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平成23年度厚生労働科学研究費補助金
障害者対策総合研究推進事業(身体・知的等障害分野)報告書

若年者に対する包括的な治療・支援
-Orygen Youth Healthの臨床視察-

竹林 淳和
浜松医科大学 精神神経科

メルボルンにてOrygen Youth Health (OYH)臨床プログラムに参加した。青年期から成人早期の年代は同一性の確立や心理社会的な自立への中途の段階にある発達上の非常に不安定な時期である。しかしながら、統合失調症、パーソナリティ障害、摂食障害など多くの精神疾患がこの年代に発症する。心理社会的に独立していくこの年代での精神疾患の罹患は、社会適応を困難にさせる大きな要因である。この年代は医療的にもchild psychiatryとadult psychiatryの狭間にあり医療の支援が絶対的に不足している。このような視点に基づき、OYHは15歳~24歳の者に対し包括的かつ強力な治療・支援を行っている。その特徴は大きく2つに分けられる。

1つはacute serviceを担当するYouth Access Team(YAT)による初期の積極的な介入支援である。青年期~成人早期の心理社会的問題を持ち、精神疾患発症の怖れのある利用者に対し、電話での介入やoutreachなどによる積極的な支援を行っている。これによりこれらの年代の若者が治療・支援の場からドロップアウトすることがないようなシステムとなっている。OYHのもう1点の特徴はcontinuing care teamによる包括的かつ継続的な治療・支援で、その中心を担うのはcase managing systemである。上述のようにこの年代においては精神疾患の治療だけでなく本来のあるべき心理社会的な成長・発達を促し、社会的な自立へと導くことが不可欠である。このためには医療の中だけでは利用者のニーズに十分に応えることができない。そこで、OYHでは治療の中心をcase managerが担い、精神科医の治療、集団プログラム、就労支援、家族支援等、様々な社会資源への橋渡しを行っている。一方、外来でのcase managingが難しい利用者に対してはアウトリーチ専門のチームがcase managingを引き継ぎ、利用者の状態に応じて効率的にサービスが提供できるようになっている。case managerは看護師、心理士、作業療法士、社会福祉士等多岐にわたっており、医師も参加する週1回のスタッフミーティングでお互いのケースと知識の共有が行われている。わが国では相談支援事業所などが地域に根差した患者の支援等を行なっているが、スタッフの職種の多様性の少なさ、医療的(心理療法的)な関わりが十分にできないこと、また医療施設と事業所との連携の弱さなど問題点は多い。

上述のように、わが国において医療的な治療対象の狭間の年代にある青年期から成人早期の年代、とりわけ高校を卒業して就職や大学等への進学する年代においての精神障害者に対する支援は極端に少ない。ADHDを含む発達障害は学生から社会へと生活範囲が拡大する際に健常者に比べ心理社会的なストレスを受けやすく、社会適応に困難を来すことが多い。わが国でも成人の発達障害者の支援を行うに当たり、この年代の若者に対する包括的・集中的な治療・支援が必要と考えられる。