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発表会
安心と安全
-在宅障害者とともに創るチームのかたち-

講演4 訪問看護の立場から「難病療養者支援における看護と介護の連携」

泉 美紀子(青森県看護協会訪問看護ステーションあおい森)

座長

●それでは次に訪問看護の立場からということで、青森県看護協会訪問看護ステーションあおい森の泉美紀子先生、 よろしくお願いいたします。

●ご紹介いただきました。青森県看護協会訪問看護ステーションあおい森の泉と申します。よろしくお願いいたします。

それでは、まず、訪問看護ステーションあおい森の特徴を紹介させていただきます。当ステーションは平成7年に開設をして おりまして、青森の中心部に位置した繁華街の中にあります。職員は看護師が7名、事務員が1名の中規模のステーションであります。 訪問している療養者さんの中で難病患者さんの占める割合は26%で、ALSの方、多発性硬化症、脊髄小脳変性症の方、それから 脊髄後縦靱帯骨化症の方などがおります。中でも人工呼吸器を装着したALS療養者さんは6名となっております。

これまで当ステーションが取り組んできました在宅療養の難病の患者さんについてご紹介をします。当ステーションが 平成7年に訪問看護ステーションを開設したときには、ALSの在宅で人工呼吸器を着けた患者さんは1名だけでした。 ところが2000年の介護保険が導入されてから、在宅でも介護を受けながら人工呼吸器を着けて過ごせるということがだんだん 分かってきまして、それを機会にどんどん増えてまいりまして、常時6~7人の人工呼吸器を着けた療養者さんに訪問をしております。

訪問中のALS療養者さんの介護と療養の状況でありますけれども、在宅の療養期間は1か月から大体16年と、かなり幅が ありますが、平均して大体7年という方がほとんどであります。これらの療養者さんの共通点は、全員が要介護5ですべてに 全介助を要しています。そして妻が主介護者であって、介護者自身、全員が何らかの病気を抱えている状況にあります。 そしてもう7年にもなりますと、かなり家族介護の限界にきておりまして、とにかく入院ベッドが欲しいということで、 ほとんどの方が入院の予約をされています。今、青森病院のほうでALS療養者さんの長期の入院を引き受けておりますので、 そちらのほうに入院の予約をしている状況です。

それでは、こういった患者さんが在宅でどういったサービスを受けているかでございますけれども、まずは訪問看護、 それからヘルパーさん、それから訪問入洛、それから青森県には在宅重症難病患者家族支援事業という独自の事業がありまして、 その事業で月に、東京都なんかから比べますと全然少ないわけですが、月に8時間だけ特別の介護人の方に来ていただいて、 その期間休むというふうな制度がありまして、それを4時間ずつ2回に分けて使用している方がほとんどであります。 そして専門医の往診のほかに、地域のかかりつけの先生に定期・不定期で訪問診療をしていただいているというふうな状況に なります。国の難病対策事業の1つであります、在宅人工呼吸器使用特定疾患患者訪問看護治療研究事業というのがあるんですが、 それを使いますと、かなりの訪問看護の時間を確保できるわけですけれども、青森県は残念ながら全国で6県ぐらいが行っていな いんですが、その1つの県でありまして、他県から比べるとサービスがかなり不足しているというふうに感じております。

介護保険の利用をどれくらいしているかと言いますと、みんなが100%使っているのではないかというふうに思うかもしれません けれども、6人中100%使っている方は3名だけでして、他の方は大体半分ぐらいしか使っていません。どうしてこういうことにな るかという原因をいろいろ調べてみたのですが、介護者の年齢でもないし、やはり考え方で、目一杯使って自分たちの介護負担を 軽減しようというふうなところにまだいかない方もいるというふうなことだと思います。介護者の年齢も、いちばん年配の方は83歳 でして、老老で、要するに介護の交代者もいない中で見ているというふうな状況にあります。

それでは本題のほうの看護と介護の連携についてですけれども、事例をちょっと交えてお話をしたいと思います。 この方は75歳男性でALSであります。発症が平成10年で人工呼吸器の装着が平成12年の1月。在宅療養の開始が12年の5月ですので、 もう7年目に入ります。介護度は5でして、気管切開下で人工呼吸器を装着しておりまして、一時期コミュニケーションでパソコンなども 使用したんですけれども、病気の進行が早くて、進行に合わせたパソコンを使うスイッチの開発が追いつかない状況で、 今は外部との連絡がまったくできない状況にあります。

このA氏のケアは、当初ヘルパーさんが入ることになっていたんですけれども、ALSの患者さんに関わったことがまったくないと いうことになりまして、それではということで訪問看護が指導的な立場をとることになりました。それで何度か同行訪問をして もらって、技術のほうというか、身体ケアのほうの技術を習得していただきました。けれども、まったく独立した状況で介護する というのはなかなか困難でして、それならばということで、先ほど財団の柴崎さんからも発表があったんですけれども30分ずつ 時間をずらして入るというふうな方法を採りました。そしてヘルパーさんのケアの習熟状況を見た上で、看護と介護の役割分担をして、 結局訪問時間を30分間だぶってするというふうな方向に落ち着きました。

このA氏の日課でありますけれども、とにかく日中は吸引と体位変換と、尿器で排泄があるんですが、その交換などに終始しております。 そして夜間も本人が訴えることができないものですから、家族の方が目覚ましをセットして2時間おきに起きて吸引していると いうふうな状況で、ほとんど家族介護に頼っている状况であります。

まったく外部と交信がないものですから、本人の意思確認というのがほとんどできないので、入る介護職、看護職が、外部との交信が できなくなる前から入っている職員がなるべく関わるようにして、そういえば、こういうふうな手の位置のときに直してって言われ たとか、そういうふうな状況で、好きな手の位置とか清拭の方法等を思い浮かべながらケアを行っているような現状です。 幸いにも訪問看護のほうも、ヘルパーさんのほうも、受け持ち制をとることができていますので、今はほとんど専任の形で関わっている 状況にあります。

訪問看護と介護の連携の方法でありますが、このように30分間時間をずらして入っています。先に10時からヘルパーさんが入ります。 そして手浴、足浴、洗髪を行って、10時半から訪問看護が入ります。そして訪問看護が入ってすぐにバイタルサインをチェックして、 呼吸器の状況を見て吸引をします。そして個々のチェックが終わってから、11時10分ごろから全身清拭のほうに入ります。 そこでの役割は、体位変換したときの呼吸状態とかは看護婦がチェックして、あと清拭の凖備や何かはヘルパーさんが行って、 共同して石けんをつけた丁寧な清拭を行います。その後はヘルパーさんが後片行けをして、出た洗濯物をちょっと洗濯をしてという ふうな形で、ヘルパーさんは終了します。その後看護師のほうは、曜日によって違いますけれども、経管用具を準備したり、 肺のリハビリを行ったりします。

それでは、こうした方法で連携して入る方法の利点は何かといいますと、介護、ケアを安全に行うことができるということです。 2つめ、介護職2人だけで入るには吸引という問題がありますので家族は休めないのですが、看護師が入ることで、この間は家族が 休養したり、時には買い物に出かけることができております。それから介護職が看護師と入ることによって医療技術を目の前で見て 学ぶことができることであります。それからケアチームの情報交換がその場でできるということ、それからお互いがケアの向上に つながるということですよね。看護職よりもうまく清拭をするヘルパーさんにも出会ったことがありますし、お互いのケアの向上が 望めるということであります。それから介護職も緊急事態の対処ができるようになりますよね。看護師が行っているいろいろな 手技を日々見ておりますので、何かあったとき、自分が1人のときに、緊急の体制というか対処ができるということであります。 それから介護職も緊急時の対処がいちばん不安で、頼まれてもなかなか1人で留守番とかというのはできないです。 吸引ということがなくても留守番などはできないということはお話しされていますので、看護職と入ることによって緊急事態への 対応方法を学ぶということが挙げられます。

社会問題化した吸引の問題でありますけれども、青森県の看護協会がALSの在宅療養支援3か年事業の中で、 ちょっとアンケート調査を行いました。そのまとめなんですが、家族・看護師以外に青森県の中で吸引しているかというふうな 問いかけに対して、40人の方が答えたわけですが5人が看護師と家族以外の吸引をお願いしているというふうな回答が出ました。 その5人の中で、じゃあ誰がしているかということでありますけども、ヘルパーさんが4人ございました。 それからご本人、自分でするという方が1名おりました。この問題なんですけれども、じゃあヘルパーさんがやればすべてが解決するか というとそうではなくて、やはり教育の問題とか医療と福祉の法的な問題とか、いろいろ大きな問題を抱えております。 青森県でも、呼吸器を着けている方が他県よりもかなり多いというふうなことを、先ほどお話に聞きましたので、そういった面で 介護職の吸引の問題をどうやって解決していくかというのが今大きな問題であります。

最後になりましたが、80歳代の男性だったんですが、自分で入るお墓を作りたいということで作ったのです。見に行くの どうしますか?と聞いたら、ぜひ行きたいということがあったので、私と、あとヘルパーさんとかが付いてお墓を見に行ったときの 後ろだけの写真です。この方も、お墓を見に行ってから3年が経ちまして、今83歳になりました。このように外出の支援も積極的に 訪問看護師としては行っていきたいんですけれども、患者の気持ちがどんどんしぼんでいくんですよね。ですのでそういった意欲を 持ち続けるということも、これから大きなALSの患者さんを支える課題だなというふうに感じております。 ご静聴ありがとうございました。終わります。

座長

●泉先生、ありがとうございました。ALSの方が在宅で生活を望んでいますときに、どうしても訪問看護ステーションの充実等と いうのは非常に重要であると思いますが、その中での日々の活動を詳しく紹介していただきまして、ありがとうございました。