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発表会
安心と安全
-在宅障害者とともに創るチームのかたち-

講演1「在宅重度障害者に対する効果的な支援の在り方に関する研究」の概要

柴崎 祐美((財)日本訪問看護振興財団)

座長

●続きまして先ほどお示しいただきました看護・介護班のほうでの研究成果ということで、 財団法人日本訪問看護振興財団、柴崎祐美先生にご報告いただきます。よろしくお願いします。

柴崎

●日本訪問看護振興財団の柴崎と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
私どもは川村先生のご指導のもと、一昨年から看護・介護班として重度障害者の方の生活を 支える方法として看護と介護の連携の在り方を模索してまいりました。本日はその研究結果 の一部をご紹介したいと思います。

研究の目的ですが、在宅生活を送っている重度障害者及び家族介護者を支援するための 看護と介護の連携の在り方を検討することです。一昨年から4つの調査をやってまいりました。 本日は3つの調査結果を中心にご報告させていただきます。

まず在宅重度障害者が訪問看護と介護サービスをどのように利用しているかということを、 ワークサンプリング調査から見てみたいと思います。

1名の方の例をお示しいたしました。多系統萎縮症で60歳代の女性のAさんです。主介護者は ご主人で、早期退職をされて介護に専念されているというご家庭です。平日は毎朝、訪問看護 1時間、訪問介護1時間を利用されています。火曜と木曜は午後にも訪問看護・介護、両方のサー ビスが入っているということになっております。朝はモーニングケアを主に行っています。 ご主人のご希望として、寝食を分離したいということで、寝る場所、そして朝は起きたらリビングの ベッドヘ移動して日常を過ごすということを徹底したいというふうにお考えでした。 ところがやはり移動の面で負担が出てきまして、訪問看護の方も実際腰を痛めるなど、ということが 出てきました。看護のほうからは寝室でのケアというのをご提案したようなのですが、ご主人はやはり夜と昼、 場所は分けたいとおっしゃいました。では介護を入れて2人体制で朝のケアをやりましょうと、そういうことで ご主人と訪問看護・介護の間で折り合いがついたということです。このことによって、ご主人はなかなか夜も眠れ なかったんですけれども、明け方からモーニングケアを任せることで10時過ぎぐらいまで睡眠が取れるようになりました。

また午後もサービスが入る日は、ご主人の外出夕イムということになっています。こちらの場合は、介護職は 吸引は行っていません。吸引ができるのはご主人と訪問看護師のみということになります。よって介護職だけが入っ てもご主人の休憩とはならないという事情がありまして、そういったことからご主人の外出は、この下の丸で囲んだ 2か所ということになっています。

では実際、朝、看護と介護が30分ずつずらして重複して入っているわけですけれども、どのような 業務を行っているかというのを、1分間夕イムスタディをしました。その結果をグラフにまとめてあります。 まず介護のほうが30分先に入っておりまして、リビングの掃除ですとか温度や湿度のチェック、保清の準備などを しています。そういったところに30分遅れて看護が入ってきます。もろもろ準備ができたところで看護が到着すると いうこと、そして2名で移動をする。看護のほうが吸引や排泄ケアなどをするというような役割分担になっています。 グラフからも分かるように、看護のほうは状態観察、処置に関する部分が多くなっています。青、水色で囲んで示した 部分です。介護のほうは、消毒や後始末という面に関わる時間が多くてピンクの所になります。日常生活の直接ケアと いうのは双方に出てきています。グラフにしてしまうと当然のように見えてしまうんですけれども、介護が30分早く 入って準備を整えているおかげで、看護のほうは本来的な業務に集中できている、ひいてはお互い効率的な時間を使え ていると見ていただけたらいいのではないかと思います。これらの業務は、こちらのご家庭の場合ではご主人が詳細な チェックリストを作っていて、これだけのことは絶対やってくださいというのをお示ししています。ただ実際の看護と 介護の場面においては、両者やっぱり「あうんの呼吸」でやっているなどということをお話しされていました。

今「あうんの呼吸」と申しましたが、では「あうんの呼吸」に至る前の段階は何があったかということを、訪問看護ステ ーションの管理者さんなどを中心にインタビュー調査を行ってまいりました。

まずサービスの開始時点で時間をかけるということが言われています。看護か介護どちらかの時間に合わせても、 片方が訪問して現地で打ち合わせや実際の手技の確認などを行う、本人やご家族もいらっしゃいますから、自然とカンファ レンスのようなことになるかと思います。また介護職に吸引をお願いしている場合は、チェックリストに従いながら手順を 踏んでじっくりと習得していき、3~4か月かけているなどというお話もありました。ご本人は「もうこの人なら大丈夫です。 どんどんやってください」などと、かなり早い段階でおっしゃるようなんですけれども、やはり最終的には医師に見極めて もらう、時間をかけてということを強調されていました。また介護のほうにもなりますが、新人職員さんには見学期間も 設けて、いろんな器具を見ただけで気もそぞろになってしまうような介護職員さん、そこで引いてしまわれないように、 まずは見学から徐々に入っていただければということをやっているようです。ただ、この始めの部分に時間をかけると いうことは、やはり経営的には決してプラスではなく、むしろマイナスということです。しかし後から必ず生きてくるから 最初には時間をかけるべきだというようなお話しが出てきました。

また訪問看護・介護を同時に利用するということも、よくやられている内容です。サービスが始まった後でも、 看護と介護が定期的に顔を合わせるという機会を作るべきだということです。そのことによって簡単な打ち合わせ もいつでもできますし、実際に指導したことがその通りできているかという技術確認の場も確保できるかと思います。 ただしたまに、この「同時に利用する」ということを望ましくないと見るケアマネージャーもいると聞きます。 望ましくないというか、やはりもったいないと感じるような発言かと思うのですが、むしろ現場からこの利点と いうのをもっと発信していくということが必要ではないかと思います。

それから訪問看護から介護への依頼と連絡方法ということです。看護より介護のほうが訪問回数や時間ともに 長いことのほうが多いかと思います。そこで看護から介護へ、何かしておいてもらう、体位交換やモニターの チェックなど依頼しておいて、実際に適切な報告をいただき早めの対応ができた、助かったなどというお話を よく聞きます。ただしいつでも助かるというわけではなく、例えば尿の観察をお願いして、ヘルパーさんも 「分かりました、やっておきます」ということでしたが、尿の測定しかしていなかったということがあり、もう 1回看護のほうが「尿の観察とは」ということを説明し直したなどという話も聞かれました。ですから伝えた つもりが伝わっていないということが往々にあり、個別的に具体的な指示が必要ということです。また、 どのような状態のときに誰に何を報告するか、相談をするかということも大切になります。ケアに入っている 現地から気づいたことを連絡してもらうことで、その場で電話を通して指示ができる、それで助かるというこ とも多くあります。掃除機をかけていたら薬を見つけた、落ちていたけどどうしよう、「じゃあすぐに飲んで もらってください」という判断ができるかもしれないし、)それは次でいいですよ」ということがあるかもしれ ません。ただ、いつでも連絡というのは、決して簡単ではないようです。判断も難しいし遠慮ということも あるということで、普段から相談しやすい関係作りというのが必要かと思います。

今度は介護職のほうに視点を当ててみました。

いろいろ頼まれることの多い介護職ですけれども、実際に介護本来の業務以外に何を頼まれているかと いうと、やはり吸引に関するところでは観察や何らかの行為の実施ということを頼まれることが多くなって おります。

ただ、そういうことを頼まれている方は、不安の中にあるということがアンケートからは分かりました。 赤丸で囲んでいるところです。やはり吸引に関するところ、あと中心静脈というところで不安を抱えながら やっているということがわかりました。不安に関しての結果ですけれども、何らかの行為を実施している人は もちろん不安があるということ、そして行為を特に実施しなくても不安を多少抱えているということが分かります。 ですから重度者の方にケアに入るということは、介護の方は非常に不安を抱えているということが分かるかと思います。

不安に対して訪問看護のほうは何をしているかと言いますと、同行訪問であったり所内研修などというのを 実施しているということが分かりました。やはり吸引に関するところでそのような手だてが打たれています。

以上ちょっと駆け足になりましたが、まとめております。安全・安心を確保するためということで、こちら繰り返しに なりますが4点書かせていただきました。この結果をもって、今年度も研究が続いておりますので、よりよい連携の 在り方を模索していきたいと思っております。以上です。ありがとうございました。

座長

●柴崎先生、ありがとうございました。