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2.発達障害のある子供を持つ親支援プログラムの開発とその効果の検討

井上 雅彦
(鳥取大学大学院 医学研究科 教授)

井上●皆さん、こんばんは。鳥取大学の井上です。昨日からペアレント・メンターのフ ォローアップ研修と、今日は一般向けの、ペアレント・メンターってこんなことができて こんなことが苦手だという一般の啓発の研修会をして、今ここに来ています。頭がごっち ゃになって、あ、メンターじゃなかったなと思いながら。

私のほうのお題は、親支援プログラムを作ってみて、その効果を検討するというお題を いただいています。最初は、ペアレント・トレーニングのプログラムを開発してみるとい うことです。今まではやはりADHD をベースにしたプログラムというのとちょっと違うだろ うというのが辻井先生からありましたが、歴史的にも、ペアレント・トレーニングの歴史 の中で、行為障害を中心にしたペアレント・トレーニングの研究の歴史と、ASD を中心にし たペアレント・トレーニングの歴史、研究的にちょっと違うのですね。その中で、私たち は2000 年度から、大学の公開講座などを通じてペアレント・トレーニングのプログラムを 作ってみたのですが、この研究の最初のところでは、アスペルガー症候群の子どもたちを、 親の会の協力を得て、アスペルガー症候群の子どもたちの親ばかりを募集してそのプログ ラムをやってみたということです。

2 番目は問題行動に特化した最初のペアレント・トレーニングの入り口として、その次の パターンのプログラムを作ってみたというのがH21 年です。これは概略なので、目的とし てはですね、まず対象としているのがアスペルガー症候群、高機能自閉症の子どもさんた ちを持つ親御さんなのですが、子どもさんの発達の状態をきちんと親がまず知るというこ となのですね。高めに見るのではなくて、低めに見るというのでもなくて、等身大のお子 さんの発達の状態をまず知っていく。これは数値として知るということだけではなくて、 何ができて何が難しいのかというのをちゃんとこの講座を通して知ってもらいたいという ことです。それから、最初の入り口のところで、比較的低年齢の子どもさんの親ですから、 コミュニケーションを楽しめるようにしてもらいたい。それから、トレーニングするとい うだけではなくて、環境を上手に使うというところですね。これは整え上手と言っている のですが、上手に整えられるようにしたい。それから、教え上手とプログラムでは言って いますが、上手な支援の方法ですね、プロンプトとかそういうのを上手に使えるようにな ってほしい。これは伝え上手というのですが、支援の仕方を、自分がわかるだけではなく て、例えばこれから小学校に上がるのだとすると、学校の先生とトラブルを起こす。親と 学校の先生がうまくコミュニケーションがいかないということがあります。私と親が支援 していくわけではもちろんないので、まわりの支援者を上手に、親御さん自身から発信し てコミュニケーションできるスキルというのが非常に重要なのだと思うわけです。その支 援の仕方を、自分がわかるだけではなくて人に伝えるということをこのプログラムの中で やってみよう。それから仲間ができるということ、これもすごく大きい。

こういう要素をもつペアレント・トレーニング、名前はペアレント・トレーニングなの ですが、ピア・カウンセリング的な要素も入っています。こうした面でやったのが28 名の 参加者でした。両親で参加していらっしゃる方もいらっしゃいまして、年齢はだいたい4 歳から11 歳くらいです。スタッフは、大学院を卒業した心理のスタッフです。

進め方としては、連続講座でだいたい隔週です。前半1時間はABA(応用行動分析)に関す る項目ですね。これも専門用語を使わないで、先ほど辻井先生から紹介がありましたワー クブックを今回作らせていただいたというのがすごく大きかった。それまでは、まだまだ 難しい専門用語が出てきたりしていたのですが、できるだけ専門用語を使わないで、「褒め る」とか、先ほどの「教え上手」とか「整え上手」、「伝え上手」みたいな言葉を使うよう にして、そういった基礎的な話とグループワークで、ほかのペアレント・トレーニングと ちょっと違うなというところとしては、家庭の中で、実際にこのグループワークの中でプ ログラムを作っていただいて、実際に家庭で宿題としてやってみることです。全員に対し て強制するわけではないのですが、やれる人にこういったプログラムをやってもらって、 その結果を記録をつけてきて、またグループの中で振り返りをするというようなやり方で す。

つまり、このペアレント・トレーニングのプログラムを受講していただければ、一つか 二つくらいの課題を家でできるようになっていく。そうすると今度は、こういう講座の力 を借りなくても自分たちだけで、例えばピア・カウンセリング・グループみたいな立ち上 げさえしておけば、その中で一緒に教材づくりをみんなでしながら、自分たちの子どもの 支援もある程度できるということを狙っています。

講義内容は、こういった形です。前半の講義はこんな感じですね。7 回目とか8 回目にた いがいいつもやっているのは、集まった親御さんからリクエストをしていただいて、そこ で出たものに対して答えるという。

グループワークの後半のほうは、最初のほうによくやるのはサポートブックを作ること です。最初に言いましたように、自分の子どもの発達というのを数字ではなくて、どんな ことが苦手でどんなふうに支援すればやれるんだ、というそれを振り返っていただくため にサポートブックを作る。ついでに、人への伝え方というのもここで学習していただくと いう機会になります。

3 回目からは、自分の子どもに家で学ばせたいことというのをいくつか選んでいただきま す。もちろんこれは、机に着席させて弁別学習をするとか認知訓練をするとかいうのでは なくて、日頃の生活の中で親御さんが困難に感じていること、例えば、靴をいつも反対に 履いちゃうんだよね、とか、いつもトイレのドアをあけたまま出てくるんだよね、とかで すね。お手伝いみたいなものができたらいいな、とか、あるいはお留守番が全然できない んだよね、そういったことを出していただいて、スタッフと一緒にグループの中でその課 題を、実際に家で指導できるレベルのプログラムを一緒に考えていくという作業です。

家庭での取り組みの流れというのは、こういうふうに「手続き作成表」というのをスタ ッフと一緒に作ります。課題の実施は家庭でやっていただいて、記録をとっていただきま す。達成したら、次の課題。達成が難しければ課題の見直し、手続きの見直しなどを行い ます。

これが目標設定シートなのですが、自分が、いろいろなニーズがたくさんあるのですね。 できないことがいっぱいあるということなのですが、それに対して優先順位をつけてもら うということです。ほぼ毎日取り組めるものでないと、家で指導できませんね。それから、 無理はせず少しの時間で取り組めるかどうか。それから、1~2 週間程度で達成できるもの を選びましょう。子どもが自信をもって取り組めるもの、親も楽しく取り組めるものとい う基準で点数をつけていただいて、その合計点数の高いものからこのペアレント・トレー ニングで取り上げる家庭での宿題の課題にしましょうということで、例えば、先に行くと、 これが参加者の取り組んだ課題で、入浴前に服を用意する、僕もできませんね。ひとりで 歯磨き、これはできるかな。脱いだ服が表になるように直す、これはできていませんね。 蝶々結び、これはできていますね。部屋の片づけは全然ダメですね。靴を揃えませんね。 入浴後の身体はいちおう拭いている。チェックリストみたいになっていますね。

これ、結構辛いなと思ったのは、自分ができていないことが結構あるなあと思ったんで す。

こういった、実に素朴な、ちょっとしたハードルの低いものを作っていただくというこ とです。すぐにできるものでないともちろん褒める機会がないので。これをやるために何 か特別な時間と設定をとらないですむ、というものが一つです。これに対して、例えばこ れはお手伝い系だったり、本人の余暇活動系ですね。チーズトーストを作るという目標で、 ここを選んでいただくと、このシートは結構工夫されていて、誰が、いつ、どこでするか というのをまず一緒に考えていきます。誰がするの? お母さんが、学校から帰ってきて 3時のおやつにキッチンで、ということですね。それから、始める前の工夫って何かある かなあ、ということですね。例えば材料は揃えておくとか、手がかりになる作り方シート を手でわかりやすく作っておくとか、そういうことです。

課題分析してある、下の「どういうふうに作るか」という順番がありますよね。それを できないときにどんな支援がいるだろう、どんな声かけがいいだろう、というのを一緒に 考えていきます。

記録用紙はもう簡単な、こんな感じですね。できたとか、どんな支援があったらできた か、ということです。

ちょっとユニークかなあと思うのは、あなたの行動というのがありますね。これは親自 身が自分の行動を振り返る。上手に指示ができたか、困難なときに上手に援助できたかな、 それから上手に褒めることができましたか、というのが、たとえ子どもがうまくできてい たとしても、下の記録が、成績がよくないと、これはお母さんが無理しているな、という ことになりますよね。それから、自分の行動もモニタリングするということです。

あとは、隔週ですから、こういうホームワークを出す場合に2 週間、1 週間ほったらかし にするということになるのですよね、不安になっちゃったり。だからパスワード付きのイ ンターネットの掲示板を作って、そこに受講者が進捗状況とか疑問点が生じたときとか、 わかんないとか、やってもダメだみたいなことを書き込んでいただく。それでスタッフが 書いたり、それから「そんなことはこうやって教えたよ」という親がコメントを書いたり するというのをやってみました。

これは、ペアレント・トレーニングの掲示板をずっと長い間作っていまして、前年度に 受けた人が結構回答してくれたりして、コミュニケーションとしては面白かったですね。 結果としては、抑うつ状態を評価するBDI-Ⅱというのをやったのですが、事後では非常に 低下するということがありました。事前のチェックの段階で非常に抑うつが高かった人も いるんですよね。その場合には、スタッフが横に付いたり、机の配置なんかでどこに座っ ていただくかというのを工夫したり、それからホームワークの量の調整も個別にさせてい ただきました。やはりペアレント・トレーニングを実施するときに、現在は医学部のほう にいるので、ドクターからの紹介で来るんですよね。あまりグループワークに入れないよ うな親御さんの場合には個別カウンセリングのほうに紹介していただくようにしているの ですが、こういった配慮がグループでやる場合は必要だと思います。上昇した人は1名だ けいるんですね。この方は講座の半分しか参加できないで、うまくできなかった方ですね。 それから、FDT という尺度があるのですが、これに関して、いくつかの項目の中で、統計的 に有意に下がりました。

感想としては、やはりかかわり方とか、それから同じ立場の人と話す機会ができたとか、 お友達ができたとか、それから不安がなくなったとか、子どもに振り回されることがなく なったというような感想が得られました。

やはり参加者同士の交流があるということが、非常に大きかったように思います。そう ですね、北米とかオーストラリアでやっているペアレント・トレーニングのプログラムに ついて、学会発表を聞いたりしたことはあるのですが、結構個別でやるプログラムが多い。 訪問支援に行ってそこでプログラムをやるということなのですが、こういう集団の中でダ イナミクスを使えるということは、非常に大きなメリットがあるだろうと思います。

2 番目は、問題行動対応のためのプログラムということなのですが、これに関しては、主 だった、こういったペアレント・トレーニングのかかわり方、接し方、そして課題の仕方 という、つまり適応行動をある程度指導できるようになった親御さんにやったものです。

多くのニーズが、家庭の中で生じているトラブルというのが、やはりきょうだいの中の トラブルだったのですね。3 名の方にもう一度ペアレント・トレーニングに参加していただ いています。ほとんどが、これが定型発達の、S2 の方は定型発達の、S1 もいるのかな。き ょうだいともに診断を受けているという方が、全員そうでした。S1 の人は両方そうだった。 S2、S3 の方は、両方診断を受けている。実施期間は、比較的回数は少なめです。適応行動 に対する話というのはある程度もう学習が済んでいるので、こういった4 回のプログラム になっています。前年度やっていたプログラムを参考にして、かなり端折った形で復習を するということが重要です。何回かやらないとわからないのですよね。特に、環境調整や 行動関連の方略についてのところは、きょうだい同士のトラブルに特化した形のいろいろ な事例を挙げています。グループ演習もそうなのですね。プログラムの評価はトラブルの 変容と保護者自身の変容。あとはアンケートの三つです。

例えば、こういった感じですね。妹のゲームの音がうるさいから、それをきっかけにし て暴力が起こるとか、食事中妹が食べるのが遅いので叩かれるとか、ですね。妹は服薬に よって食欲が落ちているので、なかなか時間がかかってしまう。それから、これは参加者 はお母さんで、お母さんや他の大人が妹を注意したら、兄も妹を怒鳴りつける。それから、 妹がコンセントに刺したままゲームをしていたり、コンセントにもたれて座っていたりす ると、火事になることを気にして妹を怒鳴りつける。こんなものがありました。

次々挙げて、記録をとっていただくと、妹さんとのトラブルもどういうときに起こるか というのがこうやって特定されてきています。それぞれの場面において、ではどんな工夫 ができるかというのを、グループワークの中で、スタッフと、それから他のメンバーと一 緒に話し合っていただくということです。

手だてとしては、こういった個別に立てていただくのですが、一つは、不適切な行動が 起こる場面というのは特定されるのですが、それだけではなくて、適切なかかわりができ ているところにも着目してもらうということなのですね。だから、ちゃんとかかわれてい るときに、お母さんがいい対応をしていたかな、というところが一番基本となる部分です。 あとは妹さんに気をつけてもらうことや、お兄ちゃんに気をつけてもらうことに分けて支 援内容を考えていただく。こういうように減っていくというのは、効果あり。1 日あたりの 起こる回数を示していますが、徐々に減っていっています。

この方も同じように、きょうだい間でのトラブルがこうあって、介入が進むにつれて減 少がみられました。この方もそうですね。

同時に、抑うつ状態の得点ということですね。そこも、全員が減少がみられました。3 名 なので統計的な処理はできませんが、事前事後で抑うつ状態の尺度も改善がみられました。

FDT の養育不安のところですね、これが全員減少した。この方以外は減少しています。き ょうだい間のトラブルというのを低減するだけでなくて、保護者の心理面の改善もみられ ました。それから、家庭でもって、やはり親だけがやるというのではなくてグループの中 でお互いに情報交換したり、それから知恵を出し合うというのが一番よかったのかなと思 います。

最後に、ペアレント・トレーニングといってもいろいろなレベルがあるのだと思うので すね。辻井先生が言われたように、初めの一歩みたいな、最初に自分のことをどう考える、 とか子どものいいところはどこだろうという入り口の部分と、それから診断を受けて、さ あ困った行動がでてきたとか、かかわり方をどうしようというところで使うもの、それか ら具体的に問題行動がそこからやや悪化した場合にどうするの、という場合。いろいろあ ると思うのですが、地域で行っていく場合には、フルパッケージをいきなりある地区でや るというのはすごく難しいと思うのですね。ですから、うまくやれそうなところから取り 出してやればいいなと思うのですが、今年の研究というのは、地域ベースでのペアレント・ トレーニングをやってみようということです。先ほどの辻井先生に保育士さんとありまし たけれども、ここも保育士さんですね。

あと特徴としては、なかなか難しいところもあって、複数のところでやってみたのです が、私たちは保育士ですからと言われちゃうんですよね。なかなか、来ていただいてやっ てくれるのはいいけど、私たちはできませんからって言われちゃったグループもあって、 どうしようかなと悩んだのですが、ペアレント・メンターの方に協力していただいてこれ を実施しました。今データをちょうど集めて、フォローアップが終わったのでいろいろ集 めているところなのですが、アンケートの結果をみてもペアレント・メンターに入ってい ただくことによって、非常に場が和むというか、いろいろなツールとか支援グッズを持っ てきていただいてお話をしていただけるので、緊張した感じの雰囲気というのがすごく和 みやすいなと感じています。

もう一つは、現在行っているのが、ペアレント・トレーニング実施期間におけるニーズ 調査というので、これもまだ数が十分に集まっていないのですが、ペアレント・トレーニ ングを運営したり実施している指導者に対しての調査です。なかなかペアレント・トレー ニングを地域に広めていくときに、養成システムと、それから今度は養成するときにどん な要素が入っていたらいいのかな、どんな勉強をすることが必要なのかなというのと、今 度は運営していくときに例えば費用がどれくらいかかるのか。それから、運営していくと きに難しい点は何があるかというのも調査しています。とりあえず、まだ人数が少ないの で結果はなかなかまだ出ていないのですが、やはり他の業務とのバランスというのが一番、 実施についての課題のところで大きなところですね。これから、養成だけではなくて、ど ういうふうに運用するといいのかな、というところにも着目して、家族支援プログラムを 発展させていければと思っています。

結論としては、アスペルガー症候群のかかわりとか生活スキル、行動問題に対応できる ペアレント・トレーニングの形というのは、開発できたかなと思っております。地域支援 を行うときに、ペアレント・メンターを協力いただくことで、実施のしやすさというのを 感じております。まもなくデータがあがると思いますが。それから養成プログラムの開発 と、最近もう一つ課題として持っているのは、青年期なのですよね。今大学の相談室でた くさん紹介されてくる事例というのが、以前にいた兵庫教育大学と違って、今は精神科と か、脳神経小児科からまわってくるのですが、特に精神科からまわってくる青年期の子ど もたちというのはなかなか二次障害が大変で、では子どもたちだけが大変なのかなという と、やはり親御さんもそうなのですね。小学校までは比較的いろいろ言って、うまくそれ なりに子どもさんも動いてやってくれているのですが、思春期になるとそういうかかわり 方からちょっと変えていかないといけないのですが、なかなかそこの脱却がうまくできな くて、お互い辛い思いをしているというのが実際によくあります。現在は中学生グループ でソーシャル・スキル・トレーニングとか、自分たちのそういう本人グループで活動して いただくとともに、親支援グループを作って保護者のグループカウンセリングもしている のですが、ペアレント・トレーニングというのは入り口のところだけではなくて、実はや はり青年期のところというのもトレーニングというよりはピア・カウンセリングだと思う のですが、支援が必要な場合があると思っています。それに加えて、青年期の親御さんへ のフォローというものがもう一つ出てくるかな、と感じています。

以上で終わります。ご静聴ありがとうございました。