第4章 仮説検証と考察

前章では今回実施した調査について、集計結果を示した。その中で、障害別や施設別により多 少の差異はあるものの、利用者の就労意向はおおむね前向きであるという結果を得た。また、施 設職員における施設利用者の就労に対する考え方も積極的なものであることがうかがえた。 本章では、利用者自身就労に対する考え方や職員の利用者の就労に対する考え方が各施設で行 われている就労に向けた活動とどのように関連しているかという点にに着目し、分析を行ってい く。

第1節仮説

障害者に「働きたい」という気持ちがあったとしても、働くための具体的な「活動」が実践さ れていなければ、就労が難しいことは言うまでもない。障害者の「働きたい」という気持ちと「障 害者の就労意欲に応える施設職員の就労支援活動」があってこそ、障害者の「就労」は実現する と考えられる。
また、施設職員自身が「障害者が働くことに前向きだ」と考えていたとしても、具体的な就労 支援活動を実施しなければ、単に「考えているだけ」で終わってしまうことになる。さらに、利 用者自身が「働きたい」と考えていたとしても、就労に向けた活動(会社を見学する、など)が 実際に行われなければ、「働きたい」気持ちを実現することができないこととなる。 そこで、「利用者の就労意向(働きたいという気持ち)」及び「職員の就労意向(働かせたいと いう気持ち)」と、「利用者自身の活動」及び「職員の支援活動」といった4 つの変数間の関係性 を明らかにする。なお、各変数の関連性を示した仮説を整理すると次のようになる(図表4-1)。

図表4-1 本研究における仮説枠組み

本研究における仮説枠組み

(働)
仮説Ⅰ
利用者の就労意向
(働きたいという気持ち)
職員の就労意向 (働かせたいという気持ち)
仮説Ⅰ
仮説Ⅱ仮説Ⅲ
利用者自身の
就労に向けた活動
職員による就労支援活動

仮説Ⅰ 「職員の就労意向」と「利用者の就労意向」には関係がある
一般的に、施設職員の(利用者の)就労実現に対する支援活動を行う意欲と利用者の就労に対 する意欲は相互に高まる関係にあるといわれており、「職員の就労意向」と「利用者の就労意向」 の間にも相関の関係がある(どちらかが高ければ、片方も高く、どちらかが低ければ、片方も低 いという関係)と考えられる。本調査からは因果関係を明確に示すことは難しいが、利用者と職 員の両者が「働きたい」「働かせたい」という強い意志を持つことで、より一層、就労意向が高 まっていくものと考えられる。

仮説Ⅱ 「利用者自身の就労に向けた活動」と「利用者の就労意向」には関係がある。
前述したとおり、利用者が働きたいと考えているならば、利用者が就労に向けた活動を行うこ とは必然的な流れである。仮説Ⅱでは「利用者自身の就労に向けた活動」と「利用者の就労意向」 の関連性について、分析を進める。

仮説Ⅲ 「職員による就労支援活動」と「職員の就労意向」には関係がある。
利用者が働くことを職員自身が「前向き」に考えていたとしても、就労に対して具体的な活動 を行わなければ意味がないといえる。特に、障害者自立支援法に定められた就労移行支援を実施 する施設の職員については、利用者の就労に「前向きである」と共に、就労支援に向けた活動も 行う必要があると考えられる。仮説Ⅲでは「職員による就労支援活動」と「職員の就労意向」の 関連性について、分析を進める。

第2節 仮説の検証と考察

本節では前節で示した仮説の検証を行った。なお、検証を行う際には、以下の手順でデータの 処理を行った。
まず、「利用者意識調査」と「施設の職員調査」では調査票が異なることから、利用者調査の 回答結果に対し、施設の職員調査結果を加えた。なお、「利用者の就労意向」について調査票で は5 段階で設定しているものを、分析作業の便宜上、3段階に変換し行った。なお、「職員の就 労意向」に関しても同様の処理を行った。

5 段階(データ変換前) 3 段階(データ変換後)
「1.働きたい」「2.やや働きたい」 「1.働きたい」
「3.どちらとも言えない」 「2.どちらともいえない」
「4.あまり働きたくない」「5.働きたくない」 「3.働きたくない」

 また、「利用者自身の活動」については図表4-2a にある活動内容を1つでも行っている場合は 「活動している」とみなし、実施していない場合は「活動していない」とみなした。同様に「職 員の支援活動」については図表4-2b にある支援活動の実施の有無により「活動している」「活動 していない」と定義した。
分析に際しては、Microsoft 社の「Excel2003」「Excel2007」およびSPSS 社「SPSS17.0J」を 用いた。

図表4-2a 「利用者自身の活動」に関する設問

設問項目(活動項目) 設問(就労に向けた活動状況についてお伺いします)
会社見学 あなたは、他の障害者が働いている会社を訪問して、働いている現場を見学したことがありま すか? ※学校を卒業した後の経験でお答えください。養護学校などの実習は含みません。
実習経験 あたなは、会社で実習をしたことがありますか? ※学校を卒業した後の経験でお答えください。養護学校などの実習は含みません。
求人票確認 あなたは、ハローワーク(公共職業安定所)または施設で情報提供している求人票をみたこと がありますか?
求人票登録 あなたは、ハローワーク(公共職業安定所)に求職登録をしたことがありますか?
家族との話し合い あなたは、あなたが会社で働くことについて、家族と話し合ったことはありますか? ※電話での話し合いは含みます。メールや手紙でのやり取りは含めません。
職員との話し合い あなたは、あなたが会社で働くことについて、施設職員と話し合ったことはありますか? ※電話での話し合いは含みます。メールや手紙でのやり取りは含めません。

 

図表4-2b 「施設職員の支援活動」に関する設問39

設問項目(活動項目) 設問(施設利用者の就労援助(支援)活動状況についてお伺いします)
企業訪問の実施 あなたは、何か所の企業に訪問しましたか? ※訪問したことがある企業数をお答ください。ない場合は「0」を記入してください。
職場開拓の実施 訪問した企業のうち、職場開拓のため訪問した企業は何か所ありますか? ※職場開拓とは、実習先や企業内活動、就労先の開拓をさします。 ※ 訪問したことがある企業数をお答えください。ない場合は「0」を記入してください。
職場開拓成功 職場開拓のため訪問した企業のうち、職場開拓に成功した企業は何か所ありますか? ※訪問したことがある企業数をお答えください。ない場合は「0」を記入してください。
会社への同行訪問 あなたは施設利用者と一緒に何回、企業訪問をしたことがありますか? ※利用者と一緒に訪問したのべ回数をお答えください。 ※ない場合は「0」を記入してください。
実習企業の有無 あなたは、何か所の企業で施設利用者を実習(訓練)させましたか? ※実習(訓練)は事業の一環で施設外活動を行った場合の施設外でのグループ就労等を含み ます。ない場合は「0」を記入してください。
利用者との話し合い あなたは、企業で働くことについて何人の施設利用者と話したことがありますか? ※延べ人数ではなく実人数をお答えください。立ち話程度のものも含みます。 ※ない場合は「0」を記入してください。 施設内での求人開示施設内に企業の求人票に関する情報を提示していますか?
求職登録支援実施 あなたは、施設利用者のハローワーク(公共安定所)での求職登録の支援を何人にしたことが ありますか? ※延べ人数ではなく実人数をお答えください。立ち話程度のものも含みます。 ※ない場合は「0」を記入してください。
実践的訓練の実施 あたなは、施設利用者に対して、実際に企業で働くための訓練をしたことがありますか? ※実際に企業で働くための訓練とは、たとえば、あいさつの練習や、企業社員との会話の仕 方の訓練、実際の業務に合わせた訓練をさします。
就労に関する研修への参加 あなたは、就労支援に関する研修やセミナーに参加したことがありますか?

 


39活動の経験についての設問は、基本的に「活動の経験あり」「活動の経験なし」の2値データに変換し分 析を行った。連続変数については、「0」を「活動の経験なし」とし、1以上を「活動の経験あり」として 処理した。なお、選択肢中の「わからない」に関しては、欠損値として処理した。

 

第1項 「仮説Ⅰ『職員の就労意向』と『利用者の就労意向』は関係がある。」の検証

(1)全体の検証結果
「職員の就労意向(利用者が働くことに対する職員の考え方)」と「利用者の就労意向」につ いて、両者の独立性の検定を行った結果、有意な関係があることが示された(図表4-3a)。す なわち、職員の利用者の就労に対する考え方が前向きな施設では利用者も働きたいと思っており、 利用者の働きたいという思いが強ければ、職員における利用者の就労に対する考え方も前向きで あるという結果であった。

図表4-3a 利用者の就労意向と職員の就労意向(姿勢)の関係

    職員の就労意向 合計
  前向きではない どちらとも言えない 前向きである
利用者の就労意向 働きたくない 396 1,028 2,526 3,950
10.0% 26.0% 63.9% 100.0%
どちらとも言えない 267 814 2,693 3,774
7.1% 21.6% 71.4% 100.0%
働きたい 411 1,675 7,017 9,103
4.5% 18.4% 77.1% 100.0%
合計 1,074 3,517 12,236 16,827
6.4% 20.9% 72.7% 100.0%

χ 2 = 278.956 ν= 4 p < 0.05で有意

(2)施設別検証結果
施設別に上記と同様の検定を行った場合も、「職員の就労意向」と「利用者の就労意向」との 間に有意な関係があることが示された。したがって、今回の調査においては施設の違いに関係な く、利用者の就労に対する考え方が前向きな施設では利用者も働きたいと思っており、利用者が 働きたいという思いが強ければ、職員の利用者の就労に対する考え方の積極度合いも強いという 結果が示された(図表4-3b)。
なお、施設利用者は「働きたくない」と回答しているものの、施設職員は「前向き」であると 回答している割合が、授産施設で17.6%、就労継続支援B 型で15.1%みられた。これは、職員 が「働くことはいいことだ」と解釈して、自施設の利用者のニーズから乖離した、あるべき姿を 回答している場合と、相互の「働くことに対する認識」にずれが生じているケースだと考えられ る。その点については、仮設Ⅱの中で実際の活動の内容と合わせて分析を行う。 また、一般企業等への就労を目的とする「就労移行支援」の利用者の中にも「働きたくない」 と回答した利用者が7.5%おり、施設利用者のニーズと利用者向けへの就労支援活動の内容が必 ずしも合致していないケースも存在することが示唆された。

図表4-3b 利用者の就労意向と職員の就労意向(姿勢)の関係

  職員の姿勢 合計
前向きではない どちらとも言えない 前向きである
授産施設 利用者 働きたくない 198 482 1,171 1,851
3.0% 7.2% 17.6% 27.8%
どちらとも言えない 128 397 1,131 1,656
1.9% 6.0% 17.0% 24.9%
働きたい 164 752 2,240 3,156
2.5% 11.3% 33.6% 47.4%
合計 490 1631 4,542 6,663
7.4% 24.5% 68.2% 100.0%
就労継続支援B型 利用者の働く意欲 働きたくない 94 223 661 978
2.2% 5.1% 15.1% 22.4%
どちらとも言えない 89 195 752 1,036
2.0% 4.5% 17.2% 23.7%
働きたい 108 333 1,917 2,358
2.5% 7.6% 43.8% 53.9%
合計 291 751 3,330 4,372
6.7% 17.2% 76.2% 100.0%
就労移行支援 利用者の働く意欲 働きたくない 5 26 107 138
0.3% 1.4% 5.8% 7.5%
どちらとも言えない 3 24 193 220
2.0% 4.5% 17.2% 11.9%
働きたい 4 125 1,357 1,486
0.2% 6.8% 73.6% 80.6%
合計 12 175 1,657 1,844
0.7% 9.5% 89.9% 100.0%

第2項 「仮説Ⅱ『利用者自身の就労に向けた活動』と『利用者の就労意向』には関係が ある。」の検証

(1)設問ごとの検証
「利用者の就労意向」で「働きたい」と回答した利用者(以下、「働きたい利用者」)のうち、 各「利用者自身の活動」項目を「活動経験あり」と回答した者の割合を示したのが図表4-4a で ある40。最初に「働きたい利用者」の「利用者自身の活動」内容についてそれぞれの項目につい て確認する。

①「会社を知る」ための「利用者自身の活動」
まず、「会社を知る」ための利用者自身の活動として、「会社見学」「実習経験」を取り上げ る。
この2 つの項目は「働きたい利用者」のうち、それぞれ46.1%、53.7%が活動したことがあ ると回答している。また、「働きたい利用者」の中で、会社に就労することを目的とした就労移 行支援を利用するものであっても、半数程度は「会社見学」「実習経験」がないという結果であ った。また、授産施設や就労継続支援であっても、「会社見学」「実習経験」はそれぞれ45% 前後が実施経験ありとしている。

②「会社に就労する」ための「利用者自身の活動」
次に、「会社に就労する」ための利用者自身の活動として、「求人票確認」「求人票登録」を 取り上げる。障害者雇用に伴う企業への助成金等の活用を考えれば、ハローワーク(公共職業安 定所)に求人票を登録することが必要であることから、「求人票確認」や「求人票登録」は「会 社に就労する」ための第一歩と考えられる。
この2 つの項目は「働きたい利用者」のうち、それぞれ58.8%、47.7%が活動したことがあ ると回答している。施設別にみると、就労移行支援で「求人票確認」が76.5%、「求人票登録」 が68.5%実施しているとしており、授産施設、就労継続支援B 型と比べて高い比率であった。 就労移行支援は働くための活動を実施することが目的の施設であることから、就労の第一歩であ る「求人票確認」や「求人票登録」を行っていることは事業の目的に合致した活動であるという ことができる。
ただし、この結果は、「求人票確認」「求人票登録」の経験がない就労移行支援を利用してい る「働きたい障害者」がそれぞれ23.5%、31.5%いるということを示している。なお、「求人 票登録」を授産施設で39.3%、就労継続支援B 型で49.1%が実施しており、これら就労を最終40 各セルの比率= 「利用者自身の活動」が「活動経験あり」の者の数「利用者の就労意向」が 「働きたい」の者の数 目的としない施設でも、「求人票登録」といった就労のための活動を 実施していることが示された。

 


40各セルの比率=「利用者自身の活動」が「活動経験あり」の者の数
             「利用者の就労意向」が「働きたい」の者の数

 

③就労に向けた「話し合い」
最後に、就労に向けた「話し合い」について、「家族との話し合い」「職員との話し合い」を 取り上げる。働くことに関して、家族や職員との話し合いや相談は就労を進める上で重要な要素 だといわれており、「話し合い」をすることで利用者の不安を抑え、就労に向けて前向きな活動 を促すとされている。
「家族との話し合い」は「働きたい利用者」のうち、68.7%が実施しており、「職員との話し 合い」は64.2%が実施しているという結果であった。施設別にみると、就労移行支援を利用し ている「働きたい利用者」は「家族との話し合い」を78.6%が実施し、「職員との話し合い」 を82.0%が実施しているという結果であった。言い換えると、就労を目的としているはずの就 労移行支援事業でも18.0%が「働くための話し合い」を行っていないということであり、「働 きたい利用者」に十分な対応をしていない施設があることを示唆している。

(2)仮説の検証と考察
ここまで、「働きたい利用者」の「利用者自身の活動」状況を整理してきた。今度は、「仮説に もある「利用者の就労意向」と「利用者自身の活動」の関連性を明らかにするために、「利用者 の就労意向」と各「利用者自身の活動」項目について独立性の検定を行った。検定結果は、図表 4-4c である。
この結果、全体で検定を行った場合も、施設別に行った場合も「利用者の就労意向」と各「利 用者自身の活動」はすべて1%の有意水準で有意な結果であった。つまり、「働きたい利用者」 は「利用者自身の活動」を行っており、逆に、働きたくない利用者は「利用者自身の活動」を行 っていないということができる。つまり、「利用者の就労意向」と「利用者自身の活動」は関連 があるということができる。

図表4-4a 「働きたい」障害者に占める活動経験ありの比率

  全体41 授産施設 就労継続支援B型 就労移行支援
会社見学 46.1% 44.8% 45.5% 50.6%
実習経験 53.7% 44.2% 45.3% 52.9%
求人票確認 58.8% 50.7% 62.3% 76.5%
求人票登録 47.7% 39.3% 49.1% 68.5%
家族との話し合い 68.7% 64.5% 70.5% 78.6%
職員との話し合い 64.2% 58.6% 63.7% 82.0%

図表4-4b 「働きたい」障害者に占める「活動経験あり」の回答者数

    全体 授産施設 就労継続支援B 型 就労移行支援
活動ありの利用者数 会社見学 4,545 1,563 1,156 801
実習経験 5,261 1,540 1,142 838
求人票確認 5,039 1,574 1,435 1,130
求人票登録 4,012 1,196 1,115 995
家族との話し合い 6,760 2,254 1,786 1,250
職員との話し合い 6,270 2,036 1,609 1,287
「働きたい」利用者数 会社見学 9,852 3,490 2,542 1,584
実習経験 9,796 3,486 2,519 1,585
求人票確認 8,576 3,102 2,305 1,478
求人票登録 8,414 3,046 2,272 1,452
家族との話し合い 9,844 3,497 2,533 1,590
職員との話し合い 9,767 3,475 2,526 1,569

 


41 全体の比率が、各施設別の項目の比率と一致しない理由には以下の点があげられる。

①「全体」の項目は、自分の利用している施設種別について無回答である場合を含んでいる。
②各施設別の項目は、それぞれ主に利用している施設で分類している。「就労継続支援B型」と「就労移行 支援」の両方を利用している場合は、この分類から外してある。

 

図表4-4c 「利用者の就労意向」と各「利用者自身の活動」の検定結果

  全体 授産施設 就労継続支援B型 就労移行支援
会社見学 ** ** ** **
実習経験 ** ** ** **
求人票確認 ** ** ** **
求人票登録 ** ** ** **
家族との話し合い ** ** ** **
職員との話し合い ** ** ** **

** p < 0.01 * p < 0.05

 


42 正確確率検定を「利用者自身の活動」ごとに実施した。

 

第3項 「仮説Ⅲ『職員の支援活動』と『職員の就労意向』には関係がある。」の検証

「職員の就労意向」を「前向きだ」と回答した施設職員(以下、「就労に前向きな職員」)の うち、各「職員の支援活動」項目を「活動経験あり」と回答した者の割合を示したのが4-4a で ある43。最初に「前向きな職員」の「職員の支援活動」内容についてそれぞれの項目について確 認する。

(1)設問ごとの検証

①「職場開拓」に関する「職員の支援活動」
はじめに、「職場開拓」に関する活動として、「企業訪問の実施」「職場開拓の実施」「職場開拓 成功」の各活動経験を取り上げる。
「働くため」には、働く職場を探すことが重要である。そのためには、次のステップがあると 考えられる。

a 企業と接点を持つ
b 企業に障害者就労に関する話を持ちかける
c 実際に雇用してもらう、といったプロセスを経ることになる。

 このようなaからc のプロセスを経て、実際の就労は進んでいくといえる。取り上げている各 活動項目はa~c までの一連の流れに関する問いかけということができる。なお、本調査で設定 されている「企業訪問の実施」「職場開拓の実施」「職場開拓成功」の各設問はそれぞれ、a,b,c と対応している。以上を踏まえたうえで、分析を行った。 「企業訪問の実施」「職場開拓の実施」「職場開拓成功」の各項目は「就労に前向きな職員」が それぞれ、64.2%、50.0%、35.2%経験したことがあると回答結果であった。この結果を施設別 にみると、すべての施設で「企業訪問の実施」「職場開拓の実施」「職場開拓の成功」の順番で活 動したという割合が少なくなっていった。なお、就労移行支援をみると、「職場開拓成功」の経 験があるとした職員は52.9%であり、約半数の就労移行支援の職員が職場開拓に成功していな いということであり、職場開拓のむずかしさを示唆しているといえる。

②「会社との接点づくり」に関する「職員の支援活動」
次に、「会社との接点作り」に関して、「会社への同行訪問」「実習企業の有無」について取り 上げる。利用者に働くイメージを持ってもらうには、実際の現場を見てもらい、体験してもらう ことが効果的だと想定される。本研究では、その会社との接点作りの活動として、企業に同行訪 問することと、実習企業があるかないかを取り上げた。
「会社への同行訪問」については52.2%、「実習先の有無」については54.2%であった。また、 施設別にみると、授産施設、就労継続支援B 型が各項目40%前後であるのに対し、就労移行支 援は75%前後であった。「会社への同行訪問」「実習経験の有無」に関しては、就労移行支援で の実施割合が高いということができる。

 


43 各セルの比率=  実際に活動したことのある職員数  
           「利用者の就労に前向きだ」と回答した職員数

 

③「会社に就労する」ための「職員の支援活動」
次に「会社に就労する」ための「職員の支援活動」として、「施設内での求人開示」「求職登 録支援実施」を取り上げる。前項でも述べたとおり、障害者雇用に伴う企業への助成金等の活用 を考えれば、ハローワーク(公共職業安定所)に求人票を登録することが必要であることから、 「職員の支援活動」として「施設内での求人開示」や「求職登録支援実施」は「会社に就労する」 ための第一歩と考えられる。また、「職員の支援活動」を進める上で、職員がハローワークから 求人票などの情報を収集できているかということも重要なポイントとしてあげられる。ハローワ ークに企業からの求人情報をいち早く入手し利用者に情報提供することで、「職場開拓」の支援 につなげていけると考えられる。以上を踏まえたうえで、分析を行った。 「就労に前向きな職員」は「施設内での求人開示」を59.6%が実施している一方、「求職登 録支援実施」は28.6%しかしていないという現状であった。施設別でみれば、就労移行支援の 割合が高いが、就労移行支援に従事している「就労に前向きな職員」のうち、「求職登録支援実 施」している職員は40.5%にとどまっており、「就労に前向きな職員」でもハローワークにつ なげるまでの支援に59.5%が至っていないという結果であった。

④就労のために「施設内で行っている」支援に関する「職員の支援活動」
次に就労のために「施設内で行っている」支援として、「利用者との話し合い」と「実践的訓 練の実施」を取り上げる。「利用者との話し合い」についてはすべての施設が90%程度の支援活 動を行っており、「就労に前向きな職員」であれば、就労に関する話し合いを行っているという ことができる。 一方、「実践的訓練の実施」は全体の68.4%が支援をしているとの回答結果であった。施設別 にみると、授産施設が58.1%、就労移行支援事業所B 型が62.0%、就労移行支援が82.5%であ った。

⑤職員の就労支援スキルアップに関する「職員の支援活動」
最後に、就労支援員のスキルアップとして「就労に関する研修への参加」について取り上げる。 就労に関するスキルアップについては、全体で85.1%が経験ありと回答しており、施設別にみ ると就労継続支援B 型が75.9%と他の施設に比べて低かった。

図表4-5a 「就労に前向き」な職員に占める職員の活動経験あり比率

  全体 授産施設 就労継続支援B型 就労移行支援
企業訪問の実施 65.6% 56.6% 48.7% 86.9%
職場開拓の実施 51.9% 42.2% 34.9% 72.8%
職場開拓成功 37.5% 26.9% 22.8% 56.9%
会社への同行訪問 52.2% 40.4% 38.4% 74.5%
実習企業の有無 54.9% 43.6% 40.3% 75.2%
利用者との話し合い 91.7% 87.9% 90.6% 96.0%
施設内での求人開示 59.6% 51.1% 48.1% 75.2%
求職登録支援実施 28.6% 20.6% 24.1% 40.5%
実践的訓練の実施 68.4% 58.1% 62.0% 82.5%
就労に関する研修への参加 85.1% 86.4% 75.9% 89.1%

 

図表4-5b 「就労に前向き」な職員数と活動を行っている職員数

  全体 授産施設 就労継続支援B 型 就労移行支援活動を行っている職員数
企業訪問の実施 420 133 76 199
職場開拓の実施 327 98 53 166
職場開拓成功 232 61 34 128
会社への同行訪問 327 95 58 164
実習企業の有無 348 102 62 170
利用者との話し合い 585 204 144 218
施設内での求人開示 382 121 76 170
求職登録支援実施 184 49 38 92
企業内訓練の実施 439 137 98 188
就労に関する研修への参加 548 204 120 205
企業訪問の実施 640 235 156 229
職場開拓の実施 630 232 152 228
就労に「前向きな」職員数職場開拓成功 618 227 149 225
会社への同行訪問 626 235 151 220
実習企業の有無 634 234 154 226
利用者との話し合い 638 232 159 227
施設内での求人開示 641 237 158 226
求職登録支援実施 643 238 158 227
企業内訓練の実施 642 236 158 228
就労に関する研修への参加 644 236 158 230

(2)仮説の検証と考察

ここまで「就労に前向きな職員」の「職員の支援活動」状況を整理してきた。今度は、「仮説 にもある「職員の就労意向」と「職員の支援活動」の関連性を明らかにするために、「職員の就 労意向」と各「職員の支援活動」項目について独立性の検定を行った。検定結果は、図表4-5c である。
その結果、調査対象全体での分析では、すべての「職員の支援活動」項目で有意な結果となっ た。つまり、調査対象全体で見た場合には「就労に前向きな職員」が「職員の支援活動」を行っ ているということ、逆にいえば、「就労に前向きではない職員」は「職員の支援活動」を行って いないということができる。なお、授産施設及び就労継続支援B型でも同様にすべての「職員の 支援活動」項目で5%の有意水準に対し、有意な検定結果となった。 一方、就労移行支援に関しては、5%の有意水準に対し、「利用者との話し合い」「求職登録支 援」「就労に関する研修への参加」は有意ではないとの検定結果であった。また、1%の有意水準 とすると、「職場開拓成功」以外は有意ではないとの検定結果であった。つまり、有意ではない 検定結果が出たものは「職員の就労意向」が前向きであろうが無かろうが、「職場開拓実施」の 項目について、実施していると解釈することができる。 以上の結果を踏まえて、解釈すると、授産施設や就労継続支援B型の事業では就労に前向きで あれば、「職員は支援活動」を行いやすいということができ、就労移行支援の事業では、「職員の 就労意向」にかかわらず、「職員の支援活動」が行われているということができる。就労移行支 援自体が、就労のための支援活動を行わなければいけないことが原因と考えられる。また、授産 施設や就労継続支援B型施設は、「職員の就労意向」に依拠した活動がなされていると考えられ、 「前向きである」職員がいるところは、就労に関する支援がなされ、そうでないところは就労に 関する支援がなされないといえる。

図表4-5c 「職員の就労意向」と各「職員の支援活動」項目の関連性に関する検定結果

  全体 授産施設 就労継続支援B型 就労移行支援
企業訪問の実施 ** ** ** *
職場開拓の実施 ** ** ** *
職場開拓成功 ** ** ** **
会社への同行訪問 ** ** ** *
実習企業の有無 ** ** ** *
利用者との話し合い ** ** **  
施設内での求人開示 ** ** ** *
求職登録支援実施 ** ** **  
実践的訓練の実施 ** ** ** *
就労に関する研修への参加 ** ** *  

** p < 0.01 * p < 0.05

 


44 正確確率検定を「職員の支援活動」ごとに実施した。

menu