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平成23年度厚生労働科学研究費補助金
障害者対策総合研究推進事業(感覚器障害分野)報告書

フェイ・ツァオ博士 招へい報告

和田 仁
東北大学大学院工学研究科

1.研究活動の概要

1月23日(月)~1月29日(日)
 東北大学大学院工学研究科バイオロボティクス専攻和田研究室

1月24日(火)
 東北大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科学教室

1月25日(水)
 仙台高等専門学校機械システム工学科濱西研究室

1月26日(木)
 東北大学大学院医工学研究科芳賀研究室

1月27日(金)
東北大学グローバルCOE「新世紀世界の成長焦点に築くナノ医工学拠点」

1月29日(日)~30日(月)
 信州大学医学部耳鼻咽喉科学講座

1月30日(月)~2月3日(金)
 電気通信大学知能機械工学科小池研究室

1月30日(月)
 慶応大学医学部耳鼻咽喉科学教室

2月1日(水)
 順天堂大学医学部附属順天堂医院耳鼻咽喉・頭頸科

2.共同研究課題の成果

受入研究者が実施している「マイクロポンプシステムを用いた分子シャペロンとして働く薬物投与による遺伝性難聴の革新的治療法の創生」では,遺伝性難聴を有する患者の聴力を,遺伝子操作をせずに回復させる画期的治療法を創生することを目指している。

日本人における遺伝性難聴の大半は内耳に発現する膜タンパク質Pendrin及びConnexin26の遺伝子変異に起因する.これらの難聴では聴覚閾値が100dB程度と症状が重篤であり,患者のquality of life(QOL)が著しく低下する.このような重度の難聴患者には人工内耳が適応されているが,患者のQOLは十分とは言えない.このような問題に対し,我々はこれまでにない全く新しい手法で遺伝性難聴を治療する手法を提案している.すなわち,Pendrin遺伝子の変異により難聴となった患者の持つ遺伝子そのものではなく,その遺伝子から産生される機能を失った変異Pendrinを標的にし,その機能を回復させる化合物を探索し創薬に結びつけ,さらにこの治療薬を体内埋め込み型マイクロポンプシステムによって内耳局所に投薬することで,遺伝性難聴を治療しようとする革新的手法の開発に取り組んでいる。

今回の外国人研究者を招へいしたことによる具体的な成果は下記のとおりである。

1月23日(月)から1月29日(日)までの間は,主に東北大学大学院工学研究科バイオロボティクス専攻にて,受入研究者が実施している「マイクロポンプシステムを用いた分子シャペロンとして働く薬物投与による遺伝性難聴の革新的治療法の創生」に関する意見交換及び議論を行った。特に開発中のドラックデリバリーシステムの設計について有益な指摘を得ることができた。さらに,受入研究者のスタッフ,大学院生及び学部生も交えて,お互いの最新の研究状況についてプレゼンテーションを行い,重要な情報交換をすることができた。

1月24日(火)には,本事業の共同研究先である東北大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科学教室を訪問し,電気整理実験室,動物実験室,免疫細胞化学実験室等の研究者と,特に現在細胞/動物レベルで行っている治療薬候補薬剤の評価に関して意見交換を行った。特に,今後ヒトへ臨床応用に向けたフェーズに移行させるに当たり,考えうる課題や治療薬投与後の聴力変化の評価基準等について有用なアドバイスを得ることができた。また,聴覚系への侵襲が少ない手術方法についても意見交換をすることができた。その後,大学病院耳鼻科の外来および病棟を見学し,特に聴力検査や補聴装置の調整等の実施体制における,英国と日本の様々違いについてディスカッションを行うことができた。

1月25日(水)には,受入研究者の連携研究先である仙台高等専門学校機械システム工学科を訪れ,本事業で開発しているドラックデリバリーシステムの設計及び評価方法について意見交換を行った。また,研究室所属の高専学生ひとりひとりから,各自の研究テーマについてプレゼンテーションをしてもらい,研究内容に関する討論会を行った。国際交流及び研究姿勢に関する啓蒙という観点からも有益な討論会であった。

1月26日(木)には,本事業の共同研究先である東北大学大学院医工学研究科生体機械システム医工学講座ナノデバイス医工学研究分野を訪問し,まず開発担当研究者からMEMS(micro-electro-mechanical system;メムス)技術及び本事業で開発中の超音波駆動型マイクロポンプシステムの開発状況について説明を受け,その後,現在のシステムの問題点及び今後のシステム開発の方向性について討論を行った.特にヒトへの埋め込みの際に必要な検討課題について非常に有用な意見交換を行うことができた。

1月27日(金)には,東北大学グローバルCOE「新世紀世界の成長焦点に築くナノ医工学拠点」において,東北大学の医工学領域の研究者・学生向けに,「Music Induced Hearing Loss: Risks and Hearing Health Awareness」と題してセミナーを実施し,当該分野における最新の研究動向について講演いただいた.若手研究者および大学院生の参加が目立ち,研究姿勢に対する啓蒙の絶好の機会ともなった。

1月29日(日),30日(月)には,本事業の共同研究先である信州大学医学部耳鼻咽喉科学講座に移動した。当該講座は,遺伝性難聴研究の先駆者であり当事業の中心的研究施設である.外国人研究者より,講座所属の医師,研究者向けにプレゼンテーションを行い,遺伝性難聴に関する最新の研究動向について情報交換を行った。また生化学実験室や病院耳鼻科外来等の見学も行い,聴力再建や人工内耳の有効性と今後の展開について意見交換を行った。

1月30日(月)から2月3日(金)までの間は東京に移動し,主に電気通信大学知能機械工学科にて,ドラックデリバリーシステム適用による聴覚機構への影響解析に関して意見交換を行った。特に有限要素法(FEM)を用いた解析手法の適用可能性について議論した。また,中耳の伝達関数を調べるため,マウスを用いた動物実験を実施した。

1月30日(月)に,受入研究者の連携研究先である慶応大学医学部耳鼻咽喉科学教室を訪れ,耳鳴りに関するプレゼンーションを行った。ここでは,難聴や耳鳴りに関して,臨床現場におけるこれら疾患を有する患者の状態やその対応について議論が広がり,経験に基づいたノウハウなど文献等にはあらわれない重要な知見や情報について意見交換をすることができた。

2月1日(火)には,本事業の共同研究先である順天堂大学医学部附属順天堂医院耳鼻咽喉・頭頸科を訪問した。特にIPS細胞を用いた新たな難聴治療への取り組みについて意見交換を行った。

今回の招へい研究では,2週間と限られた期間であったにもかかわらず,実施事業の分担研究者や連携研究者の研究室を訪れ,顔を合わせて有用なディスカッションを重ねることができた。これにより,今後の研究推進に有用なアドバイスや情報を得ることができた。これら成果は当該事業の今後のさらなる発展に貢献するものと期待される。また今後も外国人研究者と緊密に連絡を取り,当該事業の推進に活かしていきたいと考えている。