第2章 調査内容

 本研究事業においては、第1章で示した目的のために就労移行支援、就労継続支援B型、授産 施設の利用者および施設職員に対して、質問紙調査を実施した。本章では、質問紙調査に向けた 事前準備の内容などについて、その概要を示す。

第1節 調査対象

 調査の実施に先立ち、母集団の確定およびサンプルの抽出を下記の手順で実施した(図表21)。

図表2-1 母集団の確定およびサンプル抽出手順

(1) 独立行政法人福祉医療機構(以下、福祉医療機構)が所有する「障害福祉サービス事業 者情報」および厚生労働省「社会福祉施設等調査」の施設名簿に基づき、本調査の母集 団を特定(母集団名簿を作成)。
(2) サービス種別(授産施設、就労継続支援B型、就労移行支援)ごとに母集団を分類すると ともに、各分類の比率を算出(母集団の分類)。
(3) (2)で算出した各分類の比率を、より実態を反映する形で修正し、サンプルの抽出を実施 (サンプリングに向けた修正とサンプリング結果)。

 

第1項 母集団名簿の作成

 今回の調査においては、データ内容の新しさを重視して独立行政法人福祉医療機構の所有する 「障害福祉サービス事業者情報」を基本データとして、母集団名簿を作成した。
ただし、当該データについては、一部の自治体の情報について不完全な部分8があることや精 神障害者の授産施設が含まれていないことから、厚生労働省「社会福祉施設等調査」の調査名簿 を補足的に使用した。

(1)母集団の分類

 母集団名簿を整備した後、当該名簿に記載された全ての施設について、サービス種別(授産施 設、就労継続支援B型、就労移行支援)ごとに分類を行った。なお、施設のなかには障害サービ スを複数提供しているケース(例えば、就労移行支援、就労継続支援B 型の両サービスを提供す る施設)も存在しており、単純に分類を行うことができないケースもある。その場合は次ページ の基準により分類を行っている(図表2-2)。
以上のようにサービス区分を定義した上で、分類を行った結果、次ページ図表2-3 のような 結果となった。


8施設が登録されていない、極めて少ない一部の都道府県があった。

 

 

図表2-2 特殊ケースへの対応

○同一の法人等が通所と入所2つの授産施設を運営している場合、1 つに統合する。
○同一の法人等が就労継続支援B型と就労移行支援といった複数のサービスを提供している場 合、就労継続支援B 型、就労移行支援それぞれに1施設があるとみなす。
○同一の法人等が身体障害者の授産施設と、知的障害者の授産施設を持っていた場合は、それ ぞれに1施設あるとみなす。
○同一の法人等が同一施設内に身体障害者の授産施設と、就労移行支援施設の2 機能提供して いた場合、就労移行支援施設のみをカウントする。

 

図表 2-3 サービス種類別に見る母集団の構成

  就労移行支援 就労継続支援B型 授産施設 合計
事業所数(件) 603 1,232 3,051 4,886
事業所割合 12.3 25.2 62.4 100.0

 

(2)サンプリングに向けた修正とサンプリング結果

 本来であれば、サンプル内のサービス種別の構成比が図表2-3 で示した割合となるように、 調査対象施設数である2,000 施設に達するまで母集団名簿から無作為に事業所を抽出してサン プリングを実施することになる。
しかし、母集団名簿の基となっている福祉医療機構および厚生労働省「社会福祉施設等調査」 の事業所データの整備時期から一定の時間が経過しているため、本研究事業の調査を実施する時 点(2008 年12 月~2009年1 月)においては、旧法の授産施設による自立支援法に基づく就労移 行支援・就労継続支援B型への転換が進み、図表2-3 に掲載した授産施設の割合が低下するこ とが想定される。そのため、有識者研究会での議論を通じて、サンプル内のサービス種別の構成 比を下表のように修正した(図表2-4)。

図表 2-4 サンプル内のサービス種類別の構成比(修正後)

  就労移行支援 就労継続支援B型 授産施設 合計
事業所数(件) 329 671 1,000 2,000
事業所割合 16.5 33.6 50.0 100.0

 

なお、前ページサンプルについて、各事業所が対象としている障害の種別に基づいて分類を行 うと図表2-5 のようになるが、同表に示した構成比については、実態とそれほど大きな乖離が ないことを有識者研究会の席上において確認を行っている。

図表 2-5 サンプル内のサービス種類別・障害別の構成比(%)

受入障害別 就労移行支援 就労継続支援B型 授産施設 合計
身体障害 1.7% 4.8% 9.4% 15.8%
知的障害 5.7% 9.9% 31.4% 47.0%
精神障害 0.5% 0.8% 9.3% 10.5%
身体+知的 1.1% 2.6% 3.7%
知的+精神 1.4% 2.0% 3.3%
精神+身体 0.0% 0.1% 0.1%
3 障害 6.2% 13.6% 19.7%
合計 16.5% 33.6% 50.0% 100.0%

(注)四捨五入の関係上、各項目の合計は必ずしも100%にはならない。

 

第2節 調査実施

 本研究事業においては、「施設利用者向け就労意向」「施設職員向け満足度(および施設概況調 査)」ならびに「施設利用者の家族向け就労意向」について、3種類の調査を計画し、それぞれ の調査のために、下記の4 種類の調査票を作成した(図表2-6)。

図表 2-6 調査票の種類

調査の種類 調査対象者 調査票記号
施設利用者の就労意向に関する調査 ・身体・精神障害者 ・A-1
・知的障害者 ・A-2
施設職員の就労に関する調査(および施設概況調査) ・施設職員 ・B
施設利用者の家族の就労に関する意識調査 ・施設利用者の家族 ・C

 

第1項 プレ調査の実施と調査票内容の検討

 本研究事業で使用する4 種類の調査票については、先行調査に基づいて原案を弊社が作成し、 「(1)研究会での検討」および「(2)プレ調査」という2つのプロセスを通じて内容を確定さ せた。

(1)研究会における指摘
研究会における調査票内容の検討については、第1 回研究会(2008年9 月2 日開催)において 実施した。各出席者から調査票に対する意見が提示されたが、特に、知的障害者向け調査票の設 問について、より分かりやすい質問文および選択肢へ修正を行うべきとの指摘が多く見られた。

(2)プレ調査の実施9
研究会委員からの指摘を踏まえて修正を行った調査票原案について、その精度をより一層高め ることを目的として、2008年9月~10月にかけてプレ調査を実施した。調査スケジュールおよ び予算の関係上、「施設利用者の家族の就労に関する意識調査」は、図表2-7 に記載した調査対 象先に限定して本調査を実施した。

①プレ調査の協力先
プレ調査については、社会福祉法人全国精神障害者社会復帰施設協会、全国社会就労センター 協議会、財団法人日本知的障害者福祉協会の3団体から、調査へご協力いただける施設をご紹介 いただいた上で、施設の種類や利用者の人数などを勘案し、最終的に図表2-7 に記載した18 施設を対象として実施した(図表2-7)。


9 プレ調査の結果については紙幅の都合上、本報告書内には掲載をしない。ただし、開示等の要望があれ ば個別に対応を行いたいと考えている。

 

 

図表 2-7 プレ調査協力先施設一覧(家族向け調査については本調査として実施)

No. 障害別 施設種類 所在地
1 精神障害 就労移行支援 神奈川県秦野市
2 就労移行支援 東京都
3 就労継続支援B型 神奈川県平塚市
4 就労継続支援B型 島根県松江市
5 授産施設 神奈川県横浜市
6 授産施設 東京町田市
7 身体障害 就労移行支援 神奈川県藤沢市
8 就労移行支援 東京都東村山市
9 就労支援B型 神奈川県座間市
10 就労支援B型 東京都東村山市
11 授産施設 神奈川県平塚市
12 授産施設 東京都武蔵野市
13 知的障害 就労移行支援 神奈川県相模原市
14 就労継続支援B型 群馬県前橋市
15 小規模多機能 千葉県館山市
16 小規模多機能 埼玉県東松山市
17 授産施設 神奈川県横浜市
18 授産施設 神奈川県

②プレ調査の実施方法
プレ調査の実施にあたっては、図表2-7 で示した全ての施設に対して、研究員が調査票を持 参するとともに、調査の趣旨や調査対象となる利用者が回答できない場合の代理記入実施時の留 意点等について施設職員の方々に直接、説明を行った。
また、実際に調査を行う段階で生じた問題点(設問の意図が分かりづらい、知的障害者には設 問内容が難しいなど)があれば、当該情報を整理して弊社までお知らせいただくようお願いをし た。なお、具体的な調査の進め方(調査時期、施設内での回収方法など)については、各施設側 の裁量にお任せした。

③プレ調査の回収結果(家族向け調査については本調査として実施した)
プレ調査(家族向け調査については本調査として実施した)における調査票回収結果は、次ペ ージの通りである(図表2-8)。

図表 2-8 プレ調査の回収結果(家族調査については本調査として実施した)

調査対象者 調査票配布数 調査票回収数 回答率
施設利用者の就労意向に関する調査(身体・精神) 648 374 57.7%
施設利用者の就労意向に関する調査(知的)
施設職員の就労に関する調査(および施設概況調査) 19 14 73.7%
施設利用者の家族の就労意向に関する調査(本調査) 648 214 33.0%

 

④プレ調査を通じた主な指摘事項
プレ調査にご協力をいただいた各施設の職員の方々等から寄せられた、調査票内容若しくは調 査方法等に対する主な意見・指摘事項は下記の通りである(図表2-9)。

図表 2-9 プレ調査協力先施設からの調査に関する意見・指摘事項

調査票の種類 主な意見・指摘事項
調査方法・趣旨等に対する指摘 ・国等の調査など、毎年多数の調査に協力をしているが、施設側にどのよ うなメリットがあるのか、分からない。 など
施設利用者の就労意向に関する調査(身体・精神、知的) ・重度の知的障害者については本人による回答記入が非常に難しく、代理 人記入にならざるを得ない。
・明らかに設問内容が理解できない利用者に対して調査を実施する意味が わからない。
・全ての利用者に調査に協力してもらうことは、不可能である(督促を行 う時間やマンパワーがない)。
・一般企業で働くということの意味が分からない利用者も多数いるのでは ないか(働くということは授産施設での作業のことと考えてしまうケー ス) など
施設職員の就労に関す る調査 (および施設概況調査) ・施設職員は転職経験がある方が多数派なのではないか。
・事業所の活動内容の成果を測る尺度は、必ずしも利用者の就労意向の高 さだけではないのではないか。 など

 

(3)調査票の確定
研究会での検討内容およびプレ調査協力先からの調査票内容や調査実施方法等に対する指摘 事項を踏まえて調査票を修正した結果、2008 年12月に確定版の調査票が完成した。なお、本調 査に使用した調査票については、本報告書の資料編を参照されたい。

第2項 本調査の実施

(1)調査の実施
①調査実施期間

 本調査は、2008年12 月13 日~2009年1月13 日の期間において実施した。なお、2008年12 月31 日を当初の回答期限としていたが、より多くの回収数を得ることを目的に2009 年1 月1 日に督促を実施したことから、2009年1 月13 日を第2 回の回答期限として設定した。

②調査対象施設数および対象利用者数
 今回の調査においては、全国の就労移行支援、就労継続支援B 型、旧法の授産施設の中から、 本章第1 節の手順を通じて2,000施設を抽出して調査対象とした。また、今回の調査対象者はサ ンプルとして抽出された2,000 施設の全利用者であるが、調査時点での実利用者数を予め把握す ることが極めて困難な状況のため、施設定員が30 人以下の施設および定員が不明の施設に対し ては30 部、定員が31 人以上60 人以下の施設には60 部、60 人以上の施設に対しては90 部の調 査票をそれぞれ送付した。その結果、配布した調査票の数は精神・身体障害者用が26,310 人分、 知的障害者用が44,310 人分となった。なお、施設概況・職員向けの調査については、各施設に おける職員1名を対象としていることから、調査対象施設数と同じ2,000 人である。

③調査方法
調査票を郵送で配布し、郵送で回収する郵送調査として実施した。

④調査の手順(調査票の施設への到着後)
調査対象施設に調査票が到着した後は、調査票とともに送付した「調査実施方法概要(調査フ ロー図)」の内容に沿って調査を進めていただくようお願いをした。
また、調査手順に準拠していただくとともに、本人の意向を可能な限り忠実に把握するという 点が本研究事業の趣旨の1つであるため、各調査票の表紙に記載した代理記入時の注意点につい ても遵守いただくよう、強くお願いをした。

(2)回収率向上へ向けた取組
回収率の向上へ向けた取組として、葉書による督促を1回実施した。また、弊社の調査担当者 の不在時や休日・夜間であっても回答者が調査に関する疑問等を解消することができるよう、調 査マニュアルやFAQの閲覧や各種調査票のダウンロードが可能な、調査専用ホームページをイン ターネット上に作成した(調査票送付時に、調査対象施設にはURL を告知した)。

(3)調査票の回収結果
上記(1)~(2)に基づいて調査を行った結果、調査票の回収状況は下記の通りとなった。

図表 2-10a 本調査の回収結果

調査対象者 調査票配布数 調査票回収数 回答率
施設利用者の就労意向に関する調査(身体・精神) 26,310 件 20,741 件 29.4%10
施設利用者の就労意向に関する調査(知的) 44,310 件
施設職員の就労に関する調査(および施設概況調査) 2,000 件 925 件 46.3%

 

 なお、上記調査票配布数は正確な調査対象者数を表していない。そのため、社会福祉施設等調 査11(2006 年)をもとに、母集団及び標本数の推定を行った。施設数は母集団に占める標本数の 割合が明確に想定できることから、その比率を利用者数にも当てはめ、利用者数を推定した。

図表2-10b 母集団に占める標本数の割合

調査対象者 施設数 利用者数(実数)
調査対象となる母集団12 4,886 事業所 117,539 人
調査標本抽出数 2,000 事業所 (推定値)63,586人
母集団に占める標本数の割合 40.9% 54.1%

 

 以上の調査対象母集団から、有効回答結果をもとに有効回答率を計算すると図2-10c になる。 標本数に対する有効回答数は、32.6%であり、また、調査対象母集団に対する有効回答数も 17.6%であることから、調査の妥当性は十分に担保されているということができる。同様に、施 設標本数に対する有効回答数は46.3%であり、母集団に対する有効回答数も18.9%であること から、職員に対する調査も調査結果は有効に活用できると考えられる。


10 上記の質問紙配布数は、本章第2 節2 項の手順に従って配布した数である。そのため、調査対象施設の 実利用者数は、この配布数を下回る可能性がある。また、実利用者が質問紙配布数を下回っている場合、 回答率は表2-10aの値を上回ることとなる。

11 調査開始時点の2008年6月時点における2007年社会福祉施設等調査の公開データは速報値のみであり、 確報のデータを利用する必要性があったことなどから、ここでは2006年のデータを用いた。

12 2006 年社会福祉施設等調査を用いて、身体、知的、精神の各障害者の入所授産施設、通所授産施設、小 規模授産施設の総数を算出した。このデータとWAM-net で公開されている障害者自立支援法に移行した事 業所との情報を突合させた結果、2006年社会福祉施設等調査の数値を活用して問題ないと判断した。

図表2-10c 母集団に占める標本数の割合

調査対象者 推定標本数 有効回答数 回答率 母集団に占める割合
施設利用者の就労意向に関する調査 63,586 人 20,741 人 32.6% 17.6%
施設職員の就労に関する調査 (および施設概況調査) 2,000 事業所 925 事業所 46.3% 18.9%
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