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平成17年度厚生労働科学研究

発表会:「障害のある人をサポートする情報を共有するには?」

-言語的意思伝達に制限のある重度障害者に対してIT技術等を活用した意思伝達手段の確保を支援するための技術開発に関する研究-

講演3「ハイテクを利用した情報共有・e―PPシステム」

巖淵 守(広島大学 大学院 教育学研究科)

巖淵:それではぼちぼち時間となりましたので、クロージングセッションを除きまして最後になりましたけれども、午後の中邑先生から続いてきまして、厚生労働科研の研究報告会の3番目になります、「ハイテクを利用した情報共有」ということで、我々の作ったシステム、e‐PP と名前が付けられているんですけれども、そのシステムについてご紹介させて頂きたいと思います。私、広島大学の巖淵と申します。どうぞよろしくお願い致します。

早速なんですけれども、先程の時間に丸岡さんから、サポートブックというお話があって、この中にいらっしゃる方々の中にも、そのお話を聞かれた方がいらっしゃると思うんですけれども。最適な支援をするために情報共有って大事ですねと、皆さんに繰り返して言うまでもないんですけれども、その際には、コミュニケーションをしっかり図り、ご本人やご家族の意思を尊重しながら、ニーズを把握して、得られた情報を支援者の中で共有するということが大切。先程の時間ですと、それにサポートブックというものを使っていきましょうというお話があったと思うんですけれども、それをハイテクでできないかと。そのお話をこの時間にしていきたいと思いますが。ただそれだが大事なのは分かっている。共有するというのは難しいわけですね。コミュニケーションが難しいとその会話を支援する。その支援技術というのにも様々なものがあります。例えばそこに書きましたけれども、発音することが難しいという人がいます。その方が自分の意思を伝えるのに、音声出力のデバイスがあります。あるいはこちらから話したことを聞き取ることが、理解が難しいということで補聴器、などがありますけれども、そういった様々な支援技術、これは2つだけに限らず他にもあるんですけれども。一番下にあるんですけれども、重度障害で発話ができない、あるいは発話はできるんだけれども自分のことを説明するのが苦手といった自閉症や、別の知的障害を持っている人たちが、コミュニケーションをやはりこういった支援技術を通しても難しいという事実があります。

とはいっても、支援に関する情報共有していきましょうということになるんですけれども、例えば、養護学校で4月になると新しい先生が入ってこられて、申し送り、うちのこの生徒さんは、こういうことでやると支援が快適に進みますよ、ということで申し送りがあるんですけれども、例えばこんな技術ということで書いてみました。その子供さんに、この子全面介助ですから。あるいは理解したかどうかは表情やアイコンタクトで分かりますから。ぎこちない動きが少しあります。食べることに関しては、ジュースはとろみをつけて下さい。小さめに切って下さい。一番最後、私も読むのがちょっと難しいのですが,側臥位か仰臥位で両下肢を腹部上で屈折姿勢をとらせると緩みやすい。等ですね、こういった記述。これそのものはでないかもしれないですけれども、こういったことが申し送りの中でされています。全面介助。よく見る言葉ですね、先生方。学校の先生やあるいは養護士の先生方が使われる言葉ですけれども、どうこれを具体的に介助する、イメージがわきますでしょうか。確かによく使う言葉なんだけれども、じゃあどうやるの、ぎこちない動き。これだけでは色々な動きがあるでしょうね。というように、あるいは一番最後にあるように、専門用語が入っているということで、申し送りは実際に難しいと言いながらもたくさんやられています。これらの表現を見てみますと、どうも分かりにくいといったところが共通しています。例えば一番最初のところにありますのは、全面介助、雰囲気は分かるけれども、実際それがどういう動きなのかというところの具体的なところが見えてこない。二番目は、小さく切って下さい、それで食べます、食べることはできます、といっても程度が、どれくらい小さく切ればいいのか、分かりにくい。一番最後、専門用語が入ってくる。確かにじっくり読んだら分かります。専門用語はいいものですけれども、それに相まって分かりにくさというのも付随します。こういった実際の現場から、じゃあこれをどうやって伝えていこうかということで、古くから、医療や教育の現場で。

すいません。解決方法を言う前に、伝えることがありましたので。ではどのくらい実際伝わっていないのだろうかと、我々調査をしてみたんです。養護学校における56人の生徒さんに関する申し送りの調査を致しました。やったことは、その申し送りを書かれた先生がいらっしゃって、その書き手にとって、これを書いてはみたもののどうかな、どれくらい分かってもらえるだろう、自信がもてない、書き手にとって説明が難しい箇所。あるいは逆に、それはもらったけれども、この箇所がちょっと分からない、といったように、読み手にとって分かりにくい箇所にマークをつけて頂きました。

そうしますと、結果的に、一番下に書いてありますが、分かったことは、分かりにくいと感じた記述の箇所は、1行当たり平均1.05。どの資料も1箇所くらいは何か分かりにくいことが含まれていることが分かりました。でも1箇所くらいなら、ということがあるのですが、もう少し具体的にこの結果を見て見ますと、おおよそ半分の説明の文は、読み手にとって分かりにくいという風にマークされているのです。それに加えて、読み手にとって分かりにくいという風にマークされたところは、書き手の人は、これは大丈夫だろうというふうに思われているのが大半で、書き手にとってもあそこは説明しにくいなと、両方ともが伝わりにくいだろうと感じたところの重なっている部分は、たった15%しかなかった。残り85%は、まあこれは通じるだろうと、書き手も勝手に思っているわけです。こういうことから考えると、書き手と読み手の間に、常に誤差が生じているんだろうということが分かります。

この調査をするにあたって、申し送りの中の分類というのおおまかに5つに分けました。身体に関すること、障害に関する対応ですね。その他コミュニケーションの仕方。着替えについて。食事の介助。トイレ介助。というような5つの大きな分類に分けましたところ、伝わりにくいというふうにマークして頂いた箇所は、一番下にあるコミュニケーション、身体に関することがなかなか説明では難しいということが分かりました。

これ、どうしてかなというふうに具体的に考えてみますと、コミュニケーションの方法はATACで色々お話があったと思うんですけれども、一人一人で、同じ障害なんだけれどもコミュニケーションの方法で色々な方法がある。皆さん多分聞いてこられたと思うんですね。そういった個人に応じて変わっていくものは、全面介助というふうな一般的な表現をされてもなかなか分かりにくいということが分かりました。同じく身体に関することも、なかなか個人差がおおきいということもあって伝わりにくいということが分かりました。トイレの介助というのは、確かに個人差があるとは思うんですけれども、だいたいやることはよく似ているというような、そういった比較ができると思うんです。

なるほど、やはり紙で従来、今やられているし、現在それですすんでいるんだけれども、誤解がどうも生じているというのは、確かに事実としてあるということが、前の段階で分かりました。

そこで、解決方法ということで、これは以前から提案されていたものなんですけれども、百聞は一見にしかずという表現があるように、文章で表現したら分かりにくいものも、見ること、視覚情報を追加することによって分かりやすくなるだろう、ここでビデオと書いてあります。

ということで、研究の段階ではたくさんの活動報告があります。医療の現場や教育の現場でありますけれども、実際にそれをじゃあやりましょうとなっても、ビデオ片手に持っていって、そろそろ、あ、撮影した、撮影することもそうですし、それを例えばパソコンに取り込む、あるいはテープの上で編集する、それを棚のところにちゃんと管理して、必要な時に取り出してくる時に、あ、これ見ましょうと、共有のことをする。といったように、結構、誰でもできるとは言いませんが、そんなに難しくない作業ですけれども、実際やるとなると負担があるということがあります。

ということから、多くの人がビデオを撮ったらいいという理屈は分かっているけれども、やはり紙と鉛筆でやる。あるいはパソコンを使って印刷するというようなことで、基本的には印刷して出る文字情報というのがベースで使われています。

これを何とかもっと簡易にできないかというふうに我々は考えました。そこで、この厚生労働科研の中で行なったのは、情報技術を使って使えないかと、ちょっと視点を変えてみたんです。今現在の情報技術でみますと、先程言った映像、あるいは音声と呼ばれるようなマルチメディアが、ますます容易に使えるようになってきました。その中で、携帯電話というのを考えてみます。これ今音楽聴けますね。映像という観点からだったらカメラが付いています。これすぐに使えます。普段みんなが持ち歩いている。しかも、支援技術の問題として、例えば、インフラが整備されていない、多くの人が持っていたら、うまく協調して動くようなものなんだけれども、というのがあったとしても、じゃあ買って下さいとみんなになかなか言えない。その一方で携帯なんかはすでにたくさんの人が使っているという事実があります。

これを何とか使えないかということで、作ったシステムが、一番下にありますe-PPというシステムです。当事者が、家族や支援者の協力を得ながら、自らの支援情報、こんなふうに支援してもらったら快適にできるのに、ちょうど先程の時間でいうとサポートブックに書かれた内容を、コミュニケーションや、そのコミュニケーションに役立つプロフィールとして電子的に発信するシステムというのを考えました。キーワードとなる、電子的にElectronic 、自ら個人的なプロフィールというので、Personal Profiler の頭の文字をとって、e-PPというふうに訳しています。そのシステムを具体的にどういうふうに使うかというのをご覧頂きたいと思います。

ちなみにもともとこれ、電子名刺という流れを最初考えたんです。実際自己紹介する時に最近は、こういう電子機器を使って、赤外線でできるのを皆さんご存知ですか。携帯同士を向き合って、ピッと押すと自分の名刺が相手に送られる。そんなのを、例えばサポートブックのようなものを持っていって、こういうふうに支援してくれたらいいんだけどということを伝えるようなものを最初考えたんですね。電子名刺、Personal Profiler ならPPにしようかという話を、これ冗談ですけれども、アメリカではPPというのはおしっこという意味がある。あえなくe-PPに変えました。実は使い勝手からいうと、名前が短ければ短いほど、後でキーボードをたたいて頂きますけれども、名称長くなるので、本当はPPにしたかったんですけれども、おしっこシステムではさすがにちょっとまずいだろうということで、e-PPになっています。はい、これが余談でした。