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1.発達障害の家族支援の新しいパラダイム

辻井 正次
(中京大学 現代社会学部 教授(研究代表))

辻井●では、まず私のところから進めさせていただきます。

まず、そもそも研究の全体として何をしているのかということなのですが、一つは障害 児者サービスというものを行っていく上で、ライフステージによって支援が途切れない体 制をどう作っていくのかということ、それから、実効性のある支援をどう作っていくのか ということを考えていく重要で、それを実現していくステップとしては、やはりモデルを 構築しなければならない。それから実際に活用できる支援を開発していこう、それから、 ある支援サービスが実際に実現するためには、そのサービスを提供できる人が存在しなけ ればならない(人材育成)という非常にシンプルな問題がありまして、そういうものを作っ ていこうという形になります。

今日は、講師の方々がわりと地元の人たちばかりなので交通費とかあまりかからなかっ たものですから、予算の限りを尽くして、きれいなパンフレットを作らせていただきまし た。本当はいろいろなところから集まると交通費で結構消えてしまうと思うのですが、 節約をしていただいて、立派な物になりました。だいたいこんなふうに書いてありますから、 見ながら順番に進めていっていただければと思いますし、割と概略でどんな中身なのかと いうことの要約は、ここで今後少し検討しようとして活用していただいてもいいような形 で今回作成いたしました。

では進める前に余談を少しお話しておきます。

これは、別な研究プロジェクトで進めている中身になりますが、一つは、同じASD、自閉 症スペクトラムの方たちで、触法行為をしてしまった人と、してしまっていない人の対比 のデータです。これで比較していきますと、結果の、有意と言いますが、差のある部分が 見つかりました。特にどんな部分が差があるのかという話ですが、一つには、触法行為を その後行ってしまった自閉症スペクトラムの方と、そうでない方との比較では、得点が高 いほうが、乳幼児期に発達障害の兆候を家族に把握されていた場合。一般的な言い方をす れば、障害の特異的な行動の兆候が早くからあった、多くあった人たちのほうが、触法の ない群に多い。もう一つは、虐待、複数の虐待があったような場合なのですが、虐待でい くと、触法群の場合は本当に、全数虐待があった。それからもう一つは、診断された年齢 が、触法群の方が年齢が高い。CGAS というのは、子ども版のGAS で、適応水準というので、 専門医が判断してその人の適応水準を評価したもので、得点が高い方が適応がいいのです が、触法行為をした人たちのほうが得点が低く、適応が悪いという形なのです。そうする と何が言えるのかというと、一つには兆候があまり見いだされなかった。これは2 通り考 えられて、家族が全くそれに気がつかなかったという場合と、実際に軽かったという場合。 たぶんその両方である場合が多いのですが、軽いから様子を見ようと思われてきた人たち のほうが、その後のいろいろなリスクが高いという形です。

そうなるとどうなるかと言うと、いろいろな育てにくさのようなものがあったときに、 多動傾向みたいなものはやはり頻度が高いですから、そうすると、育てにくさが高いと、 虐待も高い頻度で生じます。それで、度合いが軽いと見なされていたので、結果的に診断 に至る年齢が遅れます。この診断の話はまた宮地先生のほうからお願いします。そういう 適切な対応がなされない状況が重なるので、結果的に適応水準も悪いという話になります。

最初のお話のところで議論していかなければならないのは、発達障害だからとか自閉症 スペクトラムだからといって、触法とか非行のリスクが高いわけではありません。けれど も、そうした方たちが虐待を受けるというような、掛け算の問題、もともとのベースに環 境のまずい対応というのが重なったときに、問題というのはかなり起こり得る。だから、 家族の問題というのが、発達障害になるかならないかというところでは、それはほぼ関係 ないと言えます。ただ、その後の状態像を考えると、家族支援がきちんと至らないと、い ろいろな問題は起こりやすいというのは言えると思います。

もう一つ、次の余談からいきます。

福祉医療機構というところがありまして、そこの基金で、成人期になっている発達障害 の方たちの支援のプログラムのようなものを実際に一緒に考えていくようなセミナーとい う、全国で20 か所、今順番にしてきているのですね。残り2 か所が、土曜日が出雲、日曜 日が東京というよくわからないスケジュールなのですが、そんな形で最後にやります。数 年やってきて、本当に全国で多くの方たちがご参加いただけるようになりました。似たよ うな形で数年間やってきてという形なので、4 年前くらいだと本当にまだ、都市の方以外の ご参加が少なかったのですね。ところが今年などは、どこの地域にいってもたくさんのご 本人たちに出てきていただけるようになりました。そしてご家族の方たち、成人期の方た ちのご家族ですから、ご高齢、50 代だと若くて、60 代とか70 代とかという方たちの家族 とご本人たちが参加するということになります。ご家族の方たちにお集まりいただいてお 話をいろいろしていると、なかなかかなり難しい状況の中でやってこられたのだな、とい うことをしみじみ感じるようになりました。特に成人期になってからやっと診断を受けら れました、という方が結構いますね。うちの子は四十いくつですが、3 年前にやっと診断を 受けることができました、というような方たちが、本当にこれは珍しくも何ともなくたく さんおられて、例外なく二次的な精神疾患を合併しておられて。それでなかなか、結構大 変な状況の中でセミナーにこられたり、という形でした。結構、学齢期のところで不登校 状態になって、そのままずっと15 年間引きこもっていますみたいな方たちも世の中にたく さんおられて、その方が発達障害問題なのだという位置づけがずっとなされずに来てしま ったという問題が結構ありまして。本当に後悔なんですね、もっと早く気づけばよかった のに、今になってどうしてやればいいのだろうという話で。結構小さいときに診断を受け て取り組んで、療育に参加したりということで、支援を受けるという経験ができやすいの ですね、子ども時代のほうが。親御さんが、子どもが大きくなられてからそういうものを していこうと思っても、なかなか現実的には難しいようで、何をどうすればいいのかわか らないというのか、支援をするとか支援を受けるというのがやはり非常に難しいようです ね。今日は野邑先生のほうから発表があると思うのですが、お母さんのうつ状態の方たち が結構あって。それで家族関係の深刻度も高い状況というのがあるようですね。

それから、後のところで説明していきますけれども、日本の伝統的なしつけの仕方に関 連した問題点というのがどうも間違いなくあるようで、これはいいとか悪いとかの問題で はなくて、日本の伝統的なしつけを発達障害の子どもさんに対してそのまま適用したとき に何が起こり得るのかという話になるのですが、結果的に虐待的なしつけにへと、移行し やすいみたいですね。で、ある年齢になると子どもが家庭内暴力してみたりみたいなこと で、それも親の昔の対応がフラッシュバックして家庭内暴力をするケースというのがたく さんあって。大の大人が家で包丁持って暴れているみたいな話で、警察呼んで、みたいな 話というのが本当にたくさんあります。

それで、親の年齢が上がっていくと、さらに難しくなっていくのが何かということで行 くと、必要な情報が手に入らなくなるのですね。例えば発達障害情報センターとか、発達 障害教育情報センターとか、そういう形でいろいろな取り組みが動き出しているけれど、 だいたい多くのところがインターネットで情報を発信していますと言うわけです。そうす ると、インターネットが見られる親御さんというのは、やはりそれなりにもう既に支援に 結びついている場合が多くて、本当に大変な人たちはインターネットなんか見られません。 本当に、70 代の親御さんたちで、インターネットを今からじゃあ勉強するのかよという話 になっていると、そういうわけにもいかない。なかなか情報が入ってこないし、支援をど う知るのか、得られるのか。それで将来の見通しが持ちにくいと、親亡き後を心配しちゃ って本当に心中事件を実際に起こしかけていますというのも本当にいくつもありますし、 このエリアでも、やはりそうした事件というのがこの1 年間の中でも起こっているという のが実際だというのが、関係者として考えていかなければならない問題なのだと思います。

だから、「様子を見ましょう」とやってきて、その様子を見てきたということでうまくい っているのかというと、うまくいっていないのですね。それから、今日は、保育とか学校 教育の関係の方とか、幼児期の療育の関係の方とかに考えて欲しいのですが、子どもの発 達期というのは、取り組んだらこんなによくなりましたという時期で、確かにそうなのだ けれど、じゃあそれで本当によくなったのと考えると、成人期のところまでみんな追いか けていないのだから、そうすると本当はよくなっていなかったりするわけですね。実は、 自信のあるベテランの、特定支援教育のエキスパートの先生方がかなり体罰的な教育をや って、確かにその時点では成果が上がっているように見えるのだけれど、本当に10 年して みると、その先生に厳しくやられたことがフラッシュバックして、とても適応状況が崩れ ているというようなケースもたくさんありまして、やはり家族支援とかいうことも含めて なのですが、長期の支援の中で本当に何が有効で何がいいのだろうということを考えてい かないといけないのだなとしみじみ思っています。

さて、家族支援に関連してですが、まずは、支援準備体制づくりをまず考えていこうと いうこと。それから実際の支援技術の問題。さらには、サービスモデルをどう考えていく のかという問題。今日はこの三つの話題に関連して、皆さんと考えていきたいと思ってい ます。

まず最初の、支援準備体制づくりのモデルのところで、これは野邑先生、永田先生、そ れから宮地先生のところでも考えていただきます。

全般的には、お母さんの精神的な健康への配慮という問題をかなりしっかり考えていか なければいけないということがあって、今回のところは特にスライドとしてはあまり出て こないのではないかと思いますが、お母さんの自己評価みたいな問題って、子どもの育児 というか、子どもの発達が順調に進んでいる場合のほうが自己評価は高いのですね。それ がうまく進みにくいというと、お母さんの自己評価に響いてきちゃうところが結構あって。 それをやはり考えていかなければならないなというところと、それからお母さんのメンタ ル面のリスクの問題というのはかなり考えておかないと、抑うつ状態とか、さっきも言っ た、自己評価の低下の問題というのはかなり大きな影響を与えるます。

それから、発達障害の子どもの支援ニーズの問題として、発達の時期ごとでのニーズと いうものがちゃんと実はあるのだということと、1 歳半から3 歳くらいのところでそれをつ かまなければいけないんだよ、ということがあります。

それから、広汎性発達障害の両親のペアレント・トレーニングをやってきて、その中身 についてという話を少ししていきます。ちょうどこの間、これの審査会のようなものがあ りまして、そこである審査員の先生から言われたのですが、ペアレント・トレーニングと いうといろいろなものと混同するから、ちょっと名前を変えたほうがいいよ、というよう な話を言われたので、ちょっとその、いわゆるペアレント・トレーニングと、今日お話す る中身はどうやら違うようだという話は、若干イメージしながらお話を聞いていただける といいかなと思っています。

ADHD のお子さんなどに向けたプログラムと、もう少し自閉症スペクトラム、ASD ですね。 そえをもう少しさらに延長して、子育てが難しいと感じているけれどまだ診断を受けてい ない親御さんというところを考えていくと、やはり子育ての文化に関連した問題というの を考えざるを得ないのかな、ということを思っています。一つの、これまでの展開のしか たというのは、発達障害の子どもがいると、その子どもを持つ家族のためのプログラムと してペアレント・トレーニングを実施しましょうということを言うのですが、そうすると、 うちの子どもはそうじゃないという話になってしまうと、そもそもそのプログラムは適用 できないのですね。ですから、子育てが難しい場合にどのような支援を提供するのかとい うことを考えなければいけないのかな、と思っています。

ですから、最初のステップに関しては、子どもの個性とか子育てをする上で親御さんた ちが、自分がどういうふうにするとよりうまくいくのかなとか、自分がどのくらい頑張れ ているのかなということを、実際にそれを修正できるようにするプログラムというものが 大事で、かなりこのあたりは抑うつ的な認知からの、認知行動療法にそった修正への介入 枠組みとかなり重なるようなことをグループワークの中でやっていくというのが実際の取 り組みになるのだろうと思っています。

ちょっと余談で、1 月5 日のところで私たちの研究チームで、ちょっとこれとはまた別な グループにはなるのですが、精神医学のグループがPET スキャンで、脳の中のセロトニン・ トランスポーターの密度の低下というのを、これはプレスリリースもかなりしましたが、 基本的にセロトニンという神経伝達物質というのが、中央のところから伸びていくのです が、そのもとのところからかなりうまくいかない状態になってきているのですね。だから、 確かに障害はあるわけです。でも、発達障害、特に自閉症スペクトラムとして挙げていく と、ではそういう方たちはもう障害があるからもうどうしようもなくて、いろいろなこと が取り組めないのかというと、そういうことでもなくて、例えばバイオロジカル・モーシ ョンというのですが、点々が動くのが人が歩いているように見えるという課題があります。 そういう課題をして、今度はMEG という機器で見ていきますと、そうすると一般の方たち はだいたい120 ミリセカンドくらいで反応し始めて、ああ、人が歩いているように見える と思えるところが、ちょっと時間的にずれていくのですね。なおかつ部位としても、定型 発達の方たちとは若干違うような形で、脳機能が活性化していくということがどうやら起 こる。これって何が起こっているのというと、もともとの障害があるので、そうするとみ んなと同じように同じやり方で学んでいくということはできにくい。でも、それができな いのかというと、どうもそういうわけではなくて、違う経路を使って、バイパスを使って それを学んでいくことは十分できるという話なのですね。例えば東京に行くときに、普通 は東海道新幹線で行きますね。学生さんたちなんかは高速バスを使いますという人もいま すが、だいたいは新幹線で行くわけで、じゃあ東海道新幹線が不通になったらじゃあもう 東京に行けないかというと、そんなことはないでしょ? 塩尻周りで行けますよね、中央 線から。時間が何倍かかかるけど。もっと言うと米原まで出て、日本海側に出てずっと北 上して、上越新幹線で下りてきたって行けますよね。でも、時間的にはずいぶんロスがあ りますよね。でも到達はできるわけですよね。それってどういうことかというと、その子 に合わせて、自分のやるやり方を学習できれば、そこからは違う経路で、支援は積み上げ られるよね、というのが今のところわかっているエビデンスです。ですから、障害は確か にあるのだけれどもできないわけではなくて、その子に合わせていけばできる。だから、 パッとできないということ。自然にパッとできないということが発達障害のメカニズムか なり中核的な問題だと思います。ただ、生物学的基盤の差異があって、生まれながらの脳 機能の非定型な発達があって、定型発達の人が自然にできることが、パッとはできないの が障害のメカニズムであって、ただ、学習能力は高いのでうまくいくやり方、適応的な行 動を学べば、行動を覚えて積み上げていくことはできることが多々ある。だから、結論的 には言えるような話というのが今のところわかっているというところなのです。

そうすると、ではペアレント・トレーニングで何をするのかということですが、今のと ころ今回のプログラムでは5 回、もしくは6 回1クールで、5 人から10 人くらいの1 グル ープを組みます。現状把握表みたいな形で、具体的な行動の把握を積み上げていきます。 これは表に書いていって、行動でそれを積み上げていきます。それで、隔週くらいでやっ ていくと、3 か月弱くらいかかって、順番にグループでの学習を進めていくと、順番にいき ます。このプログラムの一つの目的というのは、親御さんたちが、自分の行動というのを ある程度客観的に把握できるということを実現することで、相談がもう少し上手にできる ようになっていく。結構、相談の下手なお母さんというのはたくさんいて、どういうお母 さんかというと、いつもはいい子なんです、「本当にかわいくて」と言って、「できないこ とだけが困っているんです、どうしたらいいですか?」って質問するわけ。親御さんとし ては、困っているところしか見ていないから、要するに全体像として何ができていて何が できないかということが、把握できていないんですよね。それに関して、何か助言を提供 するというのは実質的には非常に難しいわけです。ですから、自分で考えられるようにし ていくのが、とても大事です。

そうすると、現状を正しく把握していくこととか、現状の歪みに気づくこととか、よい 行動と叱らない行動は違う、だから問題行動というと、何々してはいけませんしか言えな い。してはいけないということと、することとは違うわけだから、そういうことを学習し ていくことがとても大事なことになります。それから、どういうやりとりだとうまくいっ て、どういうやりとりだとうまくいかないのかということがわかっていくことがとても大 事です。このへんはワークブックが、いくつかありますが、そういうのも話題に出ていた わけですが、このような形で積み上げていきます。

そうすると、例えばどんなことが起きるのかというと、要するに今の理想となる姿、理 想の自分はどういう人ですか、というのをまず選択肢の中から抜き出します。今自分がそ れにどの程度、どの程度それが自分の中で実現できていますか、というのを聞きます。そ うすると、そこのずれがありますね。すごくずれていてうまくいかないと思っているのが、 終わってみるとそうでもないかな、という形で。要するに肯定的に見るようになるわけで すね。もう一つ、お母さんというのはこうじゃなければいけないわ、みたいなことを思っ ていると、自分とのずれというのはとてもあって、私はすごくうまくいっていないという のが、これもずっと下がっていきます。要するに、現実と理想とのずれというのが縮まっ てくるわけですね。

なぜ縮むかというと、結局現実的に自分がどのくらいできているのか、というのを考え ていくのですね。適応的な行動という観点で見ていくと、結構、主婦を普通にしているこ とって、すごいんですよ、適応行動から言うと。だって、朝起きるでしょう、みんなを起 こしたりするでしょう、朝御飯を作ったりするわけでしょう。それは「当たり前」という 悪魔の言葉で消し去られてしまいますけれど、でも実際として行動からしていくと、非常 に適応的な行動を朝から晩までずっと繰り返すことになります。それは大変すばらしいこ となんです。その優れたすばらしい行動を朝から順番にしているにもかかわらず、子ども がうまくいかないということだけで私はうまくいかない、私はうまくいかない、私はうま くいかないと思ってしまうわけで、これはとても抑うつ的な思考になってしまうわけです ね。それを、具体的な行動で、お互いに見つけ合いながら把握していくというのが、実際 に取り組んでいくことをするわけだから、そうすると、自分も結構、頑張っている、自分 がこんなにいいところがあるなんてわかりました、みたいなことがだいたいの感想ですね。

だから、母親として私は結構やれているわ、みたいな。それで考えてみると、子どもも 結構頑張っているじゃないかという形のところで、そうやって見ていくと、要するにでき ていないことが、「ダメでしょう!」みたいなことではなくて、そうではなくて順番に積み 上げて、やれるようにしていこうみたいなことなんですね。結局どういうことかと言うと、 日本の伝統的な子育てを考えていくと、ちょっと聞いてみますよ。この1か月間で、ご家 族から褒められた人はどのくらいいます? 奥さんから、旦那さんから、家族から褒めら れた人。井上さん褒められたの? すごいねえ。あんまり手はあがりませんね。物心がつ くと、普通に普通のことをしていたら褒められないんですよ。例えば、女性の方が多いか ら、旦那さんが疲れて帰ってきて、「あなた偉いわねえ、普通のことを普通にしてて」、と 言うとあんまり褒められた気がしないでしょう、男性陣。「で?」みたいな感じになるわけ で、そんな形で褒められたという形にはならなくて。むしろ家庭の中でちょっとでも何か ができないと、「何やってんの、何でできないわけ!」っていう、そのできないところから スタートしてしまうというのがとても一般的で。問題点のところを見つけて「そんなんじ ゃダメでしょう!」は言うのだけれど、じゃあどうすんだよ、は言わないわけ。それに適 合するうまくいったことができても、ああ、できてるわねということは言わないわけです。

だから、それが積み上げになってきていて、それをただでさえうまくいきにくい発達障 害の特性を持っていると、みんなに合わせにくい特性を持っているわけだから、だから日 本の伝統的な子育てのしかたで自閉症スペクトラムの子どもを育ててしまうと、それだけ でミスマッチが起こってしまうわけです。そうではなくて、こんなふうにできて来ている ね、覚えたね、偉いねという形で一つ一つ積み上げていけば、できていける。それこそ、 先ほどの脳機能の話と合致するでしょう? ですから、やれるやり方を覚えていけばそこ からうまくいくという話なので、そういうことが実現しやすいような枠組みを作っていこ うという形でやっています。これが、1 歳から3 歳くらいのところでできやすくしていきま す。

これを今、ある市でやっているのは、保育園の園長補佐たちに、トレーナーができるよ うな形でトレーニングをしていまして、来年度からは園長補佐たちがそれが実施できる。 これをすると何が起こるのかというと、園長補佐たちも今まで、「お母さん、もっと愛情を 持って!」ってやっていたのが、そういう無駄なことはあまりしなくなってきて、具体的 に「お母さん、こんなふうにできているよね」とできているところを言ってくれる。それ から、子どもが頑張ってできるようになってきたところを見てくれるという形になるので、 結局行動として捉えていくということ。それから、プログラムができる人を育てていくと いう意味では、どうやら市内の保育士、あるいは幼稚園の先生くらいの人たちが実際に取 り組めるようにしていってあげると、多分コスト的なことも含めて、非常に円滑にうまく いくというのが実際のところなのだろうと思います。

ただ、いくつか技術的には難しいところもあるのと、それから保育園の先生とか、これ がペアレント・メンターみたいなものが広がってきて、親御さんたちのリーダーをやると きもそうなのですが、親御さんを育ててあげようと考えないと、「こうやったらいいのよ!」 みたいな形のことを押しつけちゃうと、だいたいうまくいかないのですね。低年齢のとこ ろの支援をしている人たちってすぐ相談モードに入っちゃって、「それはね!」みたいな感 じになっちゃうので、お母さんたちが自分で発見していって、自分で見つけていくとか、 お母さん同士で自分で助言したことが、その助言が受け入れられていくような感じのとこ ろで、お母さんたちを育ててあげなければいけないのですね。その取り組みというのがと ても大事なのだなと思っています。

だから、ペアレント・トレーニングのプログラムとして、最初のステップはベテランの 保育士とか児童センターや子育て支援センターなんかのスタッフでやっていくということ はとてもあり得ることだし、プログラムとして最初のステップはできるようになる。ただ、 難しい事例、このへんは井上さんのところで話があると思うのですが、難しい事例につい てはやはりプロフェッショナルがやっていかなければいけないという部分があって。この へんのところは今後考えていかなければいけないかなと。

それから、お母さん自身が自閉症スペクトラムに入っている方たちもやはりおられるわ けで、そういう場合は同じプログラムを2 回やらないとうまくいきません。1 回目は何を言 っているのかわからないお母さんが、2 回目に参加すると「ああ、そういうことか」とわか って、2 回目からだいたいうまくいきます。そんなことはある程度ご理解いただいておくと いいのかなと思ったりします。

結構、グループでそういうペアレント・トレーニングをやると、一定の成果があります ので。それからペアレント・トレーニングみたいなものでお友達を作ってあげるというの も大事なことです。個別の支援と言いながら、結構支援者が1 対1 で相談することそのも のが、結局孤立からの解消にはつながらないので、やはりグループをうまく活用していく ことが大事だと思います。

そうした意味で、ペアレント・トレーニングみたいなものを適用していくことで、今ま で医療機関が健診でチェックして診断して支援していくなんていうモデルしか作ってこな かったのですが、実際にはそうではないわけで、子育てが難しくて、という形で支援が難 しくてというところに、子育てのサポートをしていく。それから本人や家族の取り組みや すい取り組みが実現できるようにしていくということで、できていけるのだろうと思って います。ペアレント・トレーニングみたいなものに加えて、いくつかの、ここからは本人 たちのプログラムというものを重ね合わせていくことで、いろいろな支援ができるだろう と思っています。

今日はちょっと持ってこなかったのですが、アスペ・エルデの会というのが、私たちが いろいろな取り組みをしている研究チームであり、それをサポートするのが親御さんたち ですから親の会であり、というところでこうしたワークブックみたいなものを作り上げて、 いろいろなスキル・トレーニングをしています。いろいろな研修をしていく意味合いでも、 実際にペアレント・トレーニングに参加いただいてそれをできるようにしていくこととか、 いくつかのツールやワークブックのようなものを活用しながらやるようにしていくという ことで、支援が充実していきます。では、私のお題は終わって、次、井上さんお願いしま す。