)、脚注、画像、見出し、段落、変更履歴、セクション、テーブルなどの要素単位で移動することができる。
情報入手のためのキーコマンドを使用して、セルの罫線の状態、セルのフォントと属性、セル内の数式、オブジェクトなどを確認することができる。また、表のある行や列を選択し、タイトルとして定義する機能がある。この機能を使うと、行や列を変更したときに、タイトル行・タイトル列を読み上げるようになる。
さらに、ワークシートごとに 10 個までモニタセルを定め、随時モニタセルの内容を確認し、その場所にカーソルを移動することもできる。グラフ読み上げ機能もあり、グラフの概要を読み上げる。
スライド編集画面の読み上げが可能である。スライド編集時にオブジェクトが重なってしまった時、通知する機能がある。
リレーショナルデータベースのテーブル確認、フォーム入力の操作を読み上げる。リレーションシップの作成用ショートカットがあり、リレーショナルデータベースの作成も可能である。
Internet Explorer 内で仮想 PC カーソルを使用し、通常の文書ファイルのように上下左右のカーソルキーで、移動・読み上げ操作を行うことができる。また、ナビゲーションクイックキー機能を使用すると、ウェブページ内を要素ごとに移動できる。例えば、リンク、フォーム、見出し、画像、テーブルなどの要素単位で移動ができる。さらに、それぞれの要素ごとに一覧表示することもできる。
プレイスマーカ機能を使うと、よく使用する場所に素早く移動することができる。プレイスマーカには名前をつけることもできる。
Outlook、Outlook Express、Windows メールについて、メールの送受信、アドレス帳の利用など、一連の機能を使用することができる。Outlook のスケジュール管理機能の読み上げにも対応している。
Microsoft Office や Internet Explorer 以外のソフトウェアを使用する場合、JAWS for Windows の JAWS カーソル機能やスクリプト作成機能が有効な場合がある。
JAWS カーソルは、マウスポインタに伴って移動し、通常のカーソル(JAWS では PCカーソルと呼ぶ)では移動や読み上げができない部分の読み上げに有効である。
スクリプト作成機能は、複数の移動や読み上げ動作をあらかじめまとめて記載しておき、ショートカットキーで操作することを可能にする。JAWS カーソルを使用していると時間がかかる操作については、スクリプトを作成すると、効率的に操作を行うことができる。
一方、注意点としては、マウスを併用するユーザーが、JAWS を起動している状態でマウスカーソルを操作する場合に、制御がうまくいかない場合があることが挙げられる。
FocusTalk Ver.2.0 は、Word、Excel、PowerPoint、Internet Explorer に対応している。
Word については文章の改行単位(段落行)での読み上げ、文章内の変更履歴情報やコメント情報の読み上げ、カーソル位置のページ番号と位置(行・桁)の読み上げなどの操作を行うことができる。
Excel については、オブジェクト読み上げ、現在のセル位置登録、表のある行や列をタイトル(FocusTalk Ver.2.0 ではヘッダと呼んでいる)として定義する機能などがある。
スライド編集画面の読み上げが可能である。ノートペイン記載内容の1文字1行読みはできない。
Internet Explorer の画面を読み上げるために仮想カーソルを使用している。さらに「キー操作モード」という方式を採用し、キー操作モードを切り替えることによって、InternetExplorer 用のショートカットキーと、FocusTalk 用のショートカットキーを同時に使用するために起こる不都合を回避している。キー操作モードをオンにすると、FocusTalk 用のショートカットキーが使用可能になる。
移動コマンドとしては、1項目ずつ、スキップ移動項目数単位、1文字単位、リンク単位、見出し単位、コントロール単位での移動が使用できる。現在の仮想カーソル位置を登録し、後で仮想カーソルを登録した場所へ移動する機能もある。
読み上げコマンドとしては、ページの先頭から仮想カーソル位置までの読み上げ、仮想カーソル位置からページの末尾までの読み上げ、テーブル読み上げ機能などがある。
FocusTalk Ver.2.0 には、マウスカーソルのフォーカスがある部分を読み上げたり、強調表示する機能がある。強調表示については、枠の色や透過率を調整できる。ロービジョンユーザーにとっては有効利用できる場合がある。
各スクリーンリーダの一般ソフトウェアへの対応状況には以上のような違いがある。ユーザーの視力や視機能の状態、あるいは業務に応じて、複数のスクリーンリーダを切り替えて使用することで、業務を効率化できる場合もある。また、他の視覚障害補償ソフトウェアと併用することで、音声化の程度や操作性が向上する場合もある。
スクリーンリーダの選定においては、ユーザーの視力や視機能の状態により画面を見ることやマウス操作を併用できる場合もあるので、単にアプリケーションソフトの対応状況だけでなくマウス関連の機能を考慮することも大切なポイントのひとつである。
ソーシャル・ファームとは、社会的な(Social)企業(firm)であり、利潤を追求するのではなく、社会的な目的を実現するための企業である。1970 年代にイタリアで始まったのが最初である。近年、ヨーロッパでは、ソーシャル・ファームの普及が著しい。高齢社会を迎え社会保障費の増大を避けられない先進国においては、北欧型の社会民主主義国家でなく、市場原理主義を基本にし続けるための一つの方法として、このような形態の企業が求められていると考えられる。
わが国においても、ソーシャル・ファーム導入の機運が高まっている。このような状況において、障害者の働く場として、これまでの福祉的雇用とも一般雇用とも異なるソーシャル・ファームについて紹介する。
ソーシャル・ファームは、1970年代にイタリアで始まったのが最初である。トリエステのある精神病院院が解体され、入院患者が地域で生活するようになったが、就職先を見つけることができなかったため、病院の職員とともに就職先を確保するために自分達自の雇用を作り出したのが始まりであるとされている。最初は小さな活動であったが、徐々に発展し、ソーシャル・ファームとして発展していった。ただし、イタリアでは、ソーシャル・ファームは社会的共同組合(Social Co-operative)と呼ばれている。
1980 年代には、ドイツでも同じような精神医療改革が行われ、精神病院の入院患者がコミュニティーに再統合されるようにやったが、やはり、一般労働市場で仕事を見つけることは、ほぼ不可能に近い状態で、イタリアと同じように、このような人たちが結束して自分たちの会社を設立した。政府の助成に頼らず、自ら機会を作り出し、自分たちで仕事をしてお金を稼ぐということを行った。
さらに、ギリシャのLeros島にある精神病院の入院患者の劣悪な生活状況がマスコミで報道されたことをきっかけに、1980年代の半ばから後半にかけて、ソーシャル・ファーム(やはりギリシャでも社会的協同組合と呼ばれている)が設立された。その時、Europe Union(EU)が資金提供しており、その結果、ソーシャル・ファームがヨーロッパ各国で設立され、ドイツでは、ソーシャル・ファームの全国組織設立がその時期に設立された。
1990 年代には英国にもソーシャル・ファームが設立された。さらに、1991年には、イタリアで社会的協同組合法(Italian Law on sociai cooperatives: Law 381/91)、1999年には、ギリシャで、法津ができ(法律番号 2716、第12条)、有限責任の社会的協同組合(「Koispe」)を設立できる法的な枠組みができた
2000 年代にはなると、2000年にはドイツのソーシャル・ファーム法(SGB IX (Sozialgesetzbuch IX))、2002年には、ギリシャ社会的協同組合関連法(LAW 2716/99(SCLR)), 2004年には、フィンランドソーシャル・ファーム法(Finish Act on Social Firms1/1/2004)が制定されるなど法的な整備も進み、多くの国々では、ソーシャル・ファームを統括する協会も設立され、ロビー活動を行うようになり、政府に対する働きかけや政府とも協議が行われ、ソーシャル・ファームさらに発展してきた。現在、非常に強力なソーシャル・ファームの協会が英国、ドイツ、イタリア、ギリシャなどに存在する。
イタリアのIRES (Istituto di Ricerche Economiche e Sociali)が2003年に実行した調査によると、イタリアには、ソーシャル・ファーム(社会協同組合)の数が8,000社ある。それらは、約6万人の職員の雇用し、そのうち40%は障害者となっている。イタリアの法律では40%が障害者または社会的に不利な人達であると義務付けていることに影響されていると考えられる。また、ソーシャル・ファーム8000社全体で年間約6億ユーロの売上がある。
2005年の10月にドイツ政府が行った調査では、ソーシャル・ファーム数は700で、それらで働く職員の数は2万2,000人、そのうちの25%は精神障害であり、25%は他の障害がある。全体の売上は年間7億ユーロであった。成長産業は、仕出し、ホテルとレストラン、庭造りと食糧市場である。
2006 年のソーシャル・ファーム数は 137 であった。合計、1,652 のフルタイム従業員が働いており、その 52%が障害者である。80%以上は、メンテナンスと仕出しなどのサービス産業で働いている。ソーシャル・ファーム UK が 2005 年に行った調査の統計では、ソーシャル・ファーム全体の年間の売上は 3,000 万ユーロである。
社会心理的リハビリテーションと職業統合のための全ギリシャ組合(「PEPSAEE」)があり、200 人の個人と 20 の組織会員が加入する組織がある。精神障害を中心に 150 人の障害者と 200 人の雇用に不利な人々が、11 の社会的協同組合で働いている。
ソーシャル・ファームが 90 あり、1,400 人の労働者が働いている。
20 から 30 のソーシャル・ファームがあり、ヨーロッパのソーシャル・ファームを推進する組織 CEFEC(Confederation of European Firms,Employment Initiatives andCo-operatives)の支援を受けている。
1999年には8つのソーシャル・ファームがあり、340人が働いている。その他の国々にも少ないながらソーシャル・ファームが存在し、ヨーロッパのソーシャル・ファーム全体で少なくとも5万の障害者が働いており、年間の取引高は約15億ユーロとなっている。
これらの国々の、ソーシャル・ファームは、レストラン、衣料販売、園芸など、さまざまな業種で活動しているが、特にサービス業の分野が多い。その他の産業に比べてサービス業は設備投資が少なくてすむことがその理由であるとされている。
ソーシャル・ファームは、基本的には、その名のとおり、社会的な(Social)企業(firm)であり、利潤を追求するのではなく、社会的な目的を実現するための企業であるが、その運用形態はさまざまである。
ソーシャル・ファーム・ヨーロッパ(CEFEC)は、ヨーロッパのソーシャル・ファームを運営している団体により構成されている非政府の連合体であり、18 カ国の団体が加盟している。ここでは、ソーシャル・ファームを次のように定義している。
・障害のある人々や労働市場において不利があるその他の人々を雇用するためにつくられたビジネスである。
・マーケット指向の商品とサービスを用いて社会的使命追求するためのビジネスである。
・従業員の多く(少なくとも 30%)は、障害のある人々または労働市場において不利のあるその他の人々である。
・あらゆる労働者は、生産能力にかかわらず、仕事に相当する市場賃金または給料を支払われる。
・仕事の機会は、不利のある従業員と不利のない従業員の間で等しくなければならない。そして、全ての従業員が、同じ雇用の権利と義務をもつ。
Social Firm UK は、英国のソーシャル・ファーム発展のための全国支援組織で、約 300ソーシャル・ファームが会員となっている。ここでのソーシャル・ファームの定義は、つぎのようになっている。
①事業に関して
ソーシャル・ファームは、市場志向と社会的使命を組み合わせた『取引するためのプロジェクト』ではなく『支援する企業』であり、次の要件を満たすものである。
・総売上げの 50%以上が商品やサービスの販売によること
・適切な法的地位を得ていること。個人的財産により管理運営されていてはいけない。また、(労働者協同組合を除く)外部の出資者が不合理な利益を得てはいけない。
・商取引を行っておりビジネス計画があるなどの手続きに従っている。
・障害者を雇用することが目的であることを定めた規則や文書化された指針を有すること。
・会社の基本的な目的として取引を支援する管理構造があること。
・企業は独立していること。
②従業員に関して
ソーシャル・ファームは、全ての従業員に対し、労働環境において、支援、機会、有効な仕事を提供する支援的な職場であり次の要件を満たすこと。
・従業員の 25%以上が障害者(精神障害を含む)であること。
・すべての従業員が雇用契約を結んでおり国の最低賃金以上の賃金を得ていること。
・障害のある従業員と障害のない従業員の雇用契約の形(常勤、パートタイム、臨時)において平等であること。
・従業員と企業が成長するように従業員を関与させるように運営管理すること。
・機会均等と安全・衛生に関する手続きと指針をもつこと。
・意思決定と管理は、企業の従業員や労働者自らの委員会により行われること。
③エンパワメントに関して
ソーシャル・ファームは、雇用を通じて、障害をもった人々の社会・経済的統合を使命としていること。そして、この目的を達成するための鍵となる手段は、全ての従業員に市場の賃金の支払いをするということで経済的にエンパワメントすることであり、次の要件を満たすこと。
・従業員のニーズに対する合理的な調整が行われること。
・各々の従業員の能力と可能性を最大にするために、スタッフの成長を会社が第一に優先すること。
・管理のプロセスがあること。
・スタッフは、自分たちの働く環境を調整するよう奨励されること。
・スタッフの秘密保持のための規則が表示されていること。
・どのような情報が共有されるのかについてスタッフが同意したことを示す手続きがあること。
・ボランティアは、良いボランティア実践を行うための合意をしていること。
・全てのスタッフに対し、障害者が平等であることを認識するための訓練を提供すること。(例えば、精神保健に関する認識等)
・障害をもったスタッフのための訓練をより強調すること。
・適切な社会的技術を習得するための訓練を考慮すること。
・スタッフがビジネス上の決定に適切に参加できることを可能にし、それを奨励する会社の組織的な構造をもつこと。
・訓練生、就職希望者、ボランティアは、従業員とは異なるプログラムと責任をもつこと。
・訓練は時間限って実施し、目標を達成したときは、賞を与えるようにすべきである。
Hatzantonisi によれば、ギリシャでは、ソーシャル・ファームとは呼ばずに有限責任社会協同組合(Social cooperative of Limited Responsibility: SCLR)と呼んでおり、その設置のための法律(Law 2716/99 第 12 条)において、SCLR は、精神的問題をかかえる 人々を社会経済的および専門的に統合するための制度として位置づけている。その要件は次のとおりである。
①SCLR の枠組み
・厚生省令 2716/99 の規定に基づくこと。
・会員に対して限定された責任をもつ私的な法人であること。
・精神的な問題を抱える人のリハビリテーションと経済自立に貢献し、彼らの社会経済的かつ専門的インクルージョンを目的とする。
・精神衛生の機関であり、その発展とモニタリングの責任は厚生省にあり、厚生省精神衛生部が管理する。
・商業ベースであること。
・あらゆる経済活動(すなわち、農業、工業、手工業、観光、商業、その他)を行うことができる。
・精神衛生の各セクターに1つだけ設立することができる。
②SCLR のメンバー
SCLR のメンバーは、次の 3 つのカテゴリーに分けられる
・少なくとも 15 歳以上で、少なくとも 35%以上が精神病者であること
・精神衛生分野のワーカー、精神科医および心理学者は、最大 45%までであること。
・市町村、コミュニティ、公的なメンバー、および民間の個人は、(SCLR の規則によって決められることが望ましい)、最大 20%まで。彼らは、同じまたは類似の目標をもつ他の協同組合のメンバーや法人になることはできない。
③SCLR のメンバーの雇用
・精神病者は、働くことにより、彼らの生産性と労働時間に基づき賃金が支払われる。これらの賃金は、手当と年金に付加される。
・メンバーが保険制度に加入できない場合には、SCLR は、彼らにかわって保険をかける。
・精神衛生のワーカー(公務員)、精神科医、心理学者は、SCLR の規則に基づき、フルタイム、パートタイムにより関与することができる。
・一般病院や他の精神科病院の精神医学的なワーカーは、彼らの同意に基づきその病院から SCLR に職を移ることができる。その場合、彼らの所属する機関が彼らの賃金を負担する。
Social Firms Australia (SoFA)は、ソーシャル・ファームを次のように定義している。
・非営利の企業で、その目的は、障害者の雇用創出であること。
・従業員の 25-50%は障害者を雇用すること。
・すべての労働者が貢献度または生産性により賃金を得ること。
・障害のあるなしに拘わらず、等しい労働機会を提供すること。
・雇用に関してすべての従業員に等しい権利と義務を与えること
ソーシャル・ファームの定義をまとめると次のようになる。
①障害のある人々や労働市場において不利があるその他の人々を雇用するためにつくられていること
そのために、障害者を雇用することが目的であることを定めた規則や文書化された指針を有することや従業員の一定割合(20%以上)が障害等労働市場において不利がある人々であることが求められる。
②企業としての活動を行っていること
ソーシャル・ファームの理念として特徴的なことは、企業として活動を行っていることである。すなわち、独立性やビジネス計画があるなど通常の商取引に関する手続きに従っていること、また、すべての従業員が雇用契約を結んでおり、その国の最低賃金以上の賃金を得ていることが求められる。さらに、企業は従業員と企業が成長するように従業員を関与させるように運営管理することや安全・衛生に関する手続きと指針をもつことなども求められる。ただし、Social Firm UK の定義で、総売上げの 50%以上が商品やサービスの販売によることとしていること等からわかるように、必ずしも独立採算がとれているかどうかは問題にしていない。
③全ての従業員が、同じ雇用の権利と義務をもつこと
全ての従業員が、雇用契約の形(常勤、パートタイム、臨時)において平等であることや、仕事の機会が等しくなければならないこと、生産能力にかかわらず、仕事に応じた市場賃金または給料を支払われることなどを求められる。
④ボランティアの活用
この点は、すべての国のソーシャル・ファームの定義において取り上げられているわけではないが、Social Firm UK では、ボランティアに対して良いボランティア実践を行うための合意を求めている。また、訓練生、就職希望者、ボランティアなどの役割と責任についても言及している。
⑤委員会による意思決定
この点も、すべての国のソーシャル・ファームの定義において取り上げられているわけではないが、Social Firm UK では、意思決定と管理は、企業の従業員や労働者自らの委員会により行われることを求めている。
(浦和大学総合福祉学部 寺島彰)
参考文献
CEFEC(Social Firm Europe), THE LINZ APPEAL,2007 ゲラルド・シュワルツ「障害者にとって有意義な雇用の創出」,国際セミナー報告書「世界 の障害者インクルージョン政策の動向」?ソーシャル・ファームの経営と障害者支援活動?,日本障害者リハビリテーション協会, 2005
Social Firm UK,ホームページ,http://www.socialfirms.co.uk/
Warner, W., Mandiberg, J., An Update on Affirmative Businesses or Social Firms forPeople
With Mental Illness, PSYCHIATRIC SERVICES, 57, 1488-1492, 2006
1. 開催日時
平成 20 年 11 月 6 日(木) 午後 1 時 30 分~4 時 45 分
2. 会場
中野サンプラザ(東京都中野区中野 4-1-1)
3. 目的
一般就労が困難と思われている感覚器障害、なかでも視覚障害者に的を当て、中途失明者が関係機関の連携によって雇用継続が図られ、いかに職場復帰したかという事例をもとに、視覚障害者の職場復帰・雇用継続支援体制の問題点、課題を明らかにする。併せて医療、福祉、労働関係機関等、視覚障害者の就労に関わる機関の連携の在り方を探る。
4. 対象
労務・人事担当等企業関係者、ハローワーク等就労支援機関、更生訓練・職業訓練施設関係者、労働組合・視覚障害者団体等支援機関、眼科医療関係者、産業医等医師
5. 内容
・体験発表 藤田 善久氏(株式会社熊谷組九州支店)
「両眼破裂による失明を乗り越えて 復職へのチャレンジ」
・パネルディスカッション 中途失明者の雇用継続
コーディネーター 道脇 正夫氏(職業能力開発総合大学校名誉教授)
パネラー
高橋 広氏(北九州市立総合療育センター 眼科部長)
津田 諭 氏(社会福祉法人日本ライトハウス 視覚障害リハビリテーションセンター職業訓練部長)
畠山 千蔭氏(東京経営者協会 障害者雇用相談室 障害者雇用アドバイザー)
尾野 秀明氏(日本労働組合総連合会東京都連合会=連合東京 副事務局長)
伊藤 慎吾氏(東京労働局職業安定部職業対策課障害者雇用対策係長)
・特別講演 大田 弘氏(株式会社熊谷組 代表取締役社長)
「社長の決断~中途失明した社員の職場復帰に思う」
・総合討論
6. 主催
NPO 法人タートル
7. 後援
厚生労働省、東京労働局、日本労働組合総連合会、財団法人日本眼科学会、社団法人日 本眼科医会
8. 定員 120 名
視覚障害者の雇用継続支援については、次の 3 つの視点から考える必要がある。①目に異常を感じたら誰もが最初にかかる眼科医療、とりわけロービジョンケアとの連携による職場復帰・雇用継続支援、②在職中のリハビリテーション、能力開発及び職場定着に向けた支援、③視覚障害者に対応できる専門家としての人材の育成とそれらによる支援である。
今回のセミナーは①の視点に立って具体的な職場復帰の事例とその成功に繋がった各機関の連携と協力の実際を直接関わった方々の発表を中心に、セミナー参加者に生の声を聞いてもらうことで、中途視覚障害者の雇用継続に理解を深めてもらった。
まず、株式会社熊谷組の現場監督をしていた 30 歳の男性が、労災事故にて頭蓋骨骨折、両眼眼球破裂するという重大な障害を乗り越え、3 年かけて職場復帰を果たした事例を取り上げた。一見すれば不可能と思われた職場復帰が何故可能になったのか。眼科医によるロービジョンケア、障害者職業センターを中心とした多くの関係者の連携と協力があった。無論、本人の努力、職場の理解と協力があったことはいうまでもない。
本人は、受傷した当初、絶望のどん底に突き落とされたような状態にあり、将来への不安どころか、生きつづけることへの恐怖に襲われていたという。ロービジョンケアは、心の衝撃の緩和に繋がるケアをも行うことで、早期の障害の受容へとつなげたのである。視覚障害当事者との接触や、家族、特に奥さんの心の動揺に対するケアにも慮って経験者を紹介している。
通常、ロービジョンケアは、少しでも保有視機能があればそれを活用することに力を注ぐものだと認識されている。しかしながら、ロービジョンケアは、低視覚障害者のみならず、失明者へのケアをも含む包括的な視覚障害リハビリテーションなのだというメッセージでもあった。今回のセミナーにみられる事例の成功の要因は、早期に障害受容が計られたうえで、連携・協力体制を整えていったコーディネートの役割を担った眼科医の存在にある。
体験談は、障害の受容について淡々と素通りしてはいるが、力強く前向きに復職に向けて歩き出した姿、諸々の訓練の状況を語る様子は、参加者全員に感動をもって伝わっていた。また、復職にむけての努力は、熊谷組の社員全体、周囲の人たちを変えていったことは確かだろう。
熊谷組の社長の言葉にもあったのだが、「特に自分は何もしていない。社員たちが自然な態度で支援していた。藤田君の頑張る様子に社員たちも変わったのだろう。自分も藤田君の訓練する日本ライトハウスに社用のついでに立ち寄り、頑張れと握手して励ました程度である」と。まさに自然体である。熊谷組という会社のなかに視覚障害者となった仲間を素直に受け容れたという「社会受容」がなされたといえる。
社会的リハビリテーションは、国立福岡視力障害センターで行われた。パソコンの基礎訓練は福岡障害者職業センターで行われ、ついで、日本ライトハウス視覚障害リハビリテーションセンターに移り、徹底した社会リハが行われ、職業訓練部において、職業リハビリテーションが実施されたのである。復職して仕事に活用しうるパソコンスキルを身に付けることで、失われた自信の回復に繋がり、更に全盲で事務的職種に携わる事例を本社人事部と藤田さん自身も見学する経験をして、復職後の仕事のイメージを掴んでいったので ある。
まさに中途視覚障害者の雇用継続に向けての連携・協力が円滑になされた事例として、参加者に大変参考となったに違いない。
本セミナーで話されたこと、体験発表、パネルディスカッション、総合討論、さらには社長の特別講演等、それぞれ素晴らしい内容であったが、紙数の関係で、残念ながら別な機会に譲らせていただくことにした。
主催者としては、セミナー参加の対象者にこの成功事例を直に聞くことで、ロービジョンケア、諸機関の連携・協力、コーディネーターの必要性、障害の受容、職業訓練などについて、関心を持ってほしいと、できるだけ企業の人事担当者の参加を心がけた。日本経済団体連合会には、『日本経団連タイムス』(2008/10/9)にセミナーの案内を掲載していただいた。また、東京労働局には、都内のハローワークに呼び掛けて、それぞれの管轄企業の障害者採用担当の動員に尽力していただいた。
セミナーの参加者は、合計 136 名となり、定員をかなりオーバーした。内訳は、マスコミ関係 4、視覚障害当事者関係 18、医療関係 4、その他 1、教育関係 7、労働関係 16(ハローワーク 5)、福祉関係 10、企業関係 54(企業数 38)、主催関係 23 となっている。
また、当日配付したアンケートの回答は、32 件が回収された。内訳は、企業関係 14、労働 9、福祉 2、医療 2、当事者 2、その他 3 であった。
セミナーの内容について、良かった(大変参考になった) まあまあ(参考になった)期待はずれ(あまり参考にならなかった) 良くなかった(全然参考にならなかった)の質問に対して、
・ほとんどがよかったと答えている。
また、セミナーに参加しての感じたこと、感想については、
・ロービジョンケアの重要性がわかった。
・草の根的と感じた。
・連携が必要と感じた。
・障害はハンディではない、精神面の支援をすれば、できると感じた。
・復職については、本人の強い意志が重要と感じた。
・熊谷組の大田社長の話はとてもよかった。
・高橋眼科医の話はとても参考になった。
・医療の入り口の大切さを感じた。
・本人の意欲の大切さと会社とのコミュニケーションの重要性を改めて感じた。
・時間の少なさと室の広さに課題あり。
などである。
”中途失明”まさか自分が…
人生半ばにして光を失うなどと誰が予想できたでしょうか
あなた自身が、家族が、あるいは職場の同僚が
こうした事態に直面した時、あなたはどうしますか?
見えなくては働けないの?!
いいえ、見えなくても働けます!
多くの人が実際に仕事をしています
目的
国、地方自治体、社会福祉協議会、職業リハビリテーション関係機関、医療機関、社会福祉団体、経営者団体、労働団体等と協力し、中途視覚障害者に対して、就労に必要な情報の提供、相談・支援、働きやすい就労環境の整備等に関する事業を行い、中途視覚障害者の安定した就労を促進し、その経済的自立と福祉の増進に寄与することを目的とする。
事業
(1)相談事業
(2)交流会事業
(3)情報提供事業
(4)セミナー開催事業
(5)調査研究事業
(6)職場定着支援事業
(7)就労啓発事業
(8)福祉啓発のための研修事業
(9)職員及び奉仕者の研修並びに資格の認定、評価基準の策定、その公表に関する事業
(10)その他この法人の目的を達成するために必要な事業
沿革
1995 年 6 月 中途視覚障害者の復職を考える会(通称:タートルの会)設立
1997 年 7 月 タートルの会ホームページ開設
1997 年 12 月 「中途失明~それでも朝はくる~」出版
2003 年 12 月 「中途失明Ⅱ~陽はまた昇る~」出版
2005 年 6 月 設立 10 周年記念誌・100 人アンケート「視覚障害者の就労の手引書=レインボー=」発刊
2007 年 6 月 視覚障害者の雇用継続支援実用マニュアル〔関係機関ごとのチェックリスト付〕~連携と協力、的確なコーディネートのために~を編集企画発刊
2007 年 12 月 3 日 特定非営利活動法人 タートル 登記完了 正式に NPO として発足
2007 年 12 月 10 日 近藤正秋賞受賞
由来
なぜ「タートル」なのか。
アフリカはカメルーンの「ウサギとカメ」の寓話による。
設定は、ウサギとの競走、あの相手の居眠りで勝たせてもらったというのと異なり、
[1]カメから競走を申し込み(積極性)
[2]バカにして渋るウサギを説きふせて OK させた上で(説得)、自分の仲間に事情を伝え(準備)
[3]競走当日道筋に待機させ(知恵)
[4]当日、次々とバトンタッチでつないだ(協力)。
ウサギは「カメ君、まだついてきているかい」と何度聞いても、「ええ、すぐ後ろにいますよ」との返事に、負けたら沽券にかかわると言わんばかりにスピードを上げすぎ、ついに息切れして、カメが勝ったのだという。
自立するためには、このカメルーンのカメのように、積極性、説得、準備、知恵(または工夫)、協力は、欠かせない必要条件であることを身をもって体験しているので、「復職・継続雇用」などを目指す、NPO 法人の名称とした。
●相談会
視覚障害者の継続就労、復職は早期相談が大切である。本人、家族、職場の人事担当者、眼科医など、どなたも一人で悩まず、まず電話やメールでどうぞ。
①初期相談会 ②緊急相談会 ③継続相談会 ④地区相談会
●交流会
「視覚障害者の復職、再就職、就労継続について考えている方、悩んでいる方に対し情報の提供と参加者同士の交流を行う。
①連続交流会
学習会では講師を招き復職、再就職、就労継続に関する情報を提供。
懇談会では参加者同士の交流および情報交換。
②地区交流会
東京以外の地区にて交流会を実施。(不定期)
③定期総会
毎年 6 月開催。前期実績報告および今後の基本的方針や重要事項を決定。
④忘年交流会
毎年 12 月に実施。1 年間を振り返り、翌年の成功を祈り、心機一転。
●情報提供
①情報誌タートルの発行
交流会報告・職場でがんばっている・会の活動報告などを、年4回、情報誌として発行。
②ホームページ
活動予定や活動記録・情報誌「タートル」等の掲載と、視覚障害者に役立つ団体等へのリンク集を整備。
③メーリングリスト
視覚障害者に関する悩み事の相談・日常生活での些細な事など、メールを使って、相互の交流。
④啓発本の発行
視覚障害者の就労問題は、社会の理解が不可欠。
「目が見えない、見えにくい」イコール「仕事はない、何もできない」という偏見を払拭することが重要。
社会に向けての主張を集大成。
●セミナー開催
年に 1 回は、諸機関と連携して、視覚障害者の理解と実際に働ける、働いている現実を知ってもらう研修の場を提供する。
●啓発活動
「あなたの一歩が社会の理解と支援につながります。一緒に我々の限りない感性と能力を社会に訴えてみませんか!」のキャッチフレーズの元に、継続的に活動。
一人で悩まず、仲間をつくろう!
多くの仲間と知り合いになろう!!
今日の厳しい社会状況下で、具体的な支援もないまま退職に追い込まれている人は枚挙にいとまもない。一人で悩まず、まず理解し合える仲間と話してみよう。同じような悩みを克服してきた人々の、ノウハウを活かした仕事上のテクニック、職場での人間関係、社会制度の活用等の経験談も貴重な参考になる。
人によって"見えない状況"はいろいろだが、見えなくても普通に生活し職業的に自立したいという願いを持つ方、とにかく気軽に連絡を。一緒に考えて、着実に歩んで行ける道を模索しながら頑張ろう。
楽しく心安らげるひとときを共に過ごそう。
NPO 法人タートルは、視覚障害者が晴眼者のように見えなくても働けることを、広く社会に知ってもらうことを目的としている。
また、人生半ばにして、疾病や怪我などで視覚障害者となったり、あるいは視覚障害リハビリテーションを受けていたりする人が"仕事を続けていく"ためには、どのようにしていったらよいのかを模索することを支援している。
活動拠点は東京の四谷にある。通常は首都圏を中心に活動しているが、E メール・手紙・電話等を通して全国の人の相談にも応じている。
「NPO 法人タートル」への入会方法。
※入会を希望する方は、下記の「NPO 法人 タートル」事務局まで連絡を。正会員は年間、5,000 円、賛助会員は、1 口 5,000 円(口数任意)。
申込を受け次第、賛助会費の振込用紙を送付。
郵便振替口座番号:00150-2-595127
加入者名 特定非営利活動法人タートル
NPO 法人タートル
【事務局】
TEL.03-3351-3208 FAX.03-3351-3189
〒160-0003 東京都新宿区本塩町 10-3
社会福祉法人 日本盲人職能開発センター 東京ワークショップ内
■URL http://www.turtle.gr.jp/