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平成22年度厚生労働科学研究費補助金
障害者対策総合研究(身体・知的等障害分野)成果発表会報告書

堀口●ありがとうございました。それではこれからシンポジストの先生方にお話しをいただく前に、私から研究成果の報告をさせていただきます。

調査結果の説明としまして、「地域相談ネットワークによる障害者の権利擁護の可能性」という課題で3年間にわたりまして調査を実施してまいりましたので、そのご報告を申し上げます。

千葉県で制定されました、「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」の施行状況という形で、相談件数を調べるという形態でやってまいりました。条例の内容ですとか、個々の相談の中身の説明に関しましては、この後、高梨先生と佐藤先生からいただきますので割愛させていただきます。

調査の時間軸なんですが、毎年ちょうどこのくらいの時期に千葉県内の各地域にアンケートを配布いたしまして、前年度1年間の相談件数と、それからその相談の中に含まれる障害のある方に対する差別と考えられるような事例の件数を調査してまいりました。

こちらが件数です。19年度は3,000件ほどお送りしました。20年度以降は6,000件ほど送っています。年間のすべての相談件数は18年度、条例施行前に関しましては68万件ほど。19年度は91万件ほど、20年度は63万件ほどという数字になっています。ただこれはそれぞれ回答してくださった機関が同一ではございません。一見、増えているように見えるんですが、正確な数字とは言えないと思います。

18年度のすべての相談件数を、その地域の都市化という指標で見てみました。それはその地域の人口の増えていくスピードがどれくらいなのかということでプロットしたものでございます。ご覧いただきますように、1970年代前半のところから後半にかけて、都市化がピークを迎えた地域というのは相談件数が多いということがわかります。一方、80年代後半、都市化が形成されていない地域というのは相談件数が少ない。

これをイラストのようにしますと、既に70年代に都市となっているような大都市部に関しては、いろいろな相談が多くなっているということがわかるわけですが、新興住宅地域、最近都市化が進んできた地域、それからまだ都市化が見られていないような地域では、相談件数が少なくて、本来のニーズが埋もれているのではないかと考えられます。こういった指標を見つけていくことで地域の特性を把握できるのではないかと考えています。

相談の件数なんですが、それぞれの3回のアンケートに答えてくださった機関が必ずしも同一ではございませんので、同じところを拾い上げて、それらのところでどれくらい増えたのかという見方をしています。見方としましては、前年度に比べて何パーセント増えたのかという指標の3年間の平均をとったものであります。

3年間の平均はご覧いただいていますが1.06、つまり106%ということですので、条例施行前後の3年間において相談件数にはほぼ増加が見られていない。その相談の中で障害者差別と思われるような相談件数に関しましては、回答数が少なかったのですが100%ということで、増加は見られていないということがわかりました。

一方、相談機関として千葉県内にあります中核地域生活支援センター、それから条例によって設置されました広域専門指導員に相談件数を同じように伺ったものをこちらに示してあります。年間の相談件数がそれぞれありますが、19年度、条例施行後に相談が増えているようです。ただし回答してくださったところはすべて同一ではございません。

同じように3回の調査にご協力くださったところの件数を見ております。やはり相談件数の増減のライン、1.0より下回っておりまして、特に相談が条例を施行された後に急激に増えたという現象は観察されなかったということです。

内容別に示したものです。情報の提供に関する相談、雇用に関する相談が増えたことが見て取れると思います。社会情勢が反映されているのではないかと考えます。

専門機関、中核地域生活支援センターなどにおける連携先の変化を示したものです。条例施行の初年度は県の障害福祉課さんに相談が回ることが多かったことがわかるわけですが、2年目以降は市町村の身近な担当課に相談が連携としてつながっているということがわかります。

これは各相談機関における条例の認知度の変化です。条例を知っているかどうか尋ねたものです。高齢者福祉施設など条例の認知度が必ずしも高くないところがあります。教育機関もそうです。こういったところに対して条例の周知を図っていくことが必要です。

結果のまとめです。相談件数が多い・少ないというのは何らかの地域特性があるだろうということが考えられます。3年間の相談件数ですが、ほぼ大きな増加や減少は見られていません。条例を施行したことによって相談が著しく増加するということは見られなかったということです。条例を作る過程で、条例を作ると大変なことになるという厳しい意見も出ていたわけですが、実際はそういった混乱は生じなかったということです。

したがって千葉県が実施したような、既存の相談機関に新たな専門の相談機関を設けてネットワークで相談を受けるという形で、障害のある方の権利擁護に対応していくことは可能であると考えます。

以上です。